「これが……異世界……」
ホワイトスターの転移区画でオールマイトが周囲の様子を見ながら呟く。
その手……というか、腕には校長が座っていた。
これが雄英なら、校長も普通に地面を歩いていても問題はないのだが、この転移区画を含めてホワイトスターにいる者達は、校長の存在に慣れていない。
いや、コバッタがいるから、そういう意味では対処が可能だったりもするのかもしれないが。
ともあれ、万が一を考えて校長はオールマイトの腕の中にいる訳だ。
ちなみに結局ホワイトスターに来たのは、校長とオールマイトの2人だけだった。
相澤以外にも何人か希望したのだが、校長はその全てを断った。
……そこまでして断るというのは、ちょっと意外だったんだよな。
「アクセル、行くぞ」
そう言い、ムウが車に乗ってやって来る。
本来ならバス……と言いたいところなんだが、人数が少ないしな。
俺、ムウ、オールマイト、校長。
しかも校長はオールマイトの腕の上にいる。
そうなると実質的には3人な訳で、バスを用意するのは大袈裟となる。
……まぁ、オールマイトの大きさを思えば普通の車では少し小さいかもしれないが、俺が助手席にのって、オールマイトを後部座席に座らせれば問題はないだろう。
「校長、オールマイト、行くぞ」
初めての異世界という事もあってか、興味深そうに周囲の様子を見ている校長とオールマイト。
……とはいえ、ここはゲートだけが存在する転移区画で、見て珍しい物はそれこそゲートくらいしかない。
あ、でもこの時間になっても他の世界から転移してくる者は何人かいるな。
他の世界から転移してきた者達は、オールマイトを見て目を大きく見開き、次にオールマイトの腕の中にいる校長を見て更に驚き、それから俺達から離れていく。
ムキムキのオールマイトや、巨大な小動物という矛盾した存在の校長は、それだけ珍しいのだろう。
そんな視線を向けられている事に気が付いたオールマイトと校長は、素直にムウが用意した車に乗る。
「じゃあ、政治班のいる建物に向かうけど、途中で交流区画を通った方がいいよな?」
「交流区画?」
「街だよ」
交流区画という疑問を口にするオールマイトに端的に答える。
実際には交流区画はあくまでも交流区画で、正式には街ではない。
夜になると、シャドウミラーに所属する者以外は自分達の世界に戻るしな。
ただ、日中は普通の街と比べてもそう違いはない。
「異世界の街……アクセル少年……いや、アクセル代表、是非とも見せて貰えないだろうか」
オールマイトは興味津々といった様子でそう言ってくる。
校長もオールマイトの腕の中で興味深そうに窓から外の様子を見ているので、オールマイトの言葉に異論はないのだろう。
そう思っていると、不意に校長が口を開く。
「僕が興味を持っているのは、街もだけどこの車……エアカーもだね」
「ああ、ヒロアカ世界の車はエアカーとかじゃなくて、普通の車だったしな」
それも一般的に車と思い浮かべるような、ガソリンで走る車だ。
例えばSEED世界における車は、基本的には電気自動車となっている。
そういう意味では、ヒロアカ世界はその手の技術の発展は遅いのだろう。
もっとも、電気自動車が必ずしも技術的に上だとは限らないのだが。
……それでもヒロアカ世界において普通の、ガソリンで走る自動車が一般的なのは、多分個性の黎明期による影響なんだろう。
個性の存在によって、文明が一時的に後退をしたらしいし。
それを思えば、電気自動車とかの技術が発展しなくても……いや、個性の件はそこまで関係ないか?
あるいは、個性によってガソリンで走る車の方が有利と考えられたとか?
具体的に何がどうなってそうなったのかは分からないけど。
「根津校長だっけ? エアカーに興味があるのかい? 他の世界の連中でも、エアカーを格好いいと思う奴はそれなりにいるんだけど」
ムウが運転しながら校長にそう聞くと、校長はオールマイトの腕の上で真剣な表情で頷く。
「そうだね、格好いいというのは僕も否定しないよ。ただ……僕の場合、普通の車が相手だと間違って轢かれかねないのさ。けど、エアカーなら空中を浮かんでいるから、何かあっても車の下に潜れば安心なのさ」
「あ……えーっと、そ、そうか」
校長の口から出た言葉が、格好いいとかそういうのではなく、リアルに命の危機に関係するものだった為か、ムウは何と返せばいいのか分からなかったようで、そんな戸惑ったような言葉を口にする。
いやまぁ……うん。俺もまさか校長がエアカーをいいと理由がそういうものだとは思わなかったので、その点については素直に驚きではあったが。
けど、なるほど。校長は巨大なネズミと呼ぶべき存在ではあるが、それでも大人には到底及ばず、子供くらいの大きさだ。
そう考えれば、もし車に轢かれそうになっても、相手がエアカーなら咄嗟に車体の下に潜り込む事で轢かれるのを回避出来たりするのか。
まさに、校長にとっては命懸けの言葉だな。
バックミラーでオールマイトを見ると、オールマイトも今の校長の言葉に何と反応したらいいのか分からない様子だった。
そう思っていると、不意にオールマイトが口を開く。
「アクセル代表、あれは個性かね?」
「は?」
いきなりのオールマイトの言葉に、俺はオールマイトの見ている方に視線を向け……納得する。
そこでは魔法使い、恐らくネギま世界からやって来たのだろう魔法使いが、風の精霊を出して周囲を飛び回らせていたのだ。
なるほど、その辺の知識を何も知らなければ、今のこの光景でも個性に見えないでもない。
「いや、あれは個性じゃなくて魔法だよ。ネギま世界……魔法使いが存在する世界から来た魔法使いだろうな。ああして大道芸っぽい感じで魔法を見せて、見物代を貰ったり、あるいは中には魔法使いの弟子を募集したりしている。他の世界の住人にしてみれば、このホワイトスターでは本物の魔法使いを見られるから、外れはないんだよな」
このホワイトスターに来る事が出来るのは、基本的に自分の世界で認められた者達だけだ。
であれば、詐欺師の類はいない。
……あるいは自分の世界でのチェックを誤魔化して詐欺師がホワイトスターに来るかもしれないが、ホワイトスターで何らかの罪を犯した場合、その世界にしっかりとケジメを取って貰う。
場合によっては……本当に最悪の場合、その世界との関わりを絶つといったような事にもなるので、その辺りについてはしっかりと対応する筈だった。
「あれが……魔法……」
いや、オールマイトも魔法については炎獣を見た事があるだろうに。
そう思ったが、俺の場合は混沌精霊になった影響で魔法を使うのに呪文の詠唱とかそういうのは必要ないんだよな。
それは魔法を使う方にしてみればこれ以上ないメリットだったが、魔法について何も知らない者、あるいは魔法に憧れを持っている者にしてみれば、呪文の詠唱もなしに魔法を使うという点でがっかりしてもおかしくはない。
「期末テストの実技試験でオールマイトが見た炎獣。あれも一応分類的には魔法になるんだけどな」
「ぶっ! アクセルが……アクセルが期末テストって……何だそれ、見てみてぇ」
俺の言葉にオールマイトよりも先に反応したのは、ムウ。
いやまぁ、俺についてよく知っているムウにしてみれば、俺が学生として期末テストを受けるというのが、そもそも面白かったのだろう。
「えっと……?」
「ああ、オールマイトも校長も、ムウの事は気にしないでくれ。こいつはこいつで色々とあるんだよ」
「……なるほど?」
俺の言葉に納得した訳ではなかったのだろうが、それでも取りあえずオールマイトは納得した風に見せる。
この辺り、オールマイトは素直だよな。
「で、炎獣の件だ。さっきも言ったが、炎獣も分類的には魔法だぞ」
「そうなのかい!?」
そこでようやく反応するオールマイト。
どうやらさっき言った内容は、ムウの笑いによって完全に消え去ってしまっていたらしい。
「ああ、そうだ。まぁ、雄英では個性という事にしておいたけどな」
「……道理で、あそこまで違う能力だとは思ったんだよ」
オールマイトの言葉に、だろうなと俺も納得する。
個性についてはそれなりに勉強したので、俺もある程度は知っていた。
勿論、本職の研究者とかそういう者達と比べると疎いが。
それによると、基本的に個性というのは両親の個性を受け継ぐ。
両親のどちらか、あるいは両親の個性が混ざった個性、もしくは両親の個性を同時にといったように。
それ以外にも先祖返り的に祖父やそれ以上の前の人物の個性を使えるようになったりもするらしいが、それは色々な意味で例外として。
ともあれ個性というのはそんな感じな訳なのだが、俺の場合は混沌精霊という個性という事になっており、例えば強力な増強系であったり、あるいは炎獣であったりと、明らかに方向性が違う個性だ。
しかも、まだ他にも隠している個性が幾つもあると思われていたので、その辺からして疑問に思われていたのだろう。
実際に、俺は無個性で個性のように見えていたのは個性とはまた違う別の力でしたというオチだったのだが。
「今の状況を思えば、そういう風にしていたのも納得はして貰えると思うけど。……あ、それと。ほら、上空を見ろ。ちょっと面白い光景が見えるぞ」
話題を逸らす……というつもりがあった訳ではないが、ちょうとタイミング良く上空をワイバーンが飛んでいるのが見えたので、そうオールマイトと校長に言う。
すると2人は俺の指さす方を見て……
「あれは……え? 校長?」
オールマイトが戸惑ったように言うのと同時に、校長がオールマイトの腕の上から下に潜り込む。
もしかして、生物としての絶対的な差を感じたりしたのか?
そうも思ったが、それを言うのなら俺だって混沌精霊という存在なんだが……まぁ、その辺はいいか。
「校長、安心しろ。あれはワイバーン。このホワイトスターには牧場があって、そこでは普通に牛や豚、鶏、羊、山羊……その他諸々の動物を飼育してるんだが、その飼育している動物の中にはワイバーンも存在する。ホワイトスターの牧場のワイバーンに乗るというのは、かなりの人気コンテンツだそ」
特に最近……いや、ヒロアカ世界に行っていたので、その間の事は分からないが、オルフェンズ世界のガエリオがワイバーンに乗るのにもの凄く嵌まっていたんだよな。
それこそ火星に住んで、毎日のようにホワイトスターにやって来ては、ワイバーンに乗っていたといった感じで。
ギャラルホルンの仕事どうした? と突っ込みたくなるのは俺だけではないだろう。
ただでさえオルフェンズ世界のギャラルホルンは、以前のセブンスターズ体制からスリースターズ体制になって、手は幾らあっても困らない筈なのだ。
だというのに、ガエリオがホワイトスターに頻繁に出入りするのは……まぁ、うん。平和なのはいい事だと思っておこう。
「ワイバーン? それも他の世界から?」
「正解だ、オールマイト。……もっとも、その世界では神とかが普通にいて、色々とあった結果、今は繋がりがなくなってしまったしな」
何しろ、門世界とは他の世界のようにゲートで繋がった訳ではなく、門世界の神によって生み出された門を通って、いきなり侵略されたしな。
あの時は驚いたし、何気に……多分、今まで多くの戦闘を経験してきたシャドウミラーだが、一番被害が大きかったと思う。
ましてや、奴隷として何人も連れ去られたりしたしな。
もっとも相手の奇襲だったからこっちの被害は大きかったものの、それでもメギロートや量産型Wを始めとした戦力がすぐに出撃し、奇襲を仕掛けて来た門世界の帝国の部隊は殲滅したけど。
その後はホワイトスターの交流区画……当時の交流区画にいた者達の出身世界と協力して、門世界を蹂躙することになったのだが。
何しろ、それぞれの世界においてもホワイトスターに送り込むのは優秀であるのは勿論の事、問題を起こさないような性格をしている者達……つまり、どの世界にとっても優秀な人材だったのだ。
その人材を殺されたり、怪我させられたり、ましてや連れ去られたりしたのだから、どの世界も当然のように怒り狂った。
……あるいは怒り狂ったように見せた、といったところかもしれないが。
とにかくそんな訳で、当然ながら門世界の帝国に対する懲罰は極めて強力な攻撃となった訳だ。
まぁ、その後も諸々とあり、現在ホワイトスターの牧場で飼育されているワイバーンは、そんな門世界から来た者達だ。
「ちなみに、生きているワイバーンという意味では牧場にいるだけだが、博物館にはオークの標本とか、竜じゃなくて龍の骨格標本とか、そういうのもあったりするぞ。今日は時間がないから博物館の見学は出来ないだろうけど、今度機会があったら見てみるといい」
そう言う俺の言葉に、オールマイトはコクコクと頷くのだった。