ナースコールで飛んできた医者によって、俺達は病室を追い出される。
いやまぁ、意識が戻った茨に何かおかしなところはないか、具合の悪いところはないかといったように、医者として色々と調べたりする必要もあるし、場合によっては医療機器を使って検査をしたりもする必要があるのだから、そういう意味では当然ではあったが。
……茨の方は、信仰する俺という存在が医者によって部屋から追い出されてたのを見て、蔦の髪をざわめかせていたが。
その辺りについては、何とか俺が声を掛けて落ち着かせた。
そんな訳で、病室を追い出された俺達だったが……
「じゃあ、私達がこれ以上ここにいても意味はないだろうし、解散って事でいいよな?」
拳藤のその言葉に、その場にいた面々が揃って頷く。
本来なら医者の検査が終わった後でまた茨の見舞いをしたいところではあるのだが、今の状況を考えるとそうしてばかりもいられない。
……というか、今日俺は午後からシェリルとスレイと約束があるしな。
朝は昨夜の件で色々とあってその約束をしっかりと確認する余裕はなかったのだが。
ただ、シェリルやスレイなら普通にその辺りの約束について覚えているだろうから、一度ホワイトスターに戻る必要がある。
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。このままここにいると目立つし」
現在俺達がいるのは、病院の入り口近くだ。
そこに集まっているのだが、俺が口にしたようにかなり目立っていた。
何しろ、俺以外は全員女。
しかも方向性は違うが、全員が顔立ちが整っている者達だ。
そんな女の中に男が1人だけでいれば、どうしても目立つ。
病院に来た患者の中でも、男の多くからは嫉妬の視線を。
女からは品定めの視線を。
もしくは好奇心の視線を向けられている。
この手の視線を向けられるのは、俺にとっても決して珍しい訳ではない。
だがそれでも、やはりこの手の視線は決して好ましいものでないのは明らかなのだ。
「え? そうですの? ……残念です」
「ヤオモモのこれって、天然なんだよね?」
「うん、そうだよ。この発育の暴力で天然……私はヤオモモが悪い男に騙されないか心配だよ」
ヤオモモの言葉に拳藤と三奈がそんな言葉を交わす。
いやまぁ、天然のサキュバスとかそんな風に言ってもヤオモモの場合は決して間違いではなかったりしそうだし、そういう意味ではそこまで間違ってはいないと思うんだよな。
それを口には出せないけど。
「じゃあ、俺は行くから。またな」
そう言い、俺は病院から出ると……少し歩き、誰も尾行の類をしていない事を確認する。
もっとも、直接尾行するのではなく、何らかの個性によって尾行したりとか、そういう可能性はない訳でもないのだが……ただ、そこまで心配すると、どうしようもないしな。
AFO辺りが俺を調べる……いやまぁ、可能性はない訳でもないのか?
オールマイトが雄英にいるという事は、AFOもオールマイトの後継者が雄英にいて、オールマイトはその後継者を育てていると、そう思ってもおかしくはない。
そうなると……自分で言うのもなんだが、A組どころかヒーロー科1年の中で最も目立っている俺がその後継者と疑われても仕方がない。
もっとも、もしオールマイトが後継者を育てているのなら、俺があそこまで目立つ必要があるのかと、そのように思ってもおかしくはないのだが。
普通に考えれば、オールマイトの後継者を育てるのならAFOに目を付けられないよう、出来るだけ目立たずにいるのが大事だろうし。
あ、でもオールマイトがAFOの存在に気が付いたのは最近だって話だったな。
そう考えると後継者が目立っていても、そうおかしくはない……のか?
もっとも、実際には緑谷がオールマイトの後継者で……体育祭とかでは相応に目立っていた訳だが。
そう考えると、目立つとかそういうのはあまり気にしなくてもいいのかもしれないな。
ともあれ、何らかの個性で俺を尾行しても……
「影のゲートを使えば、どうしようもないだろうしな」
建物の陰に入り、防犯カメラの類がないのを確認してから、俺は影のゲートを使ってそこに身体を沈めるのだった。
「あれ? シェリルとスレイだけじゃなかったのか?」
「あら、日本のラーメン……それも三大うどんの1つの技法を使って作った麺なのでしょう? なら、私が興味を持ってもおかしくないと思わない?」
ホワイトスターにある家に戻ってくると、そこには俺が約束をしていたシェリルとスレイ、そしてマーベルの姿があった。
……マーベルがいる理由については、今の言葉が全てだろう。
マーベルは日本文化を好む。
そういう意味では実はエヴァとも結構気が合い、何度かエヴァと共に鬼滅世界に遊びに行ったりもしているらしい。
そんなマーベルだけに、稲庭うどんの技法を使ったラーメンに興味を持つなという方が無理だろう。
「別に1人くらいなら人数が増えても構わないけど……マーベルが行くって事は、エヴァも行くとか言わないよな?」
「エヴァなら、今日はオルフェンズ世界に行ってるわよ?」
「……は? また何でだ?」
鬼滅世界に行くのなら、話は分かる。
あの世界は日本好きのエヴァにとってはかなり好ましい世界なのだから。
あるいはペルソナ世界もまた分からないではない。
それなり発展はしているものの、日本は日本だ。
例えばエヴァの好む京都に行っても、その世界によって微妙に違っていたりするらしいし。
だが……何故オルフェンズ世界?
しかもオルフェンズ世界の場合、ゲートを設置しているのは日本ではなく火星だ。
火星にエヴァの好むような何かがあるとは、到底思えなかった。
「さぁ? 私もその辺りについては知らないわ。ただ、そう聞いただけだし」
もしかして、エヴァの奴……火星に小京都とか、そういう風に呼ばれる街並みを作ろうとか、そんなことは考えていないよな?
何だかエヴァなら普通にそういう事を考えそうな予感がする。
まぁ、これはあくまでも俺の予想……というか、妄想なので絶対にその通りになるとは限らない。
エヴァもただ単純に火星に興味を持って、オルフェンズ世界に行ってもおかしくはないし。
エヴァの故郷であるネギま世界は、火星に魔法界が存在している。
そういう意味でオルフェンズ世界の火星に興味を持ったとしても、おかしくはない……のか?
クーデリアにしてみれば、火星の代表として火星に人を集める場所を作ってくれるのなら、反対する筈がないだろうし。
「まぁ、エヴァの件はいい。じゃあ、ヒロアカ世界のラーメン屋に行くのはシェリル、スレイ、マーベルの3人でいいんだな?」
「待って、待って、待ってぇっ! アクセル、私も行くから、連れていってちょうだい!」
そう急ぎ足でこっちに来たのは、ミナトだ。
「もう1人くらい増えてもいいけどな」
シェリルとスレイの2人を連れていくだけで、目立つというのは分かっていたのだ。
であれば、そこにマーベルとミナトが増えるくらい、無理はない。
……とはいえ、マーベルは凜々しい系の外見なのに対し、ミナトは派手目の美人だ。
もっと明確に言えば、夜の住人、ホステスとかのお水系の職業の人物に思える人。
そういうミナトがラーメン屋に来ると、それこそ出勤前に腹ごしらえをしているとか、そんな風に……いや、時間的にはまだかなり早いか。
これが夕方くらいなら、いわゆる同伴って奴に見えても……それでもラーメン屋で食事ってのはないか?
まぁ、俺はそういう界隈については分からないから、もしかしたらそういうのもありなのかもしれないが。
それにしても、今まで俺が行く世界というのは、基本的に戦いがメインの世界だった。
だが、漫画の中にはホストやホステスといった夜の職業を題材にした漫画も多い。
当然ながら人気があるからこそ、その手の漫画も多くなる訳であり……そう考えると、俺がそういう原作の世界に行ったらどうなるんだろうな?
そういう夜の世界は酒を飲むのが基本になる訳で、そうなるとその時点で俺は向いていない。
俺が酒を飲んだら、一体どういう被害が出るのか、その辺も分からないしな。
そもそもそれ以前に、そういう世界に行っても俺はその認識がなく、いわゆる日常系の世界であると認識して、特殊な技術の類がないのかをハッキングとかで探し、それで何もなかったら普通にホワイトスターに戻りそうだよな。
「アクセル? どうしたの?」
俺がじっとミナトを見ていると、それに気が付いたミナトが首を傾げて不思議そうに聞いてくる。
「いや、何でもない。ミナトのような派手な美人を連れてラーメン屋に行ったらかなり目立ってしまうと思っただけだよ」
「あら、嬉しい事を言ってくれるわね」
そうしてミナトと話をしていると、他の3人がジト目を向けてくる。
ミナトだけに美人と言ったのが不満なのだろう。
「ラーメン屋には何度か行ってるから、俺の顔も覚えられているだろうしな。そこにこんな美人を何人も連れていけば、かなり嫉妬されそうだ」
そう言うと、シェリル達の視線が弱まる。
……実際には、龍子やねじれと一緒に行ってるから顔を覚えられているのだが、その辺については言わない方がいいだろう。
「じゃあ、行きましょうか。アクセルが言う美味しいラーメン、楽しみだし」
「シェリル、一応言っておくけど、俺は別に美食家とかそういう訳じゃないからな。味覚音痴とは言わないが」
俺の味覚は……それそのものは、混沌精霊になったお陰で他と同じく鋭くなっている。
だが、俺の性質というか、食べる料理の傾向というか、今まで食べてきた料理の数々というか、そういうので考えた場合、そこそこといったところだ。
例えば料理漫画が原作の世界に行ったりしたら、恐らく俺は活躍出来ないだろう。
いやまぁ、普通ならとてもではないが入手出来ない食材を手に入れるという意味では、悪くないとは思うけど。
それこそどこぞの地方にしかいない動物の肉とか、アマゾンの奥深くにしか生えていない植物とか、あるいは巨大なワニのように凶暴な動物の肉とか。
そういうのを入手出来るという点では、俺はそれなりにどうにか出来ると思う。
影のゲートを使えば、それこそアフリカだろうがハワイだろうが、アメリカだろうが、オーストラリアだろうが、どこにでも行けるのだから。
……これが宇宙規模の世界観の料理漫画で、どこぞのコロニーとかどこぞの惑星とかとなると、影が繋がっていないので影のゲートを使って転移するのは無理だけど。
あ、でもニーズヘッグを使ってシステムXNで転移すれば……料理漫画に人型機動兵器が出るって、どうなんだろうな?
まぁ、世の中には俺には理解出来ないような、そんな漫画もあったりするし……この件についてはそれ以上考えないようにしておこう。
「あら、アクセルなら良い物を食べてるんじゃないの?」
「それなりに食べてはいるけどな」
ただ、そういう料理も好きだけど、同じくらい……いわゆる、B級料理と呼ばれているのとか、そういうのも好きだったりする。
「寧ろ、俺よりはシェリルの方が高級料理には慣れてそうだけどな」
何しろ、俺の……というか、シャドウミラーの存在が公になっていない世界であっても、シェリルは歌手としてデビューする事が多い。
基本的に表には出ないシェリルだが、所属する事務所が食事に誘ってきたりとか、そういう事をするのは珍しくない。
勿論その中にはシェリルの美貌に血迷って、酔わせたり、あるい薬を使ったりとかして、一晩を楽しむ……いや、それをネタにしてシェリルを自分の物にするといったような事を考える奴とかもいるだろう。
……もっとも、マクロス世界時代から芸能界で生きていたシェリルだ。
しかもその美貌を考えると、そのような誘いは多数あっただろう。
それを全て――自分の力だけではないだろうが――切り抜けてきたシェリルだ。
ましてや、今はエヴァとの訓練でかなりの強さを持っている。
その手の相手が何を企んでも、シェリルなら正面から撃破出来る。
俺の勝手なイメージだが、その手の人物は相応に権力を持っている者達で、誘いに乗らないとデビューさせないとか、活動の邪魔をするとか言ってきそうだけど……うん。
シェリルの歌手としての実力があればどうとでもなるし、その世界でシャドウミラーと協力している組織がいれば、そのくらいの事はどうとでもなったりする。
寧ろそのような相手を敵に回した、シェリルを脅そうとした者達こそが、最悪の結末を迎える事になるだろう。
最悪の場合は首……それこそ解雇的な意味の首ではなく、文字通りの意味で首を切断されてもおかしくはない。
普通ならそこまではいかないが、シャドウミラーが協力している組織には裏の組織を持っていたりするしな。
「ふふっ、どうかしらね」
俺の言葉にシェリルは意味ありげな笑みを浮かべる。
これ以上その件について追及しても、それは意味がないと判断して追及は止めるのだった。