「ふーん、ここがアクセルの部屋なんだ。それなりに良い部屋ね」
ミナトが俺の部屋を見て、そう言う。
CD屋の次にどこに行くかといった話になった時、ミナトが俺の家……というか、ヒロアカ世界における俺の部屋と提案し、他の面々もそれに反対しなかったので、結局俺の部屋に来た。
とはいえ、影のゲートがあっても直接この部屋に来た訳ではなく、このマンションから少し離れた場所に影のゲートで転移し、そこから歩いてこのマンションまで来た感じだ。
何しろこのマンションはこの辺りでは最も高額な家賃のマンションという事もあって、セキュリティは相応に厳しい。
防犯カメラの類もしっかりとある訳で、そんな中で外出した筈の俺がいきなりまたマンションの中から出て来るといったような事になると、一体何があった? と疑問に思う者とかも出かねない。
もっとも、個性のある世界だけに転移系の個性……それこそヴィラン連合の黒霧のような個性を持っていれば、防犯カメラとかそういうのはあまり気にしなくてもいいだろうけど。
あ、いや。でもプロヒーローだったり、特殊な許可がない限り公の場で個性を使うのは禁止されているんだよな。
そういう意味では、やっぱり部屋の中に直接転移するというのは止めておいた方がいいのは間違いないだろう。
そんな訳で、普通に入り口から入ってきた訳だ。
もっとも、シェリルとマーベルは1階にあったスーパーを気にしていたようだったが。
まずは俺の部屋という事で、こうして部屋にやって来た訳だ。
「あら? ねぇ、アクセル。何かいるんだけど」
「ん? ああ、ロボット掃除機とAI搭載型スーツケースだな」
マーベルの言葉に視線を向けると、そこではロボット掃除機とAI搭載型スーツケースが俺を迎えるようにこっちに近付いてきていた。
だが、俺以外に4人がいるのを知ると――正確にはレーダーとかそういうので知ったのだろうが――ロボット掃除機とAI搭載型スーツケースは双方共に動きを止める。
だが、俺が一緒だという事で敵ではないと認識したのだろう。再び動き出す。
……これが優とかだったら、ロボット掃除機は真っ直ぐ全力で突っ込んでいったりしそうだったが、優ではないからだろう。ゆっくりとこっちに近付いてくる。
「ロボット掃除機はともかく、AIを搭載したスーツケースって何? ……技術班じゃないんだから」
呆れたようにミナトが言う。
ミナトも、何だかんだとシャドウミラーに所属してから長い。
その間に技術班が起こした色々な騒動をその目で見てきているだけに、今のような言葉が出たのだろう。
とはいえ……
「このAI搭載型のスーツケースは結構便利なんだぞ? 俺が移動すれば、直接持たなくても移動して追い掛けてきてくれるし、スーツケースを盗もうとする奴がいたら警報音を鳴らして防いでくれるし」
「……そう聞くと、意外と便利そうね。ただ、そこまで出来るAIって……もしかしてこのまま成長を続ければオモイカネ級になったりするのかしら?」
「それはどうだろうな」
ナデシコ世界で俺が乗っていた機動戦艦ナデシコ。
それに搭載されていたAIがオモイカネだ。
ルリと仲が良くて、しかも有能。
スーツケースのAIが成長を続ければ、もしかしたら……本当にもしかしたらだが、そういう事になる可能性はない訳ではないと思う。
ただ、可能性として考えた場合、かなり難しいだろうと思うのも事実だ。
それに、俺がヒロアカ世界で起きている一連の騒動……原作が終わってホワイトスターに戻る時、このスーツケースを持っていくかどうかは……いや、それなりに愛着があるし、やっぱり持っていくか?
ともあれ将来的にどうなるのかはまだ分からない。
その辺については今はあまり気にしないようにしておこう。
「とにかくリビングでゆっくりしよう」
そう言い、俺達はリビングに向かう。
とはいえ、俺の部屋のリビングは決して特徴的な部屋ではない。
モデルルーム……とまではいかないが、個性らしい個性があまりないしな。
勿論、全く何もない訳ではない。
「快適そうな部屋ね」
「そう言って貰えると、俺としても嬉しいよ。もっともホワイトスターに帰れるようになった以上、この部屋もいつまで使えるかは分からないけど」
ただ、この部屋を使わなくなるとそれはそれで問題もある。
具体的には拳藤との関係だ。
1学期、俺は毎朝のように拳藤と一緒に通学していた。
それは当然ながら拳藤の住んでいるマンション……アパートだったか? とにかく拳藤の住んでいる場所が俺と同じ駅を使っているからこそ、拳藤と一緒に通学していた訳で。
このマンションを引き払ってホワイトスターからゲートを使って通学するような事になった場合、当然ながら拳藤と同じ駅を使う訳ではないので、一緒に通学する事は出来なくなる。
まぁ、影のゲートがあるのだから、それを使えばこのマンションの部屋に転移してきて拳藤と一緒に通学するといった事も出来るんだが。
……とはいえ、それより問題なのは雄英の2学期が始まっても雄英の生徒でいられるかどうかだよな。
1学期はともかく、ゲートを設置した今、雄英の教師達は今の俺について知っている。
そうなると、2学期にも生徒として活動出来るかどうか微妙なところだろう。
個人的にはまだ学生をしていたいんだけどな。
雄英という、日本でもトップクラスのヒーロー科を有する高校という事で興味があるのも事実だし、それ以外にやっぱり原作主人公の緑谷の側にいた方がいいというのもある。
それに……オールマイトから聞いたAFOの件もあるしな。
自分で言うのもなんだが、俺は思いきり原作に介入している。
それによって緑谷の実戦経験は明らかに原作よりも減っている……筈だ。
だからこそ自主訓練でしっかりと訓練をしているつもりではあるのだが。
そして実際、その訓練については相応に成果を発揮しているのは間違いないし。
それを証明するのが、林間合宿の初日、プッシーキャッツが夕方くらいに合宿所に到着すると予想していたところで、数時間早く到着出来ていた。
だとすれば、俺の自主訓練の成果はしっかりと出ているのは間違いない筈だった。
「アクセル、この部屋って結構いい部屋なんじゃない?」
部屋の色々な場所を見て回っていたミナトが、そう聞いてくる。
ミナトはこのヒロアカ世界についてもそこまで詳しい訳ではない。
ないのだが、それでも今日適当にヒロアカ世界を見て回ったところで、大体どのくらいの家賃だとか、あるいはこの発展具合でのマンションなら……といったように分かったのだろう。
ミナトは資格マニア的なところがあり、その手の資格も持っている。
……いやまぁ、ナデシコ世界とヒロアカ世界だ、似ているようで違うだろうが。
ただ、違っていても同じように使えたりするところもあり、ミナトはその辺りから判断したのだろう。
もっとも単純にこの周辺一帯でこのマンションが一番高い階層だったからというのも、大きいのかもしれないが。
「そうだな。実際いい部屋なのは間違いないぞ」
龍子と一緒に部屋選びをし、最終的に選んだのがこの部屋だった。
掃除のサービスだったり、セキュリティの高さだったりとか、1階はスーパーだったりとか、暮らす上でかなり便利なのは間違いなかったしな。
「家賃、どうしたの? 公安に何か売った?」
「まぁ、宝石とか金塊とか、以前どこぞの世界で入手した奴は売ったな。ただ、この部屋の家賃にしろ、生活費にしろ、基本的には公安持ちだったし。その他に月100万の報酬を貰ったりしていたな」
「うわ、アクセル公安に甘えすぎじゃない?」
ミナトが呆れるように言うが……
「言っておくけど、それらは全部公安からの依頼の報酬だぞ?」
「ああ、壁になるとか」
俺がヒロアカ世界で経験した諸々については、昨日のうちに大雑把にだがシャドウミラーの面々には知らせてある。
当然ながらミナトもそれには目を通していたのだろう。
「そう、それだ。実際、自分で言うのも何だけど、今年の雄英のヒーロー科1年は俺という壁をどうにかしようと、かなり頑張っているぞ。そういう意味では公安の狙いは当たった訳だ」
もっとも、公安の依頼の件もそうだが、実際には原作主人公の緑谷とその仲間達というのがかなり大きいんだとは思うけど。
ただ、それはあくまでもこの世界の原作というのが前提にあるので、言えないが。
「アクセルの力を考えると、そもそもアクセルが壁になるというのが無理がない? 実際、私がダンバイン世界でアクセルと一緒に行動していた時も、聖戦士と呼ばれてはいたけど、アクセルと比べると……と思ったし」
「あ、それ分かる。マクロス世界でもアクセルはS.M.Sに所属していたけど、精鋭揃いのS.M.Sのメンバーでも手も足も出なかったし」
「ナデシコ世界でも同じだったわね」
「私達の世界……OGs世界なんて、もっと酷かったぞ? アクセルだけじゃなくて、シャドウミラーがいたし」
俺とミナトが話していると、他の面々も話しに入ってくる。
いやまぁ……うん。まぁ、俺が色々な世界でやらかしてきたのは間違いない。
とはいえ、自分で言うのも何だが俺の介入によって原作よりもマシな結末になった世界というのは多いと思う。
……原作知識を失っている今、それが真実なのかどうかは分からないが。
「俺という壁は分厚いかもしれないが、それでも怯む事なく向かってくる奴もいる」
その中でも一番本気で俺に挑んでいたのが、爆豪だ。
……爆豪、今頃ヴィラン連合でどうなっているんだろうな。
爆豪の事だから、ヴィラン連合の面々に喧嘩を売りまくって向こうを怒らせて、それで攻撃されて……最悪、殺されてないといいけど。
そう思うも、爆豪ならそういうのを普通にやりそうなんだよな。
爆豪は才能ある人物だが、欠点も多くある。
そんな欠点の1つが、引く事が出来ないというものだ。
その欠点を今この時に発動していないといいんだが。
「ふーん、アクセルを相手にそこまでやれるというのは素直に凄いわね」
シェリルが俺の言葉に感心したように言う。
「あの負けず嫌いは、素直に凄いと思うぞ。……それでいて、俺に挑む時も惰性で挑むんじゃなくて、前回自分が負けた原因を克服してやってくるし。もっとも、それで弱点を克服出来てるかどうかは、微妙な時もあったりするが」
そういう意味では、爆豪は俺に戦いを挑む時には間違いなく以前よりも強くなっている。
ただ、自分では弱点を克服したつもりであっても、実はそうではないとか、そういうのは1人でやってるだけあって仕方がない事なのだろう。
これで誰か爆豪の親友というか、相棒というか、そういうのがいればまた話は別なのだが。
敢えてそれっぽい人材となると……切島とかか?
切島は何だかんだと爆豪と仲が良い。
親友や相棒に最も近いのが誰かと言われれば、やはり切島がそれっぽい感じだろう。
何故か爆豪に憧れに近い気持ちを抱いている緑谷がそれを認めるかどうかは、また別の話だが。
後は……瀬呂も何だかんだと爆豪と仲が良かったりする。
ただ、瀬呂はそれ以上に俺と一緒にいる事が多いので、そういう意味では微妙に違うかもしれないな。
「その爆豪を助ける為にも、オールマイトにはしっかりと治って貰わないとな」
現在オールマイトはホワイトスターの魔法球で治療中だ。
個性そのものは既に緑谷に譲渡したので、治療をしても本当の意味で全盛期並みに戦えるといった訳ではないが、それでも個性……OFAの残り火や残滓によって、短時間であれば個性は使えるらしい。
治療をした事によって、その短時間というのがどこまで伸びるのか……その辺は分からない。
あるいは個性を使える時間そのものは変わらないかもしれないが、体力の消耗とかそういうのが少なくなるのかもしれないな。
まぁ、その辺については後で実際にオールマイトを見た時、聞いてみればいいか。
「レモンなら大丈夫だろう」
そうスレイが言うのは、フィリオ……自分の兄も治療して貰ったからだろう。
他にも多数の不治の病であったり、重傷を負った者達が治療したのを見たので、レモンの治療技術には絶対の信頼を抱いているらしい。
……実際、レモンのこれまでの経歴を考えると、治療技術を疑えという方がおかしいだろうが。
「そうだな。レモンならその辺の心配はしなくてもいいと思う」
それこそレモンなら、オールマイトがどうしても治らないようなら量産型Wの技術……いや、この場合はWナンバーズの技術か? それを使ってでも、無理矢理回復させそうだしな。
オールマイトの細胞やら何やら、あるいはタルタロスの死刑囚といった報酬がある以上、レモンとしても今回の件は絶対に失敗するようなことはしないだろう。
そんな風に思いながら、俺は部屋の中でシェリル達と話を続けるのだった。