「この湯葉……いい湯葉やね。これを使って春巻き作ると美味しそうやわ」
「このちゃんの湯葉春巻き!? 買いましょう。絶対に買いましょう!」
スーパーの中で買い物をしている俺達だったが、予想外に木乃香が張り切っていた。
今もまた、湯葉を見つけると買い物かごに放り込む
にしても、湯葉の春巻きか。
普通の春巻きなら食べる機会はそれなりにあるが、湯葉の春巻きというのは……あれ? どこかで食べた事があったかも?
まぁ、多分超包子でだと思うけど。
四葉なら、湯葉の春巻きとかそういうのも普通に作れそうだし。
「ねぇ、この牛タンの厚切りって凄いんだけど……でもこれ、しっかりと中まで火が通るのかな?」
明日菜が持ってきたのは、牛タンのスライス。
それもただのスライスではなく、厚切りのスライスだ。
見た感じではかなり美味そうだったが、明日菜が言うように数cmの厚みがあり、焼いてもしっかりと中心まで火が通るとは思わない。
いやまぁ、こういう厚めの牛タンは中心部分まで焼かないで、半生に近い状態で食べるのかもしれないが……俺の好みとしては、牛タンはしっかりと火を通して食べたいんだよな。
勿論、これは好みの話である以上、半生の状態で食べる方が美味いという意見もあったりするのは分からないでもないが。
「取りあえず、明日菜の奴はもう数パックだな。じっくりと焼いてネギ塩レモンで食べるのはありだ」
「うわ、美味しそう。……じゃあ、買ってくるね」
そう言い、明日菜は肉コーナーに向かう。
「アクセル、これを頼む」
「……また、随分とらしくない……いや、寧ろらしいのか?」
荒垣が持ってきたのは、枝豆。
それもただの枝豆ではなく、枝付きの枝豆だ。
当然ながらこのスーパーに置かれている枝豆である以上、美味い枝豆なのだろう。
とはいえ、枝のままだと枝から取る手間が……と思ったんだが、荒垣が持ってきた枝豆には枝付きというのが強調されて書かれている。
それはつまり、枝付きの枝豆はかなり美味いという事なんだと思う。
ただ、打ち上げで枝豆……
「一応言っておくが、アルコールは禁止だぞ?」
明日菜達やイザーク、オウカも20歳を超えているので、アルコールを飲むのに問題はない。
というか、そもそもホワイトスターにおいてはシャドウミラーの法律が適用される訳で……そういえば、シャドウミラーの飲酒が可能になる年齢ってどうなってるんだろうな。
俺のイメージ的には20歳という感じだが……これだって、身体が成長したらという話なので、中にはもっと若くても何の問題もないというのもあったりする。
もっとも、それを言うのなら俺だってアルコールを飲める事にはなるんだが……俺の場合、アルコールに極端に弱いしな。
今まで何度かアルコールを飲んだ事はあるけど、色々と被害を出してきたし。
気が付いたら他の世界に行っていたとか、そういう事すらあったので、俺は基本的にアルコールは飲まないようにしている。
で、俺の家でもそんな俺に気を遣い……あるいは間違って俺がアルコールを飲まないようにする為に、アルコールが食卓に出る事は基本的にない。
勿論、それでも酒を飲みたい時とかはあるだろうから、そういう時は外に飲みに行くか、あるいは俺のいない場所で飲むか。
「分かっている。俺だってアクセルにアルコールを飲ませようなんて思わねえよ」
荒垣もどうやら俺に酒を飲ませるのが不味いというのは理解しているらしい。
なので、安心して……
「あ、ちょっと待ってくれ。これいいな」
荒垣の枝豆を買い物かごに入れると、鮮魚コーナーのところでエビフライが……それもちょっとやそっとのエビではなく、かなり巨大なエビフライが売っているのを発見する。
普通ならエビフライとかは惣菜コーナーとかにある筈だ。
だがこうして鮮魚コーナーにあるのは、それだけここで出してもいいと……惣菜コーナー以外で売っても問題ないという自信があってのものなのだろう。
……これが普通のスーパーなら、小さいエビに何度も衣付けをする事によって巨大なエビフライであるという風に見せたりするんだが、さすがにこのスーパーでそんな事はしないだろう。
ましてや、鮮魚コーナーで売っているエビフライとなれば……
「おい」
俺が鮮魚コーナーにあったエビフライを纏めて買い物かごに入れたのを見て、荒垣が思わずといった様子で突っ込んで来る。
まぁ、10パック以上も纏めてだし、荒垣がそう突っ込みたくなるのも分からないではない。
分からないではないが、それでもエビフライ好きの俺としてはここで退くようなつもりは一切ない。
「さて、他の食材も選んでいくぞ」
「……はぁ。まぁ、いいけどよ。金を払うのはアクセルなんだし」
自分の言葉がスルーされた荒垣だったが、やがて仕方がないなといった様子でそう言う。
ちなみに俺が持っている買い物かごは、正確には買い物かごのカートだ。
下と上にそれぞれ買い物かごを乗せられるようになっているような奴。
そんな買い物かごなだけに、エビフライは下のかごに入れておく。
その後も色々と食材を買い……ただし、ピザとかはさすがに作るのに時間が掛けるので、ベーカリーコーナーで買ったりして、レジで精算する。
「うわぁ……」
支払金額が2万オーバーしたのを見た木乃香の口から、そんな驚きの声が上がる。
木乃香も別に金に困ってはいないし、寧ろ実家はネギま世界の日本にある、関西呪術協会の長の1人娘……つまりお嬢様だ。
あれ? 今ってまだ木乃香の父親が関西呪術協会のトップだったか?
まぁ、多分トップのままだろう。
そんな訳で、木乃香も金に困るといった事はないと思うし、買い物で2万くらいの支払いはそう珍しくないと思うんだが。
ああ、でも服とかそういうのでならともかく、食料品だけで2万というのは結構珍しいのかもしれないな。
「ほら、買い終わったし、さっさと部屋に行くぞ。荒垣も結構厳しいみたいだし」
レジ袋は俺と荒垣が持っているのだが、荒垣は結構厳しそうな感じだ。
別に俺の方が特別に軽いとか、そういう訳じゃないんだが。
ただ、俺と荒垣では元々の身体能力が違う。
荒垣も相応に鍛えてはいるけど、だからといって買い物の荷物を大量に持つと、かなり厳しい。
いっそ空間倉庫を使えば楽になるのだが、それはそれで問題あるし。
「あ、うん。そやね」
木乃香が我に返ると、そのままエレベーターに乗って俺の部屋のある階層に向かう。
「……その、荒垣さん。私も少し持ちましょうか?」
大量に荷物を持つ荒垣を見て心配になったのだろう。
桜咲が荒垣に尋ねる。
「いらねえよ。アクセルを見ろ。俺よりも重い荷物を持っているのに、平気そうだろ」
「それはそうですけど……」
どうやら荒垣の様子を見ると、俺に対して微妙な対抗意識を持っているらしい。
いやまぁ、それは別にこっちとしても構わないんだけどな。
これがもっと遠い場所に向かう途中なら、桜咲に荷物を預けるように荒垣に言ったかもしれないが、俺の部屋まではそう遠くない。
そうこうしているうちに俺の部屋のある階に到着し、部屋に向かう。
特に何かがある訳でもなく部屋に到着して――エレベーターから部屋までで何かがある方がそもそも間違っているのだが――扉を開ける。
「入ってくれ。……荒垣は午前中も来たから勝手が分かっているだろうけど、明日菜達は普通の部屋だと思ってくれればいいから」
「う……アクセルの部屋って……家には入った事があるけど……その、お邪魔します」
少し戸惑った様子で明日菜が靴を脱ぎ、部屋に上がる。
木乃香と桜咲も同様に部屋に上がり……そうして俺達が入ると、即座にロボット掃除機が姿を現した。
うーん……さっきも思ったが、やっぱりこれってセキュリティの為のプログラムとかも入っているよな。
まぁ、俺にしてみれば部屋の安全を守れるという意味でも、悪くないのだが。
ただ、そのプログラムがどう影響したのか、優を妙に敵対視するのが……うん。
その原因となったのは、優が菓子クズとかを床に落としたりしていたのが原因っぽいいんだよな。
であれば、それはある意味優の自業自得。
ロボット掃除機が優を許す……といった表現が正しいのかどうかは分からないが、とにかくそんな感じになるのを期待しておこう。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
俺達が帰ってきたのを察して、リビングからオウカがこっちにやってくる。
そのオウカの後ろには当然ながらイザークの姿もあり……俺と荒垣の持っている荷物の量を見て驚いていた。
たった1度の打ち上げの為に、一体どれだけの食材を買ってきたのかと、そう疑問に思っているのだろう。
まぁ、いざとなったら食材にしろ料理にしろ、空間倉庫に入れておけばいつでも食べられるので、悪くなるとか、食べ残して捨てるとか、そういうのは気にしなくてもいいんだが。
「それなりの買い物になったのは間違いないな。……取りあえず買った食材やら料理やらは台所に置いておくよ。……それで、料理は誰がするんだ? 俺の部屋の台所はいわゆるシステムキッチンになっているけど、それでも一緒に料理出来る人数は、せいぜいが3人といったところだぞ?」
あくまでも俺の素人目の判断なので、もしかしたら俺には理解出来ないような突拍子もない方法でもっと多くの人数が一緒に料理を出来る方法とかがあるかもしれないけど。
「えっと……じゃあ、料理する人を決めよか。まずはウチと……荒垣さんでええんよな?」
「ああ、構わねえ」
木乃香の言葉に荒垣があっさりと頷く。
以前……俺が初めてペルソナ世界に行って、ニュクスの件で行動していた時、荒垣は自分が料理をやるのを隠していた。
いや、そこまで厳重に隠していたって訳ではないが、それでも表立ってそういうのを見せたりはしていなかったように思う。
まぁ、高校を卒業して――卒業したのか、中退なのか、その辺は分からないが――成長したという事なのかもしれないけど。
「あ、じゃあ私もいいですか?」
3人目として立候補したのは、オウカ。
まぁ、うん。まさに大和撫子といった感じのオウカなら、それなりに料理が出来てもおかしくはない。
いや、寧ろ納得すら出来てしまうくらいだ。
「じゃあ、その3人で。残りは……リビングで待つってことでいいな?」
そう確認すると、残りの面々……イザーク、明日菜、桜咲の3人はそれぞれ頷く。
実際、残り面子が料理を出来る……出来る……イザーク辺りなら、それなりに料理を出来そうな気がするな。
コーディネイターだけに。
ただ、もし料理が出来たとしても、今この場で前に出る必要はないと判断したのだろう。
……あるいは、オウカと一緒に仲良く2人で料理というシチュエーションなら、また少し違ったかもしれないけど。
「アクセル」
「っ!? ……どうした?」
イザークのことを考えていると、不意にそのイザークから声を掛けられる。
あれ、これもしかして俺の考えを読んだとか、そういうのじゃないよな?
少しだけそう不安に思いつつも、取りあえず動揺を表情に出さないようにしてイザークに聞き返す。
「お前の言う通りだった。お前達が来るまで待っている間TVを見ていたんだが、どれも臨時ニュースばかりだった。……中には雄英の教師の記者会見がどうとかもあったが、これは何だ?」
「ああ、記者会見か。それは俺達がやった拠点の襲撃がヴィラン連合に知られないようにする為の陽動だよ。……実際、まさかあのタイミングで襲撃してくるとは、ヴィラン連合も思っていなかったらしいしな」
あるいはAFOなら気が付いていたかもしれないが。
実際、脳無の生産設備がある方を襲った面々は、龍子や優も含めてあっさりとやられてしまった訳だし。
いやまぁ、単純にAFOという相手が悪かっただけと言われれば、それまでだが。
ともあれ、相澤達の記者会見がいい陽動になったのは間違いない。
もっとも、この手の策は1度使うと次からは警戒されるので、そう簡単に2度目は使えないが。
敢えて同じ手を使うとすれば、それこそまたある程度時間が経ってからになるが……そもそも、雄英の教師が記者会見をやるような機会はそうないしな。
「なるほどな。……マスコミの中に、それに怒ってキーキー言ってるのがいたが、いいのか?」
「あー……」
イザークが何を言いたいのかは、すぐに予想出来た。
多分マスゴミの中で事情に気が付いた者達が、雄英の対応に問題があると、騒いでいたのだろう。
そんなんだから、マスゴミと言われるんだよな。
あるいは自分達が陽動に利用されたと思い、それが不愉快で我慢出来なかったのかもしれない。
「まぁ、このヒロアカ世界のマスコミはマスゴミって言われる程に程度の低い連中が多いから、その辺はあまり気にしない方がいい」
あまりに度がすぎるような奴……マスコミの皮を被った活動家の類は、それこそネットで玩具にされるくらいだ。
そういう意味では、このヒロアカ世界のマスゴミは楽しい玩具なのかもしれなかったが。