UC世界にある、ペズン。
元はジオン軍が秘密にMSを開発していたこの小惑星基地は、現在では地球の側に運ばれ、ルナ・ジオンの重用拠点の1つとなっていた。
連邦軍……特に数年前に結成されたティターンズにしてみれば、ルナ・ジオンの重要な拠点であるペズンは非常に気に食わない存在だ。
それこそ、出来ればすぐにでも攻略したいところだが、ルナ・ジオン軍は非常に厄介な相手で、何よりその後ろにはシャドウミラーが存在する。
その為、迂闊に仕掛けても自分達の被害が大きくなるだけだというのは十分に理解しており、だからこそ実際にペズンに仕掛けるような事はしない。
……もっとも嫌がらせ感覚でペズンの近くを意図的に移動したりといった事は頻繁に行っていたが。
そして今も、ペズンにはヴィー、ヴィーという警報が鳴っていた。
「また、ティターンズですか?」
「だろうな、懲りない連中だ」
格納庫でバーナード・ワイズマン、通称バーニィが呟くと、サイクロプス隊の先輩……仲間であるガルシアが呆れたように言ってくる。
バーニィはそれを聞いて、確かにと頷く。
実際のところ、連日のように……というのは少し大袈裟かもしれないが、数日おきにこうした状況になるのだから当然だろう。
「その……もしかして、ティターンズはあの件を知っての事じゃないですよね?」
バーニィのそんな意味ありげな言葉に、ガルシアはそっと視線を逸らす。
実際、その可能性は十分にあると、そう理解してのものなのだろう。
「ちょっ、何でそこで視線を逸らすんですか!? あんな疫病神、何だってここに……ペズンに運び込んだんですか!?」
そう叫ぶバーニィが指さす先にあるのは、ザク系MSだ。
それも丁度先月完成したばかりの最新鋭機となる。
見るからにザク系のMSではあるが、一般的な意味でのザク……ザクⅡを始めとした各種MSや、あるいはこのペズンで開発されていて、バーニィが……そしてサイクロプス隊がここに配属される事になった原因である、アクト・ザクとも違う。
その外見からザク系のMSであるのは間違いないものの、だからといってジオン軍出身の者達にしてみれば、『ザク?』と首を傾げる者も多いだろう、そんなMSがそこにはあった。
それは、ハイザックと呼ばれる連邦製のザクだ。
実質的にジオン軍の降伏に近い状態で1年戦争が終わると、連邦軍はジオン軍のMS情報を、それこそ連邦の10年先をいくと言われる事も多かったジオン軍のMS関係の技術を接収した。
そんな中で連邦軍が重視したのは、ザク系MS。
単純にジオン軍の中で最も大量に作られたMSだからというのもあるだろうが、1年戦争が終わった連邦軍にとっては、軍縮を迫られる事になる。
当然だろう。ただでさえ1年戦争で敵味方含め、多くの者が死んでいるのだ。
それだけ人口が減り、経済を何とか復活させる為に軍縮は必須だった。
そして軍縮となれば当然ながら新しいMSを開発や製造するのも難しくなる。
……そんな中でも何とか連邦軍の再編を行う為にガンダム開発計画等が企画されたりしたのだが、それが結果としてデラーズ・フリートにより星の屑を引き起こした。
もっとも、星の屑の最終目標であった北米に対するコロニー落としはアクセルの空間倉庫というとんでもない裏技で回避され、そのコロニーは今となってはデラーズ・フリートの本拠地だった茨の園を構成する一部となっているのだが。
ともあれ、連邦軍も資金的に厳しく、だからこそジム・カスタムのようなエース級が使用するMSではなく、一般の兵士が操縦するMSとなると、難しい。
そんな中で、ザクをベースにして連邦軍とジオン軍の技術を融合させたMSを開発すればいいという事になり……そうして出来上がったのが、バーニィの目の前にあるハイザックだった。
先月完成したばかりのハイザックを何故ルナ・ジオン軍が所有しているのかといえば、アナハイムとルナ・ジオンの間には協定があり、アナハイムが開発したMSはルナ・ジオンにデータと実機を提供する必要があるという事になっている為だ。
この協定によって、ガンダム開発計画で開発されたガンダム試作1号機、2号機、3号機、4号機はルナ・ジオンに提供されている。
もっとも試作4号機はガーベラ・テトラとなっており、エース級の何人かがギャン・クリーガーに代わって操縦していた。
そして更にエース級の中でもトップエースと呼ばれるような者達は、そのガーベラ・テトラを改修したガーベラ・テトラ改に乗っていたりもする。
……中には乗り続けているギャン・クリーガーが気に入って、ガーベラ・テトラに乗らないと公言する者もいたが。
ともあれ。ガーベラ・テトラについてはそのように出来るものの、試作1号機から3号機まではルナ・ジオンであっても使うことは出来ない。
もしそれを使えば、それこそ連邦軍……いや、連邦政府との間に大きな問題を起こしてしまうだろう。
そんなアナハイムだったが、ハイザックという最新鋭のMSを開発し、連邦軍に、そしてティターンズに配備され始める。
そんなハイザックが何故ルナ・ジオンの本拠地である月ではなく、ティターンズに警戒されているペズンにあるのかと言えば、その最大の理由こそバーニィだった。
このバーニィ、一体何がどうなっているのか、ザク系MSに乗るとその性能を最大限……場合によっては、本来のスペック以上の性能を発揮したりもする。
だからこそ、ザク系MSという事でこのハイザックがペズンに運ばれてきたのだ。
(それなら、ペズンにハイザックを運んでこなくても、俺が月に行った方がいいと思うんだけどな)
バーニィはハイザックを見ながら、そんな風に思う。
そうしてハイザックを眺めていると、いつの間にかペズンの中に鳴っていた警報音も消えていた。
「けど……何かこう、違うんだよな」
ガルシアの言葉に、バーニィは頷く。
「そもそも、連邦とジオンの技術の融合ってのはともかく、流体パルスとフィールドモーターを両方同時に採用しているってのが間違いだと思うんですよね」
「あー……まぁ、アナハイムにしてみれば、動力炉の件もあるしな」
「あはは……こういうのが連邦といったところですよね」
このハイザック、当初の予定ではアナハイム製の動力炉を使う予定であったのだが、連邦軍、あるいはティターンズの強い要望や介入によって、タキム社製の動力を採用する事になり、結果としてハイザックではビームライフルとビームサーベルの同時使用が出来なくなっている。
バーニィの目から見ても、このハイザックは相応に高性能なMSではあるものの、色々とチグハグであったりするのは間違いない。
信用しても信頼は出来ないと、そのように思えるのだろう。
「まぁ、とにかく乗ってみろよ。説明は説明。実際に乗ってみないと、その辺は分からないだろ?」
ガルシアの言葉に、バーニィは息を吐く。
「簡単に言わないで下さいよ。幾らザク系だからって……いやまぁ、スペック上だけならかなりの高性能機なのは分かりますけどね。……どうせルナ・ジオンに譲渡するのなら、動力炉をアナハイム社製の奴にした、本来の意味でのハイザックが欲しかったんですけどね」
「それについては、ディアナに期待するしかないだろうな。もっとも、そこまで手間を掛けるかどうかは、このハイザックの結果次第だろうけど」
「そもそも、これって別に俺が初めて乗る訳じゃないですよね? 月を経由して持ち込まれたって事は、月で誰かが乗ったんだじゃないですか?」
「かもしれないな。その上でバーニィに乗せてみようってことになった可能性はある」
そう言われても、バーニィは特に気にした様子もなく頷く。
「でしょうね。そもそも俺が乗るって時点で……いやまぁ、その、ザク系MSは何故か高い性能を発揮しますし」
「そうなんだよな。……まぁ、とにかく乗ってみろ。警報が鳴り止んだって事は、ティターンズも今はペズンの周辺にいないだろうし」
「……偵察用のMSとか残してないですかね?」
「バッタでも出すか?」
バーニィの言葉に有り得ると判断したのか、ガルシアがそう尋ねる。
1年戦争が終わり、連邦軍はジオン軍のMSの多くを接収した。
そうして接収したMSの中には偵察用のMS……ザク強行偵察型や、その上位機種のザクフリッパーもあり、ティターンズは特権を使ってそれらの偵察用のMSを優先的に確保したというのは、ルナ・ジオンにおいても有名な話だ。
何しろティターンズには強硬派が多く揃っており、その最大の目標はジオン軍残党……ガルマが率いるジオン共和国に恭順しないでゲリラ活動を行っている者達であり、そして場合によってはそれ以上に厄介な存在であるルナ・ジオンだ。
何しろ連邦軍の強硬派が集まっているティターンズにしてみれば、ジオン・ズム・ダイクンの娘が率いているルナ・ジオンという国は到底認めることなど出来ないし、何より月は以前は連邦の重要な収入源だったのに、それを奪われた上で建国されたのだ。
ティターンズにとっては、到底許せる事ではない。
ましてや、1年戦争中やそれが終わった後の、諸々の騒動でも連邦軍の強硬派は顔に泥を塗られた事が多数ある。
そうである以上、ティターンズの中にはジオン軍残党と同様に……いや、人によってはジオン軍以上にルナ・ジオンを憎んでいる者もいる。
そのような者達にしてみれば、少しでもルナ・ジオンの失点を見つけようとそこまで数が多くない偵察用のMSを使ってペズンを見張っている可能性は十分にあった。
ガルシアもそれが分かっているからこそ、バッタを出すかと聞いてきたのだろう。
「お願いします。俺はこのハイザックについて少し調べてみますから」
そう声を掛け、パイロットスーツを着たバーニィはハイザックのコックピットに乗り込む。
「へぇ……話には聞いてたけど、全天周囲モニタが採用されてるのか」
ルナ・ジオン軍では、ガルバルディβやギャン・クリーガーといった現行のMSでも既に全天周囲モニタは採用されている。
それこそ、ルナ・ジオン軍の初期の量産型MSのヅダにおいても、まだ使っている者はコックピットを改修して全天周囲モニタを採用していた。
だが、それはルナ・ジオンだからの話で、連邦軍においてはこのハイザックが初の量産型MSにおいて全天周囲モニタが採用されたのだ。
それに感心しつつ、ハイザックについて把握していく。
……バーニィも普通のMSならここまでスムーズに機体の状態は確認出来ない。
だが、この機体がハイザックだからこそ、ザク系のMSだからこそ、そのような事が可能だったのだ。
バーニィの特殊能力が見事に働いていることの証でもあった。
それはつまり、バーニィの特殊能力がこのハイザックをザク系のMSであると認識したという事を意味してもいた。
「まぁ、いいけどさ」
バーニィは自分の能力に何とも微妙な思いを抱きつつ、ハイザックをチェックしていく。
メカニック達からはいつでも出られるという保証を貰っている事もあり、自分がこうして乗っているハイザックという機体に不安はない。
「……よし、どこも問題ないな」
そう納得していると、不意に通信が入る。
通信に出ると、映像モニタに表示されたのはガルシア。
『バーニィ、バッタを出してペズンの周囲を探索したが、ティターンズのMSの姿はない。安心してその機体を試してくれ』
「え? ……分かりました」
ガルシアの言葉に、バーニィは驚きの声を上げる。
てっきりザク強行偵察型やザクフリッパーがいるとばかり思っていたのだ。
だが、ガルシアの言葉からすると、その心配はないらしい。
あまりにも自分に都合が良すぎるような気がするのだが、実際にこうしていないと報告されている以上は問題はないだろうと判断する。
「こちら、バーニィ。ハイザックを動かす為に出撃しますか」
外部スピーカーでそう告げると、メカニックが邪魔にならないように避難しておく。
それを確認してから、バーニィは格納庫から宇宙に出撃するのだった。
「うーん、なるほど。悪くはない。ザク系のMSだけあって操縦性についても俺にとっては慣れた感じで出来るな」
ペズンの周辺でハイザックを操縦するバーニィは、その素直な操縦性に感心する。
連邦とジオンの技術の融合という事で、もっと操縦しにくい機体になるかと思っていたのだ。
しかし、今こうして操縦している限りだとかなり操縦しやすいのは間違いない。
「緑ってのも、俺に安心感を抱けるんだろうな」
そう言うバーニィだったが、その表情は微妙だ。
何しろ緑のハイザックはティターンズ仕様であり、それはつまりジオン軍の残党を相手にする時に外見でプレッシャーを掛けるという事を意味しているのだから。
ザク=緑という認識を持つバーニィにしてみれば、何とも言えない微妙な表情になるのは仕方がない。
「っと、いけない。今はハイザックの性能を確認しないと」
首を横に振り、気分を切り替えるとバーニィはハイザックの操縦に専念するのだった。