スマホで出来る用事は終わらせ、龍子をパーティに誘ったけど断られた俺は、ゲートでホワイトスターに戻ってくる。
ヒロアカ世界のゲートについては量産型Wとコバッタがいるから、取りあえず問題はないだろうが、それでも近いうちに……それこそ明日にでもセメントスとかと協力して建物とか防壁とか、そういうのを用意する必要があるな。
そんな風に思いながら、ホワイトスターの交流区画を歩く。
まだ夕方前なので、他の世界からやって来た者達もまだいる。
もっとも、早い者の中には既に自分の世界に帰っている者達もいるので、昼間に比べると少し人通りも少なくなっているが。
家に帰るにしても、まだ少し余裕があるし……そうだな、適当に見て回って歩いてもいいか。
そう判断すると、俺は周囲の様子を見ながら大通りを歩く。
「あーっ! アクセルじゃない! 戻ってきたのなら、そう教えなさいよね!」
不意に聞こえてきたそんな聞き覚えのある声に視線を向けると、そこには予想通り明日菜の姿があった。
俺を見て、明らかに私怒ってますといった表情を浮かべる。
「久しぶりだな、明日菜。……ちなみに、帰ってきたのは今日、それも数時間前だぞ。多分今日中にはシャドウミラーの面々には連絡がされると思う」
「え? そうなの? うーん……でも……」
「それより、ステラはどうしたんだ?」
話を誤魔化すといった訳ではないが、明日菜と同じ生活班の人員として行動している筈のステラの姿がなく、明日菜1人である事に疑問を抱いて尋ねる。
「え? ああ、ステラなら超包子でウェイトレスをしてるわよ。何気にステラも人気が高いのよね」
そう言う明日菜だったが、そこに対抗心のようなものはない。
ステラの人気が高いのなら、それはそれで構わないと、そういった様子らしい。
元々明日菜はそういうのはあまり気にしていなかったしな。
勿論、露骨にステラを褒めて明日菜を無視する……とか、そういう奴がいたら、勿論明日菜も不機嫌になったりするだろうが。
「ステラは超包子か。それで明日菜は?」
「私はちょっと他の人に呼ばれて仕事をしてきたところよ。その帰りにここを歩いていたら、アクセルを見つけたって訳。……それで、アクセルはこれからどうするの?」
「どうって言われても、ここも久しぶりだから、家に帰る前にちょっと見て回ろうかと思ってな。家では多分パーティの準備をしてるだろうし」
「ふーん……楽しそうでいいわね」
何故か不機嫌そうにジト目を向けられる。
あれ? 何で今の話の流れでそうなる?
そんな風に疑問に思い……もしかしたら、明日菜もパーティに参加したいのか? と思う。
「何なら、明日菜もパーティに参加するか?」
「……え? いや、でも……アクセルの家のパーティでしょ? そうなると、私が参加するのは色々と気まずいし……何より、そういうのに巻き込まれたくないし」
ボソリと最後に口の中だけで呟く明日菜だったが、明日菜が何を言いたいのかは十分に理解出来た。
そういうのというのは、つまり夜の件だろう。
久しぶりにホワイトスターに戻ったのだから、今日の夜どのような事態になるのかは、俺であっても容易に想像出来る……というか、楽しみにしてすらいる。
だからこそ、明日菜が何を言いたいのかを理解もしたが、その件で何か突っ込んだりすると、それはそれで明日菜を怒らせるようなことになるのはすぐに理解出来た。
「美砂や円、あやかや千鶴なんかも、明日菜がパーティに参加すると喜ぶとは思うけどな」
「え……うーん……でも……ごめん、やっぱり無理。まだそんな覚悟は出来ていないから。あ、でもそうだ。私も今日はもう仕事もないし、アクセルも暫くは暇なんでしょう? なら、一緒に見て回らない?」
「俺がか? いやまぁ、俺はいいけど……明日菜はそれでいいのか?」
俺は本当に久しぶりで、交流区画を見て回るというのは寧ろ望むところだ。
だが、明日菜にしてみれば生活班の仕事として、毎日のように交流区画には来ている筈だった。
であれば、わざわざ俺と一緒に見て回る必要があるのか?
そう疑問に思ったのだが……
「いいのよ! 私だって交流区画の全てを知ってる訳じゃないんだから! それに……こうして久しぶりにアクセルに会えたんだから、そのくらいはしてもいいでしょ?」
「明日菜がそれでいいのなら、俺は構わないけど」
「じゃ、そういう事で決まり!」
明日菜が強引にそう決めると、俺も別に明日菜と一緒に見て回るのが嫌な訳ではないので、それ以上は何も言わずに見て回る。
「ほら、アクセル。少し前、向こうに小物屋が出来たのよ。エルフの人達がやってるお店だから、それだけでもかなり繁盛してるのよ!」
「まぁ、そうだろうな」
俺を神と崇めるエルフ達は、ホワイトスターにそれなりにいる。
実働班の下部組織的な存在である精霊の卵に所属している者が多いが、政治班や生活班の手伝いをしたり、あるいは店をやったりもしている。
そして、エルフという種族は多くの世界にとって空想上の存在だ。
そんなエルフのやっている店があるのなら、是非とも行ってみたいと思う者は多いだろう。
勿論、ここがホワイトスターである以上、エルフを見たい、話してみたいと思っても、力で強引にどうこうする……といったような奴はいない。
あるいはいても、すぐに同じ世界出身の者達に止められるだろう。
何しろ何らかの騒動を起こした場合、最悪その騒動を起こした人物だけではなく、問題を起こした人物が所属する世界全体にペナルティが課せられるのだから。
ましてや、ホワイトスターに来る事が出来るのはその世界で選ばれ、しっかりとした者達だけだ。
……それでも血迷ったりしそうなのが、エルフの美しさだったりするのだが。
「ほら、こっちこっち。早く」
明日菜が俺の先を進み、早く来いと言ってくる。
……妙にはしゃいでいるな。
それでいながら、それなり多い通行人にぶつかったりしないのは、明日菜も相応に鍛えているからなのだろう。
それこそ、爆豪やラグドールを取り返す為のヴィラン連合の拠点の襲撃に、シャドウミラーから戦力として派遣されてもおかしくないくらいには、明日菜は強い。
それこそ明日菜が本気になれば、ミルコを相手にしても互角以上に戦えるだろう。
つまり、実質的にミルコが2倍。
うん、その時点でヴィラン連合が可哀想になってしまうような気がするするけど、その辺りについては俺がどうこう考えるようなことでもないか。
ただ、コーネリアに提案してみるのはいいかもしれないな。
そう思いながら、俺は明日菜に案内されるように店に……エルフがやっているという店に入る。
「ア……アクセルさ……さん!?」
店の中にいたエルフは、俺を見ると最初様づけで呼ぼうしたものの、俺か公の場ではない限り恭しくするのは禁止と言っていたのを思い出したのか、すぐにさんづけで呼んでくる。
「久しぶりだな、明日菜のお勧めでちょっと来てみた。……なるほど、悪くない」
小物屋という事だったが、基本的にここにあるのはエルフ達が自分達で作った物なのだろう。
それでいながら、手作り感の類はなく、こうして普通に店で売っていてもおかしくはないような、そんな出来の良さだった。
「ありがとうございます」
俺に褒められたのが嬉しかったのか、エルフは満面の笑みを浮かべてそう言ってくる。
そんなエルフの様子に、店の中にいた男の客の1人がぎょっとした表情を浮かべる。
あー……これは多分あれだな。あの男はエルフと仲良くなりたくて店にそれなりの頻度で来ているのだろうが、それでもエルフには今のように笑みを浮かべられたりとか、そういうのは多分されたことがなかったとか、そんな感じか?
だというのに、俺にはこうして笑みを浮かべているので、それを見て驚いた……あるいは悔しいと思ったとか?
まぁ、その辺については、それこそそこまで悔しいのなら、いっそ俺のように混沌精霊になって、エルフ達に敬われる立場になってみろとしか言えないが。
もっとも、もし本当にそのような状況になっても、俺を神として敬っているエルフ達が別の神に乗り換えるかどうかは……微妙なところだろう。
あるいは門世界にまた繋がれば、他のエルフに神として認められ、敬われるといったような可能性もあるかもしれないが。
ただ、混沌精霊になるにはエヴァから闇の魔法を教わって、その上で限界を超えてモンスター化し、暴走した上で自我をとり戻せば可能性はある。
そこまでしても俺と同じ混沌精霊になれるかどうかは微妙……というか、恐らく可能性は低いだろう。
俺だって、まさか自分が混沌精霊なんて存在になるとは思っていなかったんだし。
偶然に偶然が重なり、その上で更に幾つもの偶然が重なった結果が今の俺だ。
それと同じような状況になるというのは……うん、それこそ宝くじの1等が数十回連続で当たるかのようなものだろう。
もっとも、それでも執念でそこまで行くような奴だったり、本当に偶然で……運によってそこまで行くような者も普通にいたりするのだが。
そんな事を考えつつ、俺は明日菜と共に店の中を見て回る。
ちなみに、てっきりエルフはずっと俺と一緒に行動するのかと思っていたのだが、別にそういう事はなかった。
俺がそういうのを好まないと、そう判断してのものだろう。
「あ、これ……」
俺が足を止めたのは、棘のある植物で作られた髪飾りだ。
上手い具合に使わないと、棘が髪に絡まったり、頭皮に刺さったりしそうな、そんな髪飾り。
普段使いする分には間違いなく危険だろうとは思うが、同時に明日のお見舞いの時に茨に持っていくのはどうかと思った。
普通なら見舞いの時に持っていくのは、果物の詰め合わせとかそういうのなんだが……俺は何故かこれが茨には合うと、そう思ったのだ。
「え? ちょ……アクセル、正気? その髪飾り、武器に使うとかじゃないのよね?」
「そうだな。明日にはヒロアカ世界……ああ、俺が行っていた世界だけど」
「あ、それは知ってるわ。アクセルが無事だったっていう情報と一緒に連絡があったもの」
ああ、狛治経由の情報か。
俺の恋人のレモン達に知らせるだけじゃなく、シャドウミラーの面々にも俺が無事であるという情報を流したのだろう。
それは別にそこまでおかしな事ではない。
「そうか。それで……まぁ、その、なんだ。昨夜ちょっとした騒動があって、俺の知り合いが入院していてな。その見舞いの品にこれはどうかと思ったんだよ」
「それ、本気で言ってるの? それとも嫌がらせか何か?」
「そういうのじゃない。呆れの視線を向けるな。そいつは、髪の毛が棘付きの蔦という個性を持っているんだ。なら、こういうのも悪くないと思わないか?」
「……髪飾りを持っていくって……もしかして、その人って女の人?」
何故か数秒前の呆れの視線から、ジト目を向けてくる明日菜。
何でそんな視線を向けてくる?
そう疑問に思ったが、今のこの状況では何を言っても意味がないように思えるのも事実。
それこそ、下手に言い訳をすれば、かなり面倒な事になりそうだし。
なので、茨が女であるというのを否定はしない。
「そうだな。茨は女だ」
「ふーん……」
「言っておくが、明日菜が思っているような関係じゃないぞ? 寧ろ、俺とエルフ達のような関係だ」
「……え?」
俺の言葉が理解出来ないといった様子で、明日菜が見てくる。
ホワイトスターに住んでいる明日菜だけに、俺とエルフがどのような関係なのか十分に理解している為だろう。
それだけに、茨がどのような人物なのか想像出来てしまう……あるいは想像出来ないといったところか。
……うん。まぁ、茨が身も心も喜んで俺に捧げるとか、そういう風に言ってる件については話さない方がいいのは間違いないな。
「とにかく茨はそういうタイプな訳だ」
「え……あ、うん。アクセルも大変そうね」
「それは否定しない」
茨と一緒にいる俺を見ると血涙を流してくるような奴とかいるしな。
いや、茨に限らず女と一緒にいるのを見ると……か。
ただ、その割には緑谷が麗日と一緒にいるのを見ても、峰田は嫉妬しない。
単純に麗日が峰田の趣味じゃない……いや、それはないな。更衣室に覗き穴があった時、峰田は麗日にも興味があるように言っていたし。
そうなると、何で峰田が緑谷に嫉妬しないんだ?
可能性としては……原作主人公だからとか?
そうなると麗日は原作ヒロインになる訳だ。
……うん、こうして考えるとやっぱりその理由はそう間違っている訳じゃないみたいだな。
そんな風に思いつつ小物を見ていると……
「あ、これ」
「ん?」
不意に明日菜がそんな声を出す。
その視線の先にいあったのは、木のコップ。
当然ながらこの店にある以上、エルフが自分達で作った……あるいは彫った木のコップなのだろう。
エルフらしい精緻な飾りが彫られているそのコップは、手間が掛かっている分だけ値段はそこそこだったが……明日菜にも色々と心配を掛けているし……
「買うよ。たまには明日菜にプレゼントってのもいいだろ?」
「えっ!? えっと、その……ありがと」
明日菜は顔を赤くし、小さな声でそう感謝の言葉を口にするのだった。