「そうか、それは安心……でいいんだね?」
校長の問いに、俺は頷く。
それを見た校長が安堵する。
……人格は人に近い校長だが、その外見は巨大な小動物と称するべき存在だ。
それだけに、こうして安堵した様子を見せると、非常に愛らしいと思ってしまう。
とはいえ、校長の外見はあくまでも外見であり、中身とは違うのだ。
「ああ、オールマイトの治療についても、爆豪とラグドールの救出作戦を行うまでに可能な限り行う。……とはいえ、治療そのものが結構大掛かりになるから、それが終わった後のリハビリについても考えると、治療に使える時間はあまりない。……救出作戦についてはどうなっているか分かるか?」
「いや、僕はホワイトスターにいたので、その辺については相澤君達に任せてあるのさ。雄英に帰ったらしっかりと話を聞く事になると思うけどね」
あー……そういえば、校長には通信機を渡していなかった。
いや、校長に通信機を渡しても相澤が通信機を持っていなければ意味はない。
シャドウミラーで使っている通信機はゲートを使った通信なので、違う世界にいても普通に通信が繋がるし、日本の外国……いや、地球と宇宙、それこそ別の星系にいても普通にリアルタイムで話が出来たりする優れ物だ。
だが、当然ながらそのような通信機なので、例えばその通信機を使ってヒロアカ世界にある誰かのスマホに連絡をするといった事は出来ない。
あくまでも、その通信機を持った者同士での連絡しか出来ないのだ。
「分かった。じゃあ、送るよ。それなりにシャドウミラーについては知る事が出来ただろう?」
俺がレモンと話をし、培養ポッドに入っているオールマイトを魔法球の中に運んでいる間、校長はただ待っていただけではない。
シャドウミラーというのがどのような存在なのか、データで調べていたのだ。
「……ああ、完全にではないにしろ、大分知る事が出来たよ」
人の顔ではないものの、校長の顔が俺が見ても分かる程に複雑な表情が浮かんでいた。
まぁ……うん。国を率いる立場の俺が言うのもなんだけど、シャドウミラーは色々な意味で特殊な存在だしな。
とはいえ、個人的に考える限りだと、シャドウミラーが介入した事によって原作よりも悪い結果になった世界はない……と思う。
もっとも、それはあくまでも俺から見たものであり、その世界の敵にしてみれば自分達が原作よりも酷い扱いとなっていると言いたいだろうが。
ただし、そうして原作よりも良い世界になっているというのは、あくまでもその世界の原作があるという知識を持つ俺だからの判断だ。
校長のように原作について何も知らない存在にしてみれば、シャドウミラーの行動は場合によっては意味もなく戦乱を起こしているように見えてもおかしくはない。
ただ、それによって多くの世界が平和になったのも事実な訳で。
そう考えれば、やっぱりシャドウミラーは正義の味方なのかもしれないな。
……自分で言っていて、何だそれはと突っ込みたくなったのは俺の気のせいではないだろう。
「シャドウミラーが他の世界を征服しようとしたりしていないのは理解したよ」
「今は取りあえずそれだけ覚えていればいい。……とにかく、いつまでもホワイトスターにいるのも何だし、ヒロアカ世界に送っていくよ」
そう言う俺の言葉に、校長は愛らしい姿でコクリと頷くのだった。
「……まさか、影に沈む経験をするなんて思わなかったのさ」
ヒロアカ世界のゲートの前で、校長がしみじみと言う。
校長が待っていた場所……シャドウミラーについて調べていた場所から転移区画まで、影のゲートを使って転移したのだが、それが余程の経験だったらしい。
影のゲートを使った転移魔法についてはまだ公表していなかったんだが、ホワイトスターと繋がって事情を話した以上はもう隠しておく必要はないと判断し、校長に見せた訳だ。
「このヒロアカ世界の歴史上、初めて転移魔法を経験したと思えば、そんなに悪くないんじゃないか?」
そう言うも黒霧を見れば分かるように、転移系の個性というのはかなり希少ではあるものの、それなりに存在している。
もっとも、個性と魔法は似て非なる物であるのは間違いなく、そういう意味ではやはり校長が初めて魔法を経験したというのは事実だったのだが。
「公表出来ないのが残念だけどね」
そうして会話をしていると、相澤とブラドキングが姿を現す。
「校長、戻ってきましたか。……オールマイトは?」
「少し健康診断をして貰っているのさ。リカバリーガールでも見逃した古傷の件もあるしね」
ここでリカバリーガールの名前を出すのはどうかと思ったが、校長にしてみればオールマイトが治療中というのはあまり口にしたくないのだろう。
実際、もしそれが知られれば間違いなく士気は下がるだろうし。
平和の象徴にして、何十年もNo.1として活動してきたオールマイトの存在は、それだけ重いという事だ。
治療が終わり、リハビリも終えて元気一杯……元気一杯? うーん、ヒョロガリの状態を何とか脱して姿を現せば、士気は大きく上がるかもしれないけど。
「そうですか」
校長の言葉に相澤は短く返す。
校長を見る目に疑問……というか、完全に納得はしていないような様子ではあったものの、それでもそれ以上何も聞かないのは、それだけ校長を信じているからなのだろう。
「では、色々と報告もあるので職員室の方へ……アクセル代表は?」
ああ、まだ俺は相澤にしてみれば生徒ではなくシャドウミラーの代表という扱いらしい。
それについては嬉しいと思えばいいのか、残念に思えばいいのか、微妙なところだな。
もっとも、言葉遣いについて考えるとやっぱり今の方がいいんだが。
「俺はすぐに……」
ピロリ、ピロリ、ピロリ、ピロリ、ピロリ、ピロリ、ピロリ、ピロリ、ピロリ。
言葉の途中でスマホが何度も鳴る。
どうやら俺がホワイトスターに行ってる間に、メールやら電話の着信やらLINの書き込みやら、諸々とあったらしい。
だが、考えてみれば当然か。
開闢行動隊の襲撃があったのは昨夜だ。
そして林間合宿を切り上げ、雄英に戻ってきてそれぞれ解散したのは今日。
その後で俺は雄英の教師を含めた関係者に諸々説明したり、あるいはホワイトスターに行ったりしていた。
そうして俺がこの世界にいなかった時間にスマホに連絡が入ってきたのだろう。
「ちょっとここで時間を潰してから、ホワイトスターに戻る。明日にはまたこの世界に戻ってくるから、何か連絡があるのならその時は聞く。ただ、もし緊急に俺に連絡をしたい場合は、ゲートに通信装置があるから量産型Wを通して連絡をしてくれ」
「……分かった。では、そのようにしよう」
そう言い、相澤は校長とブラドキングと共に雄英の校舎に戻っていく。
ちなみに校長は以前期末テストの試験の時に見たように、相澤の首に巻き付いており、マフラーのように見えなくもない。
その後ろ姿を見送ってから、俺はメールやLINにそれぞれ返事を書いていく。
大半の内容は、今日は疲れたからゆっくり休もうとか、そういう感じのものではあったが……
「見舞い、か」
何人かからは、明日見舞いに行かないかという誘いが来ている。
俺と親しいところでは、ガスを吸った茨がまだ昏睡状態らしい。
後はボロボロになっていた緑谷も同様に意識がないままだ。
……とはいえ、緑谷の場合はこれで良かったのかもしれないな。
何しろ、もし緑谷に意識があったら目の前で爆豪を連れ去られたの悔やんで暴走しかねないし。
俺にしてみれば不思議な事に、緑谷は爆豪から粗雑な扱いを受けている。
だというのに、緑谷は爆豪を慕っているのだ。
何故そんな風になっているのか、俺には全く分からない。
……とはいえ、その辺りは人それぞれでもある。
緑谷の中には爆豪に対して思うところがあるのも間違いではないといったところか。
もっとも、具体的に何があったのかというのは、俺には分からなかったが。
とにかく緑谷の意識がまだ戻らないのは……緑谷の家族とかにしてみれば不安だとは思うが、緑谷の無事を思えば悪くない事なのかもしれない。
ともあれ、明日……どうするか。
少し悩むも、時間はあまり取れないが見舞いには行くと返事をしておく。
今後の俺が……具体的には2学期が始まってからの俺がどうなるのかは、正直なところ分からない。
しかし、俺の希望としては原作の事もあるのでこのまま学生を続けたい訳で。
その時の事を思えば、見舞いには行っておいた方がいいだろう。
それに俺に身も心も捧げると、そう言い切る茨もまだ意識が戻らないのだから、そっちの見舞いにも行っておきたいし。
ただ、オールマイトの様子をちょっと見てきたり、あるいはヒロアカ世界について多少案内したり……俺の部屋を見にいきたいと主張する者もいるだろうしな。
そんなことを思えば、明日の予定は空けておく必要がある。
……それ以外にも、爆豪を取り戻す為にヴィラン連合の拠点を襲撃する時、どのくらいの戦力を送るのかというのも考えておく必要があるし。
その辺はコーネリアと相談をする必要があるか。
実働班の役目として考えると、戦力は結構出せるだろう。
ただ、実働班は生身での戦いでも十分な強さを持っているが、やはりその本領はPTやMSといった人型機動兵器に乗ってのものなんだよな。
……いっそ、エヴァを出すか?
そうなれば、AFOとかそういう相手がいても、容易に対処出来るような気がする。
とはいえ、エヴァが本来の仕事以外の仕事をしてくれるかとなると……正直、微妙なところだろう。
もし頼むとすれば、何らかの報酬を用意する必要があるが……そんな風に思っていると、スマホに着信がある。
誰からだ? と思って見ると、龍子からだ。
「もしもし、どうした?」
『どうしたって、帰ってきたのなら連絡をするくらいはしてもいいんじゃない?』
不満そうな龍子の声。
まぁ、龍子にしてみればいきなりゲートを設置してホワイトスターに行ったのだから、俺の後見人として色々と思うところがあってもおかしくはない。
「悪いな、メールやLINの方で返事をしていたんだよ」
『……そう。ならしょうがないけど』
「で、龍子は今どこにいるんだ? 雄英か?」
校長が戻ってきたから、それを見て俺がヒロアカ世界に戻ってきたと、そのように思ったのかもしれない。
そう考えたのだが……
『ううん、今は事務所よ。ヴィラン連合の拠点の襲撃の為に、色々と忙しくて』
「あー……なるほど。そういう事なら分からないでもないな」
襲撃の時に具体的にどれくらいの戦力を集めるのかは、俺にも分からない。
ただ、ホワイトスターで治療中のオールマイトの件を考えると……もしかしたら、シャドウミラーの戦力はいらないんじゃないか? と思ってしまう。
もっとも魔法球を使って凄い時間の流れになっている筈だが、オールマイトはシャドウミラーの一員ではないので、当然のように時の指輪はない。
そうなると、魔法球の中で進んだ時間は間違いなくオールマイトから残りの時間を奪う事になるのだが……まぁ、オールマイトは全てを承知の上で治療を頼んだんだろうから、それも仕方がない。
一応、シャドウミラーに所属するかって聞いたが、それは断られたしな。
であれば、その辺りはオールマイトの判断だから、俺にはどうしようもない。
『それで、アクセル。明日はどうするの?』
「何人か入院している奴がいるから、その見舞いに行く予定だ。もっとも他にも幾つかやるべき事はあるけど」
『具体的には……って聞きたいところだけど、その件については聞かない方がいいのよね?』
「そうだな。聞かれても教えられないし」
いや、実際にはその辺について教えても構わないのだが……ただ、龍子だけが俺についての情報を持っていると、それはそれで面倒な事になりそうな気がする。
なので、俺の件についてはこれ以上話すのは止めておく。
『じゃあ、今日はこれからどうするの? 以前から言っていたように、ホワイトスターと繋がったんだから、そのお祝いでもどう?』
「あー……悪い。ホワイトスターの方で俺が久しぶりに戻ってきたって事でパーティ……という程に大袈裟なものじゃないが、やる予定なんだよ」
『そう……』
龍子にしてみれば、俺を祝ってくれる気だったのだろう。
だが、俺がホワイトスターでパーティと呼べる程に大袈裟なものではないにしろ、打ち上げ的な感じでやると聞くと、残念そうな声を出す。
「あー……もし龍子がよかったら、参加するか? 龍子はこのヒロアカ世界における俺の後見人だったんだし、そういう意味では参加しても問題はないと思うぞ。優辺りも誘えばすぐに来るだろうし」
『……ううん、ここで私が参加するのは止めた方がいいと思う』
そう言う龍子。
本人が参加しないと口にしているのだから、無理に参加させるようなことも出来ないだろうと、それ以上は何も言わないのだった。