「その、アクセル代表。仲間と話しているところ悪いけど、これからの事を相談したいんだけどね」
俺がムウとやり取りをしていると、校長にそう声を掛けられる。
『え? ネズミ……ネズミ? いや、テンとかそっち系か?』
ムウからも校長の姿が見えたのだろう。驚きの声でそう言ってくる。
無理もないか。
今まで色々な世界とやり取りをしたけど、校長のようにネズミ? が知性を持ち、しかもヒロアカ世界の日本における最高のヒーロー科を有する雄英という高校の校長をしているとは、思いもしなかっただろうし。
敢えてそれっぽいのとなると……門世界にいた亜人か?
いや、でも門世界はあくまでも人間が支配者で亜人が支配されるといった感じだったし、そうなるとちょっと違うか。
「俺が通っている雄英高校の校長、根津校長だ」
『うお……凄いな、そっちの世界』
「それとついでに、一応俺達にとっては窓口になる感じの目良」
「何だか微妙に説明の仕方が……いえ、初めまして。公安の目良善見と言います」
目良が俺の説明に不満そうな様子を見せつつ、ムウに向かって……正確にはムウの映った映像スクリーンに向かって頭を下げる。
不満そうな様子ではあるが、実際に公安はゲートを設置する土地を用意せず、雄英に丸投げしたのだ。
そう考えれば、交渉相手を公安から雄英にしてもおかしくはないと思うが。
もっとも、雄英は雄英でヴィラン連合の件を含めて原作のイベントが進んでいる中でシャドウミラーとの交渉窓口としてやっていけるかと言われれば、微妙なところだろうけど。
他に思い当たるところは……ヤオモモの家、八百万家とか?
そうも思ったが、すぐにそれを却下する。
何故なら、八百万家はこのヒロアカ世界の日本においては間違いなく上位に入る金持ちだ。
しかし、それはあくまでも上位に入るというだけであってトップという訳ではない。
ましてや、ヒロアカ世界全体で見た場合だと上位ではあるが上にはまだまだ存在しているといった感じだろう。
そんな家を窓口にすれば、それこそ他の財閥なり会社なり国なり、あるいはヴィランなりにプレッシャーを掛けられてもおかしくはないし、そうなればそうなったで八百万家としても対抗するのは難しいだろう。
これが交渉窓口ではなく、例えばネギま世界の雪広財閥や那波重工、ペルソナ世界の桐条グループのように取引相手としてなら、話は別だけど。
『なるほど。うちのアクセルが世話になったみたいだな。俺はムウ・ラ・フラガ。シャドウミラーの実働班……軍隊と言い換えてもいいが、そこに所属している。生憎と俺は政治班という訳ではないから、交渉とかそういうのは請け負ってないけどな』
「ええ、勿論その辺は理解しております。私もアクセル代表の担当……世話役という事になってはいますが、別に公安を代表して交渉をする立場にはありませんから。貴方と同じような立場の者です」
『そうか。……色々と大変だろうけど、頑張ってくれよ』
「その言い方だと、俺が目良に迷惑を掛けてるように思えるんだが?」
ムウの言葉に不満を抱き、そう言う。
だが、ムウは俺にジト目を向けてくる。
『アクセル、お前が今までやってきた事、俺が忘れてるとでも思うのか?』
「さて、何の事やら。……まぁ、それはともかく、次だ。龍子、優」
俺がそう呼ぶと、龍子は颯爽と、優は少し戸惑った様子でこちらに近付いてくる。
「この2人が竜間龍子と岳山優。俺がこの世界に来た時にちょうど会った2人で、その後は俺の後見人という扱いになっている」
「竜間龍子です」
「えっと、その、岳山優よ」
龍子の言葉に優は続くが、それは何となく龍子の挨拶の仕方を真似したといったような感じでの挨拶だった。
そして、そんな2人を見たムウは、面白そうに笑みを浮かべる。
『へぇ、これはまた……マリュー達がどう反応するのか、楽しみだな』
「あのな、言っておくがこの2人とは別にそういう感じじゃないぞ?」
『そう言っても、アクセルの場合はこれまでの実績が実績だからな。大抵の世界で恋人を作ってはホワイトスターに連れてきているだろ?』
それは、否定出来ない事実でもある。
とはいえ、必ずしもどの世界でも恋人を連れて来ているという訳ではない。
「マブラヴ世界、門世界、W世界、鬼滅世界、X世界とかだと、恋人を連れ帰ってはいないが?」
『それはつまり、それ以外の世界では恋人を連れ帰ってるって事だろ?』
そう言うムウの言葉に……うん、龍子が唖然とし、優がジト目を向け、ピクシーボブは何故か微妙に期待の視線を向け、マンダレイは呆れの視線を向けてくる。
ミッドナイトが微妙に面白がっている様子に見えるのは、これもまた青春だとでも思っているのだろう。
「あー……それより、これからの事だ」
そう、話を誤魔化す。
このままこの件について話したりしたら、それは俺にとって決して面白い出来事にはならないと、そう思えたからだ。
そんな訳で、俺は強引に話を変える。
「まず今の状況でやるべき事は、シャドウミラーとヒロアカ世界……ああ、こっちの世界の名称だが、そのヒロアカ世界とどういう風に関わっていくかの交渉をする事……じゃない。いや、勿論その辺りについても重要なんだが、今はそれよりも前にやるべき事があるんだよ」
『へぇ……アクセルにしてはちょっと珍しいな。何があったんだ?』
「簡単に言えば、悪の組織に同級生とプロヒーローが1人ずつ連れ去られた。それを助ける為に、戦力が欲しい」
『……アクセルがいて、か?』
理解出来ない、あるいは信じられないといった様子でムウが言ってくる。
俺の力を知っているムウにしてみれば、まさかここで俺がいるのに敵組織に連れ去られるというのは、それだけ意外だったのだろう。
もっとも、俺としては同級生という言葉に反応するとばかり思っていたんだが。
まさかその辺りには一切反応しないとは思わなかったな。
となると、これは恐らく狛治辺りからその辺の情報についても聞いていたな?
ネギま世界しかり、ペルソナ世界しかり、俺がその世界で学生として活動するというのは、そう珍しい事でもないのだが。
その世界でどのように動くにせよ、10代半ばと20代の姿では、やっぱり10代半ばの方が相手に警戒されないというのが大きい。
それに、俺が行く世界の主人公は、学生……あるいは学生ではなくても、10代の主人公が多い。
そういう意味でも、20代より10代半ばの方が動きやすいんだよな。
「まさか、肝試しの最中で襲われるとは思わなかったしな。……それに情報が漏れてるのも予想外だったし」
ショッピングモールで緑谷がシラタキに接触された件で、当初林間合宿をやる予定だった場所から、プッシーキャッツが有するあの合宿施設に変更された。
だというのに、そこがヴィラン連合……正確にはその特殊部隊的な存在である開闢行動隊に襲撃されたのだ。
それによって雄英の内部にヴィラン連合と繋がっている奴がいるのが決定的になったのだが、それと引き換えに爆豪とラグドールを開闢行動隊に連れ去られた訳だ。
一応、俺も炎獣を大量に生み出して対抗したりはしたのだが……それでも広い中、それも分身を生み出す個性と、転移が可能な黒霧が存在している以上、全てに手を回すような事は出来なかった。
『ふーん……まぁ、アクセルの言いたい事は分かったよ。取りあえずゲートを守る人員として、量産型Wとコバッタを送るけど、構わないか?』
「……構わないか?」
ムウの言葉を聞き、俺は校長に確認を取る。
脳無の件がある以上、もしかしたらこの場にいる者達の中には量産型Wに嫌悪感を抱くような者もいるかもしれない。
量産型Wについて人造人間と説明したものの、それと脳無を似たような存在と考える者がいてもおかしくはないのだから。
……もっとも、実際には量産型Wと脳無は似て非なる物といった感じではあるのだが。
だが、それは量産型Wについて俺が詳しく知っているのでそのように理解出来ている訳で、もしその辺についての知識が何もない者だったりした場合、量産型W=脳無と認識してもおかしくはないし、そこまで短絡的に判断をしなくても、似たような存在であると認識してもおかしくはない。
なので、俺は改めて校長にそう聞いた訳だが……
「構わないのさ! アクセル代表に色々と話を聞いても、実際にその量産型Wというのがどのような存在なのか、自分の目で見てみないと何とも言えないのだから」
「だ、そうだ。許可を貰ったし、ゲートの担当を送ってくれ」
この土地は既に雄英からシャドウミラーに譲渡されているので、本来ならわざわざ校長に許可を取る必要とかもないのだろう。
だが、それでも俺がわざわざ校長にそのように聞いたのは、やはりここには雄英の教師が多くいるからだろう。
もし校長に何も言わずに転移するようにムウに言っても、表向き不満は出さないかもしれない。
だが、それでも不満は残り、雄英とシャドウミラーの間の関係が悪くなってしまう可能性はあった。
しかしこうして校長に許可を貰うというワンクッションを置く事で、校長が許可をしたのだから……と自分を納得させる。
勿論、それはあくまでも俺の予想であって、その辺は全く考えなくもいい可能性もある。
あるが、それでもやはり念の為にそうした方がいいのは間違いなかった。
そして、やがてゲートが作動して量産型Wが2人、コバッタが4機姿を現す。
普通に考えれば、ゲートという重要な場所を守るのにこのくらいの戦力でいいのか? と思ってもおかしくはない。
だが、実際の戦力を考えれば、この戦力は極めて大きかったりする。
それこそ、この場にいるプロヒーローを敵に回しても……まぁ、オールマイトがいるから勝つのは無理かもしれないが、それでも相応に対抗出来る程度の戦力ではある筈だった。
「これが……量産型W? なるほど、確かに脳無とは大きく違う」
ブラドキングが、そう呟く。
ブラドキングが脳無を見たことがあったっけ?
ふとそう思ったが、USJの時に襲ってきた脳無は俺が捕らえたので、その時に見たのかもしれないな。
あるいは昨夜の襲撃で合宿施設の方にも脳無が出た可能性はあるのか。
ともあれ、ブラドキングの言葉に他の面々も同意するように頷いたり、近くにいる相手と話したりする。
そんな中、2人の量産型Wと4機のコバッタが俺に近付いてきて、量産型Wが揃って敬礼した。
「アクセル代表、これよりゲートの護衛につきます」
「ああ、頼んだ」
そんな量産型Wの姿に、多くの者達は驚く。
今までのやり取りから俺がシャドウミラーの代表というのは分かっていたのだが、それでも量産型Wが俺に向かってこのような態度を取るとなると、それに驚くなという方が無理だったらしい。
『ああ、それとアクセル。戦力の件に関しては一応政治班が交渉した方がいいと思うけど、どうする?』
量産型Wが敬礼を止めてゲートの側で待機し、コバッタもそんな量産型Wの側で待機すると、それを見計らったかのようにムウがそう聞いてくる。
「どうすると言われても……まぁ、交渉はした方がいいだろうな」
無理を通せば、俺の判断だけで戦力を用意する事も難しくはない。
だが、そうなると雄英側がシャドウミラーに借りを作ったという事になり、後々面倒があったりする。
そうならないようにするには、やはりここでしっかりと交渉し、戦力を貸す事でシャドウミラー側にどのようなメリットがあるのか、しっかりと決めておく必要があるのだろう。
「ただ、校長がそれでいいのならだけど……」
「構わないのさ。では、私もその、ホワイトスターという場所に行こう。オールマイト、協力してくれるかな?」
「え? 私がですか?」
「ああ、そうだ。アクセル代表以外のシャドウミラーの方々と初めて会うんだ。であれば、No.1ヒーローのオールマイトがいるのは当然だろう?」
「根津校長、それなら俺も……」
「いや、相澤君は林間合宿の件で色々とあるだろう? ヒーローネットワークを使って戦力を集める必要もある」
自分も行くという相澤の言葉を、校長が拒否する。
相澤は校長の言葉にピクリとしたが、それでも校長の言葉も一理あると思ったのか、それ以上は何も言わない。
実際、爆豪とラグドールを助け出す算段をつける必要がある以上、決して時間に余裕がある訳ではないのだ。
「分かりました」
相澤が校長の言葉に納得したところで、龍子と優がこちらに近付いてくる。
「アクセル、私達はどうしたらいいの?」
「ホワイトスター……興味はあるんだけどね」
「あー……俺としても世話になったお前達にはホワイトスターを案内したいところだけど、今日は止めておいた方がいいな。爆豪とラグドールの件が解決してからなら、案内も出来ると思う」
そう言う俺の言葉に、龍子と優が頷く。
そんな2人……というか、優を見て少し心配なのは、ロボット掃除機と相性の悪い優が、コバッタとの相性も悪かったらどうしようという事だった。