明日菜とエルフの小物屋で買い物を終わらせると、俺は家に帰る事になる。
何でも明日菜には急用が入ったらしい。
……具体的にそれがどんな急用なのかは俺には分からなかったが、とにかく明日菜にしてみれば急いでいたのは間違いないらしく、その健脚で俺の前から走り去った。
……瞬動とか咸卦法とか使っての移動じゃなかっただけ、まだマシだと思っておいた方がいいのだろう。
ともあれそんな訳で、俺は家に帰ってきたのだが……
『お帰り、アクセル』
家の中に入った瞬間……より正確にはリビングに入った瞬間、そこにいた面々が揃って俺にそう声を掛けてくる。
驚いた事に、俺の恋人達全員がそこには揃っていた。
元々ホワイトスターで暮らしている面々は当然ながら、ペルソナ世界の美鶴とゆかり、UC世界のシーマ、クスコ、モニク、クリス。オルフェンズ世界からクーデリア。
勿論リビングにいるのは恋人達だけではなく、俺の子供……正解には養子のラピスとルリや、クーデリアのメイドにして右腕であるフミタンの姿もそこにはあった。
「ただいま。……よくこの短時間で全員集めることが出来たな」
俺がゲートを設置してムウと話をしてから、まだ数時間程度だ。
ホワイトスターにいる恋人達だけならまだしも、他の世界の恋人達までもが集まることが出来たというのは、少し驚きだった。
「ふふっ、アクセルが久しぶりに帰ってくるんだ。恋人としては久しぶりの逢瀬の機会を見逃す訳にはいかないだろ?」
笑みを浮かべ、妖艶にそう言ってくるシーマ。
他の面々も、言葉には出さずともシーマと同じように考えているのは明らかだった。
「……お帰り」
ラピスがルリと一緒に俺に近付いて来て、改めてそう言ってくる。
ルリやラピスも既にそれなりの年齢になってはいるのだが、それでもまだ内気というか、積極的な性格ではない。
まぁ、それが個性だと言われれば、俺としてもそう納得するしかないのだが。
「ああ、ただいま。ラピスもルリも、元気だったか?」
「はい。シャドウミラーでしっかりと頑張っています。……ハシュマルの件もありますし」
ルリの言葉に、ハシュマルかとそう思う。
オルフェンズ世界で火星に眠っていたMAのハシュマルは、ルリやラピスのハッキングによって今ではシャドウミラーの仲間というか、備品? 兵器? そんな感じの存在になっている。
ハシュマルの生み出すプルーマはそこまで大きくないので、ヒロアカ世界で近々……恐らく数日中に行われるだろう爆豪とラグドールを取り戻す為のヴィラン連合の拠点を襲撃する戦力として使えるとは思うんだが……ハシュマルがいるのが前提での戦力だしな、プルーマ。
そうなると、ヴィラン連合の拠点が山奥とか孤島とかそういう場所ならともかく、街中だったりしたら、ハシュマルを使うのは難しいしな。
「そうか。ハシュマルは上手くやってるか?」
「うん。言う事を聞く良い子」
ラピスのその言葉に、なるほどと頷く。
実際、ハッキングされたハシュマルは素直……というか、ルリやラピスの言葉には絶対服従だ。
とはいえ、それでも絶対に安心という訳にいかないのが残念なところなんだよな。
オルフェンズ世界で生み出されたMAも、当初は人を……特に味方を攻撃しないようにと、しっかり設定されていた筈だ。
だというのに、最終的にMAは全ての人間を殺すようになり、厄祭戦を起こした。
そう考えると、ルリやラピスがハッキングによってハシュマルを従えたしても、それを完全に信じるといった事は難しかった。
……もっとも、ハシュマルは無機物だ。
最悪暴走しても、影のゲートを使ってハシュマルの足下に転移し、触れて空間倉庫に収納してしまえば、それで問題なかったりするのだが。
「そうか。いざとなったらハシュマルにも戦力として出て貰う事があるかもしれないから、そのつもりでいてくれ」
そう言うと、ルリとラピスは頷く。
「行きましょう」
「分かった」
短いやり取りでルリはラピスを連れていく。
まだ他にも俺と言葉を交わしたい者達がいるので、遠慮したのだろう。
そうして何人かの恋人と話していると……
「はいはい。いつまでも挨拶をしていないで、そろそろパーティを始めるわよ。それぞれ飲み物を持って」
このままだといつまで経っても終わらないと判断したのか、レモンがそう宣言する。
「あ……次は私の番だったのに」
スレイが不満そうにしながらも、自分の席に戻る。
そうして俺を含めた全員がテーブルの周りに立つ。
今日は結構な人数が集まっている事もあり、立食パーティのような形だ。
ただ、料理が中華系なのは……超包子に頼んだんだな。
あれ? その割には超包子の看板娘である明日菜は俺と一緒にいたけど。
……まぁ、うん。考えないようにしておこう。
「さて、じゃあ見て分かるけど、全員揃ってるわね。……アクセル、乾杯の音頭をお願い」
「え? 俺がやるのか?」
レモンの無茶ぶり……という程ではないにしろ、いきなりの言葉にそう返す。
だが、レモンはそんな俺の言葉に当然といった様子で頷く。
「アクセルが帰ってきた事を祝うパーティなのよ? なら、アクセルが乾杯の音頭を取るのは当然でしょ?」
そう言われると、確かにそうかもしれない。
そう思わないでもなかったが、あまりこういうのは向いてないんだよな。
とはいえ、レモンにこうして促されると、断る訳にもいかない。
なので、俺はウーロン茶の入ったコップを手に、口を開く。
「俺がヒロアカ世界から無事にホワイトスターに戻って来られた事に……そして、現在ヒロアカ世界での騒動について色々と協力を要請するかもしれないから、よろしく頼む。……乾杯」
『乾杯!』
俺の言葉に他の面々も乾杯と口にし、近い場所にいる相手の持つコップと自分のコップをそれぞれぶつける。
俺もまた右隣のレモンや左隣のコーネリア、レモンの隣にいるマリューや他の面々とも乾杯をしてから、コップの中のウーロン茶を飲む。
そうしてウーロン茶を飲み終わると、次は料理だ。
まず俺が真っ先に箸を伸ばしたのは、海鮮あんかけ炒飯。
炒飯そのものは長ネギと卵くらいだが、そこに掛かっている餡にはイカ、エビ、帆立、キクラゲ、タケノコ、チンゲン菜、ユリ根といった具材がたっぷりと入っている。
炒飯はパラパラ派の俺だったが、あんかけ炒飯となれば話は別だった。
「うん、美味いな。……さすが超包子」
「あら、やっぱり分かったの?」
俺が海鮮あんかけ炒飯を楽しんでいると、少しからかうようにシェリルが聞いてくる。
「まぁ、超包子の料理は俺も食べ慣れているしな」
「ヒロアカ世界には美味しいお店はなかったの?」
「いや、あったぞ。……ただ、中華料理というか、一番記憶に残っているのはラーメンだな」
「え?」
まさかここでラーメンが出てくるとは思ってもいなかったのか、シェリルは驚きの声を上げる。
いや、驚いているのはシェリルだけではない。
俺の声が聞こえてきた面々も、驚いていた。
「ラーメンだよ、ラーメン。実は俺が世話になっていたプロヒーローの事務所にインターンで来ている生徒から教えて貰った店でな」
そう言い、俺はねじれから教えて貰ったラーメン屋の説明をする。
普通のラーメン屋なら、使うのは生麺だ。
だが、その店で使っているのは、乾麺。
それもただの乾麺……つまりインスタントラーメンの類ではなく、日本3大うどんの1つに入る稲庭うどんの製法で作られた乾麺を使っているラーメン屋だ。
個人的には生麺に比べるとどうしても乾麺は下に見てしまうのだが、この乾麺は違う。
下手な生麺に負けないだけの味がある。
……ちなみに、本当にちなみにだが、俺の中でのラーメンの順位というのは、一番下からカップラーメン、乾麺、生ラーメン、店のラーメンというものになっている。
もっとも、カップラーメンの中には人気店の監修とか、そういう高級カップラーメンはカップラーメンの中でもランクは上だろう。
ただ、これはあくまでも俺がそのように思っているだけで、人によってはこの順番は変わってくるんだろうけど。
ともあれ、稲庭うどんの製法で作った乾麺のラーメンは普通にラーメン店のラーメンに相応しいレベルの食材になっていると思う。
あのラーメンは俺にとっても衝撃だったな。
具材も比内地鶏を使ったチャーシューとかあったし。
そういう意味では、良い意味で予想外だったのは間違いない。
「ふーん、アクセルがそこまで言うラーメンとなると、ちょっと興味深いわね。ヒロアカ世界に行ったら、連れていってくれるわよね?」
連れていってくれる? じゃなくて、連れていってくれるわよね? と聞いてくる辺り、シェリルらいしよな。
「そうだな。すぐにというのは無理だけど、ある程度時間に余裕が出来たらな。……幸い、ヒロアカ世界ならシェリルは変装をしたりしなくてもいいし」
多くの世界において、シェリルは歌手として活動している。
それがCDだったり、あるいはダウンロードだったりと販売の方法は色々とあるものの、シェリルの美貌を表に出すというプロデュース方法は変わらない。
シェリルの歌を聴いてファンになる者はともかく、何も知らない者がシェリルの歌を聴く切っ掛けとなるのは、その美貌であるという事も珍しくはないらしい。
歌にプライドを持つシェリルの事だから、自分の美貌をそういう風に使うのを許容出来るのか? と思わないでもなかったが、シェリルにしてみればその辺は問題ないらしい。
以前話を聞いた時に『まず歌を聴いて貰わないと仕方がないもの』と、あっさりとそう告げていた。
そして実際にそれが成功している以上、シェリルの戦略は決して間違ってはいないのだろう。
……ただ、その難点としてシェリルの美貌がそれぞれの世界の多くの者達に知られるという事になる。
しかし、このヒロアカ世界はまだホワイトスターと繋がったばかりという事もあり、シェリルが普通に出歩いても問題はない。
いや、このヒロアカ世界にはヴィランが存在するだけに、シェリルのような美貌を持つ女を見つければ良からぬ思いを抱いて襲ってくる相手がいるという可能性は十分にある。
とはいえ、シェリルもエヴァとの訓練はしっかりと行っている。
それこそ実働班には及ばないながらも、それに準ずるくらいの実力を持っているのだ。
しかし、これは当然だろう。
何しろシェリルは歌手として多くの世界で活動し、名前と顔が知られている。
そうなると当然ながら熱烈なファンであったり、あるいはストーカーの類が現れたりしてもおかしくはないのだから。
勿論その世界の護衛も用意しているし、もしくはシャドウミラーの存在を大っぴらにしている世界では量産型Wやコバッタが護衛をしていたりもする。
だが……それでも何が起こるのか分からないのも事実。
そうして何か予想外の事が起きてしまうと、その時に対処出来るのは結局本人となる。
そんな訳で、シェリルもしっかりと戦闘訓練を行っている。
「ラーメン……私も少し気になるな。アクセルがそこまで言うのなら、味はいいんでしょうし」
予想外にスレイが自分もラーメンを食べたいと主張してくる。
スレイとラーメンって、あまり似合わないような感じが……いやまぁ、この家にいれば普通にラーメンとかは食べる機会があったりするんだが。
「あら、じゃあ私も一緒に行ってもいい? そういうのってたまに食べたくなるのよね」
スレイに続いてそう言ってきたのは、ミナト。
スレイとは違い、こちらはラーメンを食べたくなってもおかしくはないと思う。
「そこまで大きな店じゃないし、数人くらいならいいと思うぞ」
そうスレイとミナトに言うものの、もしシェリル、スレイ、ミナト、あるいは他にも何人か連れてあのラーメン屋に行けば……うん、多分俺はあの店の店主に顔を覚えられているんだよな。
龍子……リューキュウはプロヒーローの中でも人気が高く、次のヒーロービルボードチャートにおいてトップ10入りは確実だと言われている。
そしてねじれはそんな龍子の事務所のインターンで、しかも雄英のビッグ3と言われているうちの1人でもある。
雄英の体育祭はオリンピック的な扱われ方をしてるのもあって、そんな雄英の3年のビッグ3と呼ばれるようなねじれは、その美貌もあって当然のように有名人だった。
で、俺はそんな龍子やねじれと一緒にそのラーメン屋に行ったし、何だったらねじれと2人だけでそのラーメン屋に行った事もある。
それだけに、ラーメン屋の店主に顔を覚えられているのはほぼ間違いなく、そんな中でシェリル、スレイ、ミナトといった派手目の美人を3人も連れて行ったらどうなるか……考えるまでもないだろう。
もっとも、だからどうしたというのはあるのだが。
嫉妬の視線を向けられても……料理がちゃんと出るのなら、俺としては問題ない。
そんな訳で、取りあえずその辺については気にしない事にするのだった。