「さて、ヴィラン連合についてはこれでいいとして、AFOだが……どう思った?」
「……強かった。それは間違いない」
荒垣が黒酢の酢豚を食べつつ、言う。
その言葉には誰も異論がないらしく、他の面々も頷いていた。
明日菜、桜咲、木乃香の3人はAFOと戦っていないし、実際にその顔を見たりもしていなかったので、特に何も言ったりはしなかったが。
「けど……強いのは強かったが、だからといって手が出ないって程じゃなかったぞ?」
イザークの言葉に、荒垣は反論せずに頷く。
「そうだな。オールマイトだったか? そういう戦力がいたし、他にもプロヒーローがいたから、かなり楽に倒せたとは思う。アクセル、一応聞いておくが、あいつがこの世界で最強の敵だと思っていいのか?」
「難しいところだ。いや、現時点において最強の敵、いわゆるラスボスと表現してもいいのは間違いない。間違いないが……同時に、そのラスボスが万全の状態でなかったというのも、また事実だしな」
以前、オールマイトとの戦いによって、AFOは瀕死の重傷を負った。
ただ、さすがラスボスと言うべきか、そのような状態であっても死なずに生き延びた訳だ。
ただし、それでもかなりボロボロの状態で何とか生きていたというのが、正確だろう。
もっともそれはオールマイトも同様で、胃を完全に摘出し、肺もかなりの部分が摘出されており、それ以外にも身体はボロボロな状態だった。
だが、幸いなことに俺達シャドウミラーの存在があり、それによってオールマイトはレモンの手で治療をされた。
その結果として、オールマイトは万全の状態……とは言えないものの、それでもAFOと比べるとかなりマシな状態で戦えた訳で、これについてはAFOにとっても不運だったのは間違いない。
俺を含めてシャドウミラーが存在せず、オールマイトの怪我についても完治していないままだったら、あるいはAFOにも勝ち目はあったかもしれない。
とはいえ、結局それでも原作的な流れを考えればオールマイトに負けていた可能性はあったが。
「ムラタだったら、万全な状態で戦ってみたかったと言ってもおかしくはないな」
イザークの言葉に、確かにと納得する。
ムラタの性格を考えれば、普通にそういうことをしてもおかしくはないだろうし。
そういう意味では、いっそムラタではなく五飛を連れてくればよかったんだよな。
もっとも、昨日の時点では五飛もヒロアカ世界に来る予定だったのだが、W世界の方で何かが起きたって事でW世界に向かって結局来られたなかったんだよな。
具体的に何が起きたのかは、分からないが。
W世界において、何らかの騒動が起きるとは……うーん、どうだろうな。
一応現在のW世界で何か大きな問題が起きるような要素はないと思うんだが。
……まさか、ヒイロ、デュオ、カトル、トロワ辺りが何かをしたとか、そういう事はないよな?
何か余程の事でもない限りそういうのはあってもおかしくはないけど。
ただ、具体的に何が起きたのかと言われると、その辺はやっぱり分からない。
であれば、ここで俺が考えても仕方がないだろう。
「ムラタは結構AFOの身体を斬っていたけどな。……あるいは中途半端にしか斬る事が出来なかったので、納得出来なかったとか、そういう感じなのかもしれないな」
そう言うと、木乃香が微妙に眉を顰める。
無理もないか。木乃香は基本的に癒やす存在だ。
そうである以上、やはり傷を付けるというのはあまり好まないのだろう。
もっとも、その対象がAFOであるとすれば、そこまで優しくする必要があるとは思えなかったが。
そう考えると、木乃香を連れてこない方がよかったのか?
そうも思ったが、明日菜から少し聞いた話によると、黒い泥を使った転移で脳無が大量に襲撃してきた時、脳無によって怪我をした者達は木乃香の魔法によって即座に回復し、また脳無との戦いに戻っていったらしい。
つまり、木乃香がいなかったら脳無の群れに勝てなかった……とまではいかないが、それでもヒーロー側の被害がもっと大きくなっていたのは間違いない訳だ。
そう考えると、やっぱり木乃香を連れてきた俺の行動は正しかったんだと思う。
「とにかく、AFOとやらをアクセル達が倒したのは間違いないんでしょう? なら、この世界での騒動はもう解決した……そう思っていいのかしら?」
明日菜の言葉に、どうだろうなと思う。
「AFOは倒して捕らえたが、ヴィラン連合はまだ普通に存在してるしな。シラタキを含めたヴィラン連合を倒すなり捕らえるなりしないと、こっちとしても完全に安心は出来ないと思うぞ」
というか、多分今日の騒動について考えると、AFOよりもシラタキがこの世界の……原作的な意味で本当のラスボスなんだろうし。
俺が今日の戦闘を本当の意味でラストバトルではないと、そう考えたのがその辺りが理由なんだし。
「そうなると、まだ戦いは終わらない訳ね」
明日菜のその言葉に、何となく……本当に何となくだが、俺達の戦いはこれからだ! ENDというのを思い浮かべる。
俺が原作のある世界に行くというのを考えると、必ずしも完結している作品の原作の世界に行くとは限らない。
それこそ途中で打ち切りになった原作の世界に行くという可能性も否定は出来ないのだから。
何が難しいかって、俺にその世界が打ち切りになった原作の世界かどうか分からないって事だよな。
あるいはペルソナ世界でニュクスによって原作知識が破壊されていなければ、その原作知識によってその世界が打ち切りになった原作の世界かどうかというのが分かったかもしれないが……生憎と、今となってはその辺はどうしようもない。
このヒロアカ世界についても、出来れば打ち切りになった世界じゃなくて、無事に完結している原作の世界であって欲しいんだが。
「量産型Wの貸し出しについての検討を早めるように言っておくか」
もしヴィラン連合と戦う場合、これまでの経験からするとヴィラン連合は脳無を大量に送ってくる筈だ。
勿論、AFOとの戦いによって脳無の生産設備は破壊されたが、脳無の生産設備が今日の1ヶ所だけとは限らない訳で。
……というか、まだどこかに生産設備があると思った方がいいと思う。
その辺りについては、もしあったとしてもどうやって見つけるのかといった問題があるけど。
「そうだな。そうした方がいい。母上は忙しくなるかもしれないが、脳無という存在を思えば、手は打って置いた方がいい」
脳無と量産型W。
似て非なる存在と言うべき存在だが、その辺については上手い具合にどうにかする方法を考えないとな。
何も知らない者にしてみれば、脳無と量産型Wは同じと思われてもおかしくはないし。
雄英の教師に説明した時もそんな風に言われた覚えがある。
プレゼント・マイクだったか? あるいは他の教師だったか……その辺はちょっと忘れたけど。
ただ、公安はともかく警察に貸し出すような事になったら、その辺については本当にしっかりとさせておく必要がある。
その辺についても、エザリアに……いや、レモンの方にも話を回しておく必要があるな。
そんな風に話をしながら打ち上げを楽しみ……やがて、作ったり買ったりした料理もなくなる。
「よし、じゃあそろそろ打ち上げも終わって、ホワイトスターに帰る……ん?」
ホワイトスターに帰るか。
そう言おうとしたところで、不意にスマホに着信がある。
いや、AFOとの戦いがあったので、LINにも結構書き込みがあったし、俺もそれなりに書き込んだりしていたんだが、この着信は電話だな。
「悪い、ちょっと電話だ」
そう断って、部屋に向かう。
別にリビングでそのまま電話に出てもいいんだが、リビングは今もまだそれなりにうるさい。
であれば、静かな場所で電話に出た方がいい。
そんな訳で部屋に入ると、スマホを見る。
ヤオモモ?
まさかこのタイミングでヤオモモから電話が掛かってくるとは思わなかった。
というか、多分……本当に多分の話なんだが、ヤオモモは緑谷達と一緒に叱られているとばかり思っていた。
何しろ、緑谷、飯田、切島、轟、ヤオモモの5人は脳無の生産設備のある場所にいたしな。
というか、今更……本当に今更の話なんだが、本当に緑谷達は何をしにあそこにいたんだろうな。
もし偶然……偶然? まぁ、限りなく低い可能性だが、偶然あそこにいたというだけなら、もしかしたらそこまで怒られるような事はないかもしれい。
実際、緑谷達は仮装……仮装? うん、まぁ、多分仮装でいいんだろうけど、とにかく仮装していたしな。
ただ、緑谷の性格を考えると、爆豪が連れ去られたのに緑谷が仮装をして遊ぶというのは想像出来ない。
……その辺、ヤオモモからしっかりと聞けるかもしれないな。
そんな風に思いつつ、電話に出る。
「もしもし?」
『アクセルさん、急に電話をしてしまって申し訳ありません』
「いや、ヤオモモからの電話ならいつでも歓迎だけどな。……で、どうしたんだ?」
『……いえ、今TVでオールマイトの特番をやっているのはご存じですか?』
「ご存じですかも何も、どのTV局でもそれしかやってないしな。ネットの方でもその件で凄くなってるし。……オールマイト最強オールマイト最強オールマイト最強オールマイト最強って感じの書き込みが多いのは、多分緑谷みたいなオールマイトファンがそれだけ多いって事の証だろうな」
『そうですね。ただ……その、変な事を聞くようですが、アクセルさんはその騒動になった現場にいませんでしたよね?』
「……」
ヤオモモの問いに、一瞬言葉に詰まる。
実際には当然のように現場にいたし、そもそもの話ヤオモモ達を影のゲートで明日菜達のいる場所まで転移させたのは俺だ。
だが、あの時は20代の外見だったので、見破られるような事はまずないと思うんだが。
「何で急にそんな事を?」
『いえ、その……ちょっと気になったので』
おや?
てっきり俺と似た相手を見たからとか、そんな風に言われるのかと思ったんだが、どうやら違ったらしい。
あるいはプロヒーロー達から、ヤオモモ達があの現場にいたというのは秘密にするように言われているのかもしれないな。
「そうか。そういう事を聞いてくるんだから、もしかしたらヤオモモもあの現場にいたのかもしれないと思ったんだけどな。ヤオモモなら、まだヒーロー科の生徒であっても普通に呼ばれそうだし」
これは冗談でも何でもなく、事実だ。
ヤオモモの個性の創造は、あらゆる物を作れる。
いやまぁ、その作れるのレベルはちょっとやそっとで作れるようなものじゃないんだが、ヤオモモの場合は普通にその辺りをクリアしてくるんだよな。
なので、AFOと戦った場所でもしまだ避難出来ていなかった人……あるいは瓦礫の撤去とかそういうのをやっている時に怪我をしたような人物がいた時、治療機器をすぐにでも作れるというのは大きい。
勿論、ヤオモモに頼らず治療機器そのものを運び込むといった選択肢もあるが、そういう時はどのような機器が必要なのか分からないから、可能な限り多く持っていく必要がある。
そうなると当然ながら荷物になる訳で……だからこそ、ヤオモモがいればその辺についてどうとでもなるから、非常に便利なんだよな。
もっとも、ヤオモモはあくまでもまだヒーロー科の生徒でプロヒーローじゃないし、免許は勿論、仮免にも受かっていない。
ましてや、ヤオモモは名家である八百万家の令嬢でもあるし、まさかAFOのいる場所に連れていくというのは、難しいだろう。
『え? そ、そうですね。もしかしたらそういう可能性もあったかもしれません』
どうやらその辺については想像もしていなかったのか、若干驚いた様子を見せる。
あれ? これってもしかしてヒロアカ世界では普通じゃない考え方なのか?
うーん……何だかその可能性は十分にありそうだな。
何だかんだと、このヒロアカ世界は生徒の事をしっかりと子供として扱っているように思えるし。
「まぁ、そういう事じゃなかったのならよかったよ。TVで見る限りだと、神野区の被害はかなり大きいみたいだし。そこにヤオモモがいたら、一体どういう被害に遭っていたのか、分からないしな」
そう言う俺の言葉に、ヤオモモは少しだけ息を呑む。
ヤオモモが実際どこまで神野区……しかもAFOと戦った場所について把握しているのかは、俺には分からない。
分からないが、それでももし知っていれば、もしヤオモモがあのままあそこにいたらどうなっていたのか……それを想像するのは難しくはない筈だった。
『その……ありがとうございます、アクセルさん』
「いや別に礼を言われるような事じゃないだろ?」
『いえ、それでもお礼を言わせて下さい』
「……まぁ、ヤオモモがそれでいいのならいいけど」
『では、そろそろ失礼しますわね。……ああ、そうだ。1つ聞いて欲しい事があるのですが』
「何だ?」
『実は今日、危ないところを助けて貰ったのですが、その人が私の事をヤオモモと呼んだのです』
「え……」
『それだけです。では、おやすみなさい』
そう言い、ヤオモモが電話を切るが……あれ? もしかしてこれ、俺やらかしてしまったか? と思うのだった。