「アクセルの考えている通りだ」
ムラタの住んでいる家に行って尋ねると、あっさりとそうした返事が返ってきた。
どうやら本当に俺の予想通りであったらしい。
「そうか。……なら、殺さないというのを前提でお前を連れていってもいい。けど、もし殺した場合は……どうなるか分かってるな?」
「分かっている。それに話を聞く限りでは、自分の特殊能力……個性と言ったか? それを使うだけで戦闘技術をしっかりと身に付けている者は少ないと聞く。そういう意味では、まさに鬼と一緒だな。……もっとも、話を聞く限りでは鬼の方が斬り甲斐はある様子だが」
いや、それはそれでどうなんだ?
そう思わないでもなかったが、本人の様子を見る限りだとムラタは本気でそのように言ってるのは間違いない。
……とはいえ、こうして話してみた感じだと本気でヴィランを斬り殺すといったような事はないように思える。
鬼の場合は殺して当然といった様子だったが、だからこそヒロアカ世界のヴィランを相手にした場合は、そこまでやる必要はないと判断したのだろう。
とはいえ、それはあくまでも斬り殺さないであって、斬らないという訳ではないのだが。
「分かった。なら、お前も明日の戦力として連れていく。……ただ、一緒に行動するのはヒーローだ。既にヒロアカ世界の報告書については読んでいるな? それなら、ヒーローがどのように反応するのかも、予想出来る筈だ」
プロヒーローは基本的に善性の人物と行ってもいい。
勿論、全員が全員そうだという訳ではないが。
ヒーローの中にはヴィランと繋がっている奴もいたりするし、裏ではヴィランのような行動をしているのに表ではヒーローとして行動している者もいたりするらしい。
しっかりと聞いた訳ではないが、今の公安委員長の前の人物はそういう表立って処断出来ないような相手を殺していたらしい。
とはいえ、これはあくまでも噂でしかないので本当のところどうなっているのかというのはちょっと分からないのだが。
もし本当だとすれば、賛否両論はあるのだろうが、ダークヒーロー的な感じで法を犯してでもやるべき事ではあったのだろう。
……もっとも、それが本当に秩序の為であって、自分の利益の為にそのような事をやらせていたとか、そういうのであれば話は別だろうが。
「分かっている。だが、中には俺達を怪しんで突っ掛かってくるような奴がいる可能性もある。その時はどうすればいい? まさか、それでも一方的にやられっぱなしでいろとは言わないよな?」
「取りあえず殺すな。それと手足を切断したりするのもなしだ」
手足を切断しても、レモンに任せれば治療は出来る。
あるいは、切断されたばかりであれば木乃香の回復魔法でどうにかなるかもしれない。
「ぬぅ……分かった」
完全に納得した訳ではなく、不承不承といった様子ではあったが、それでもムラタは頷く。
「よし、それなら明日の朝に準備を整えて転移区画に来るように」
「うむ、ちなみに他にはどのような者達がいる?」
「まだ決まってはいないが、五飛やイザーク辺りを誘うつもりだ。……イザークを誘えば、オウカも来るかもしれないな。後は、治療役として木乃香と護衛役に桜咲ってところか」
「……神楽坂は誘わないのか?」
「は?」
ムラタの口から出た言葉に意表を突かれる。
神楽坂……つまり、明日菜だ。
あれ、ムラタと明日菜って付き合いがあったか?
いや、勿論シャドウミラーという国に所属し、しかもそこに所属している者の数は量産型Wを除けばそんなに多くないんだし、顔見知りであってもおかしくはない。
だが……顔見知りだからといって、わざわざここでムラタが明日菜の名前を出すというのは予想外だったのだ。
「何で明日菜?」
「あの女は相応に強いだろう。それに、今回の戦いは相手を殺さずに鎮圧するのだから、神楽坂にも向いている筈だ」
「いやまぁ、それはそうだけど」
実際、ムラタの言葉は決して間違ってはいない。
明日菜は咸卦法を使う事によって非常に高い戦闘力を発揮出来る。
それでいてエヴァとの訓練もしっかりとやっているので、かなりの戦力になるのは間違いない。
問題なのは生来の優しさから人を殺すといったことが出来ない事だろうが、今回重要なのはヴィラン連合の者達を可能な限り捕らえる事であり、あるいは爆豪やラグドールを奪還する事だ。
そういう意味では、相手を殺さなくてもいいのだから明日菜を連れていってもいいとは思う。
「誘うだけ誘ってみたらどうだ?」
「何でそこまで明日菜に拘るんだ?」
ムラタと明日菜の相性は、決して良くない。
これはあくまでも俺の予想だが、そう間違ってはいないと思う。
なのに、何でムラタがここまで明日菜に拘るのか。
……まさかとは思うが、ムラタが明日菜を好きに、それも異性として好きになったとか、そういう事はないよな?
あ、でもおじコンの明日菜にしてみれば、ムラタは意外とありなのか?
とはいえ、それはそれでなんでムラタが明日菜を推薦するのか、分からなかったが。
「少し世話になったからな。それでだ」
「……それでって言われても……」
明日菜がムラタの世話をしたのは……まぁ、分からないでもない。
明日菜は生活班として動いているので、ムラタも何らかの世話になった事があるのだろう。
俺から見たムラタは、こう……生活能力は決して高くないのだから。
その辺りで明日菜の世話になっていたりしても、おかしくはない。
「まぁ、ムラタが言うなら誘ってみるか。木乃香の護衛を桜咲だけに任せるよりも、明日菜もいた方がいいだろうし」
これが普通の相手なら、桜咲だけで十分護衛を出来るだろう。
だが、ヒロアカ世界のヴィランとなると……ましてや、原作主人公の緑谷が戦う相手であると考えれば、何をしてくるのか分からない。
ましてや、AFOもいたりするのだから、余計に。
「そうしてやれ」
ムラタの言葉に頷き、俺は次の相手の場所に向かうのだった。
「いいだろう、俺も参加する。正義と悪……その一つとして、ヒロアカ世界は丁度よさそうだからな」
五飛はあっさりと俺の言葉に頷く。
やる気満々といった様子の五飛。
ムラタとはまた別の意味で五飛もちょっと危険なんだよな。
特に今自分で口にしたように、正義や悪に妙な拘りを持っている。
……それでいながら、シャドウミラーという正義よりも悪よりだろうと思える国に所属しているのはどうかと思わないでもないが。
「五飛なら心配はいらないだろうが、あくまでもヴィランを捕獲するのが目的であって、殺すことは禁止だ」
「誰に言っている?」
俺の言葉に不満そうに五飛が言い返してくる
いやまぁ、五飛はムラタと比べるとその辺は信用出来たりするから、そこまで心配する必要はないかもしれないが。
「一応だよ、一応。じゃあ、明日の朝に準備を整えて転移区画に来るように」
そう言い、俺は五飛の家の前から去るのだった。
「いいだろう、俺も参加する」
イザークの家に来て事情を話すと、イザークはあっさりと受け入れる。
……気のせいか、五飛の返事と殆ど同じように思えるんだが。
イザークと五飛ってそれなりに似ているところがあるんだよな。
もっとも、そう言われると即座に否定しそうだが。
「なぁ、なぁ。それって俺も行っちゃだめなのか?」
「おい、アウル。……それで、アクセル。駄目なのか?」
イザークの場合はあっさりと話が決まったかと思うと、奥の方で話を聞いていたアウルとスティングがそう声を掛けてくる。
というか、スティング。お前アウルを止める振りをしてるけど、行く気満々だからな。
ちなみにアウルとスティングと一緒にエザリアの養子になったステラは、こっちに顔を出していない。
生活班なので、もしかしたらまだ明日菜と仕事をしてるのかもしれないな。
ともあれ……アウルとスティングか。どうしたもんだろうな。
純粋に戦力として数えられるかと言えば、全く問題なく数えられる。
以前マクロス世界に行った時、ウィンダミア王国の反乱については、アウル達だけで解決したくらいには腕が立つし。
勿論、実際には本当にアウル達だけで解決した訳ではなく、寧ろアウル達がS.M.Sとかに協力して解決したって感じらしいけど。
その報酬として、現在UC世界のルナ・ジオンの首都であるクレイドルを貰う事が出来たんだし、そういう意味ではアウルもスティングも実績は十分に積んでいる訳だ。
だが……今回はスティングのウィングガンダムゼロカスタムや、アウルのガンダムエピオンを持ち出したりは出来ない。
今回必要なのは、あくまでも生身での戦闘力なのだから。
いやまぁ、勿論アウルもスティングも実働班としてエヴァの訓練を受けているので、ヒロアカ世界でその辺のヴィランを相手に負けたりはしないだろうけど。
「イザーク、どうだ?」
「駄目だ」
「ちょっ、えっ!? 何でだよ、イザーク!」
イザークに聞いたところ、あっさりと却下される。
それを聞いたアウルが不満そうに叫ぶが……そんなアウルにイザークが鋭い視線を向ける。
すると次の瞬間、アウルの横で同じように不満そうにしていたスティングがそっと後ろに下がる。
……アウルはそんなスティングの様子には全く気が付いていない。
「貴様が何をやったのか、考えてから言えぇっ!」
怒声。
まさに怒声といった表現が正しい感じで叫ぶイザーク。
……いや、本当に何をしたんだ?
元々イザークは怒りやすい性格をしてるが、それでもここまで怒る事は……いや、イザークならこれが普通だったりしそうだな。
「何だよ、まだ怒ってるのかよ。デートしてる写真を皆に見せただけじゃん」
不満そうに言うアウルだが、なるほど。その言葉で全て理解出来てしまった。
とはいえ、イザークとオウカが付き合ってそれなりに経つ。
そのデートシーンの写真を撮って皆に見せた程度で、イザークがそこまで怒るのは……いや、イザークならやっぱり怒るのか?
「義母さんも喜んでくれたじゃん」
「……絶対にお前達は今回の作戦に参加するのを禁止する。破ったら、どうなるか分かっているな?」
義母さん……エザリアの事だろう。
エザリアとオウカの仲は決して悪くない……どころか、かなり良好だと聞いている。
それでもイザークがこうして反応を見せるのは、照れ臭さからだろう。
いやまぁ、いい加減その辺にも慣れろと思わないでもなかったが。
ただし、イザークに実際にそう言おうものなら……まぁ、うん。今のアウルとのやり取りを見れば明らかだろう。
「ちぇー。分かったよ」
不承不承ながらアウルがそう返事をし、こうしてイザークは参加する事になる。
「ああ、ちなみにオウカが明日の一件に参加するかどうかは、イザークの判断に任せる」
そう言った瞬間、今の話の流れからイザークが鋭い視線をこちらに向けてくるものの、俺はその場から即座に立ち去るのだった。
「え? 私が? ちょっ、アクセル本気なの? 私は生活班なのよ!?」
明日菜のいる場所……と考えて超包子にやって来たら、そこでは明日菜が賄いを食べていた。
既に他の世界からやって来た者達も全員がいなくなっているので、超包子もそろそろ店じまいといったところだった。
ステラは? と思ったが、どうやらステラはもう帰ったらしい。
入れ違いになったのかもしれないな。
明日菜は賄いとして五目あんかけ焼きそばを食べていたのだが、そんな明日菜は俺の言葉にそう反応した訳だ。
「ムラタからの推薦もあったしな。……それに、何も相手を殺せとは言わない、捕らえるだけだ。もしくは、桜咲と一緒に木乃香の護衛だな」
「あ、そっちならいいわ。けど、私も木乃香の護衛をやるって……必要なの?」
そう疑問を口にする明日菜。
実際、木乃香の護衛は桜咲がいれば十分だろう。
桜咲の強さはかなりのものだし、ましてや仕える主にして、恋人……いや、夫婦? とにかくそんな人物を守る為なら、かなりの実力を発揮するのは間違いないのだから。
「必要かどうかと言われれば、念の為といったところだな。ヒロアカ世界では回復系の個性の持ち主は少ないし、ましてや木乃香の回復魔法は切断されてすぐなら手足をくっつける事も出来るし」
治療系の個性の使い手として有名なのはリカバリーガールだが、そのリカバリーガールであっても切断された手足を繋げるといった事は出来ない。
そういう意味では、ヴィラン連合は……そして、その背後にいるAFOも明日の戦いには参加するだろう。
であれば、木乃香の存在を知られれば狙われる可能性は十分にある。
もっとも、AFOの個性はあくまでも相手の個性を奪ったり与えたりするというもので、木乃香の回復魔法は個性ではない以上、どうしようもない。
……あれ? 実は個性以外の能力も奪えるとかだったらどうなるんだろうな。
個人的には、俺のスキルの中であまり貴重ではないスキル……EXPアップや気力限界突破辺りを奪って……いや、それならいっそ、俺がAFOをスライムで吸収して……無理か?
「アクセル? どうしたの?」
「いや、何でもない。とにかくそんな訳だけど、どうする?」
尋ねる俺の言葉に、明日菜は少し考えた後で頷くのだった。