エイハブ・リアクターを使う上で問題となるのが、エイハブウェーブだ。
これはUC世界のミノフスキー粒子やSEED世界のNジャマーと似たような効果を発揮する。
それによって電子機器の類が使えなくなり、酷い場合には故障したりもするので、オルフェンズ世界においてはエイハブ・リアクターを使ったMSや軍艦は市街地に入るのを固く禁じられている。
それはエイハブウェーブはエイハブ・リアクターを使う上でどうしても生み出されるものである以上、もしアクセルがトールギスを使うにしろ、エイハブウェーブが発せられると街中に入る事は出来なくなる。
……いや、あるいはエイハブウェーブについて全く知られていない世界で、どこかの都市を混乱させるというのを狙うのであれば、あるいはそれはそれでありかもしれなかったが。
レモンの、エイハブウェーブについてどうするのかという問いに、オルフェンズ世界の技術を使ってトールギスを作ると言っていた男は、特に考えるまでもなく口を開く。
「エイハブウェーブ対策については、火星ハーフメタルを使用します。普通なら1機のMSにふんだんに火星ハーフメタルを使うのはコスト的に問題がありますが、今回作るトールギスはあくまでも試験的なものですから。であれば、コスト的に心配しなくてもいいと判断します」
「……なるほど、そうね。それに火星ハーフメタルはかなり溜まっているし。なら、そのくらいの消費は問題ないかしら」
オルフェンズ世界の火星でのみ採取される火星ハーフメタルは、エイハブ・ウェーブによる電波障害を防ぐ特性がある。
それを使い、トールギスに使うエイハブ・リアクターからのエイハブウェーブを出さないようにするという事なのだろう。
火星ハーフメタルについては、シャドウミラーには大量に溜め込まれているし、こうしている今現在でもオルフェンズ世界の火星では採掘されており、それが自動的にシャドウミラーに譲渡されることになっている。
であれば、トールギスを作る際にしっかりと使っても特に問題がないのは明らかだった。
「はい。なので、エイハブウェーブについての問題はありません。……いえ、実際には作ってみないと本当に問題がないのかどうか分からないので、何とも言えないのですが」
これについては、実際に試してみないと何とも言えないが、取りあえず火星ハーフメタルを自由に使ってもいいのだから、最終的には問題がなくなる筈だった。
「そして次はトールギスの武装についてですが……トールギスである以上、ドーバーガンを使いたいところです。エイハブ・リアクターのお陰で、出力にはかなり余裕がありますし」
オルフェンズ世界におけるMSについては、本来ならMS1機について、エイハブ・リアクター1基でも出力的に全く問題はない。
アクセル達……マーベルやシーマも含めてだが、とにかくアクセル達がオルフェンズ世界に転移した時にギャラルホルンにおいて最新鋭の量産型MSであったグレイズであったり、その後継機であるレギンレイヴであっても、1基のエイハブ・リアクターで全く問題なく動いている。
そもそもガンダムフレームに2基のエイハブ・リアクターが装着出来るようになっているのは、MAと戦う際の事を考えてだ。
つまり、普通にMSを操縦する分にはエイハブ・リアクター2基の出力というのは過剰な訳で、その過剰なエネルギーをドーバーガンの動力源として使おうというのが、研究者の考えだった。
「また、ドーバーガンの威力は非常に強力ですが、砲身が長いのが問題になります。……いえ、アクセル代表ならドーバーガンの砲身があっても全く問題なく近接戦闘を行ったりも出来るでしょうが。ただ、それでもやはり利便性を考えると砲身は短い方がいいと思うので、使用しない時は砲身を折り畳めるようにしたいと思います。……実は最初は、ニヴルヘイムの主砲であるエーリヴァーガルと同じ方法も考えたのですが……無理でした」
残念そうに言う研究者の言葉に、話を聞いていた他の者達はだろうなと納得する。
ニヴルヘイムというのは、シャドウミラーで開発された機動要塞とでも呼ぶべきもので、ベースとなったのはギアス世界で開発された天空要塞ダモクレスだ。
そのニヴルヘイムの主砲が、エーリヴァーガル。
その正体は、ニヴルヘイムの底面にブレイズルミナスとグラビコン・システムを用いて仮想砲身を形成。ニヴルヘイムに搭載されている全てのブラックホールエンジンを最大駆動させ、平行運用して放つ重力波砲。
だが、ガンダムフレームを使って作るトールギスの動力炉はブラックホールエンジンではなくエイハブ・リアクターだ。
エイハブ・リアクターも多少なら重力に影響を与えるエイハブ粒子を生み出すのだが、当然ながらそれはブラックホールエンジンには及ばない。
また、ブレイズルナミスも搭載予定はないので、エーリヴァーガルのように仮想砲身を生み出すといったことは出来ない。
その結果として、砲身を折り畳む形式にする事になったのだろう。
「それと……ある意味で、今回のコンセプトの中ではこちらの武器がメインと言ってもいいかもしれませんが、トールギスに実弾のライフルを装備させたいと思います」
その言葉に、今更? といった表情を多くの者が浮かべる。
当然だろう。シャドウミラーで使用される人型機動兵器において、実弾を使うライフルは基本的に使われない。
勿論、M950マシンガンのように非常に使いやすく高性能な実弾兵器だったり、これはちょっと違うがフレイヤの類も存在する。
ただ、実弾兵器というのは当然ながら弾丸……あるいは砲弾を必要とする。
それに対して、シャドウミラーで使われているビーム兵器や重力波砲の類はエネルギーが機体の動力炉であるというのもあり、予備の弾丸といったものは持ち歩く必要はない。
これはアクセルのように空間倉庫に弾倉を入れておけるような特殊な例を抜かせば、かなり便利な事だ。
だというのに、最新鋭機――実験機や技術立証試験機といった表現の方が正しいが――のトールギスで、何故わざわざ実弾を使うのか、多くの者が疑問に思うのは当然だった。
しかし、そんな疑惑の視線を向けられても発表している研究者の男は、特に気にした様子もない。
「この実弾兵器のライフルですが、当然ながら普通のライフルではありません。弾丸にはダインスレイヴの技術を流用します」
そう研究者が言った瞬間、不満を口にしていた他の面々は黙り込む。
ダインスレイヴ……それはオルフェンズ世界で厄祭戦の時にMAを倒す為に開発された、いわゆるレールガンだ。
ただ、当然ながらMAを相手にする為に開発された兵器である以上、ただのレールガンではない。
普通のレールガンとの最大の違いは、その弾丸――というよりも槍に近い形――がMSのフレームに使われている、高硬度レアアロイを使用している事だろう。
この高硬度レアアロイによって生み出された弾丸は、レールガンによってMAであろうともダメージを与えることが出来る、そんな強力な武器となる。
勿論、メリットだけではない。
レールガン関係の技術があまり進歩していないオルフェンズ世界においては、それ故にダインスレイヴを発射するレールガンそのものが非常に大きくなっている、
もっともこれは、質量弾として使うダインスレイヴの弾頭が槍の如き大きさになっているので、それに合わせてというのもあるのだが。
「なお、ダインスレイヴの技術を使うと言いましたが、弾丸全てを高硬度レアアロイで製造するのか、あるいは本来の弾丸に高硬度レアアロイで被膜するのか……まだどちらにするのかは決まってません。もっとも、弾丸の威力を考えると、恐らくは前者になるでしょうが」
「質問、いいか?」
実弾兵器についての説明を聞いた研究者の1人が手を挙げてそう言う。
発表をしていた研究者は、その言葉に即座に頷く。
「構いませんよ」
「ビームや重力波砲の類なら動力炉のエネルギーで対処出来るが……実弾兵器を使うという事は、当然ながら弾倉が必要になるよな? そうなると、弾倉はどうするんだ?」
「アクセル代表の空間倉庫を使って貰うつもりです」
「……なら、トールギスの装甲はナノラミネートアーマーでもいいんじゃないか? 塗装が剥げた部位に新しく塗るのなら、弾倉と同じく空間倉庫に収納出来るだろうし」
そう言われると、発表をしていた研究者が言葉に詰まる。
実際、ナノラミネートアーマー用のペイントを空間倉庫に収納するだけならそう難しい事ではない。
それこそアクセルなら容易に収納出来るのだから。
「ナノラミネートアーマーのペイントがあっても、塗るには相応の技術や設備が必要となります。設備の方はそこまで大袈裟な物ではありませんが……それでもアクセル代表が行くのが未知の世界という事を考えれば、難しいと思います」
「分かった」
予想外にあっさりと質問をした男は退く。
その事に安堵しつつ、研究者は言葉を続ける。
「勿論、弾倉についてはある程度の数を持っていって貰います。……まぁ、アクセル代表が向かう未知の世界がどのような場所なのかは分かりませんので、もしかしたら弾倉がなくなる可能性もありますが。なので、一応口径があっていればその世界で入手出来たり、作ったりする弾丸を使えるようにとも考えています」
その説明には、皆が納得する。
何しろアクセルの行く世界がどのような世界なのかは、全く未知の世界なのだから。
例えば今回のヒロアカ世界のように生身での戦いが行われる世界に行った場合、当然ながらトールギスのようなMSを使う機会は……絶対にないとは断言出来ないものの、それでもかなり可能性が低いのは間違いないだろう。
それは逆に、オルフェンズ世界のような世界に転移をすれば、MSを使う機会も多くなる。
もっとも、アクセルは意図してか、意図せずにか、人型機動兵器のある世界に行った場合、出来るだけその世界の人型機動兵器を使うという癖がある。
それをこれまでの報告書……レポートで知っている研究者は、是非とも自分の設計したトールギスを使って欲しいと念押ししておこうと思う。
「続いての武器ですが、トールギスⅢで使用されているヒートロッド付きのシールドを採用したいと思います。……正直なところ、出来ればニーズヘッグの尾のようにヒートロッドに色々と付けたいところですが、出来ればW世界とオルフェンズ世界の技術だけでどうにかしたいので、あくまでもヒートロッドだけとします。また、こちらもトールギスⅢと同じように、シールドにはビームサーベルを2本格納しておきます」
このシールドについては、誰からも異論が出ない。
何人か若干だが不満そうな様子を見せているのは、ニーズヘッグの尾の開発に関わった者達だろう。
その中でも、特にニーズヘッグの尾に輻射波動を仕込んだ研究者は、強く不満そうな表情を浮かべていた。
どうせなら、トールギスのヒートロッドにも輻射波動を組み込みたかったのだろう。
とはいえ、今回の責任者である研究者の男がそれを否定している以上、悔しそうにしている男もそれ以上は何も言えなかったが。
「つまり、トールギスの武装はドーバーガン、実弾のライフル、ヒートロッドとビームサーベル付きのシールドの合計3つとなります。……正直なところ、アクセル代表が使うMSとして考えれば、武器が少なすぎる気もするのですが」
その言葉に、話を聞いていた者が何人も同意するように頷く。
……それどころか、エキドナやマリュー、レモンまでもが頷いていた。
この面々はアクセルの戦闘を今まで何度も見てきている。
それだけに、ニーズヘッグのように大量の武器を装備した機体がアクセルには向いていると理解しているのだろう。
勿論、多数の武器があるのは強力なのは間違いないものの、同時に適切な武器を瞬時に判断して使用する必要がある。
その辺りの判断力が低ければ、幾ら強力な武器を多数持っていても意味はない。
いや、意味はないどころか、最悪仲間に攻撃が命中してしまう可能性もあった。
そういう意味で、武器の多い機体というのは乗る者を選ぶ機体でもあるのだ。
「まぁ、未知の世界でのメンテナンスも考えると、武器が多すぎるのはそれはそれで困るでしょうし。であれば、トールギスはこのくらいの武器でいいと、そう判断しました」
このくらいの武器と一口で言うが、一般的に考えれば十分な武器でもある。
いや、一般的に考えれば、重武装の部類に入ってもおかしくはない。
その辺については『アクセルだから』で納得してしまうのだが。
ともあれ、そんな訳でガンダムフレームを使ってトールギスを作る事が決まり、くじびきで当たった研究者は、これから寝る間も惜しんで作業に没頭するのだった。