俺の目の前には、オールマイトの宿敵にして原作のラスボスだと予想出来る存在、AFOがいる。
そして俺の周囲には先程のバーにいたヴィラン連合の面々。
俺の後ろには事情を完全には理解していないだろう、爆豪。
更には少し離れた場所には緑谷やヤオモモを含め数人の気配。
幸いなことに、緑谷達の存在は今のところAFOには知られていないっぽい。
本当に、今はそれだけが不幸中の幸いだろう。
とはいえ、だからといってここで緑谷達が動けば、当然ながらAFOにもその存在を察知されるだろう。
……まぁ、AFOは表情を把握出来るような様子ではないので、実は緑谷達に気が付いているけど、雑魚だと思って認識していないだけといった可能性もあるが。
ただ、緑谷達はともかく、AFOに認識されている爆豪はどうしようもない。
いや、これは本当にどうしたものだろうな。
いっそ炎獣を生み出して……とも考えたが、雄英内部にスパイがいる以上、当然ながら俺が……雄英のヒーロー科のアクセル・アルマーが炎獣を使うというのは知られていると考えた方がいい。
だとすれば、ここで俺が炎獣を使えば俺を雄英のヒーロー科のアクセルと認識してもおかしくはない。
ましてや、今の俺の外見年齢は20代とはいえ、アクセル・アルマーであるのは間違いないのだから、10代の俺と今の俺は似通っているのは間違いない。
「さて、どうするんだい? この状況でどうにか出来ると思う程、君も気楽じゃないだろう?」
AFOがゆっくりといった様子で尋ねてくる。
AFOにしてみれば、俺は興味深くはあるが、警戒するべき相手ではないといったところか。
何しろ、AFOの様子を見る限りでは黒い泥を使った転移は指定した者だけが転移出来るという個性っぽい筈なのに、俺は爆豪の黒い泥と一緒に転移してきた。
これについては、俺の身体が魔力によって出来ているのが影響してのものだろうというのは間違いないのだろうが、当然ながらAFOはそれについて知らない。
また、ラグドールから奪った個性のサーチを使った場合、俺の情報を把握する事が出来ないらしい。
……目が見えるとは到底思えない今のAFOが、一体どうやってサーチの結果を認識してるのかは分からないが、AFOの個性を思えば今の状況でも周囲の様子を把握することが出来る個性があってもおかしくはない。
その辺りの詳細な理由は俺には分からないが、とにかくAFOが俺に興味を向けているのは間違いなく、そのお陰で爆豪の安全はある程度確保出来ていた。
「そうだな。お前とヴィラン連合の者達……倒すくらいなら問題はないと思うが?」
俺のその言葉に真っ先に反応したのは、シラタキだった。
「てめえ……先生と俺達を一緒にして、倒すくらいなら問題ないだと? ふざけた事を」
顔は相変わらず手の人形か何かで覆われているものの、その言葉を聞けばシラタキが怒り狂っているのは明らかだった。
にしても、先生か。
それは当然ながらAFOの事で、つまりシラタキはAFOの教え子といった事になるのだろう。
まぁ、何らかの関係があるとは予想していたので、そういう意味ではその辺がしっかりしたのは悪くなかったな。
……もっとも、先生というのはちょっと予想外だったが。
俺が知ってる限り……それはつまりオールマイトから聞いた限りだと、AFOが生徒を取るといったようなことはまずないと思ったんだが。
「そうか? 俺としては正直な気持ちを口にしたつもりだけどな」
実際、この場にいる相手であれば、どうとでも出来る自信がある。
ただし、炎獣を使えないのは痛いが。
そう思い……ふと、気が付く。
つまり、炎獣以外の何らかの手段でこっちの手数を増やせばいい訳だ。
そして俺には、その手段がある。
……そう、召喚魔法という手段が。
勿論、グリを召喚することは出来ない。
山奥や無人島といった場所ならともかく、神野区のように人の多い場所でグリを召喚しようものなら、間違いなく騒動になるだろう。
まぁ、ヒロアカ世界だけに、そういう個性だと言えばそれで納得される可能性もあったが。
ともあれ、巨体のグリが駄目なのは間違いないだろう。
なら、狛治は……となれば林間合宿の時に使っているのが痛い。
基本的には脳無の相手をさせており、開闢行動隊の面々には見られていない筈だったが、それだって絶対とは言わない。
それに開闢行動隊以外にも黒霧が動き回っていたので、狛治の姿が見られている可能性もゼロではないだろう。
多分大丈夫だとは思うが、それでも絶対と言えないのは、少し厄介だ。
もっとも、その黒霧は気絶したままで、今は脅威でも何でもないのだが。
そうなると……これ、か。
トン、と。
俺が自分の足下を蹴ったのを理解してか、AFOは不思議そうに首を傾げる。
シラタキも……そして他のヴィラン連合の中でもそれに気が付いている者達は訝しげにしていたのは間違いない。
「何をして……何?」
何をしているのかとでも尋ねようと思ったのだろうAFOだったが、その言葉が途中で止まったのは、俺が足下を……影を蹴った合図に反応し、影から刈り取る者が姿を現したからだろう。
「おいおいおいおい、お前……プロヒーローじゃなかったのかよ? どこからどう見てもヴィランだぜ」
シラタキの言葉に、他の面々も頷いている。
……それどころか、俺の後ろにいる爆豪までもが俺から少し距離を取ろうとしているのが気配で分かった。
いやまぁ、刈り取る者の雰囲気を思えば、そういう風に対処してもおかしくはない。
それこそ、爆豪にしてみればシラタキ達よりも間近で刈り取る者を見たのだから、このように反応するのも分からないでもなかった。
ちなみに離れた場所にいる緑谷達も、どうにかして刈り取る者を目にしたのか、動揺した気配を発していた。
あ、これちょっとミスったか?
そう思わないでもなかったが、幸いなことにAFOは周囲の様子を察知するよりも、目の前にいきなり現れた刈り取る者に意識を向けているのは明らかだった。
「君の影から出て来たそれ……そう、それ、としか表現出来ないけど、一体何なのかな? 君の個性によるものかい? しかし、爆豪君と一緒に転移してきたのが君の個性だと思っていたんだが」
なるほど、どうやらAFOは俺が黒い泥で爆豪と一緒に転移してきたのを、俺の個性だと思ったらしい。
サーチで見ても何も分からなかったから、結局そうして予想するしかなかったのだが。
けど……これは俺にとっても驚きというか、ラッキーというか、予想外の展開だな。
普通に考えれば、AFOのような結論になるのは無理もないのだから。
何しろこの世界に生きるAFOにとって、まさか異世界の存在について分からないというのは……うん、つまりこれは雄英の教師の中に内通者はいないと考えてもいいのかもしれないな。
俺は雄英の教師達の前で、異世界の存在についてとか、俺の事情を話した。
もし教師達の中にAFOの内通者がいた場合、当然ながらその情報を流しているだろう。
あるいは……本当にあるいはの話だが、教師の中に内通者がいても、AFOにその情報を流したところで信じて貰えないかと思った可能性もあるが。
ただ、AFOが俺についての情報を知らない時点で、教師の中に内通者がいる可能性はかなり減った。
となると……教師ではない以上、残るのは生徒か。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないな。……とはいえ、隠せるとは思えないから、好きなように認識すればいい」
個性かどうかというのはどちらとも取れる返事をしたが、実際には個性である可能性が高いと、そのように認識させる。
今更ながらAFOが嘘を見抜く個性とか、そういうのを持っていると困るしな。
この世界において厄介なのは、やはり個性だろう。
どんな個性でも絶対にないとは言い切れないので、だからこそ色々な個性について想定し、警戒する必要があった。
「だが、さっきも言ったように爆豪君と一緒にここに来たのは……それも、その存在を呼び出した? 作り出した? その影響かな?」
「俺は肯定も否定もしないから、好きなように判断したらいいんじゃないか?」
そう言うと、AFOは面白くなさそうな……不愉快そうな雰囲気を発する。
「そうやって隠しごとをされるのは面白くないな」
ビリ、と。
AFOから発せられる圧力が強まる。
……とはいえ、俺にしてみれば今までAFO程度どころか、それ以上の相手と戦ってきた事もあってか、この程度では全く効果はない。
だが、問題なのは俺ではなく爆豪だろう。
爆豪は間違いなく才能を持つ。
普段の言動が色々とアレだが、その才能と実力だけは間違いなく一級品なのだ。
だが……例え才能があったとしても、その才能の花がまだ咲いてなければ、意味がない。
具体的には、AFOの発する圧力は耐えられないのだ。
なお、ヴィラン連合のシラタキ達も同じくAFOの圧力に晒されているが、ヴィランとして生きてきた経験からか、あるいはAFOがある程度は圧力をコントロール出来るのか、その辺りは俺にも分からないものの、とにかくAFOの圧力に耐えているのは間違いなかった。
「刈り取る者」
そう名前を呼ぶと、刈り取る者は俺が指示を出さなくても爆豪の前に立ち、AFOから庇うようにする。
「爆豪、お前は刈り取る者……そいつの側から離れるな。お前が狙われるような事があると、守らないといけないからな」
「っだと……クソがっ、俺は……」
俺の言葉に爆豪はそう反発するが、AFOを前にしてはそれ以上何も言えないらしい。
あるいは、AFOの実力が分かるからこそ、爆豪には才能があると、そう思ってもいいのかもしれないな。
ともあれ、そんな訳で刈り取る者に爆豪を任せると、AFOに向かって1歩踏み出す。
「ほう」
AFOは1歩前に出た俺を見て、面白そうに言う。
シラタキは動く様子はない。
……気絶している黒霧以外のヴィランは俺の行動を見て何らかの動きをしようとしていたのだが、それはシラタキに止められていた。
この様子を見る限りだと、どうやらシラタキはAFOをかなり信頼しているらしい。
それこそ俺を相手にしても、AFOがやられるようなことはないと絶対的な信頼を抱いているのだろう。
もっとも、その気持ちも分からないではない。
AFOはオールマイトの宿敵だ。
シラタキがAFOについてどこまで知っているのかは、俺にも分からない。
AFOの全てを知っているのか、それとも大物ヴィランであるという事だけしか知らないのか。
ともあれ、AFOならどうとでもなると、そう信じているのはシラタキの態度から間違いないと思う。
……だからといって、その期待に応えるように俺が負けないといけない訳でもないんだが。
あるいはいっそ、ここでスライムを……そうも思ったが、爆豪や緑谷達がいる中でスライムを使って吸収するというのは止めておいた方がいいか。
もしそのような光景を緑谷に見られたとしたら、それこそ俺がヴィラン扱いされてもおかしくはない。
「お前がいわゆるラスボスなんだろう?」
「ふふっ、弔みたいな事を言うね」
AFOの言葉に疑問を抱いてシラタキを見るが、そんな俺の視線に何か反応をする様子はない。
AFOの言葉からすると、もしかしたらシラタキもゲームをやるのかもしれないな。
もっとも、今時ラスボスなんて言葉はゲームに限らず色々な場所で使われている。
それを考えれば、シラタキがゲームをやるとは限らなかったりする訳だが。
「言葉の意味は理解出来るが、俺を前にしてお前が……AFO程度が余裕を見せている余裕があると思っているのか?」
「おや、程度とは面白い事を言ってくれるね。そういう君こそ周囲をよく見たらどうだい? この場にいた君の仲間達がどうなっているのか、見れば分かるだろう? ……さて、それを見た上で聞こうか。君は本当に僕に……いや、僕程度の相手にして、どうにか出来ると思っているのかな?」
自信満々な様子のAFOの声。
いやまぁ、実際ここにいたプロヒーロー達を……今回の件で招集された、実力があると判断されたプロヒーロー達を一方的に蹂躙したのだから、それだけの実力があるのは理解出来る。
理解は出来るのだが……
「それがどうした?」
そう尋ね返す俺の言葉に、AFOは意外そうな様子を見せる。
自分の優位性を俺に示したのに、まさかこういった言葉が返ってくるとは思っていなかったのだろう。
「なるほど。どうやら自分の実力には自信があるようだね。後は、その実力が本物かどうか、見せて貰うとしよう」
「お前程度で俺の実力を把握出来るとは思わないが、それを望むなら……」
やってやろう。
そう言おうとしたところで、俺は動きを止める。
AFOはそんな俺の様子に訝しげな雰囲気を発するが……やがて、数瞬俺に遅れ、気が付く。
そして、顔を上げたAFOが見たのは、こちらに向かって落下してくるオールマイトの姿だった。