ラーメン屋で食事を終えると、次にどこに行くかという事になる。
どうやらシェリル達には、ホワイトスターに戻るという選択はないらしい。
あるいは、エザリア辺りからヒロアカ世界についてしっかり見てこいと、そんな風に言われているのかもしれないな。
この世界のどこかの組織……公安、あるいは既に1度交渉をした雄英かもしれないが、とにかく交渉をする上で必要なのは、情報だ。
このヒロアカ世界の情報を知ってるかどうかというのは、交渉をする上で非常に大きな違いになる。
だからこそ、少しでもこの世界の情報を知りたいと……それもネットとかで調べられる情報ではなく、実際にその目で見て確認出来るような情報というのは、非常に重要なものだった。
「で? そうなるとこれからどこに行く? どこか行きたい場所はあるのか?」
そう尋ねると、真っ先にシェリルが口を開く。
「この世界でどんな音楽が流行ってるのか知りたいわ」
「それは……そうなると、CD屋とかに行けばいいのか?」
スマホとかがあるこのヒロアカ世界においては、マクロス世界程ではないにしろ、音楽のダウンロード販売はそれなりに需要がある。
とはいえ、CDとかも普通にあるから、そちらの様子を見てくるというのもありだろう。
そう思っての言葉に、シェリルは当然といった様子で頷く。
「ええ、それでいいわ。じゃあ、行きましょう。……いいわよね?」
念の為という事で、シェリルは他の面々にもそう尋ねる。
そんなシェリルの言葉に、スレイ、ミナト、マーベルの3人は特に異論がないかのように頷く。
シェリルの要望でCD屋に行った後は、スレイ達の行きたい場所に行くのがいいか。
とはいえ、CD屋と一口に言ってもどこのCD屋に行けばいいのやら。
「シェリル、CD屋に行くのならどこか大きな店の方がいいか?」
「そうしてくれる? 大きいCD屋の方が世の中の流行に合っていることが多いし」
「あら、じゃあ小さいCD屋は駄目なの?」
俺とシェリルの話を聞いていたマーベルがそう聞いてくる。
マーベルもそれなりに音楽は聴く筈だ。
あくまでも趣味の一面なので、歌手を仕事としているシェリルにはその手の知識では敵わないだろうが。
「駄目とは言わないけど、私が色々な世界のCD屋を見てきた経験からすると、小さいCD屋って店主の趣味が強く影響されるのよ。世の中で流行している歌じゃなくて、自分が好きな歌手のCDを主に取り扱っているといった感じで」
「それは……そういうものなのか?」
俺は音楽についてはそこまで詳しくない。
それこそ趣味で音楽を聴くマーベルとかよりも、歌には疎いだろう。
……もっともそんな俺でも聴くのはシェリルの歌だったりするので、歌の質という点ではかなり良いものだとは思うけど。
そんな訳で、俺はシェリルの言うような小さなCD屋に行ったりとか、そういう事はない。
だからこそ、シェリルがそういう感じだと言えば、そうなのかとしか返せなかったりするのだが。
とはいえ、何となく……本当に何となくだが、シェリルの言葉は少し大袈裟なような気がする。
「そうなのよ。勿論全部が全部そういう店だとは言わないわ、けど、それでも私が知ってる限りだとそんな感じになるのは間違いないわ」
まぁ、正直なところ正解かどうなのかというのは、俺には分からない。
ただし今回はシェリルの行きたい場所に行くのが優先である以上、大きなCD屋に行く事にする。
で、そういうのを聴かない俺にしてみれば……あ、でもそういうのに詳しいのがいたな。
「ちょっと待っててくれ。そういうのに詳しい友人がいるから、ちょっと聞いてみる」
「楽しみにしてるわね」
シェリルの意味ありげな声に押されるように、俺はスマホを使って耳郎の電話をする。
LINを使っての会話でもいいんだが、電話の方が手っ取り早い。
そうして数秒……
『もしもし? アクセル、どうしたの? 病院の件で何かあった?』
耳郎が電話に出るなりそう言ってくる。
午前中に病院に行ったばかりなのだから、そんな中で俺から電話がかかってくれば、もしかして病院で何かがあったかもしれないと思っても無理はないのか。
なので、まずは耳郎を落ち着かせるように口を開く。
「安心しろ、そういう件じゃないから。ただ、ちょっと耳郎に音楽……というか、CD屋の事で聞きたくて」
『え? アクセルが? 珍しいね』
「それは否定しない。ただ、どこか大きなCD屋に行きたいって言われたけど、俺はそういうのあまり詳しくないからな。だから、そういうのに詳しい耳郎に聞こうと思って」
『ふーん。……CD屋って一口に言っても色々と方向性があるんだけど、どういうお店がいいの?』
「別にそこまで専門的というか、マニアック的な店じゃなくていい。音楽をそれなりに楽しむ者が行くような、初心者向けの店で頼む」
初心者という表現が聞こえたのだろう。
シェリルがにっこりと笑う。
……いや、正確にはにっっっっっっっっっっっっっっっっこり、といった表現の方が正しいが。
まぁ、シェリルにしてみれば、自分はプロの歌手だと思っている。
そんな中で初心者と言われたのが、シェリルにとってそれだけ面白くなかったのだろう。
とはいえ、この世界の流行を知りたいとなれば、やっぱりマニアックな店ではなく、初心者とかに向いているような店の方がいいだろうし。
『うーん……そうなると、そうだね。以前行ったショッピングモール覚えてる? ほら、緑谷がヴィラン連合の奴と遭遇した』
「え? ああ、木椰区のショッピングモールか」
『そうそう、あそこなら確かかなり大きなCD屋があったと思うよ、広く浅くって感じだった筈だから、アクセルの言う初心者用の場所としては悪くないんじゃない?』
「なるほど」
そう言えば木椰区のショッピングモールに行った時、多くの店があるって話を聞いたな、そういう意味では、耳郎が言うように悪くないのだろう。
俺達が今いる場所から木椰区までは結構な距離があるものの、それはあくまでも普通に移動した場合だ。
影のゲートを持つ俺にしてみれば、このくらいは特に問題がなかったりする。
「分かった。じゃあ、木椰区まで行ってみるよ」
『今からいくの? まぁ、行っていけないことはないと思うけど』
「まぁ、何とかするよ」
そうして電話を切ると、俺はシェリルを見る。
……さっきの初心者と言われた件で微妙に不満そうな様子ではあったが、そうするのが一番手っ取り早く情報を集められるというのはシェリルも理解していたのだろう。
色々と言いたい事はあったようだが、それを口に出さずに別の内容を口にする。
「それで、木椰区ってのはどこにあるの?」
「静岡県だな」
「それって……ここから遠いんじゃない?」
「まぁ、否定はしない」
元々銀河規模の歌手だったシェリルだが、シャドウミラーに所属する事によって、色々な世界で歌手をしている。
そんな中で歌手として所属する事務所は、基本的に日本だ。
勿論他の国で歌手として行動する事もあるから絶対に日本でという訳ではない。
しかし、それでもやはり日本で行動する事が多い為、日本の地理についてはそれなりに詳しい。
俺達が今いる場所から木椰区のある静岡県まで……宇宙的な規模で考えるとすぐ目の前、あるいは同じ場所といったように認識してもおかしくはないものの、普通に移動するという事で考えればかなりの距離がある。
距離があるのは間違いないが……
「じゃあ、建物の陰に移動するぞ。影のゲートでとっとと転移する」
そういう事になるのだった。
「へぇ、なかなか賑やかな場所ね」
木椰区のショッピングモールを見たマーベルが、興味深そうに言う。
実際、今は夏休み、それも午後という事もあってか木椰区のショッピングモールはかなりの人手だった。
遊びに来ている者も多ければ、買い物に来ている者も多い。
若者が遊ぶ場所としては、間違いなくこの辺りでは一番だろう。
一番だろうが……だからこそ、シェリル、スレイ、ミナト、マーベルといった美女4人を引き連れている俺はかなり目立っていた。
さっきのラーメン屋でも結構な人目を集めていたのだが、このショッピングモールには来ている者の数がそもそも違う。
男からは嫉妬の視線、女からは品定めの視線を向けられつつ、俺はシェリル達を案内する。
「ほら、耳郎から聞いたCD屋はこっちだ。妙な騒動に巻き込まれないうちに、とっとと移動するぞ」
夏休みの午後という事もあり、集まっている者達。
その中にはシェリル達の美貌に目が眩み、早速ナンパしようとしている者もいる。
……もっとも、俺がアクセル・アルマーであるというのを知って、手を出すのを止めた者も多かったが。
うーん、こういうので名前が売られているのを実感するってのは、何かこう……微妙な気分だな。
ともあれ、そういう面倒に巻き込まれないうちに、CD屋まで移動する。
それなりに大きな店というだけあって、そのCD屋は耳郎からの情報通りに道を進むとあっさりと見つかった。
「ここだな。……じゃあ、中に入るか」
「行きましょう」
俺の言葉に即座に答え、シェリルが店の中に入っていく。
それを追うように、俺達も店の中に入る。
「……で、スレイ達はどうする? 何か興味があるのなら見てみるか?」
「そう言われても、私は音楽はあまり……」
どうやらスレイもまた、俺と同じく音楽についてはそこまで興味がある訳ではないらしい。
「あら、私はちょっと興味があるわね。……ほら、スレイ。色々と教えてあげるから一緒に行きましょ」
「ちょっ、ミナト!? 待て、分かった、分かったから引っ張るな!」
ミナトが半ば強引にスレイを連れて行くと、店に入ったすぐの場所に残されたのは俺とマーベルだけになる。
「……どうする?」
「まぁ、私も音楽はそれなりに聞くから、見て回ってもいいけど……」
そう言うマーベルを見ていて、ふと気が付く。
「この店は広く浅く色々な音楽があるらしいから、三味線とか琴とか、そういうののCDも普通にあるかもしれないな」
「え? 本当?」
あ、やっぱり。
マーベルは日本好きという意味でエヴァと仲が良い。
禅とかにも興味があるしな。
そういう意味で、もしかしたら日本の楽器にも興味があるかもしれないと思ったんだが、どうやら当たりだったらしい。
「ああ、そういうのもそれなりにメジャーだからな。……もっとも、マーベルの好みに合うのかどうかは実際に聞いてみないと分からないけど」
そう念押しをしたのは、やはりこのヒロアカ世界の和楽器だからだろう。
普通に……エヴァやマーベルが分かるような感じで和楽器を演奏するのではなく、個性を使って和楽器を演奏しているといった可能性もある。
例えば障子のように手を複数生やしたり、あるいは念動力のような個性を使って演奏したりとか、そんな感じで。
マーベルはともかく、エヴァはそういう演奏の仕方は許容出来ないと思う。
勿論、これはあくまでも俺の予想であって、もしかしたらエヴァがそれを受け入れる可能性は十分にあったが。
「ちょっと興味あるわね。一緒に探して貰ってもいい?」
「問題ない。……とはいえ、まずはどこにあるのかというのをしっかりと見つける必要があるけど」
そう言葉を交わしつつ、俺とマーベルの店の中をうろつく。
和楽器……日本の楽器という事を考えれば、もしかしたら演歌とかのコーナーの近くにあるのかもしれないと思ったが、残念ながら違ったらしい。
そうして色々な場所を見て回っていると……
「あら、アクセルとマーベルじゃない。2人で見て回ってるの?」
シェリルと遭遇する。
「ミナトがスレイを引っ張っていったからな。俺とマーベルはこうして残った者同士で見て回ってるんだよ」
「ふーん。デートとしては悪くないんじゃない?」
「私達の事はともかく、シェリルはどうなの? 見た感じこのお店を満喫しているようだけど」
「そうね。この店の中を見て回った感じだと、この世界の歌は……ペルソナ世界と同じような感じかしら」
そう言うシェリルの言葉に、なるほどと思う。
実際のところどうなのかというのは俺には分からない。
詳細な違いとか、そういうのを考えると色々と専門的な知識が必要になってくるだろうし。
だが、シェリルがそう言うのなら、歌の件ではそう間違ってはいないのだろう。
ちょっと意外だったが。
何しろ、このヒロアカ世界は個性の件でそれなりに長い混乱期があった。
その時、文明は一度崩壊……というのは少し、いやかなり大袈裟ではあったが、とにかくそんな感じだっただけに、そこから復興した今、ペルソナ世界と同じような感じの流行というのは……まぁ、多分そういう事もあるのだろうと思っておくか。
「これならペルソナ世界で出している歌をそのまま持ってきてもいいけど、出来ればこの世界独自の歌も出したいところね」
何やら考えに没頭したシェリルをその場に残し、俺はマーベルと共に和楽器のコーナーに向かうのだった。