ミッドナイトの指示に従ってバスに乗り、雄英から移動する。
当然ながらバスの中には俺達だけだ。
いや、正確にはバスの運転手と案内役というか、顔合わせ役としてミッドナイトもいたりするのだが。
「ミッドナイトが俺達と一緒にいるという事は、ヴィラン連合の拠点の襲撃にも参加するのか?」
俺から少し離れた場所に座っているミッドナイトにそう声を掛ける。
だが、ミッドナイトは俺の言葉に首を横に振る。
「アクセルも私の個性は知っているでしょう? もし私がヴィラン連合の拠点の襲撃に参加したら、他のヒーローやアクセル達を巻き込むかもしれないもの」
「あー……なるほど。言われてみればそうかもしれないな」
「ねぇ、ちょっとアクセル。どういう事?」
こちらもまた俺から少し離れた場所に座っていた明日菜が、俺とミッドナイトの会話を聞いて、そう尋ねてくる。
どうやら明日菜はミッドナイトの個性については知らないらしい。
「ミッドナイトの個性は、体臭を嗅がせた相手を眠らせるって個性なんだよ。だから、ヒーローコスチュームもああいう薄いタイツな訳で」
「あのね、アクセル。体臭という表現はどうかと思うわよ?」
俺の言葉にミッドナイトが若干不満そうな様子でそう言ってくるが……実際、体臭という表現はそんなに間違ってはいないと思うんだよな。
「ああ、だからそういう服……ヒーローコスチューム? を着てるのね」
明日菜は納得した様子でそう呟く。
あるいは明日菜から見てミッドナイトは趣味でああいうヒーローコスチュームを着てると思っていたのかもしれないな。
ただ……あの全身タイツはヒーローコスチュームの役割を果たしていないと思うのは、きっと俺だけではないだろう。
何しろミッドナイトが個性を使う時、簡単にタイツを破けるようになっている訳で。
身体のラインがしっかりと出ているそのヒーローコスチュームは、男の性欲をこれでもかと刺激してくる。
……もっとも、ミッドナイトが雄英を卒業してプロヒーローになった時のヒーローコスチュームは、この全身タイツよりもっとアレな感じの奴で、それによって政府が動いて法律まで変わってしまったのだから、ある意味で凄いよな。
「ええ、そうよ。どう? 貴方も着てみる?」
「え・ん・りょ・し・ま・す!」
挑発的に尋ねるミッドナイトに、力強く、一言ずつ区切りながら言う明日菜。
「ちょっと見てみたかった気もするけどな」
「……アクセル?」
ボソッと、明日菜には聞こえないだろうと思って呟いたのだが、どうやら明日菜の耳にはしっかりと聞こえていたらしい。
明日菜はジト目で俺を見てくる。
「あー……いや、何でもない」
そう誤魔化しておく。
「ウチもアクセル君の気持ち分かるわー。せっちゃんもそう思わへん?」
「え!? わ、私ですか? いや、けどその……まぁ、はい」
「ちょっ、刹那さん!?」
木乃香が俺の言葉に同意するのはともかく、まさか桜咲が木乃香の言葉に頷くとは思っていなかったのだろう。
明日菜は思わずといった様子で叫ぶ。
桜咲は明日菜のそんな視線に申し訳なさそうにしながら、そっと視線を逸らすだけだ。
これが以前の……それこそ俺がネギま世界で行動していた頃であれば、桜咲もこの状態で木乃香の言葉に同意するような事はなかったのだろう。
だが、シャドウミラーに所属するようになり、木乃香と一緒に暮らし始めた影響もあってか、今はこうして木乃香の言葉に同意もするらしい。
……俺は何だかんだと桜咲や木乃香と絡む機会はあまりなかったのだが、どうやら良い具合に――もしくは悪い具合に――木乃香の影響が桜咲に出ているらしい。
明日菜とは何だかんだと話す機会はそれなりにあったりするんだがな。
「ほら、お友達もこう言ってるし、どう? 私の予備もあるわよ?」
ミッドナイトが面白そうに笑みを浮かべつつ、そう言う。
ミッドナイトのヒーローコスチュームの全身タイツは、それこそすぐ破けるように出来ているので、予備が大量にあってもおかしくはない。
……明日菜がミッドナイトのヒーローコスチュームを着ている光景を想像すると……うん、これはかなりの破壊力だな。
元々、明日菜は中学校時代からスタイルは良かった。
千鶴のように大人顔負けとまではいかないが、平均以上のスタイルを持っていたのは事実だ。
そんな明日菜が順調に成長した結果、今となってはかなりのスタイルになっている。
それこそミッドナイトに決して負けていないだろうと思えるくらいには。
そんな明日菜が全身タイツになったら、凄い事になるのは間違いない。
もっとも、明日菜の場合はもし自分が全身タイツを着ている光景を誰かに見られたら、それこそ咸卦法を使って殴り飛ばし、強制的に記憶を失わせようとしてもおかしくはなかったが。
「……いりません」
何故かこっちを見て、何を……あるいはナニを想像したのか、顔を赤く染めながらも、ミッドナイトにきっぱりと断る明日菜。
「イザーク、どう思います? 私もああいうのを着た方がいいと思いますか?」
「ばっ! い、いきなり何を言い出すんだ!?」
そんな俺達のやり取りが聞こえたのか、イザークとオウカの会話が聞こえてくる。
オウカがちょっと乗り気なのが意外だったな。
もっとも、自分のそういう姿を見せる男はイザークだけと決めているからこそなのかもしれないが。
ちなみに他の2人はどうしているかと思うと、ムラタは興味なさげに窓の外を見ているし、荒垣の方は自分に話を振るなという意思表示か、目を瞑っていた。
「明日菜、ここはファイトやで」
「ちょっ、木乃香ってば。別に私はそんなつもりはないんだから!」
木乃香と明日菜のやり取りを、うっとりとした視線で見るミッドナイト。
これ、多分内心では青春だとか、そんな風に思っているんだろうな。
そんなやり取りをしている間にもバスは進み続け……そういえば運転手って誰なんだろうな?
俺達……シャドウミラーの面々を運ぶバスの運転をしているということは、その辺りについて情報を漏らさない相手が必要となるのだが……もしかしたら、雄英の教師の誰かか?
ともあれ、これからヴィラン連合の拠点を襲撃するというのに、誰も緊張した様子を見せたりはしないまま、バスは進み……やがて神奈川県横浜市の神野区に到着する。
「ここよ」
ミッドナイトの言葉と共に、バスがホテルの地下駐車場に入っていく。
「ホテルの部屋で顔合わせをするのか? 随分と念入りだな」
俺はてっきり今回の一件に参加するプロヒーローの事務所とかで顔合わせをすると思っていた。
まさか居酒屋とかファミレスとか、そういう場所でないのはさすがに予想出来ていたが。
「念の為よ。このホテルは公安の関係らしいから、情報が漏れる事はないわ。今回の件は可能な限り秘密裏に行動する必要があるから、そういう意味でもここはしっかりとする必要があるのよ」
「なるほど、公安の」
ミッドナイトの言葉に納得する。
公安の関係しているホテルとなれば、それこそ恐らく今回のように秘密裏に行動する時とか、そういう時に使われるホテルなのだろう。
あるいは他にも、プロヒーローではなく公安として動く時に拠点として使うのかもしれない。
……とはいえ、オールマイトからAFOの話について聞いた今となっては、公安にもAFOと繋がっている奴がいるんじゃないか? と思わないでもなかったが。
AFOはラスボスと称してもいいような存在だ。
そして雄英にも恐らく……教師か生徒かその辺りは分からないが、AFOの内通者がいるのは間違いない。
であれば、公安……プロヒーローを管理する立場にある公安という組織にAFOの手の者がいないとは到底思えない。
AFOにしてみれば、自分に敵対する相手の情報を、それこそOFAの継承者でもあるオールマイトの情報を入手するには、公安は絶好の場所だろうし。
もっとも、だからといって何の証拠もなくそういう風に言っても、公安としても素直にそれを認めて内通者を調べたりは……あ、でもシャドウミラーの俺からの要望だと言えば、公安委員長も調べないといけなくなるか?
これで実は公安委員長がOFAと繋がっていたらこっちとしてもどうしようもなかったりするのだが……まぁ、さすがにそれはないと思っておきたい。
「さて、行きましょう。他の人達も待ってる筈だから」
バスが停まると、ミッドナイトにそう促される。
それに従い、俺達もバスから下りる。
ちなみにムラタと桜咲の2人は普通に日本刀と太刀を持っており、もしここに警察官がいれば銃刀法違反で捕まってもおかしくはなかったりする。
公安からその手の許可証を貰っておいた方がいいかもしれないな。
欲を言えば、ねじれとかが持っているヒーロー免許の仮免許とか、そういうのがいいんだろうけど。
さすがに本物のヒーロー免許を寄越せとは、俺も言わない。
……いやまぁ、あるいは公安ならヒーロー免許を要求したら、あっさりとくれそうな気はするけど。
そんな風に思いつつ、俺達はエレベーターに乗り込む。
エレベーターの前には、いかにも公安ですといったような人物が1人いたが……あれ、多分俺達の護衛的な感じなんだろうな。
公安にしても、俺達が今回の一件に関わるという事で、それなりに気を遣っているのだろう。
もっとも、それを言うのならヴィラン連合の拠点に攻め込む者の中に公安からも人を派遣……いや、でも人数が多くなりすぎれば、それはそれで困るか。
エレベーターが動き出し、やがて7階に到着すると扉が開く。
ミッドナイトがエレベーターから下りたのを見ると、どうやらこの階層が目的地らしい。
ミッドナイトに続けて下りると、その案内に従ってとある部屋……宿泊する部屋ではなく、会議室っぽい場所に到着し、ミッドナイトがノックをする。
……雄英で俺達のいた部屋に来た時はノックしなかったと思うんだが……まぁ、その辺については俺がどうこう言うような事じゃないか。
ミッドナイト的にここは公の場であると、そう理解しているのだろう。
「失礼します。雄英のミッドナイトです。シャドウミラーの皆さんをお連れしました」
そう声を掛け、扉を開く。
「へぇ」
扉の向こう……会議室の中にいるプロヒーロー達を見て、俺は感心の声を出す。
これがミッドナイトがここまで慎重に行動していたのを見れば分かるように、結構な数のプロヒーローがそこにはいたからだ。
俺の知ってる面子では、オールマイトは予想通りにいるとして、No.2ヒーローのエンデヴァーもいる。
他にもリューキュウ、マウントレディ、ピクシーボブ、虎、ミルコといった俺と関係があったり、今回の林間合宿に関係する面々。
それに、予想通りというか、リューキュウの事務所にインターンで行っているねじれ……いや、ヒーローとして活動するのならネジレちゃんか。ネジレちゃんの姿もある。
後は……あ、ステインの時に遭遇したグラントリノもいるな。
直接知ってるのはそのくらいだ。
ただし、プロヒーローについての情報を集める中で知る事が出来た面々もいる。
No.4ヒーロー、ベストジーニストと、No.5ヒーローのエッジショト。
それとヴィランっぽいプロヒーローとかで名前が挙がることも多いギャングオルカもいる。
特にベストジーニストは、爆豪が職場体験で行ったプロヒーローだったと思う。
あれだ、あれ。爆豪が7:3分けの髪型になっていた奴。
「ぷっ」
爆豪の7:3分けを思い出し、思わず噴き出してしまう。
「ちょっ、アクセル。いきなり何を笑っているのよ」
明日菜が俺に顔を近づけ、注意してくる。
……まぁ、実際にいきなり噴き出した俺を見て、何人かが不思議そうな表情をしていたいりするしな。
せめもの救いは、俺が噴き出したのを見て不機嫌になった奴がいなかった……いや、エンデヴァーがちょっと不機嫌そうか?
ただ、エンデヴァーは体育祭の時や、ステインの時に色々とあったから、その経緯からして俺に好意的な感情は抱いていない。
意外だったのは、不機嫌そうな様子ではあるが、何故俺がここにいるのかといったような事を言ってこなかった事だろう。
俺達の事情を何も知らないエンデヴァーにとって、俺はあくまでも轟の、息子の同級生でしかない。
ヒーロー科、それも1年の中では最強かもしれないが、あくまでもそれは雄英の中での話だ。
そんな俺が、この場にこうして来るというのは普通に考えればエンデヴァーには到底受け入れられない事だろう。
だというのに俺を見てもこうして何も言わないのは……オールマイトから前もって何かを聞いていたからか?
それともよく見れば部屋の中には公安の目良の姿もあるので、あるいは目良から何かを聞いたのか、それともリューキュウ達から色々と話を聞いたのか。
ともあれ、この中で一番小難しい性格をしているエンデヴァーが黙っているという事もあってか、俺達と初めて会ったギャングオルカやベストジーニスト、エッジショット辺りは、特に何も言わなかった。
そんな訳で、俺達は大人しく会議室の中に入るのだった。