校長のいきなりの言葉に驚くも、校長は真剣な表情で俺を見てくる。
「勿論、アクセル代表の言葉をすぐに受け入れたのは、明確な理由があってのものだよ。林間合宿でヴィラン連合……いや、開闢行動隊だったかな。そこにうちの生徒やプロヒーローが連れ攫われたのは間違いない。そうなると、当然ながらそれを助け出す必要がある。それに協力して欲しいのさ」
「……本気か?」
この場合、正気か? と聞いてもおかしくはなかった筈だ。
いや、勿論俺はシャドウミラーの実力を理解しているので、爆豪やラグドールを取り返す為の戦力となるのは間違いないと断言出来る。
だが、それはあくまでも俺だから、シャドウミラーの実力を知っている俺だからこそのものでしかない。
その辺りについての情報を何も知らない校長が、何故そのような要望を口にするのか。
実際、直接声には出していないものの、現在会議室にいる面々の中には校長の提案に不満そうな様子を見せている者もいる。
それは龍子や優、目良といったように俺の実力を……あくまでも俺個人の実力を知っている者であっても、それは変わらない。
無理もない。この場合に必要なのは、あくまでも俺個人の実力ではなく、シャドウミラーという国としての戦力なのだから。
そんな未知の存在に爆豪やラグドールの命を懸けるのは、自殺行為のようにしか思えなくてもおかしくはない。
実際、もしここで俺が『本気か?』と聞いていなければ、恐らく教師の誰かが……あるいはプッシーキャッツがそんな風に言ってもおかしくはない。
プッシーキャッツの面々も俺の実力については十分に理解している。
理解してはいるが、それでもやはり自分達の仲間を助けるのに、俺個人ならともかく、シャドウミラーという未知の存在から力を借りるというのは、許容出来なかったのだろう。
……ただ、少し意外だったのは、先程までつまらなさそうに話を聞いていたミルコが、校長の提案を聞いて面白そうに笑っていた事だろう。
もっともその笑みはミルコの個性たるウサギ、草食動物らしい笑みではなく、獲物を見つけたかのような肉食獣の如き笑みだったが。
やっぱりこのヒロアカのウサギって、俺が知っているウサギとは違って凶悪だったりしないよな?
そんな風に思っていると、校長は不満そうにしている者達を見て、そして最後に俺を見て、頷く。
「勿論本気さ」
「……それはそれで問題だとは思うんだがな。何故、とその理由を聞いてもいいか?」
「勿論、構わない。というか、その辺りについて説明しないと皆が納得してくれないだろうしね」
「だろうな」
校長の言葉に同意する。
実際、ヴィラン連合が強敵なのは間違いない。
間違いないが、だからといって雄英側の戦力が足りないという訳ではないのも事実。
実際、ここに集まっている者達だけでもちょっとした戦力なのは間違いない。
その上で、ヴィラン連合との戦いになると分かれば他のプロヒーローの力を借りる事も可能だろう。
「まさか、プロヒーローに怪我をさせたくないからとか、そういう事は言わないよな?」
そう言いながら俺が思い浮かべていたのは、シラタキだ。
手で触れた部位を……それが無機物だろうが人だろうが、とにかく触れた部位を崩壊させる個性の持ち主。
それこそオールマイトが相手であろうとも、勝利出来る可能性のある個性だ。
もっとも、それはあくまでもオールマイトに触れる事が出来ればという条件付きで、シラタキの動きを見た限りではとてもではないがオールマイトに触れられるとは思わなかったが。
……これこそまさに、当たらなければどうという事はないという奴だよな。
「ちなみにそういう事なら、シャドウミラーは高い医療技術を持っているから、死んでない限り治療する事は可能だぞ。実際に今まで病気だろうが怪我だろうが、瀕死の者達を何度となく治療してきた経験が……」
「本当かい、それは!」
「……オールマイト?」
校長に説明していたところ、何故か話を遮るようにしてオールマイトが叫ぶ。
それこそ強い、真剣な、これ以上ないくらいの迫力で。
いきなり何を?
そんな風に疑問に思ったのは俺だけではなかったらしく、会議室に集まっていた他の面々も一体何があった? といった様子でオールマイトに視線を向けている。
だが、そのオールマイトは周囲の視線を気にした様子もなく、必死な……そう、それこそ何があっても話を聞きたいといった様子で俺に視線を向けてくる。
また、周囲の様子を確認してみると、校長やリカバリーガール、他にも何人かがオールマイトと同じような視線を俺に向け……その視線を向けられた瞬間、俺は今まで感じていた疑問が繋がって納得する。
オールマイトを見て、何故そこまで強いと思わなかったのか。
動画投稿サイトとかにあったオールマイトの動画を見る限りでは、間違いなく今よりも強いと思えたのに。
そしてオールマイトは何十年も日本のNo.1ヒーローとして活動しており、その年齢は既に初老と言ってもいい。
そして、俺の今の言葉。
これを考えると、思い浮かぶのは……今のオールマイトは、病気か何かなのだろう。
あるいは老衰についても十分に考えられる。
「……今はそれよりも話を戻そう。僕がアクセル代表に、そしてシャドウミラーに協力を要請したいと思ったのは、例えばここにいる人達や他のプロヒーローに協力を求めたとしても、それはヴィラン連合にとっては予想の範囲内という事になるからだ」
会議室のおかしな雰囲気を気にせず……いや、払拭するように校長が話を始める。
今のオールマイトの態度に疑問を持った者は多かった筈だが、それに対して誰かが何かを言うよりも前に話し始めた校長の言葉に、皆が集中する。
それだけ校長の話している内容は今の状況を打破する上で重要なものだと理解していたのだろう。
実際、俺も校長が何を考えているのかには、興味があった。
校長は会議室にいる皆が自分の言葉に意識を集中しているのを知ると、満足した様子で説明を続ける。
「だが、ヴィラン連合にとってシャドウミラーという戦力については完全に未知数な筈だ」
「まぁ……うん。だろうな」
さっきも思ったが、俺の知っている限りヒロアカ世界には異世界と行き来出来るような個性というのは確認されていない。
あるいはもしかしたら表に出てこないだけで、そういう個性を持っている者もいるかもしれないが……ただ、それでも多少の情報は流れてきてもいい筈だ。
だが、そのような情報がないのを考えると、やはりそのような個性はないのだろう。
であれば、シャドウミラーという異世界の戦力はヴィラン連合にとっては完全に予想外の筈だ。
ましてや、シャドウミラーの戦闘要員……実働班の面々は、全員が魔力や気を使った戦闘が可能なのだから。
個性を使った戦闘に慣れきったこの世界の住人……ヴィランにしてみれば、何も理解出来ずに負けてしまってもおかしくはない。
「それで、アクセル代表に伺いたいのだけれど、シャドウミラーにヴィラン連合の一件で協力を要請した場合、どれだけの戦力を出して貰えるのかな? ああ、勿論何も無料でとは言わない。相応の報酬を支払う予定はあるのさ」
「へぇ」
元々校長の提案には乗るつもりだった。
シャドウミラーの存在を多くの者――それでも知る人ぞ知るといった感じだが――に印象づける為に、校長の提案には乗った方がいいのは間違いない。
それこそ報酬の類がなくても、友好勢力に対する協力といった感じで戦力を提供するつもりではあったが、そこに報酬が加わるとなれば話も変わってくる。
何しろ雄英の校長からの報酬だ。
それこそこのヒロアカ世界におけるサポートアイテムの技術についてであったり、あるいは何らかの特殊な個性を使わないと作れない特別な素材を報酬として貰ったりといった事も出来るだろう。
……まぁ、俺的には是非とも欲しいと思っている、有用な個性を持つヴィラン、それも死んでもいいようなヴィランの身柄とか、そういうのは無理っぽいけど。
後は、個性関係の研究資料とか、そういうのとか?
勿論この場合の研究資料というのは、一般人が入手しようとしても無理な、そういうタイプの研究資料だ。
何しろ俺はこの世界の金がかなり持っているので、普通に入手出来る研究資料の類なら、容易に入手出来るのだから。
「面白そうだな、乗った」
「ありがとう。アクセル代表ならきっとそう言ってくれると思っていたのさ」
俺の言葉に嬉しそうに校長が返してくる。
会議室の中にいる者達の何人かが呆れた様子を見せてはいるが……そんな中、真剣な表情で俺に強い視線を送り続けているのが、オールマイトだ。
さっきの治療の話からずっとこんな感じなのを思うと、どうやらやはりオールマイトは病気か何からしい。
ただ、その状態を知っている者は決して多くはないようだった為、その辺りの話をするのは後でになるな。
「それで、アクセル代表。アクセル代表が用意出来る戦力というのは、どのくらいのものなのか聞いてもいいかな?」
「出せる戦力? まぁ、純粋に戦力だけとして考えるのなら……」
そこまで言い、少し考える。
この場合の戦力というのはどこまでを指す?
例えば魔力や気を使えるという者達を戦力として考えた場合、それこそ技術班の面々も普通に魔力や気を使えるので戦力の範囲内になる。
……もっとも、俺が知ってる限りでは技術班の使う魔力や気は、あくまでもエキドナや茶々丸、セシルといった者達から逃げる為に使っている訳で、回避や防御、敵を引き付けるという意味では一流だが、攻撃となると一流半、あるいは二流といったくらいの実力だ。
まぁ、それでも並のヴィランを相手にしても……あ、いや。駄目だな。
技術班の性格を考えると、もし戦場に出したりした場合、自分で直接戦うのではなく、ホワイトスターの魔法球の中で自分が研究している何かを出してきかねない。
それが例えば人の使えるものであればいいのだが、例えばMSなり……場合によっては特機なりを出してこられると、困る。
俺が知る限り、このヒロアカ世界にはMSのような人型機動兵器とか、特機のような物は存在しない。
優のように巨大化の個性を持っている者はいるのだが。
ヒロアカ世界の技術力があれば、特機はともかく量産可能な人型機動兵器辺りなら普通に作れそうなんだけど。
何しろヒロアカ世界よりも前の年代のマブラヴ世界ですら、戦術機を作れたのだから。
……もっとも、マブラヴ世界の場合はBETAという敵がいたから、その戦いの中で戦闘に関する技術力が上がっていった……それこそ、ある意味でヴィンデルの主張通りの世界ではあったが。
ただし、戦争が続けば政治家とかの腐敗は起こらないという意味では、ヴィンデルの思想からは完全に外れてもいる世界だったが。
ともあれ、マブラヴ世界ですら戦術機を作れたのだから、ヒロアカ世界が本気になれば人型機動兵器くらいは作れてもいいと思うんだけど。
期末テストの実習試験において、パワーローダーの外見は半ば人型機動兵器的な存在に思えた。
まぁ、その大きさからするとPTやMSの類とは違って、KMFやオーラバトラー的な感じに……いやそこにもならないか。
「まぁ、出そうと思えばシャドウミラーの戦力全てを出せるな」
『え?』
俺の答えにそんな声を上げたのは、校長……だけではなく、他の雄英の教師達もだ。
いや、教師達だけではなく、プッシーキャッツの面々も同様の声を上げていた。
俺の言葉に驚いていないのは、その辺りの事情について知っていた、目良と龍子、優……後、こちらは何故か特に気にしてもいない様子のミルコだけだ。
俺の件について知っていた面々はともかく、何でミルコもそっち側にいるんだ?
そんな疑問を抱いたものの、ミルコにしてみればプロヒーローの活動は相手を蹴られるかどうかといったような感じだったっぽいので、そういう意味では俺が何を言っても特に驚いたりはしないのだろう。
「あー……アクセル代表。少しいいか?」
沈黙の中でそう口を開いたのは相澤。
いつものように生徒としてではなく、シャドウミラーの人物としてそう声を掛けてきていた。
「いいぞ」
「俺は今まで、アクセル代表の代表というのは、例えば何らかの部署を率いる人物だからと、そう思っていたんだが……今の話を聞く限りだと、それとは少し違うと、そう思った方がいいのか?」
「そうだな。そういう認識でいたのなら間違っている」
相澤の疑問に、あっさりとそう答える。
すると何か嫌な予感でもしたのか、相澤の表情は微妙に顰められた。
「俺が率いるのは、部署じゃなくてシャドウミラー全て。シャドウミラー全体の代表という意味で、アクセル代表だ。もっとも大統領や首相、総理大臣、王、皇帝……そう言う分かりやすい身分があれば良かったんだけど、今のところは代表という呼び名だな」
そう言う俺の言葉に、会議室の中は静まり返るのだった。