「ねぇ、アクセル。私達はもう本当にいいの?」
大型の車……それこそ全部で10人くらいは平気で乗れる、小型のバスに近い車で移動中、明日菜がそう聞いてくる。
ちなみに量産型Wだけは影のゲートを使ってさっさとホワイトスターに戻しておいた。
……それなら俺達も影のゲートを使って転移すればいいのでは? と思わないでもなかったが……まぁ、色々と事情があるのも間違いないんだよな。
明日菜の言葉に、他の面々……特にオウカと木乃香は俺に視線を向けてくる。
本当にあの場から……AFOと戦った場所からこうして帰ってもいいのかと、それとも自分達だけが帰ってもいいのかと、そのように思ってもおかしくはない。
何だかんだと、優しいところがある明日菜達にしてみれば、当然の事ではあるのか。
「怪我人そのものは皆無……って訳じゃないらしいから、俺達がいたら寧ろ邪魔になりそうだしな」
俺がAFOと話して時間稼ぎをしている間、プロヒーロー達によってあの周辺にいた住人達は全員避難させられたらしい。
……勿論、俺としても本当の意味で全員避難させることが出来たとは思ってはいない。
だが、それでも目良や塚内……つまり公安や警察がそのように言ってくる以上、こちらとしてもそれを受け入れるしかない。
いやまぁ、目良はともかく塚内は重傷者がいたら木乃香に頼ってもおかしくはないと思う。
塚内とはそこまで親しい訳ではないが、どうやらオールマイトとはかなり仲が良いみたいだしな。
それだけに、もし瓦礫の中に誰かがいて、しかも重傷を負っているようなら即座に木乃香に頼ってもおかしくはない。
だが、そういう事がなかった以上、その辺については俺達が心配するような事もないのだろう。
そう説明すると、明日菜は納得したような、出来ないような、微妙な表情を浮かべる。
「でも……何だか気が引けるのよね。後片付けとか、もう少し手伝ってくればよかった」
咸卦法を使う明日菜なら、それこそ増強系の個性という事で問題なく受け入れられるかもしれないとは思う。
思うのだが、しかしそれを込みで考えても、今の状況でシャドウミラーが表に出るのは避けた方がいい。
……もっとも、俺達がAFOと戦っている時にマスゴミのヘリが上空から生放送をしていたっぽいんだよな。
視聴率の為には何でもやるというのは、ある意味プロ意識はあるのかもしれないが……それによってこっちに被害が出るのは止めて欲しいところでもある。
実際、明日菜、木乃香、桜咲と量産型Wの後方組はともかく、AFOと直接戦っていたムラタ、イザーク、オウカ、荒垣、そして俺の姿はTVカメラに見事に捉えられていた筈だ。
うーん、10代じゃなくて20代の姿でいたのはナイス判断だな。
もっと言えば、ヘルメットとかを被って顔を完全に隠していれば、更に最善の状態になったと思うんだが……まぁ、その辺は今更の話だろう。
「後から応援に駆けつけたプロヒーロー達もいる。俺達がわざわざ手伝わなくても、専門家がいるんだから、そっちに任せた方がいいだろ」
プロヒーローの中には、多くの個性を持った者がいる。
その中には、災害現場でこそ輝く個性というのも相応にある。
だからこそ、AFOと戦った現場については俺達がどうこうする事はせず、専門家に任せておけばいい。
俺達が勝手に手を出せば、それによってかえって現場を混乱させてしまう可能性すらあったのだから。
そうならないようにするには、適材適所だろう。
「……完全に納得した訳じゃないけど、アクセルがそう言うなら納得しておく」
「それで、アクセル。俺達はこれからどうするのだ? もうホワイトスターに戻るのか?」
取りあえず明日菜との話が一段落したと判断したのか、イザークがそう聞いてくる。
「一応、目良から打ち上げをやっていってもいいって言われているから、どこかで打ち上げをしたいのならしてもいいけど……どうする? ただし、その場合はイザーク、オウカ、荒垣、ムラタは変装する必要があるけど」
そう言うと、イザークは嫌そうな表情を浮かべる。
イザークにとって、変装というのはあまり好ましいものではないのだろう。
ちなみに同じくガッツリとTVカメラに映し出された俺の場合は、雄英のヒーロー科に通っている姿に戻ればいいだけだ。
「私、この世界にちょっと興味があるのですけれど」
オウカのその言葉に、イザークは何かを言おうとしたところで口を止める。
何だかんだと、恋人には甘いんだよな、イザーク。
ともあれ、これでオウカは勿論、イザークも打ち上げに賛成、と。
「せっちゃん、せっちゃん、ウチも興味ある」
「……このちゃんがこう言うので、私達も打ち上げに賛成という事で」
「え? じゃあ、その、私も」
木乃香、桜咲、明日菜がそれぞれそう言い、そうなると残るのはムラタと荒垣だけだ。
「知らん」
ムラタの返事は、どういう意味なのかはよく分からなかったが、面倒だから打ち上げには参加しないという事なのだろう。
「好きにしろ」
荒垣の返事は……仕方がないから付き合ってやるといった感じか?
この辺りの反応については、それこそ俺がどうこう言ってもあまり意味はない。
打ち上げに参加するつもりがないのに、無理に参加させようとは思わないし。
「そうなると、6人だな。とはいえ、どこで打ち上げをやるかだが……どこかいい場所を知らないか?」
俺がそう聞いたのは、この車を運転している公安の人物。
目良から一体何を聞かされたのかは俺にも分からない。
分からないが、緊張した様子で車を運転しているのを見れば、こちらに敵対的といったようなことはないと思う。
「は、はい。その……今日の騒動を考えると、神野区から離れた場所まで移動する必要がありますが。それに、先程アクセル代表が言っていたように、変装も必要となりますので、その辺りを考えると……あるいは、どこかの店で打ち上げをするのではなく、テイクアウトしてどこか別の場所で打ち上げをした方がいいかもしれません」
「あ、それよ。私、アクセルの部屋に行ってみたい!」
運転手の言葉に真っ先に反応したのは、明日菜。
これは俺にとってもちょっと……いや、かなり予想外だったな。
とはいえ、言われてみればそれはそれでありか? とも思う。
イザークとオウカ、荒垣が変装をする必要はないので、手間を掛けずにすむ。
当然ながら打ち上げをやるにしても変装をして、いつ見つかるかどうか分からないといった状態で楽しむよりも、俺の部屋でそういうのの心配をしないようにして打ち上げをすればいい。
「それは俺もありだと思うけど、そうなると料理はどうするんだ? まぁ、俺が用意してもいいけど、それだと別に俺の部屋でわざわざ打ち上げをやる必要もないし、それこそホワイトスターに戻って打ち上げをした方がいいと思うんだが」
「う、そ、それは……」
「ちょっと待ってくれ。それならアクセルのマンションの1階にあるスーパーで惣菜や食材を買ってくるというのはどうだ?」
打ち上げをやる気がなかった様子の荒垣だったが、何故か急にそんな事を言い出す。
……いや、今日の昼食で1階のスーパーで買ってきた高級食材を使って料理したのがそれだけ楽しくて、またやりたいと思ったのか?
実際、荒垣に言わせれば1階のスーパーにある食材はどれも上質のもので、中にはそれこそ一流の料亭だったりレストランとかの目玉料理で使われてもおかしくはない、そんな食材もあるらしいしな。
とはいえ、荒垣もシャドウミラーに協力する上で相応の……結構な報酬を貰っているのは間違いない訳で、荒垣が住んでいるペルソナ世界でそういう高級食材を購入して料理をするくらいの事は普通に出来ると思うんだが。
あるいは、自分だけで料理をするのならそれは勿体なく、やはり人に食べて貰うのこそが嬉しく思うとか、そんな感じなのかもしれないな。
「アクセル君のマンションの1階にはスーパーがあるん?」
「ああ。それもその辺のスーパーじゃなくて、高級志向のスーパーだ。当然ながら、そこにある食材も普通のスーパーでは売っていないような物も多い」
「アクセル君、ウチ、買い物に行きたい」
「このちゃん……いえまぁ、話の流れからそうなると思ってはいましたが。……それに、このちゃんの作るお料理は美味しいですし」
荒垣の言葉に木乃香が買い物に行きたいと反応し、桜咲が仕方がないといった様子で言う。
木乃香のその張り切りようを見て思い出したが、木乃香は料理が得意だったな。
俺が最初にネギま世界に行った時だが、明日菜と一緒に暮らしていた木乃香は、朝食と夕食を作っていたらしいし。
明日菜は明日菜で、新聞配達とかやっていたらしいから、世話好きの木乃香と明日菜で最善の組み合わせだったのだろう。
……尚、現在木乃香とくっついた桜咲は、当時は護衛……というよりも、護衛(笑)といったような存在で、護衛なのに木乃香を遠くから見守っているだけだった。
「何か?」
女の勘か、あるいは半妖の勘か、それとも戦士の勘か。
とにかく桜咲が俺に鋭い視線を向け、聴いてくる。
「買い物には桜咲も来た方がいいかもしれないと思っただけだ」
そう、誤魔化しておく。
とはいえ、これは必ずしも全てが誤魔化す為の言葉という訳ではない。
初めて行くスーパー……それも高級志向のスーパーという事で、木乃香が興奮して買いすぎないようにして貰うといったストッパー役を期待している。
もっとも、何だかんだと木乃香には甘い桜咲だ。
木乃香がこれが欲しいと言えば、結局それに負けてしまいそうな気がするが……まぁ、その時はそれで構わない。
買いすぎたのなら、最悪空間倉庫に入れておけば食材とかでも悪くなるような事はないんだし。
であれば、やはり俺がどうこうといったことを気にする必要はないのかもしれないな。
「分かりました」
木乃香の買いすぎについては、桜咲も心配だったのだろう。
俺の言葉に異論を唱えることなく、素直に受け入れる。
「そんな訳で、話の流れ的に俺の部屋で打ち上げをするって事になっただけど……」
「なら、俺も残ろう」
「……ムラタ?」
ムラタの口から出た予想外の言葉に、戸惑う。
戸惑うが……すぐにその言葉の意味を理解した。
今日の日中、ムラタは俺の部屋でTVでやっている時代劇に夢中になっていたのを思い出したのだ。
ムラタにしてみれば、また時代劇を見たいと思ったのかもしれないが……
「ムラタには悪いが、多分時代劇はやっていないと思うぞ?」
「何だと?」
俺の言葉に、ムラタは不満そうな声を出す。
いや、だって……このヒロアカ世界の日本のNo.1ヒーローであるオールマイトと、AFOの戦い――俺達もがっつりそれに関わっているが――があったのだ。
当然ながら、臨時ニュースで時代劇とかも潰れている可能性はあった。
勿論、AFOについての詳細を情報として公安や警察がTV局に流すかどうか、分からない。
あるいはマスゴミではなくマスコミもきちんといて、自分の足でしっかりと調べてAFOの真実に辿り着くような奴がいる可能性もあったりするが……どうだろうな。
取りあえず俺が知ってる限りだと、このヒロアカ世界でそういう奴はいないんだよな。
「大きな事件とかがあれば、そういう風になるのはおかしな事じゃないだろう?」
そう言うと、ムラタは難しい表情を浮かべ……
「ホワイトスターに戻る」
結局打ち上げに参加する事なく、ホワイトスターに戻る事を選ぶのだった。
ムラタにしてみれば、あくまでもヒロアカ世界に残ろうと思ったのは、時代劇を見たいからだろう。
であれば、その時代劇が放映されないのなら、ヒロアカ世界に残る必要はないと判断してもおかしくはない。
「分かった。後でゲートまで送るよ。……他の面々はどうする?」
そう尋ねるも、荒垣は高級食材を使った料理を作れるという事で乗り気だし、それは木乃香も同様。そして木乃香が残る以上は桜咲も当然ながら残り、それは明日菜も同様だ。
オウカも俺の部屋での打ち上げを楽しみにしているので、その恋人のイザークも何も言わない。
「じゃあ、取りあえず俺のマンションに行って……あー、このままだとちょっと時間が掛かるな」
横浜から静岡までとなると、車で移動するにしてもそれなりに時間が掛かる。
そんな訳で……
「どこかの駐車場に停めてくれ。影のゲートを使って、マンションの近くまで転移するから」
「わ……分かりました」
運転手は恐る恐るといった様子で俺の言葉に頷く。
本来なら個性は公共の場で使ってはいけないのだが……まぁ、俺の場合は個性じゃなくて魔法の一種だし取りあえずそれで問題ないという事にしておく。
後で何か問題になっても、目良や公安に投げておけば大丈夫だろうし。
そんな訳で、車は人目に付かない場所まで移動すると、俺はそこで影のゲートを使って転移するのだった。