街を……交流区画を見学しながら進んだ車は、やがて1つの建物の前で停まる。
ホワイトスターにある中でもかなり立派な建物だ。
ここが、政治班の仕事場となる。
本来なら人数もそこまで多い訳でもないので、ここまで立派な建物である必要はない。
ないのだが、シャドウミラーと関係のある世界の面々と何らかの交渉をする時、みすぼらしい建物で交渉をするとなると、それだけで相手から下に見られたりする。
なので、政治班を率いるエザリアはわざわざこのような立派な建物を使っている。
……まぁ、シャドウミラー的にはこういう立派な建物があって使わないのはどうかと思うので、エザリア率いる政治班がこの建物を使うのは全く問題がなかったりするのだが。
使わない建物は傷むって言うしな。
もっとも、量産型Wやコバッタがそういう使っていない建物とかも定期的に掃除しているので、そういう意味では建物が傷むといったような心配はあまりしなくてもよかったりする。
「これが……」
車から下りたオールマイトは、目の前の建物を見て感嘆の言葉を口にする。
ヒロアカ世界において日本のNo.1ヒーローなので、当然ながら色々な場所に呼ばれた事もある筈なんだが。
それこそ金持ちの屋敷とか、あるいは国会とか、そういう場所に呼ばれたりしてもおかしくはない。
ましてや、I・アイランドの件からすると、若い頃のオールマイトはアメリカで活動していたのだ。
そしてアメリカには大きな建物は幾らでもある。
目の前にあるような建物より豪華な建物とかも、普通にあるだろう。
それでもオールマイトが驚いてるのは、やはりヒロアカ世界の建物ではなく、異世界の……ホワイトスターにある建物だからだろう。
もっとも、正確にはホワイトスターがあるのは世界と世界の狭間であって、異世界ではなかったりするんだが。
ただ、世界と世界の狭間と説明するよりも、異世界と説明した方が分かりやすいのも事実。
「ほら、オールマイト。いつまでも見てないで、行くぞ」
そうオールマイトに声を掛けると、オールマイトはすぐに我に返り、頷く。
「そうだな。急ごう」
何だか微妙に切羽詰まった様子だな?
何かあるのか?
そう疑問に思ったものの、別に今は気にする必要がないかと、気にしないようにしておく。
「じゃあ、そろそろいいか?」
オールマイトが中に入る気になったのを理解したのだろう。
ムウがそう尋ねてくる。
そんなムウの言葉に、オールマイトと校長がそれぞれ頷き……そして、俺達は政治班の本部である建物の中に入るのだった。
「シャドウミラーの政治班を率いる、エザリア・ジュールです。こちらは私の補佐の那波千鶴」
ムウに案内された部屋には、既にエザリアと千鶴の姿があり、俺達を迎える。
てっきりエザリア以外にはレオン辺りが来るかと思ったんだが……何で千鶴なんだろうな?
いやまぁ、千鶴は政治班の中でもかなりの成果を残している人物だ。
柔和な性格から、政治班向きの人材ではある。
……もっとも、千鶴は怒らせるとかなり怖い人物でもあったりするのだが。
特に俺の恋人の中でもトップクラスに大きなその双丘にセクハラしようものなら、どこからともなく長ネギを出してきて……うん。これ以上考えるのは止めておこう。
峰田がここにいなくて良かったと、そう思っておけばいいだろう。
そう思っている間に、校長とオールマイトも自己紹介を終える。
なお、俺の立場的には本来ならシャドウミラー側なのだが、何故か中立……あるいは第三者的な立場になってしまっていた。
交渉そのものは政治班のエザリアと千鶴に任せているので、この状況で俺が何かをする必要はないのだが。
寧ろここは、黙って見ている方がエザリアや千鶴達にとってもいいだろうし。
千鶴は何度か意味ありげに俺に視線を向けていたけど。
俺の恋人としては、色々と言いたいことがあるのだろう。
実際、狛治を通して無事を知らせていたとはいえ、今まで連絡をしていなかったのは明らかだしな。
ちなみに俺がヒロアカ世界にいっていた時間は、半年前後くらいらしい。
時差の心配はしていなかったが、そこまで気にする必要はなかったな。
なお、ヒロアカ世界に行く前に関係したUC世界のデラーズ・フリートの星の屑やらアクシズの内乱が終わってからだから……今はUC0084の夏ってところか。
「ムウから少しは話を聞いていますが、何でもそちらの世界で敵対組織に捕らえられた生徒とプロヒーローを奪還するのに戦力を希望しているとか」
「その通り。けど……それが全てじゃないのさ」
「おや、それはどういう事です?」
校長の言葉に、少しだけ意外そうにエザリアが言う。
言うのだが……本人にしてみれば意外そうに見せているのかもしれないが、それなりに付き合いの長い俺の目から見ると、意外そう……ではなく、意外そうに見えているといった表現の方が正しいと思う。
これ、多分校長とオールマイトが来たのは爆豪やラグドールを取り返す為の戦力の為の交渉ではなく、あるいはホワイトスターという場所がどのような場所なのかを調べるとかでもなく、もっと別の……何らかの理由があっての事なのは間違いないだろうな。
とはいえ、それが具体的に何なのかというのは俺には分からないが。
ただ、話の成り行きを見守っていればその理由が分かりそうだな。
「僕達がアクセル代表からシャドウミラーについて話を聞いた時、1つ重要な……僕達にとっては聞き流せない事を聞かせて貰ったんだ」
校長の言葉に、エザリアと千鶴の視線が俺に向けられる。
それは『一体何を言ったの?』といったような事を尋ねる視線だった。
いや、けど何の事だ?
色々とシャドウミラーについて説明したけど、校長がこんな風に言うような覚えは俺にはないんだが。
なので、エザリアと千鶴に向かって首を横に振る。
こんな風に言われるような覚えは、全くないと態度で示した形だ。
そんな俺の様子に、どうやらエザリアと千鶴もある程度は納得したらしく、俺から校長に視線の向ける先を変える。
エザリアの場合は、コーディネイターとしての高い能力もそうだが、本人の経験であったり、あるいは訓練や勉強によって相手の嘘を見抜く能力は高い。
千鶴の場合は……うん、女の勘とかそういうのであっさりと判断してきたりしそうなんだよな。
「どのような事でしょう?」
「シャドウミラーでは怪我人……あるいは重病人でも治せると、そう聞いたけど本当かな?」
そういえば、その辺りについて話した覚えがあるな。
エザリアと千鶴も、校長の言葉は少し意外だったようだが、特に隠す事でもないので、頷く。
「はい、そうですね。シャドウミラーには非常に高い医療技術があります。話の流れからすると、ヴィランでしたか。その集団との戦いで怪我をした人物の治療でも?」
「……オールマイト」
エザリアの言葉を聞いた校長はオールマイトの名前を呼ぶ。
「あ」
その様子を見た瞬間、俺の頭の中にある幾つかのパズルが嵌まるのが分かった。
ネットの動画で見た時と比べても、明らかに弱くなっていると思えるオールマイト。
何十年もNo.1ヒーローの座に立ち続けるオールマイト。
緑谷という原作主人公の存在と、その師匠役――という表現が正しいのかは微妙だが――のオールマイト。
それはつまり……
「校長、しかし……」
「君の治療の為だ。今のままでは大変なのだろう? それに……連れ去られた生徒を助ける為にも、君には万全の状態でいて欲しいんだよ」
「……分かりました」
ボフン、と。
オールマイトが校長に答えた瞬間、一瞬周囲に爆発……という程に大袈裟なものではないが、とにかくそれっぽいのがあり、それが消えた時……
「うわ、マジかよ」
俺の視線の先にいたのは、まさに骨と皮といった様子の、ヒョロヒョロ、ガリガリの人物だった。
「えっと……一応確認するけど、オールマイトでいいんだよな?」
校長の隣に座っている人物である以上、それがオールマイトであるのは間違いない。
間違いないのだが、それでも思わずそう聞いてしまうくらいには、その人物がオールマイトであるとは思えなかったのも事実なのだ。
「……ああ、そうだよ」
その外見に相応しい……だが、それでもオールマイトであると認識出来るような声でその人物……ヒョロガリとなったオールマイトは俺の言葉に頷く。
どうやらやはり、このヒョロガリがオールマイトであるのは間違いないらしい。
「校長、これって一体……」
「実はだね」
「いえ、校長。ここは私から話させて下さい」
オールマイトのあまりの変わりように、事情を校長に尋ねるも、校長がそれに答えるよりも前にオールマイトが話に割り込んでくる。
いやまぁ、自分の事なんだから自分で説明するというのは分からないでもなかったが。
「アクセル代表、私のこの姿は、過去に巨悪と呼ぶ存在を倒した時の後遺症だ」
「……巨悪?」
オールマイト程の人物が巨悪と言うのだ。
それは実際そう呼ぶに相応しい人物であるのは間違いないのだろう。
そこまで考え、ふと気が付く。
X世界において、俺が介入したのは恐らく2作目だった。
1作目は多分ジャミルが主人公だった筈で、2作目はガロードが主人公で、ジャミルのはガロードの師匠――というのは少し大袈裟だが――的な役割だった訳で……そういう風に考えると、もしかしたらこのヒロアカ世界も今は実は2作目なのかもしれないな。
1作目はオールマイトが主人公で、ボスはその巨悪だったとか。
「そうだ。正直なところ、このような状況になった事は後悔していない。私は私のやるべき事をやり、その結果が今の私なのだから。だが……今となっては、そうも言ってられない」
「何でだ?」
「ヴィラン連合……この背後にいるのが、巨悪……オールフォーワンである可能性が非常に高い……いや、ほぼ間違いないからだ」
オールフォーワン……略すとAFOか。
意味的には皆は1人の為にとか、そんな感じだな。
「そのAFOとかいう巨悪は、オールマイトが倒したんだろう? なのに、なんでまた出てくるんだ?」
「……そう、倒した筈だった。しかし、今の状況を考えると、倒したと思ってはいたが、実は倒せていなかったという事なのだろう。お陰で、緑谷少年には……」
あ、そういう流れになるのか。
前作で倒したと思ったラスボスのAFO。
だが、実は前作の主人公であるオールマイトはAFOを倒せておらず、その結果としてAFOはまだ生き残っており、その手先としてヴィラン連合が……シラタキや黒霧がいる訳だ。
そうなると、緑谷が倒すべきラスボスはシラタキではなくAFOとなるのだろう。
「なるほど。それでオールマイトは緑谷の師匠的な存在になっていた訳か」
「……気が付いていたのかい?」
驚きの表情と共にそう言ってくるが、寧ろ気が付かれていなかったのかと、そう突っ込みたくなっても決してそれは間違いではないだろう。
実際、轟なんかもオールマイトが緑谷に目を掛けられているという風に認識していたし。
口には出さないものの、元々それがおかしいと思っている者はそれなりにいた筈だ。
ただ、体育祭の時に轟が皆の前で緑谷に宣戦布告をした時、オールマイトが緑谷に目を掛けていると言ったので、今ではA組の生徒なら多くの者がその件については知っていたりするんだが……それについては、オールマイトに言わない方がいいのか?
「隠す積もりなら、もっと上手く隠した方がいいと思うけどな。……まぁ、話は分かった。そのAFOとの戦いで負った怪我をオールマイトが治せば、今度こそAFOをオールマイトが倒せる訳だ」
「あ、いや、その……」
「うん?」
話の流れが理解出来たのでそう予想したのだが、何故かオールマイトは俺の予想を聞いても、少し困った様子を見せている。
あれ? 話の流れ的に考えて俺の予想はそう間違っていないと思うんだが。
何故か俺達を案内した後、部屋を出ないで俺の隣に座っているムウに視線を向けてみるが、そんな俺にムウが返してきたのは肩を竦めるといった行為だけだ。
微妙にムカつくものの、ムウはヒロアカ世界の事情とかそういうのをまだ殆ど分かっていない以上、こういう反応になってもおかしくはないか。
「その……実は、私の個性、ワンフォーオールは継承型とでも言えばいいのかな? 人から人に渡していく個性なんだ」
「何だそれ。そんな個性もあるのか?」
俺が知ってる限り、個性というのは基本的に親からの遺伝であったり、あるいは祖父や祖母、それよりも前の先祖の個性を身に付けるというものだ。
だが、そんな中で継承型……その言葉からすると、恐らく任意で個性を継承出来る……出来る……無個性だった緑谷、原作主人公、オールマイトとの関係……
「もしかして、オールマイトの個性を受け継いだのは、緑谷?」
そう口にする俺の言葉に、オールマイトと校長は大きく目を見開くのだった。