量産型Wと脳無は違うのか。
そう相澤が口にした瞬間、会議室にいる者達の視線が俺に集まる。
これまでの話は半ば聞き流していたミルコまでもが、俺に視線を向けており、それが脳無という存在がどれだけ厄介なのかを示していた。
とはいえ……
「違うな」
俺は相澤の疑惑をあっさりと否定する。
実際、量産型Wは脳無とは大きく違う。
……勿論、複数の個性を持たせる事が出来るという利点も脳無にはあるが、それを言うのなら量産型Wだって魔術に魔法、魔力、気、他にも中には呼吸を使えたりする個体もいる。
そういう意味でも、量産型Wを脳無のような存在と一緒にして欲しくないというのが正直なところだ。
また、一番違うところとして、量産型Wは人造人間だけに基本的に全員が同じ姿形をしているという事だろう。
脳無の方は、まだ出来たばかりでその辺の規格がしっかりと決まっていないのか、それとも元から個々に違う形状をしているのか。
その辺は分からないが、脳無は個体によって外見も能力も大きく違う。
まぁ、その辺は実際に脳無を作っている者達に聞かなければ、何を考えて脳無をあのような存在にしたのかとか、そういうのは分からないのだが。
「量産型Wは、脳無とは違う。具体的には、最初からそうあれとして設計され、それによってああいう形……と言ってもここでは分からないか。とにかく量産型Wといった形で生み出されている訳で」
「話を聞く限りでは、アクセル代表の言う量産型Wと脳無に違いがあるように思えないが」
ブラドキングがそう言うと、話を聞いていた何人かが頷く。
実際にその辺りについては、俺の説明だけでは分かりにくいのだろう。
自分で説明していても、これで分かって貰えるか? と自分でも疑問に思ったし。
「俺の説明で分からないのなら、実際に自分の目で見て判断して貰うしかない。これからゲートを設置するんだから、そうなったらゲートの警備には量産型Wを使う。その時に見て貰えば分かる筈だ」
まぁ、こういう風に言っておきつつも、実際に量産型Wを見て脳無と違いはないという風に認識されたりしたら、俺としてはどうにも出来なかったりするのだが。
ただ、何も知らない者達であっても、量産型Wを自分の目で見れば脳無と違うと、そのように認識してもおかしくはないだろうという確信が俺にはあった。
「では、その量産型Wを見た後で戦力として借りるかどうか決めるのさ」
校長がそう決め、取りあえずの説明は――完全にではないにしろ――終わろうとしたところで、不意にミルコが口を開く。
「おい、アクセル。それでお前が昨夜召喚だったか? それで呼び出していた奴は来るんだよな?」
「狛治か? ……どうだろうな」
そんな俺の言葉に、ミルコが不満そうな様子を絞める。
ミルコにしてみれば、狛治は自分と同じ格闘技をメインに使う相手だけに、戦ってみたいという思いがあるのだろう。
実際、狛治の性格を考えればヴィラン連合の拠点にいるのだろう爆豪とラグドールを助けると言えば、普通に協力してくれると思う。
そもそも俺がやる気なら余程の事でもない限り、狛治は無条件で協力してくれるとは思うけど。
「アクセル代表、その狛治というのは召喚魔法で呼び出された存在だったかな?」
どうやら昨夜相澤が俺の説明については校長に知らせていたらしく、校長が確認を込めてそう尋ねてくる。
ただし、会議室にいる他の教師達はその辺りについて知らないのか、召喚魔法と聞いての驚きの表情を浮かべたり、期待の視線をこちらに向けたり、具体的に何を言っているのか分からなかったり……といったような感じだ。
驚きや期待の表情を浮かべている者達は、ゲームなりなんなりで召喚魔法について知ってる者達なんだろうな。
「ああ、そうだ。呼ぼうと思えば今すぐにでもここに呼べるけど……出来れば召喚するにしてもゲートの設置をしてからの方が助かる」
「それは何故かな?」
「ゲートを設置してこの世界とホワイトスターの間にしっかりと繋がりを作らないと、それぞれの世界に時差があるんだよ」
時差? と首を傾げる校長。
まぁ、今の言い方だとちょっと分かりにくいか。
一般的な時差と俺が言ってる時差は、似ているようで大きく違うし。
「例えば、この世界で一ヶ月暮らしていた場合、ホワイトスターでは一日、あるいは十日、もしくは数ヶ月や半年、あるいは一年といった具合に時間が経過している可能性がある。それが俺の言ってる時差だ。この世界とホワイトスターをゲートで繋げると、その時差がなくなって同じ時間が流れるようになる」
「……それは、大丈夫なのかい? 今の話を聞く限りだと、一国の代表が下手をしたら数年いなくなるといったようなこともあるように思えるんだけど」
「まぁ、そういう可能性はないとは言わないな」
実際、今までそういう事が何度かあったのも事実だし。
だが、シャドウミラーの場合は俺は国を率いる立場ではあるが、実際に国を回すのは政治班だ。
俺がいなくても、普通に国の運営は出来る。
シャドウミラーと繋がりのあるどこかの世界で大きな戦いがあり、シャドウミラーに援軍を要請した場合は……それでもシャドウミラーの戦力があれば、大抵の相手はどうとでも出来る筈だった。
それこそシュウ・シラカワのような奴が敵にいた場合はともかく、一般的な相手ならシャドウミラーの戦力でどうとでもなる。
「……では、今更かもしれないが、まずはゲートの設置をしよう」
校長がそう宣言する。
この辺りの決断力は素直に凄いと思うんだよな。
俺にとっても、それはありがたいので、反対をしたりはしない。
会議室に集まっているのも、ほぼ全員がプロヒーローである為か、校長の言葉に異論はないらしい。
プロヒーローではく公安の目良は、寧ろゲートを設置するのを楽しみしていた。
……いや、公安が雄英任せにしたりしないで土地を用意していれば、ゲートの設置はもっと早く出来ていたんだけどな。
そうも思うが、俺個人としても原作の舞台である雄英にゲートを設置出来るのは助かるので、不満はない。
そんな訳で、俺達は会議室から移動するのだった。
「ここだけど、どうかな?」
校長に案内された場所は、雄英の敷地内でも外れの方……つまり、何もない場所だ。
とはいえ、雄英にはセメントスという、都会ではもの凄い有能なプロヒーローがいる。
そのセメントスがいれば、何もないこの辺りにもすぐ色々な施設を作る事が出来たりする。
……というか、もしかしたらだがこの場所もシャドウミラーに譲渡する土地だから、ここにあった建物をセメントスが処分したのかもしれないな。
「ああ、問題ない。それなりの広さを貰う事になるけど、それは構わないんだよな?」
「ある程度の広さなら構わないよ。ただ、あまりに広くなりすぎると困るけどね」
具体的にどのくらいの広さになるんだろうな。
まぁ、その辺りはゲートを設置して政治班の面々が校長と交渉するだろう。
「分かった。じゃあ……取りあえずこの辺にするか」
ゲートを設置する場所はそれなりに重要となる。
まぁ、だからといって詳細に決める必要がある訳でもない。
この辺りのどこかにゲートを設置してしまえば、後はそのゲートを中心にして色々と設置するなりなんなりすればいいだけなのだから。
それでも注意するとすれば……そうだな、会議室の時も考えたが、このヒロアカのマスゴミは厄介だ。
そうなると雄英に敷地内の端とはいえ、その中でも外側に近い部分にゲートを設置すれば、マスゴミが突っ込んできてゲートに飛び込み、ホワイトスターに転移しかねない。
それは俺としても避けたいので、外側からは少し離れた場所にした方がいいだろう。
また、離れすぎてもゲートで何か大きな物を転移させようとすれば、ゲートの側に立てる壁……防壁? まぁ、そこにも被害が出る可能性が否定出来ない。
そういう意味で、程々に外側から離れていて、内側の防壁を作る場所からもある程度の距離はあった方がいい。
となると……
「この辺か」
厳密に考えた訳ではないが、この辺りでいいだろう。
そう判断すると、俺は空間倉庫からゲートを取り出す。
ざわり、と。
空間倉庫について知らなかった面々が、いきなり何もない場所からゲートが現れた事にざわめく。
ああ、そうか。空間倉庫について知らない者達にしてみれば、俺がゲートがどうこうといったような事を言っていても、その意味が分からなかったのだろう。
それがいきなりゲートが……いや、出て来たのはコンテナ的な存在の物なので、それがゲートかどうかというのを理解出来ているかどうかは微妙なところだが。
「よし、ゲートを設置するぞ。特に何かがある訳でもないから、大人しく見ていてくれ」
そう言うが、それでもこれからゲートを設置するということで、見ている者達の多くは真剣な表情を俺に向けていた。
異世界の技術、それも異世界と繋がるゲートを設置するというのだから、それに驚くなという方が無理か。
俺にしてみれば、ゲートの設置はこれまで何度も経験してきた事だ。
その為に慣れてはいるけど、それはあくまでも俺だからだ。
このヒロアカ世界の者達にしてみれば、異世界との接触をするというのは、この世界の歴史にとって初めての事なのだ。
そう思えば、俺に熱い視線を向けてくる者達が多いのは理解出来る。
とはいえ、そんな視線を向けられても特に構う様子もなく俺はゲートの設置を続けていく。
パカリ、とコンテナが展開していく。
コンテナの内部に入っていたゲートの本体が露わになる。
周囲で様子を見ている者達はいよいよといった様子で、ゲートに視線を向けていた。
起動すると、すぐにゲートはこの環境に相応しい状況で自動的に設定されていく。
そして……やがて、ゲートが起動する。
空中に映像スクリーンが浮かび……
『おう? アクセルか? 久しぶりだな』
「ムウ?」
空中の映像スクリーンに映し出されたのは、ムウの姿だった。
一応、ゲートについては量産型Wやコバッタがいるので、何かあってもすぐに対応出来るようになっている。
だが、それでもゲートはシャドウミラーにとって……そしてシャドウミラーと関係のある世界にとって、非常に大きな意味を持つ。
その為、万が一……本当に万が一にも量産型Wやコバッタで対応出来ないような事があった時の為に、異世界とゲートを使って行き来出来る日中は常に誰かがゲートのある場所に詰めている必要があった。
どうやらそれが今日はムウだったらしい。
……実働班の面々がここにいるというのは、それなりに珍しかったりする。
とはいえ、それでも考えてみればおかしな事ではないのだろう。
『ああ、未知のゲートからの反応があったからな。それで気になったんだが……当たりだったな。無事だってのは聞いていたが、何よりだ』
誰から俺が無事だと聞いたのかは、考えるまでもないだろう。
何度か狛治を召喚したのだから、その狛治からの情報なのは間違いなかった。
俺も狛治を召喚したので、俺が無事だというのを向こうに伝わっているとは思っていたが。
……もっとも、狛治と召喚の契約を結ぶ前でも、俺は普通にホワイトスターに戻っていたので、そういう意味では結局変わらないのだが。
それでも無事だと知らせておくのは、恋人達……そしてシャドウミラーの面々にとって大きな意味を持つ事ではあるのだろう。
「ムウの事だから、俺が酷い目に遭ってればいいとでも思ったんじゃないか?」
『さて、どうだろうな。アクセルに色々と思うところがあるのは事実だし』
どうやら、俺が頻繁にムウの名前だったり、エンデュミオンの鷹という異名を使ったりするのが、ムウにとっては面白くなかったらしい。
「まぁ、その件は置いておくとして。まずはゲートが繋がった事を良しとするか。後は、ゲートを護衛する為の戦力をこっちに送ってくれ」
『分かった。いつものように量産型Wとコバッタでいいか?』
「ああ、それでいい」
個性というのが存在するこのヒロアカ世界での事を考えると、出来ればメギロート……は少し大きすぎるから、バッタを用意したいところではあるのだが、そうなるとどうしても目立ってしまうんだよな。
あるいは雄英から譲渡された土地はドーム状に完全に覆って……いや、それはそれで問題か?
PTを始めとした人型機動兵器や、ギャンランドを始めとした戦艦、あるいはニヴルヘイムのような機動要塞とかを使う事が出来なくなるんだよな。
いやまぁ、このヒロアカ世界でそういうのが必要なのかと言えば、それは微妙なところなのだが。
それに……どうしても必要なら、最悪俺が空間倉庫に収納するといった方法で持ち運びも出来る。
とはいえ、その辺については俺がいる前提での話になるので、止めておいた方がいいだろうけど。
そんな風に思いつつ、俺はムウと話を続けるのだった。