「アクセル? どうしたの?」
部屋から出てリビングに戻ると、明日菜が俺の様子に気が付いたのか、そう尋ねてくる。
あれ? ヤオモモの件、そんなに顔に出ていたか?
そう思いつつ俺は口を開く。
「いや、何でもない。ただ、ちょっと……ほら、AFOと戦っている時、俺が一度転移で戻ってきただろ? 何人かを連れて」
「ええ、あったわね」
「その中の1人から連絡があって……もしかしたら、本当にもしかしたらだが、あの時の俺がアクセル・アルマーだと気が付かれていたかもしれない」
「……え? 大丈夫なの、それ?」
俺の言葉に、明日菜が大丈夫なのかといった視線を向けてくる。
いや、明日菜以外の他の面々も俺にそんな視線を向けてきていた。
「まぁ、言い触らしたりするような奴じゃないから、そういう意味では大丈夫だ」
「アクセルがそう言うのなら信じるけど……でも、何かあってからだと遅いわよ?」
「とてもではないが明日菜とは思えない言葉だな」
「あのね……アクセルは私を一体何だと思ってるのかしら?」
話を誤魔化す為という訳ではなかったが、明日菜は上手い具合に話題を変えてくれた。
もっとも、明日菜にとってももしかしたらこの話を続けたくなかっただけなのかもしれないが。
「心配するなって。それに……万が一、本当に万が一にもヤオモモが俺について公表したとしても、その時はその時でそこまで問題はなかったりするしな」
「ヤオモモって……変な名前の人ね」
「愛称だよ、愛称。……とにかく、もしヤオモモが俺がアクセル・アルマーだと……シャドウミラーの代表であると公表しても、別に俺はそこまで困らないしな」
いやまぁ、そうなると雄英に通い続けるといったことは不可能になるので、そういう意味では大変な状況となるのは間違いない。
だが、それは……俺が雄英に通い続けたいというのは、あくまでも俺の要望であって、それも絶対にそうしたいからという訳ではない。
この世界の原作主人公である緑谷がいるから、その側にいればAFO関係やヴィラン連合関係で何かあった時も、即座に対応出来るからというのが主な理由だ。
純粋に高校生活を楽しんでいるというのも大きいが。
けど、それらも絶対という訳ではない以上、本当に最悪の場合は雄英に通うのを止めてもいいのだ。
勿論、俺としてはまだ高校生活を楽しみたいが。
何だかんだと、こういう学校生活って楽しいんだよな。
……まぁ、ヒーロー科の学校生活なので、一般的な意味での高校生活ではないが。
それでも高校生活を楽しめているのは間違いなかったりする。
「俺の話はともかく、料理もそろそろなくなってきたし、打ち上げはそろそろ終わるか。ほら、ホワイトスターに戻るぞ」
「戻るって、一体どうするんだ? やっぱり俺達だけが最初に転移するのか?」
木乃香やオウカが食器を洗う、
俺達も食器とかそういうのを運んで一段落した後で、そうイザークが聞いてくる。
「あー……どうしたものだろうな。いや、もう面倒だし、全員一気にゲートまで移動して、ホワイトスターに戻るか」
マンションの防犯カメラの映像を調べれば、俺達が部屋に入ったまま外に出ていないのに、いつの間にか姿を消していたという事になって騒ぎになってもおかしくはないが、今回の一件を考えると、もしかしたらそう遠くないうちにこの部屋を引き払うといったようなことになってもおかしくない。
それなりに快適な部屋だったし、マンションのサービスも……相応に金は掛かるが、それでも便利だったのは間違いない。
そういう意味では、出来ればまだこの部屋にいてもいいと思うんだが、どうだろうな。
「俺にとっては、そっちの方が楽でいいけどな」
荒垣にしてみれば、もししっかりとアリバイとかその辺をしっかりとするとなれば、腹一杯の今の状況で一度マンションの外に出て、それから影のゲートを使う必要がある。
それそのものはそこまで手間ではないのだが、それでもやらなくていいとなれば、そちらの方がいいと、そのように思ってもおかしくはない。
実際、俺だってそっちの方がいいのなら、そうしたいしな。
「じゃあ、そうするか。……まぁ、何かあっても公安や警察がどうにかしてくれるだろうし」
そう俺が言うと他の面々も異論はなく、木乃香やオウカの片付けが終わるまでゆっくりとする。
何となくTVを見てみるが……やはり、AFOとの戦いの一件が未だに臨時ニュースで流れていた。
もっとも、AFOといったような名称は今のところ出ていない。
マスゴミ側でもまだその辺の情報を掴んでいないのか、それとも公安や警察、あるいは政府からAFOの名前は出さないようにと指示されているのか、
その辺は、生憎と俺にも分からなかったが。
もっとも、何となく前者ではないかとは思うが。
特に理由があってものではなく、マスゴミにAFOの情報を入手出来るとは思えないからだ。
それこそもしマスゴミがAFOについての情報を手に入れれば、これ幸いとTV番組で流すだろう。
……あ、それとも雄英にAFOの手の者がいるように、マスゴミの中にもAFOと繋がっている奴がいてもおかしくはないのか。
いや、むしろマスゴミにAFOの手の者がいるのを前提として考えた方がいい。
あるいはこのヒロアカ世界のマスコミがマスゴミになったのは、AFOの手の者による誘導……というのはちょっと考えすぎか?
まぁ、今はそこまで深く考える必要はないか。
マスゴミがマスゴミなのは間違いないんだし。
「おい、アクセル? こいつら本気で言ってるのか?」
荒垣の言葉にTVを見ると……
『やはり周囲に無駄に被害を出しているのは、プロヒーローとして未熟だからとしか言えませんね』
『ですが、オールマイトやエンデヴァーという、No.1、No.2のヒーローが揃って、その上で他にも多数のプロヒーローがいての結果ですよ? 中には私も知らないプロヒーローも何人かいましたが』
『それだけの戦力を集めてもこのように周囲に大きな被害がでるというのは、やはり未熟だからとしか言いようがありません。私が以前から言っているように、雄英の指導カリキュラムに私がアドバイスした内容を組み込めば、このような事もなくなる筈です』
コメンテーターがそんな事を言ってるのが聞こえてきた。
というか、このコメンテーター……以前に自分が雄英の経営に参加していないからとか何とか言っていた奴じゃないか?
まぁ、経営に参加させろというよりは、カリキュラムに口を出させろという方がまだ可能性はあるのかもしれないが……
「気にするな。このヒロアカ世界にはこういう連中が多い。……朝倉のもっと酷くなった奴と思えばいい」
言葉の後半は、荒垣ではなく、こちらも不愉快そうな明日菜に向けて言う。
朝倉と言われ、明日菜も納得した様子を見せる。
明日菜にとって、朝倉というのはスピーカー的な役割を果たしている存在という認識が強いのだろう。
とはいえ、あのコメンテーターは自分の利益になるように大きな声で言ってるだけだ。
そういう点では、朝倉よりも数段劣る。
……もっとも、そうして声の大きい人物だからこそ目立ち、コメンテーターとして人気なのかもしれないが。
「さて、とにかくそんな訳で……準備が出来たらとっととホワイトスターに帰るぞ」
下らない事を言っているコメンテーターの顔が映っているTVを消し、そう言う。
ちょうどそのタイミングで木乃香とオウカも戻ってきたが……
「なぁ、なぁ。アクセル君。洗った食器はシンクに置いてきたんやけど、そのままでいいん?」
木乃香の言葉にシンクを見ると、洗った食器を置いておく……それでいて、下に落ちた水滴は自動的に台所に落ちるようになっている入れ物を見る。
「まぁ、問題はないんじゃないか? 別にここに来るのがこれで最後って訳じゃないし。次に来た時に食器棚に入れればいいだけだしな」
あるいは食器棚ではなく、直接そこから次の料理の皿に使うというのもありだろうし。
……まぁ、インスタントラーメンとかなら、片手鍋とかから直接食べるのもありだが。
何気にこのヒロアカ世界、インスタントラーメンとかカレーとか、プロヒーローとのコラボ作品が多かったりする。
プロヒーローが大量にいるんだし、そうなってもしょうがないか。
優だって、ソースとのコラボ……あれ? いや、優とソースはコラボじゃなくてCMだったか? とにかくそんな感じでかなりのコラボ商品があるのは間違いない。
インスタントラーメンとかも、日本だけあって普通に美味いしな。
もっとも、美味いのはともかく片手鍋から直接食べるというのは賛否両論あったりするが……俺の場合はそんなに悪くないと思う。
作った片手鍋から直接食べるから、洗う食器もその分少なくてすむし。
「よし、じゃあ行くぞ」
そう言うと、全員が集まってくる。
勿論、靴は玄関から持ってきて、手に持ったままだ。
さすがに土足で部屋の中に上がったりしたら、ロボット掃除機に敵対認定されかねないし。
ともあれそんな訳で、俺は影のゲートを使って雄英の敷地内にあるゲートの近くに出る。
ゲートの側に出ると、すぐに靴を履く。
「マスゴミ……マスコミが来たりはしなかったか?」
ゲートの護衛役の量産型Wに尋ねると、量産型Wはすぐに頷く。
「はい。誰も近付いていません」
量産型Wのその言葉に、取りあえず問題はないかと安堵する。
一応量産型Wがいるから、もしマスゴミの連中がこのゲートを見つけても、入ってくる事は不可能だ。
いや、場合によっては強引に入って来ようとするかもしれないが、その時はそれこそ量産型Wが力ずくで止めるだろう。
……もっとも、マスゴミの場合は知る権利を盾にしたり、あるいは自分達が強引に入ろうとしたのに、それを止めた量産型Wの映像だけを流したり、上手く切り貼りしたりして、自分達に有利な状況でニュースで流すとか、普通にしそうだけど。
もし本気でそのような事をした場合は、それこそルリやラピス、あるいは長谷川の力を借りて、責任者達の後ろ暗い事だったり、プライベートな情報をネットに拡散してみても面白いかもしれないな。
「分かった。なら、今までと同じくゲートを守れ。それと俺達をホワイトスターに送ってくれ」
「了解しました」
こうして、俺は他の面々と共にホワイトスターに戻るのだった。
「あら、お帰りアクセル。ヴィラン連合の拠点は無事に制圧出来たみたいね。もっとも、その後で大きな戦いがあったみたいだけど」
リビングに入ると既に夕食は終わっており、それぞれが自由な時間を楽しんでいた。
そんな中で、真っ先に俺が帰ってきたのに気が付いたのは、マーベル。
「よく知ってるな……って、ゲートが繋がったんだし、ヒロアカ世界のTV番組も見られるのか。けど、ヒロアカ世界のTV番組は……正直、いまいちだと思わないか?」
「そうですね。自らの欲望を表に出す者が多いかと。……まさに、ガロウ・ランの集団と言ってもいいかもしれません」
俺とマーベルの会話に、シーラがそう割り込んできた。
とはいえ……ガロウ・ランか。なるほど、シーラの言葉は決して間違ってはいない。
ガロウ・ランというのは、ダンバイン世界のバイストン・ウェルにおいて悪党と呼ぶべき存在だ。
そういう意味では、俺が見たコメンテーターとかは、表向き綺麗な皮を被ってはいるものの、ガロウ・ランだと言われれば普通に納得出来る。
もっとも、その辺りの詳細を言われた時、本人達がそれに納得するかどうかは別の話だったりするが。
「本人達に対して、そういう風に言ってやりたいとは思うよ」
「それより、アクセル。明日すぐにヒロアカ世界に戻る必要があるの?」
そう尋ねてくるレモンの言葉に、どうだろうなと思う。
オールマイトや校長、相澤、他にも公安の目良とか、色々と打ち合わせをする必要があるのは間違いない。
それに……今日電話をしてきた、ヤオモモの件もあるしな。
その辺りの状況を考えると、明日すぐにという訳ではないが、一度ヒロアカ世界に顔を出した方がいいのは間違いない。
シャドウミラーの件についていつ発表するのかとか、その件についても話す必要があるし。
「明日すぐにって訳じゃないが、午前中には……遅くても午後には一度ヒロアカ世界に顔を出しておく必要があるだろうな」
「なるほど。じゃあ、午前中……それも早朝とまではいかないけど、午前9時くらいにちょっと付き合って貰える? アクセルに色々と試して貰いたい事があるの。ちょっとしたサプライズね」
「……いや、ここでそういう風に言ったら、そもそもサプライズじゃないんじゃないか? まぁ、俺は構わないけど」
レモンが何を考えているのかは、俺にも分からない。
ただ、こうして言ってくるという事は何かがあるのは間違いなく、今までの経験からすると決して悪い事ではない筈だった。