「え? ……えっと……え?」
ミッドナイトに案内され、雄英の校舎に入った俺達はそのまま校長室に向かった。
明日菜を始めとする元麻帆良組は、どこか懐かしそうに雄英の校舎を見ている。
世界は違うし、既に高校を卒業してから結構な時間が経ってはいるが、それでもやはり学校というのは懐かしさを覚えるのだろう。
荒垣は……まぁ、うん。
元々学校はサボっている事が多かったし、荒垣の性格からしても学校を懐かしむといったことはなかったらしい。
イザーク、オウカ、ムラタは……まぁ、うん。
一般的な学校らしい学校には通った事がないだろうし。
あ、でもイザークなら……どうなんだろうな?
コーディネイターとして、プラントに高校とかそういうのってあるのか?
いや、あっても俺がSEED世界に行った時は戦争が起こっていて、高校どころじゃなかった筈。
実際、俺がSEED世界に介入した時、イザークは丁度高校に通っているくらいの年齢だった筈だし。
ともあれ、そんな風に校舎の中を進み、以前にも来た校長室に到着して中に入ったところ、俺の口から驚きの声が出た訳だ。
その理由は、校長室にいる面々……いや、正確にはその中の1人か。
それが相澤であるというのは、俺も理解している。
だが同時にいつもの無精髭は完全に剃られており、髪もボサボサではなくしっかりと整えられ、服もスーツを着て、ネクタイも締めている今の相澤を見て、驚きの声を上げるなという方が無理だった。
もしここにA組の生徒がいたら、もしかしたらその中には今の相澤を見て相澤と認識出来ない者がいてもおかしくはない。
そんな風に思える程に、相澤の様子は俺の知っている姿と違っていた。
ちなみに校長室の中にはB組の担任のブラドキングの姿もあるが、そのブラドキングもまたスーツにネクタイ姿だ。
ただ、ブラドキングの場合は普段がそんなにだらしなくないのもあって、相澤を見た時程の違和感はない。
相澤だから……普段のだらしない格好の相澤を知ってるからからこそ、俺は相澤を見てここまで驚いたのだ。
それこそA組の生徒ではなく、B組の生徒が今の相澤を見ても同じように驚くだろう。
元々相澤とB組の生徒はあまり関わりがなかったが、幸か不幸か林間合宿で数日とはいえ一緒に生活している。
それだけにB組の生徒も普段のだらしない相澤については十分に理解しているのだから。
「そこまで驚かなくてもいいだろう」
相澤が俺を見て、そんな風に言ってくる。
「いや、だって……ねぇ? 普段の貴方を知っていれば、それで驚くなという方が無理でしょ。アクセル代表もそう思ったのよね?」
俺が何かを言うよりも前に、ミッドナイトがそう口を挟む。
その表情には笑みが浮かび……噴き出すのを堪えているように見える。
それだけミッドナイトにとって、今の相澤は普通とは違ったのだろう。
ちなみに相澤とブラドキング以外は校長がいて、オールマイトの姿もある。
で、そのオールマイトは当然のようにマッスルフォームだ。
ヒョロガリのトゥルーフォームは、今のところまだ他の者に見せたくないらしいし。
実際、その辺りを知っているのは雄英の教師の中でも少数だって話だ。
であれば、オールマイトとしてはここで……他にも大勢の目のある場所で、そう簡単にトゥルーフォームを見せる訳にいかないというのは、分からないでもない。
「さて、よく来てくれたね、アクセル代表……おや?」
校長が俺を見てそう声を掛けるが、不意に訝しげな様子で付け足す。
何だ? と思って校長の視線を追うと……
「せっちゃん、明日菜、離してえな」
木乃香が桜咲と明日菜に捕まっていた……いや、この場合は取り押さえられていたといった表現の方が相応しいのか?
とにかくそんな感じの面々を見て、校長以外の面々も一体何をしているのかといった視線を向けている。
うん、これは多分……可愛いもの好きの木乃香が、校長をゲットしようとして、それを桜咲と明日菜が止めたのだろう。
ナイス、と。そう言いたくなるのは俺だけではない筈だ。
木乃香を連れてくる時に、その辺りについて考えて置かなかったのか、俺のミスだな。
木乃香が可愛いもの好きというのは分かっていたのだから、この状況で校長を見れば、こういう態度になってもおかしくないと、そのように考えてもおかしくはないのだから。
「木乃香、その辺にしておけ。今がどういう状況か分かってるだろ?」
「えぇ……はーい」
俺の言葉に不満そうにしながらも、分かったと返事をする木乃香。
そんな木乃香を見てから、俺は校長に向かって口を開く。
「悪いな、校長。木乃香は……そうだな、雄英で言えばリカバリーガールのような存在だ。それも手足が切断されても、すぐならくっつけられるくらいの能力は持ってる」
「ほう、それは凄いね。……まぁ、僕については気にしなくてもいいよ。いきなりの事で驚いたけど、僕の外見がこうだから同じような反応をする人は今まで他にもいたしね」
本当にもう気にしていないのか、あるいは俺に気を遣ったのか、その辺りは分からないがとにかくそんな風に言ってくる。
「助かる。それで話を戻すけど……いや、まだ何も話はしていなかったな」
「ははは。まぁ、中に入ってくれ。まずは色々とお互いに話をしよう」
校長の言う話というのは、当然ながらヴィラン連合の拠点の襲撃の件だろう。
……あるいは木乃香の回復魔法についての話だったりもするかもしれないが。
ともあれ、このまま扉の近くでどうこうしていても意味はないので全員が校長室の中に入る。
校長室の中には来客用のソファが幾つかあり、俺達はそれに座る。
ただし、ムラタだけはソファの近くに壁に背を預け、立ったままだったが。
「それで、ブラドキングはともかく、相澤せ……相澤は何でいつもと違ってさっぱりとした感じなんだ?」
相澤先生と言いそうになるが、今の俺はヒーロー科の生徒のアクセル・アルマーではなく、シャドウミラーを率いる立場にいるアクセル・アルマーだ。
であれば、相応の態度を取る必要があるだろう。
相澤もそれが分かっているのか、呼び捨てにされても特に不満そうな様子を見せない。
……相澤の性格を思えば、効率がどうとかそんな風に思ってそうだよな。
「今日のヴィラン連合の拠点の襲撃時、陽動……という訳ではないが、こちらがまだ向こうの動きを把握してないというのを見せつけて、少しでも油断をさせようとしている為だ」
なるほど、それは有効だろう。
特にこのヒロアカ世界のマスゴミを思えば、相澤やブラドキングといった者達が記者会見で責められている時、まさか爆豪やラグドールを助けだす為に動いているとは思わないだろう。
「つまり、ライブ、生放送でだな?」
念の為に尋ねる俺に対し、相澤は当然といった様子で頷く。
録画と生放送だと、ヴィラン連合も当然ながら生放送の方に集中するだろう。
ましてや、ヴィラン連合にしてみれば自分達の行動によって相澤やブラドキングが記者会見をする流れになっているのだから、余計に見るだろう。
……正確にはヴィラン連合じゃなくて開闢行動隊なのだが、ヴィラン連合の特殊部隊的な存在なんだろうから、もうヴィラン連合と一括りにしてもいいだろう。
「話は分かった。後は、ヴィラン連合の戦力に対処するだけか。一応紹介しておいた方がいいな。俺については言うまでもないと思うから他の連中からだ。まずはムラタ」
俺が名前を呼ぶと、校長室の中で1人だけ座らずに立っており、壁に背中を預けているムラタが俺に視線を向け、次に校長に視線を向けて口を開く。
「ムラタだ」
簡単な……簡単すぎる自己紹介。
せめて名字だけじゃなくて、名前も言えばいいのにな。
そう思ったが、ムラタの性格を考えるとこの状況で素直に自己紹介をしただけマシか。
「見ての通り無愛想な奴だし、外見だけならヴィランに間違われてもおかしくはないが、シャドウミラーの一員だ。シャドウミラーの中でも生身での戦闘、それも近接戦闘を得意としており、その辺のヴィランを相手しても全く問題なく戦える。気を使い、神鳴流という剣技の使い手だしな。……まぁ、日本刀を持っているのは気にしないでくれ」
「……いや、気にしないでくれと言われても、銃刀法違反なんだが」
ブラドキングがそう呟くが、それに反応する者はいない。
あるいはブラドキングと同じように思っている者もいるのかもしれないが、実際に口にするような者はいなかった。
今のこの状況で、銃刀法違反がどうこうといったようにはとてもではないが思えないのだろう。
「次に、イザーク」
「イザーク・ジュールだ。生身での戦闘も相応に出来るから安心して欲しい。……アクセルにはまだ勝てないが」
最後、付け足す必要があったか?
そう思わないでもなかったが、相澤やオールマイトは何故か納得したように頷いている。
いや、この状況でそういうのはどうなんだ?
そう思わないでもなったが、今は取りあえず気にしないでおいた方がいいか。
「次、オウカ」
「オウカ・ナギサといいます。魔法を使っての戦闘を得意としていますが、近接戦闘にもそれなりに自信があります」
オウカがそう言い小さく頭を下げる。
艶のある黒髪が強く印象に残る仕草だ。
とはいえ、オウカは別にこれを意図してやっている訳ではない。
自然と身に付けた所作だ。
「で、次が木乃香」
「近衛木乃香です。よろしゅう。先程アクセル君も言ってましたが、回復魔法に特化してます」
先程、校長を奪おうとして桜咲や明日菜に止められていた者とは思えないような、そんな淑やかな様子で言う木乃香。
ただ、先程の俺の説明……リカバリーガールよりも強い回復能力を持っているというものから、ヒロアカ世界の面々が木乃香に向ける視線には侮るようなものはない。
……とはいえ、俺は今までに一度もリカバリーガールの治療について自分の目で直接見た事がなかったりする。
ただ、緑谷とかから聞いた限りだと、手足が切断されてもくっつけるといったことは出来ないらしいので、やはり治癒能力という点では木乃香の方が上だと思う。
「で、木乃香の護衛の桜咲と明日菜」
「桜咲刹那といいます。そちらのムラタと同じように京都神鳴流を使います」
「ちょっと待った。剣技って話だったけど、そこのムラタ君と違って日本刀は持っていないようだけど?」
桜咲の自己紹介を聞いた校長が、そう尋ねる。
それに対し、桜咲が何かを答えるよりも前に俺が口を開く。
「桜咲の武器はただの日本刀ではなく、いわゆる太刀と呼ばれている物だ、日本刀よりも大きいから持ち歩くのは不便だという事で俺が預かっている。……もっとも、いざとなればすぐに渡せるからこそだが」
実際には、それこそ銃刀法違反の件があるので俺が預かっているというのが正しい。
なら、何故ムラタの日本刀はそのままなのかと突っ込まれそうだが……うん、ムラタはどうしても手放したくなかったというのが正解だ。
まぁ、本当にどうしても駄目なら話は違ったかもしれないが、俺の場合はもしムラタが銃刀法違反で警察に捕らえられそうになっても、公安という伝手がある。
この世界における公安というのは、ヒーロー達を取り纏める組織なので、日本刀を持っているムラタの件くらいはどうとでもなったりする。
何でヒーローを取り纏める組織の名称が公安なのかというのは、ちょっと疑問ではあるが……まぁ、その辺りはこの世界の原作の作者が考える事なので、俺がどうこう言うような事ではない。
「で、次は明日菜」
「神楽坂明日菜です。私は、魔力と気の合一……咸卦法という技術を使って戦闘を行います」
明日菜が自己紹介をして、頭を下げる。
「木乃香が回復魔法の使い手だというのは分かったと思うが、当然ながらヴィラン連合にしてみればそんな相手は真っ先に潰そうとする筈だ」
ゲームとかでも、敵の回復役は最優先で潰すというのは一般的な戦術だし。
ヴィラン連合も木乃香について知れば、すぐにでも攻撃をしてくるだろう。
そんな俺の意見に異論はないのか、ヒロアカ世界組の面々は素直に頷いて俺の言葉に同意する。
「そんな訳で、桜咲と明日菜は木乃香の護衛としてきて貰った。基本的には戦闘に直接参加するようなことはないから、戦闘要員としては期待しないでくれ」
「いや、アクセル代表が言うように高い治癒能力を持っているのなら、それは下手な戦闘能力よりも頼りに出来るよ」
そう校長が他の面々に意見を聞くようにすると、それに同意するようにヒロアカ組の面々は頷いていた。
どうやら、この辺りは俺達と同じ認識らしいな。
これで高い戦闘力を持っていないのに戦闘に参加しないのはどういう事かとか、そんな風に言われたりしたら困ったな。
「最後が、荒垣だな」
「荒垣真二郎だ。戦闘方法はペルソナ」
そう言う荒垣だったが、ペルソナというのが何なのか分からない面々は不思議そうにするものの、取りあえず俺が連れてきたメンバーということもあってか、それ以上突っ込むような事はなかった。
「後は……相澤やブラドキングは知ってると思うが、いざとなれば俺の召喚魔法で狛治を呼ぶ事が出来る」
ぶっちゃけ、狛治がいるだけでヴィラン連合の大半はどうにかなると思うんだが……まぁ、その辺については、今は取りあえず考えないでおこう。
AFOの件もあるしな。