「いよっしゃあああぁっ!」
一人の男が、先端が赤く染まった紐を……つまり、当たりを示す紐を手に、歓喜の声を上げる。
「ぐぬぬぬぬぬ」
「畜生、何であいつが」
「いっそ、あの当たりを奪って……」
「馬鹿、止めろ。エキドナがこっちを見ている!」
他の者達が悔しそうに呻き、中には当たりを引いた男の紐を奪おうと考えた者がいたが、そう口にした瞬間、レモンとマリューの隣で待機しているエキドナが……また、セシルが見た事で、諦める。
「じゃあ、プレゼンをしてくれるかしら?」
レモンのその言葉に、当たりを引いた男は嬉しそうに頷く。
「はい! では、早速プレゼンを始めたいと思います」
そう言い、すぐにプロジェクターやら何やらを用意する。
この辺りの手際の良さは、シャドウミラーの技術班ならではだろう。
量産型Wやコバッタが手伝ったりしているが。
そうして準備が整うと、当たりを引いた男は嬉々とした様子で口を開く。
「さて、オルフェンズ世界において入手したガンダムフレームを使ったMSですが、エイハブ・リアクターも無事に2基が用意出来たので、いよいよこれを使ったMSを開発する事になりました」
その辺りについては当然ながら全員知っている。
その件で誰のアイディアを採用するのかということでくじ引きをして、見事に当たりを引いたのが、この男だったのだから。
……外れを引いた他の研究者達は男の説明にもう知っている事を言うなとブーイングしようとしたのだが、エキドナやセシルが視線で牽制した事もあって黙っていた。
「ですが、オルフェンズ世界の技術でMSを作るにしろ、そのままというのは面白……技術班らしくはありません」
面白くありませんと言おうとしたのは明らかだったが、それについては誰も異論を口にしない。
その意見については、他の研究者達も同意見だった為だ。
「そして私はW世界のMSについて研究しています」
W世界のMSは、明らかに他の世界のMSとは違う。
一番分かりやすいのが、重量だろう。
W世界のMSで重量級とでも呼ぶべきヘビーアームズですら、7.7tと、8tに届かないのだ。
ちなみにSEED世界におけるMSの祖とでも呼ぶべきジンは78.5t、UC世界のザクⅡが74.5tだと言えば、その重量差については非常に分かりやすいだろう。
十分の一程の重量でありながら、ガンダニュウム合金によって非常に高い防御力を持つ。
また、ガンダニュウム合金を使っていないリーオーも7tと、これもやはり他の世界のMSと比べて軽い。
それ以外にもウイングガンダムゼロが使うような強力なビーム砲や、ゼロシステムといったように、W世界のMSは他のMSを使っているガンダム系の世界と比べても明らかに異常なのだ。
「……もっとも、ガンダムフレームにしろ、装甲材にしろ、今回はオルフェンズ世界の高硬度レアアロイを使った物になるのですが」
正確にはフレームに使われるのが高硬度レアアロイなのだが……その頑丈さから、説明した男は今回装甲にも高硬度レアアロイを使用するつもりだった。
つまり、トールギス……だけはなく、W世界のMSに共通している軽量性についてはこの場合使えないということを意味している。
それでは意味がないのでは?
そう思う研究者も何人かいたようだったが、今のところくじ引きに当たった研究者に決定的なミスはないので、黙っておく。
ただ単に羨ましいからという理由で口を挟んだ場合、エキドナやセシル……他にも最悪の場合はレモンが直接手を下す可能性があったのだ。
「また、オルフェンズ世界のMSにおいて標準装備となっており……それでいて他の世界では圧倒的な強さを持つ技術に、ナノラミネートアーマーがあります。既に全員が知っている事だとは思いますが、このナノラミネートアーマーはビームを無効化する……より正確には弾く効果があります。それ以外にも実弾兵器に対しても強い耐弾性を持っており……と、非常に魅力的な性能です」
その言葉には、誰も異論がない。
何しろかなり強力なビームであっても弾くことが出来る性能を持ち、実弾に対しても強い。
シャドウミラーにおいて、実弾兵器はそこまで使われていないが、その分だけビーム兵器が多い。
そのビーム兵器を無効化するのだから、技術班に所属する者として思うところがない訳ではない。
……もっとも、ナノラミネートアーマーが効果があるのはあくまでもビームと実弾であって、シャドウミラーで使われている重力波砲の類に対して効果がなかったりするのだが。
そんな訳で、シャドウミラーにとってナノラミネートアーマーは厄介な存在ではあるが、致命的という程ではない、そのような技術だった。
「ですが、このナノラミネートアーマーは今回使用しません。……静かに。これからきちんと理由を説明しますので」
ナノラミネートアーマーを使用しないと口にすると、さすがに今まで黙って聞いていた者達もそれに疑問や不満の声を口にする。
だが、発表している研究者はそんな面々に対して静かにするように言うと、事情を説明し始めた。
「ナノラミネートアーマーは強力な防御力を持っていますが、物理攻撃やビーム攻撃が命中すると、その部分のナノラミネートアーマーは剥げます。これは、ナノラミネートアーマーがペンキに近い形をしている以上、しょうがない事でしょう。勿論、剥げたのなら塗り直せばいいのですが……言うまでもく、このガンダムフレームを使ったトールギスを使うのはアクセル代表です。それも、恐らくは他の世界……未知の世界に行った時に使う事になるでしょう」
そう研究者が言うと、誰も反論は出来ない。
実際、実験機、あるいは技術立証試験機とでも呼ぶべき機体だけに、それを使うのはアクセルになるだろうというのは、誰もが予想していた。
何しろアクセルは混沌精霊なので、魔力や気を使った攻撃でなければ、効果がない。
であれば、例えばトールギスが何らかの設計ミスで爆発しても、傷を負う事なく生還出来るのだ。
これは、非常に大きい。
勿論、アクセル以外の者達であっても魔力や気を使った身体強化が出来たりするので、普通の人間と比べれば頑丈なのは間違いない。
間違いないのだが、それでも……やはり機体が爆発したりすれば相応のダメージを受けるし、最悪死ぬような事になってもおかしくはない。
そういう意味では、やはりアクセルがこの手の機体のテストパイロットとして丁度いいのは間違いない。
……シャドウミラーの事情を知らない者にしてみれば、それが国の代表のやる事か? と突っ込みを入れるような者もいるだろうが。
「そんな訳で、一度攻撃を食らえば剥げてしまうナノラミネートアーマーは、アクセル代表が使うMSには向いていません。……まぁ、アクセル代表の回避能力を思えば、もしかしたら安全かもしれませんが」
その言葉に、あー……といったように研究者達は何とも言えない表情を浮かべる。
実際、アクセルはこれまで数え切れない程の戦いに身を投じてきたものの、その中でアクセルが敵の攻撃を受けた回数というのは、本当に限られている。
一番大きなダメージを受けたのがシュウ・シラカワのネオ・グランゾンとの戦いで、アクセルがシュウ・シラカワを特別視しているのはこの辺りが大きな理由だろう。
もっともその代わりという訳ではないが、その時の戦いでアクセルはネオ・グランゾンの重要部位であるバリオン創出ヘイロウを奪ってきたりしているのだが。
「また、アクセル代表が操縦するとなれば、トールギスの最大の特徴である機動力も、より増強出来ます」
トールギスが加速する際には、15Gの重力がかかる。
常人では到底耐えられない加速だが、魔力や気を使った身体強化が出来ればそのくらいのGには容易に耐えられるし、マクロス世界の技術であるISCを使えば一般人であってもそのくらいのGには耐えられるだろう。
だが……混沌精霊であるアクセルの場合は、物理法則を無視した存在だ。
であれば、加速度がどのくらい高くても……トールギス最大の特徴であるスーパーバーニアを更に強化した物であっても、問題はない筈だった。
「ちなみに、貴方が作るトールギスは……最大何Gの加速力を持つ機体になる予定なのかしら?」
「スーパーバーニアを色々と改修中なのでまだ正確な数値は出せませんが、今の時点でも無理がない範囲で30Gは出せます」
ざわり、と。
レモンの質問に答えた研究者の言葉に、他の研究者達はざわめく。
30Gの加速というのが一体どのようなものなのか、それに興味がある者も多いのだろう。
常人なら、それこそ一瞬で死んでもおかしくはない、そんな……文字通りの意味での殺人的な加速。
だが、それを聞いたレモンは少し考えた後、笑みを浮かべて口を開く。
「最低でも40Gね。アクセルを乗せるなら、そのくらいの冒険はしてもいいでしょう?」
「……高硬度レアアロイを使ったガンダムフレームだからこそ、機体は何とかなりそうですが……」
戸惑いつつも、研究者はそう言う。
実際、アクセルなら40Gであっても問題ないというのは、これまでの経験から予想出来る。
予想出来るが……レモンがアクセルに抱いている想いを考えると、それはさすがに危険ではないかと、そのように思えてしまうのも、また事実だった。
とはいえ、スラスター関係の技術についての研究を行っている研究者にしてみれば、レモンの言葉はありがたいのも事実。
「なら、それでお願いね」
「……ちなみに、本当にちなみにの話ですが、レモン様は先程最低40Gと仰いました。であれば、それが50Gに達しても……?」
「問題ないわ」
あっさりとそう言うレモン。
そんなレモンの言葉に、研究者は心の底から嬉しく思い……
「けど、スラスターにだけ力を入れて、空中分解するような事にはならないようにね。UC世界でヅダが最初どういう目で見られたのか……分かってるでしょう?」
そう言われ、研究者は真剣な表情で頷く。
ヅダはザクよりも高性能なMSだったが、コンペの際に空中分解をした結果、ザクの方が採用された。
それがジオニック社の政治的な理由だと言っている者もいたが、空中分解というのが大きな理由となったのは間違いないだろう。
その結果として、ヅダは改修されてルナ・ジオン軍で採用されるまでは駄作の如き扱いを受けたのだ。
もっとも、1年戦争においてルナ・ジオンの採用したヅダはその高性能さを思う存分に発揮したのだが。
ただ、それでもヅダは空中分解の印象が強く、中にはルナ・ジオン軍でヅダを使っているのを知ったジオン軍が馬鹿にしたという事も広く知れ渡っている。
そんな中で、技術力という点では他の追随を許さないシャドウミラーが、空中分解をしたらどうなるか。
考えるまでもなく、他の世界から侮られる原因となるだろう。
勿論、それだけでシャドウミラーを下に見るようになるとは限らないが、それでも絶対の信頼を抱いていたシャドウミラーの技術が、実はそうでもないのではないか? と思われる可能性は十分にあった。
……勿論それは、オルフェンズ世界の技術を使って作ったトールギスを他の世界の面々の前で見せ付けた結果、空中分解したらの話だが。
「分かっています。40G、あるいは50Gの加速に耐えられるように設計して見せます。……ただ、出来ればオルフェンズ世界の技術とW世界の技術だけでどうにかしようと考えていたのですが、そこまでの規模の話となると他の世界の技術も使う必要があるかもしれませんね」
「その辺については、貴方の判断で考えなさい。ただ、私としては他の世界の技術も使った方が、後々技術の融合をしやすくなると思っているけど」
「……考えておきます」
研究者としては、出来ればW世界とオルフェンズ世界の技術だけでどうにかしたい。
だが、50Gもの加速度を考えれば、それだけではかなり難しい――絶対に無理ではないことが、技術班の研究者のレベルを表している――事を意味していた。
「取りあえずフレームや装甲についてはそんなところですね」
「動力炉はガンダムフレームである以上、エイハブ・リアクターを使うのよね?」
「はい、初のシャドウミラー製のエイハブ・リアクターとなります」
マクギリスとの交渉で入手した、エイハブ・リアクターの生産設備や製造方法の各種データ。
それによってシャドウミラーで作られたエイハブ・リアクターが、トールギスには使われる予定だった。
エイハブ・リアクターから出されるエイハブ粒子は慣性制御効果もあり、それによって加速については多少減軽される予定でもあった。
「エイハブ・リアクターを使うのは分かったけど、エイハブウェーブについてはどうするつもりなの?」
そう尋ねるレモンに、研究者の男は確信をもって口を開くのだった。
トールギスの加速度ですが、トールギスについて調べてたところ、トールギス始龍はゼクス機の2倍の速度を持つという事で、これを単純に15Gの加速力を持つトールギスの2倍、30Gの加速と考え、その為今回の期待は最大50Gの加速となりました。