俺が口にした、ワンフォーオール……OFAの後継者が緑谷であるという言葉に、オールマイトと校長は大きく目を見開く。
そんな2人の様子を見れば、俺の予想が正解だったのはどうやら間違いないらしい。
「な……何故、そのように思ったのか、聞いても?」
原作主人公だから。
そう言いたくなったが、まさかオールマイトにそのようなことを言っても意味が理解出来ないだろう。
であれば、何かもっと別の理由……まぁ、考えなくても分かりやすいか。
「爆豪とのやり取りを聞けば、緑谷が中学時代……それこそ中3まで無個性なのは明らかだった。緑谷は急に個性が目覚めたといったように言っていたし、俺もてっきり緑谷の持っている増強系の個性は非常に強力で、だからこそ身体が個性に耐えられるようになって初めて個性が目覚めたと思っていたんだけどな」
そう言うと、何故かオールマイトが微妙な表情を浮かべる。
あれ? 何で今の話の流れでそんな表情になるんだ?
そういった疑問を抱いたものの、取りあえず今は話を続ける。
「だが、身体が個性に耐えられるようになったから個性が目覚めたのではなく、オールマイトから個性を譲渡され、それで個性を使えるようになったのなら、緑谷の今……というか、入学当初の状態も理解出来る」
そう言いながら俺が思い浮かべたのは、入試の時の実技試験だ。
あの実技試験で出た巨大ロボを破壊したのは、俺と緑谷だけと聞いている。
そしてリカバリーガールから話を聞いた限りだと、緑谷は巨大ロボを倒した時に腕の骨を含めかなり重傷だったらしい。
つまり、個性を貰ったばかりで完全に使いこなせていなかったが故の反動だったのだろう。
「……そうだ。アクセル代表の言葉は間違っていない」
もう誤魔化せないと思ったのか、あるいはこの話の流れからしてもう誤魔化すことは出来ないと思ったのか、オールマイトがそう言う。
「あれ? じゃあ、ちょっと待った。それならオールマイトを治療しても意味がない……とは言わないけど、純粋な戦力としては意味がないんじゃないか?」
平和の象徴とも呼ばれるオールマイトだ。
また、その性格から多くの者に慕われているのも事実。
そうである以上、オールマイトの治療をして少しでも長く生きて貰うという点では意味があるのは間違いないだろう。
だが、これからヴィラン連合に攻め込む際の戦力として考えれば……そこまで戦えるのか? とも思う。
もっとも、オールマイトは雄英の教師になってからでもヒーロー活動を続けており、その戦闘力はかなり高いのも事実なのだが。
そう考えれば、校長の提案も分からないではない……か?
「いや、OFAはもう緑谷少年に譲渡したものの、その残り火はまだ私の中にある。戦える時間は最盛期に比べると減っているが、それでも戦闘力には自信がある」
「なるほど、話は分かった。そういう意味では戦力的な意味でもオールマイトを治療するのはいいだろう。けど……オールマイトも実感していると思うが、シャドウミラーで行われる治療は重病や重傷人であっても治療出来る。だが、当然誰にでもそういう事をしている訳ではない」
実際、そういう事が出来ると知れば、それこそ幾らでも治療をして欲しいと申し出る者がいるだろう。
幾つもの世界と繋がっているという事は、当然ながらそれだけ関わる人数も多いのだから。
であれば、それだけ不治の病なり治療が出来ないような重傷なりを負う者は多い。
そのような者達の全てシャドウミラーが受け入れるかと言えば、それは否だ。
「……つまり、見返りをと?」
「そうなるな」
あるいはオールマイトがどうしようもない状態……それこそ1歩も歩けないような、そんな状態であれば、こちらとしても引き受けてもいいと思う。
だが、今のオールマイトはヒョロガリではあるものの、普通に動けるのも事実。
であれば、無理に治療をする必要もない。
個人的にはオールマイトに好感を持っているので治療をしてもいいとは思うが、だからといって私情でその辺りを決める訳にもいかない。
……いや、レモンなら私情からの行動であっても『仕方がないわね』と言って受け入れてくれそうではあるのだが……それでもやはり、何のメリットもなく受け入れるのは不味いと思うのも事実。
「しかし、報酬と言われても……それなりに金額的な余裕もあるけど、どのくらい支払えば?」
「いや、金はいらない」
ぶっちゃけ、ホワイトスターと繋がった以上、金の心配はない。
いや、ホワイトスターと繋がっていなくても、公安が支払いを行うカードを持っていたので金には困らなかったが。
とにかく今は、それこそキブツで宝石なり金塊なりレアアースなりを作って売れば金に困る事はないのだから。
「では、一体何を?」
「治療をする上で、オールマイトの身体のデータと爪や皮膚、髪の毛といった一部、それ以外にも多少は増えるかもしれないが、それを貰いたい」
「え?」
その辺りは予想外だったのだろう。
オールマイトが完全に意表を突かれた様子で声を出す。
だが、レモン的にはオールマイトの細胞というのはそれなりに貴重な代物だろう。
OFAの個性については既に緑谷に譲渡してあるという事だが、それでもオールマイトが本人曰く残滓によって今もまだ普通に個性を使っているという事は、それこそ残滓であってもオールマイトの身体にはまだ個性が残っている筈だ。
あるいは個性が残っていなくても、オールマイトの細胞というだけで大きな意味を持つ。
具体的には、量産型Wの強化的な意味で。
勿論すぐに思いつくのがそれだけというだけで、他の使い道がある可能性も十分にある。
「だから、オールマイトの一部が欲しい。……ちなみにだが、恐らく今のヒョロガリのオールマイトと、いつもの筋骨隆々のオールマイトの両方でそれぞれ貰うと思う」
「何故、と聞いてもいいかな?」
「シャドウミラー的に、オールマイトの身体能力とかそういうのは欲しいからな。とはいえ……具体的に何がどうなって今のオールマイトのような状態になっているのか分からない以上、治療をする上で色々と検査も必要だろうし、治療に時間も掛かると思うから、爆豪達を助けるのに間に合うのかどうか分からないけどな」
これまでレモンが治療してきた者達は、その大半が相応に治療に時間が掛かっている。
……もっとも、それについては不治の病だったり、普通なら治療が不可能な状態だったりする者達なので、治療に時間が掛かるのは当然のことではあったが。
そしてオールマイトの今の状態も、明らかに普通ではない。
いや、初老に近いオールマイトの年齢を考えれば、この光景もある意味ではおかしくないのかもしれないが……それでも、やはり原作的な意味で考えれば、そこに何かこのような状態になった理由のようなものがあってもおかしくはない筈だった。
その何かを……普通ではない何かを治療するのだが、それこそレモンであっても一朝一夕には出来ないだろう。
あるいは、レモンならそういう事が出来てもおかしくはないと思えてしまうのだが。
ただ、それでも普通に考えれば時間が必要なのは間違いない訳で……
「それは困る!」
俺の言葉に、オールマイトがヒョロガリな状態なままではあるが、真剣な様子でそう言ってくる。
「その、困るというのはオールマイトの細胞とかそういうのを俺達が貰うという件か? それとも治療に時間が掛かるという件か?」
「後者だ。……いや、勿論前者も全く問題がないという訳ではないのだが」
即座に後者だと口にするものの、前者……オールマイトの細胞とかそういうのに対しても、どうやらそれなりに思うところはあるらしい。
まぁ……うん。もし俺がオールマイトの立場であっても、恐らく同じように思うだろうから、その辺については俺としてもオールマイトの気持ちはそれなりに分かったりする。
「そう言われてもな。治療に時間が掛かるのはしょうがないだろ? どうにかする方法は……」
そこまで考え、ふと気が付く。
ある。
治療を短くする時間は、間違いなくあると。
それは、魔法球。
現在シャドウミラーは幾つかの魔法球を所持してはいるが、魔法球は任意に内部と外部の時間差を決められる。
例えば、メインとして使われている魔法球……技術班が入り浸っている魔法球は、外の1時間が中では48時間となってる。
つまり、外で1時間しか経っていないのに魔法球の中にいれば2日の時間を使えるという事になる。
その時間の流れは任意である以上、外の1時間を中ではもっと長い時間に出来たりもする。
……まぁ、それでも限界はあるが。
ただ、オールマイトの治療に間に合わせる事は……正直なところ、出来るかどうかは微妙なところではある。
何しろヴィラン連合の拠点を調べ、プロヒーローだけが使えるヒーローネットワークを使って戦力を集め、それから襲撃をするのだから。
今日は……多分無理。
どんなに上手くいっても、明日だろう。
そうなると、魔法球を使ってもオールマイトをどこまで治療出来るかというのは、分からない。
それでも普通に治療するよりは治療が終わる可能性が高いのは間違いなかった。
とはいえ……魔法球というのは、シャドウミラーにとって最高機密の1つだ。
この魔法球があるからこそ、シャドウミラーは少数精鋭でやっていけているのだから。
……それ以外にも、俺がレモン達と夜を楽しんだ後、その体力を回復させる為に魔法球を使ったりもしているが。
ともあれ魔法球はそう簡単に他人に使わせる訳にはいかない。
これが例えば、オールマイトがシャドウミラーに所属するという事であれば話は別だが……それはまず無理だしな。
オールマイトの性格的にシャドウミラーのやり方とは馬が合わないだろうし、それを抜きにしてもオールマイトはヒロアカ世界に強い愛着を持っているのが俺でも分かる。
「アクセル代表? 何か思い当たる事でも?」
オールマイトが真剣な表情でそう聞いてくる。
そんなオールマイトの言葉に、俺はエザリアと千鶴に視線を向ける。
するとエザリア……ではなく、何故か千鶴が口を開く。
「アクセルく……代表が思い当たった事については、そう簡単に話せるような内容では……ましてや、それを使える訳ではありません。その内容はシャドウミラーという国にとって最重要機密の1つなのですから。そうである以上、私達もオールマイトさんが希望するからといって、すぐにそれを使わせる訳にはいきません」
一瞬だけ、いつものように俺をアクセル君と呼びそうになった千鶴だったが、すぐにそれを修正してそうオールマイトに告げる。
オールマイトは、千鶴の言葉にどう返していいのか分からなく鳴る。
実際、オールマイトにしてみれば自分の治療については必須だと思っているだろうが、だからといって国の最高機密と言われればどうしようもないのは間違いない。
「まぁ、そんな訳だ。……オールマイトがシャドウミラーに所属するのなら、あるいはそういう手段を使えるかもしれないけど、オールマイトにそういうつもりはないだろう? それに……シャドウミラーのやり方は、オールマイトとは合わないだろうし」
シャドウミラーは未知の技術を集めるという国是を持つ。
その為には、例えば他の世界で行われる戦争に介入したり、あるいはその戦争でどちらかに協力したりと、そういう事も普通にやる訳で。
そんな時にオールマイトがいれば、場合によっては力ずくでどうにかしようしてもおかしくはない。
いやまぁ、シャドウミラーの戦力ならそう易々とオールマイトにやられるような事はないが、それでも被害を受けるのは間違いないし。
なので、戦力的な意味では非常に……非常に残念だが、オールマイトをシャドウミラーに所属させることは不可能だ。
それこそ、もしどうしても……何を犠牲にしてもシャドウミラーに所属したいというのなら、鵬法璽を使う必要が出てくるくらいには、オールマイトがシャドウミラーに所属するというのは無理がある話だ。
「ぐぬぅ……だが、しかし。方法がある以上、それを使わないという選択はない」
「では聞きますが、そこまでして……シャドウミラーにとって最重要機密を使ってまでも、貴方を助けたとして、私達にどのようなメリットがありますか?」
「ぐっ!」
千鶴のその言葉に、オールマイトは何も言えなくなる。
実際、オールマイトに出せる物はない……訳ではないが、そう多くある訳でもない。
俺達……いや、治療をするレモンが一番欲するのだろう細胞の類は、治療の代価として既に決まっているし。
「そこを何とかお願い出来ないかな?」
オールマイトが何も言えなくなったところで、校長がそう言ってくる。
今まで黙っていたので、交渉はオールマイトに任せているんだと思っていたが……これはちょっと予想外だったな。
「シャドウミラーのメリットはなんでしょう?」
「逆に聞きたいんだけど、何が欲しいのかな?」
そう言う校長に、千鶴は満面の笑みを浮かべるのだった。