「ここがヒロアカ世界なんだ」
ゲートで転移をし、ヒロアカ世界にやって来ると明日菜が周囲を見てそんな声を上げる。
ヒロアカ世界と一口に言っても、今いるのは雄英の敷地内の端だ。
そういう意味では、ここで周囲を見ても特にそこまで驚くような事はないと思う。
雄英の敷地はかなりの広さを持つも、ネギま世界の麻帆良と比べるとかなり狭いし。
あ、でもUSJとかそういう場所はヒロアカ世界っぽいから、珍しいとは思う。
……もっとも、今はそんな場所を見学している余裕はないけどな。
あ、でも作戦時間に余裕があるのなら、影のゲートを使って見学に行っても……
そんな風に思っていると、こちらに向かって走ってくる人影が見える。
ボディラインから女なのは間違いなく、この雄英であそこまで曲線豊かな身体付きをしているのは、ミッドナイト以外にいない。
それにしても……何でよりにもよってミッドナイト?
いやまぁ、男として考えると身体をタイツ1枚、それもいつでも個性を使えるように薄いタイツ1枚でその優美な曲線を強調しているミッドナイトというのは眼福だろう。
とはいえ、男にとっては眼福であっても……ムラタは女には興味がないといったタイプだし、イザークの場合は恋人が隣にいる状況でミッドナイトの身体に目を奪われるわけにはいかない。
となると……
「役得だな」
「おい、何を言ってやがる!」
荒垣にそう声を掛けると、荒垣が慌てたようにそう言ってくる。
ちなみにオウカはイザークの隣でニコニコと笑みを――ただし千鶴的な笑みを――浮かべ、木乃香は目を丸くして驚き、桜咲はどう反応すればいいのか分からない様子で、明日菜は何故か俺にジト目を向けていた。
いや、何でジト目?
そう思ったが、こちらにやって来たミッドナイトはある程度距離が縮まったところで、何故か不意に動きを止める。
あれ? どうした?
そんな疑問を抱くと、ミッドナイトが何故か俺をじっと見ている。
何だ? 何かあったか?
そう疑問に思っていると、ミッドナイトが再び歩き出す。
……いや、駆け出すといった方が正しいか。
そんなミッドナイトが俺の前までやってくると動きを止め、じっと見てくる。
「ミッドナイト? どうした?」
「ムウさん、一体どうしてここに……いえ、やっぱりアクセルの知り合いだったの? 兄弟にアクセルはいないって言ってたけど……」
そう言ってくるミッドナイト。
え? と疑問に思い……
「あ」
今更ながら、今の自分は20代の姿になっていることに気が付く。
そして以前、この20代の外見の時に街中でミッドナイトに会った事があったな。
……しまった。昨夜の情事の時に身体が小さいから少し無理があり、20代の姿になってそのままだった。
「アクセル、お前……またムウの名前を使ったのか? まぁ、俺の名前を使わなかったのは褒めてやる」
イザークが呆れた様子で言ってくる。
以前、イザークの名前を使った時、かなり怒っていたしな。
「え? ……えっと、やっぱりアクセルの関係者? でも、アクセルという兄弟はいないって……」
イザークの言葉にミッドナイトが混乱した様子でそう言ってくる。
あー……これはもうどうしようもないな。
イザークのせいにしたいところだが、俺が20代の外見から10代半ばの外見に戻っていなかったのが理由だし、不満を口に出来る訳もない。
はぁ、と息を吐いてからパチンと指を鳴らす。
次の瞬間、俺は白炎に包まれ、その白炎が消えた時、俺の外見はヒロアカ世界では馴染みのある、10代半ばの姿に変わっていた。
「まぁ、こういう訳だ」
「え……でも……一体どういう……?」
「俺の外見は、ある程度自由に変えられるんだよ」
「でも、だって、前に聞いた時は……」
「あの時は、あくまでもアクセルという兄弟はいないと、そう言っただろう? 実際、今もミッドナイトは自分でそう言ったんだし」
そう言う意味では、俺は決して嘘を吐いてはいない。
俺がアクセル・アルマーであり、俺にアクセル・アルマーという兄弟がいないのは事実なのだから。
……もっとも、そう言われたミッドナイトは事態を理解すると不満そうな様子を見せる。
ミッドナイトにしてみれば、偽名を名乗ったのは不満だったのかもしれないな。
もしくは、アクセル・アルマーという兄弟はいないという話をしたのが面白くなかったのか。
その辺りの理由は色々とあるだろうが、とにかく不満な様子なのは間違いない。
「悪いな。あの時は体育祭が終わったばかりで俺の顔がかなり知られていた。その対応が面倒で20代の外見にしていたんだよ」
「……そう言われると、私もあまり強くは言えないわね」
ミッドナイトも雄英の教師をやっているだけあって、オリンピック代わりの雄英の体育祭についての影響力の強さについては十分に知っているのだろう。
実際、あの体育祭は将来性のある生徒を見定めるという目的もあるので、多くのプロヒーローもしっかりと見ている。
「悪いな」
「……一応聞くけど、アクセルはさっきの20代の外見の方が本当の姿なの?」
そんな興味を覚えたのか、ミッドナイトがそう聞いてくる。
ミッドナイトにしてみれば、もし俺の20代の外見が本物だったら、色々と言いたい事でもあるのかもしれないな。
「どれも本物って訳じゃない。校長やオールマイトには見せたが、どっちも……そしてこれも俺の本当の姿ではある」
パチンと指を鳴らすと、次の瞬間俺の外見は再び白炎に包まれ、次の瞬間には10歳の姿に変わっていた。
「え……」
うん、やっぱりミッドナイトにとってこの姿は予想外だったらしい。
もっとも、10代半ばの俺の姿はミッドナイトは今まで普通にしていたし、20代の姿は以前街中でムウと名乗った時に会ったので、見たことがあるのは間違いなかった。
だが、10歳のこの姿は完全に見るのが初めてなので、そういう意味でもかなり予想外だったとか、そんな感じだったとかか?
「言わなくても分かるとは思うけど、一応これも俺……アクセル・アルマーだ」
「……可愛い……じゃなくて、え? 本当に貴方はアクセルなの? あの、爆豪にヒモ野郎って呼ばれている?」
「いや、なんでそこで爆豪の呼び方が出てくるんだよ」
そう言いながら他の面々の様子を見ると、明日菜はジト目を俺に向けている。
桜咲やオウカは微妙に困ったような視線を俺に向け、木乃香は興味深そうな視線を向けていた。
イザークと荒垣の2人は俺に呆れの視線を向けていた。
いやまぁ……うん、ヒモ野郎と言われているのは間違いないし、それを思えばこうやって色々な視線を向けられてもおかしくはないのか?
「一応言っておくけど、ヒモ野郎と言ってくるのは俺に対抗心を持っている爆豪だけで、他の面々には特にそういう風には言われていないぞ」
そう言うが、何人かは俺の言葉を素直に信じる様子はない。
俺の言葉がどこまで真実なのか、その辺が分からないのだろう。
とはいえ、だからといってここでこれ以上何を言っても意味がないか。
パチン、と。
再び指を鳴らし、俺は10代半ばの姿に……ミッドナイトにとっては見慣れた姿になる。
「これでいいだろ」
「……ええ、そうね。それじゃあ、行きましょうか。校長やオールマイトが待ってるわ」
ミッドナイトの言葉に頷き、俺達はそちらに向かう……前に。
「俺達が戻ってくるまで、お前達はここで他の量産型Wと警備をしていろ」
俺達と一緒に転移してきた3人の量産型Wにそう指示を出しておく。
そんな俺を……というか、量産型Wを微妙な表情で見るミッドナイト。
まぁ、ミッドナイト……というか、プロヒーローという善性の人物にしてみれば、量産型Wのような存在には思うところがあるのだろう。
それも雄英を襲ってきたヴィラン連合の手先となる脳無なんかは、量産型Wに似たような存在と言ってもいいだろうし。
……とはいえ、1人ずつ外見が異なる脳無とは違い、量産型Wは全員が同じ外見をしている。
この辺は脳無を作っている人物の技術力不足……かと思っていたんだが、AFOの事を知った今は、少し違う感想を持っていた。
オールマイトから聞いたAFOの能力というのは、個性を奪い、そして与えるという個性。
脳無が複数の個性を使っているのは、AFOの個性によるものなのだろう。
そして、当然ながらそれらの個性はそれぞれ違う個性な訳で、その個性を使うのに適している身体にしているといった感じなのだろう。
例えば増強系の個性を与えられた脳無なら、ベースとなる筋力が強ければ強い程にいいのは間違いない。
例えば筋力が1の脳無と5の脳無であれば、同じ増強系の個性を使った場合、当然ながら筋力が5の脳無の方が強くなる。
だからこそ、個性によって外見も違うのだろう。
それに……脳無の身体は量産型Wのように培養されたものではなく、人の死体を使っているらしいから、そういう意味でも同じ脳無には出来ないのだろう。
AFOに細胞を培養し、それで脳無を作れる技術があれば、また話は別だろうが。
……とはいえ、脳無の特徴である脳が剥き出しになっているあの外見はどうにかした方がいいと思わないでもないが。
そもそも脳無も生き物……生き物? 寧ろこう……ネギま世界的な感じで言えば、フレッシュゴーレムとでも呼ぶべき存在なのか? ともあれそんな存在ではあるが、脳みそがある以上はそこで考えているのは間違いなく、その脳みそという弱点が剥き出しのままというのは、どうかと思う。
いやまぁ、戦う方にしてみれば戦いやすいので、寧ろ歓迎ではあるんだが。
ただ、似たような量産型Wを運用している身としては……まぁ、そんな風に思ってしまうのも無理はない訳で。
ともあれ、量産型Wに複雑な表情を浮かべていたミッドナイトだったが、俺が量産型Wに命令を終えると、俺達……シャドウミラー組と共に雄英の校舎に向かう。
すると周囲を物珍しげに見回していた明日菜が声を掛けてくる。
「ねぇ、アクセル。この雄英高校ってかなり広いのね」
「麻帆良程じゃないけどな」
「それはそうでしょ。麻帆良は学園都市なんだから、幾ら何でも一緒にするのはどうかと思うわよ」
そう言う明日菜の言葉には、どこか得意げな色がある。
小さい頃から麻帆良で育ち、ホワイトスターに移住するまではずっと麻帆良にいた明日菜にしてみれば、自分の故郷に誇りを持っているのだろう。
実際、麻帆良は今まで俺が行った世界の中でもかなり特殊な世界だしな。
勿論他の世界にもそれはそれで特殊な世界があったりするのだが。
「まぁ、お爺ちゃんがまだ頑張ってるしなぁ」
俺と明日菜の会話を聞いた木乃香が、そう口を挟んでくる。
木乃香もまた、小学校の頃から麻帆良で育ってきたし、何より本人が口にしているように祖父の近右衛門が麻帆良の学園長として今も頑張っていた。
……正直、近右衛門は既にもう引退してもおかしくないとは思うんだけどな。
もっとも本人がまだまだやる気なのは……あるいはこの辺も魔力が関係しているのかもしれないな。
そうして会話をしながら進むと、ミッドナイトが興味深そうな視線をこちらに向けているのに気が付く。
「どうした?」
「いえ、学園都市というのがちょっと気になって。この雄英もその辺の高校よりも広いと思うけど、そんな雄英よりも広いのかしら?」
「そうだな。学園都市というのは文字通りの意味での学園都市だ。それこそ、この雄英並の学校がそれなりにあるな」
そう言いつつも麻帆良の規模はともかく、雄英と同じくらい広い学校となると、そう多くないかも? と思わないでもない。
麻帆良の場合はそこそこの規模の学校が無数に集まっているといった感じだし。
勿論、中には雄英と同じくらいの敷地を持つ学校もあったりするが。
「その麻帆良という場所、興味深いわね」
「だろうな」
青春を好むミッドナイトだ。
学園都市に行けば、そんな青春を多く見る事が出来るという意味で、麻帆良に強い興味を持つのも分からないではない。
「……ねぇ、ちょっと、アクセル。あのミッドナイトって人だっけ? ああいう人が麻帆良に来ると、間違いなく騒ぎになるわよ?」
「明日菜の言葉は否定出来ないのが痛いな」
明日菜が言うように、ミッドナイトは顔立ちの整っている大人の美人だ。
そんな人物がタイツ1枚を身に纏い、ボディラインを露わにしているのだから、学生……特に男にしてみれば、それで騒動になるなという方が無理だろう。
あ、でもミッドナイトの年齢を考えれば……いや、駄目だな。
ミッドナイトは30代で、学生にしてみれば年齢が離れすぎていると思うかもしれないが……いや、でもミッドナイトを見る限りだと20代くらいに見えるしな。
そういう訳で、ミッドナイトが麻帆良で活動するとなると、大きな騒動になる可能性が高いのは間違いなく、明日菜が心配するのも当然だった。
デス眼鏡の出番かもしれないな。