ゲートを使い、オルフェンズ世界にやってくる。
オルフェンズ世界においてゲートが設置されている、周囲には俺がシャドウミラーとして活動していた際に用意された建物……というか、基地だったのだが、久しぶり、本当に久しぶりに来てみると、街……というのは少し大袈裟かもしれないが、かなり発展していた。
まぁ、以前……俺がオルフェンズ世界にマーベル達と来た時とは違い、現在の火星は植民地、それも既に出涸らしに近い扱いとなったような植民地の類ではない。
ギャラルホルンの内紛を終えたことにより、今の火星は歴とした国だ。
ある意味、まだ複数の国がある地球と違い、火星は1つに纏まっている。
ワン・アースならぬ、ワン・マーズってところか?
そんな火星の中で重要なのは、火星ハーフメタルもそうだが、やはりシャドウミラーの本拠地であるホワイトスターに行けるゲートが設置されている事だろう。
丁度俺が今こうして転移してきたように。
とはいえ、ゲートの近くにこうして街を作っても、ホワイトスターに行ける人物はオルフェンズ世界の許可……具体的には火星政府の許可が必要だ。
もしその許可された人物がホワイトスターで問題を起こした場合、その責任はオルフェンズ世界全体に及ぶ。
その為、火星政府としても気軽に許可は出せない。
……火星の大統領となったのはクーデリアで、そのクーデリアは俺の恋人の1人でもある。
だが、だからといってオルフェンズ世界の人間がホワイトスターで問題を起こしたからといって、配慮するつもりはない。
そういう意味では、平等であるのは間違いない。
実際、もしそのような事になってもクーデリアが俺にどうにかして欲しいとか、そういう風にはまず言ってこないだろうが。
なので、ゲートの近くにある街は、それこそゲートから戻ってきた者達と商売をしようとか、あるいは他のホワイトスターから観光に来た者達を相手に商売するとか、そんな感じなのだろう。
「兄貴!」
ゲートから出て周囲の様子を見ていると、不意にそんな風に声を掛けられる。
声のした方に視線を向けると、そこには予想通りオルガの姿があった。
「オルガ? どうしたんだ、こんな場所で」
「こんな場所って……ここは火星でも重要な場所ですよ? 街から少し離れた場所には防衛用の戦力も用意してますし」
「いや、言い方が悪かったな。鉄華団を率いるオルガが、何てゲートにいるんだ? 護衛は……それなりにいるようだけど」
俺にとっても顔見知りの鉄華団の面々がいるし、初めて見る顔もいる。
また、量産型Wの姿もあるので、護衛という意味では何かあっても問題はないだろう。
……ちなみに、初めて見る顔の連中は、俺を訝しげに眺めている。
どうやら俺がホワイトスターに戻った後で、鉄華団に入った面々だろう。
今の鉄華団は、火星の中でもトップクラスの企業の1つだ。
まぁ、クーデリアが革命の乙女としてもてはやされ、地球に行く時からずっと一緒にやってきた面々なのだから、当然だろうが。
狡兎死して走狗云々ってのもあるが、クーデリアの場合はそういうタイプじゃないしな。
なので、鉄華団は火星において非常に大きな企業となっている訳だ。
だからこそ、多くの者が鉄華団に入団する事を希望し、その中にはこうして鉄華団のトップであるオルガの護衛を任されるようになった者もいるのだろう。
「ああ、その件ですが。これからちょっとペルソナ世界でしたっけ? そこと交渉があって」
「……そうか」
数秒沈黙したのは、オルガの言葉が意外だったからだ。
いや、仮にも鉄華団を率いる身なのだから、他の世界との交渉をするというのは別におかしな話ではないだろうが。
ただ、それでもこう……うん、やっぱりちょっと意外だったのは間違いない。
「兄貴は一体何でここに?」
「ちょっと新型MSの試乗にな」
「へぇ……兄貴が乗るMS、気になるんだけど、時間がないんですよね」
「まぁ、こっちはこっちで適当にやるから気にするな。人のいない場所で動かすから」
ギャラルホルンの内乱の後、それこそシャドウミラーという異世界の存在に大きな価値や商機を見出した者達の多くが火星に集まってきている。
それこそ地球における大きな企業とかも
だが……それでも火星全体で見た場合、人口密度は地球とは比べものにならない。
火星の大きさは地球の半分程なのだが、その辺りを考慮しても、やっぱりまだ火星の人口密度は驚く程に低い。
なので、今回のようにMSの操縦を試すには丁度いい場所なんだよな。
「そうですか。兄貴なら何があっても大丈夫だとは思いますけど、最近は火星の中にゲリラというか、テロリストというか、反乱分子というか……そういう奴がいるらしいので、気を付けて下さい」
「……そういうのがいるのか?」
ギャラルホルンの内乱が終わった後、このオルフェンズ世界は平和になったと思ったんだが。
いや、勿論戦いの類が一切なくなったのかと言われれば、即座に首を横に振るだろう。
だが、それでも大規模なテロリストがいるというのは、ちょっと予想外だった。
「ええ、火星が独立した事でギャラルホルン……それも負けた方のギャラルホルンと関係のあった連中も凋落して、その結果そういう連中が恨みからテロリストになったり、あるいは金とかMSとかを持ち出してテロリストに供与したり……まぁ、それでも大きな動きをしていた連中はミカが殆ど倒したんですけどね」
「あー……哀れだな」
オルガの言うミカというのは、三日月だ。
このオルフェンズ世界の原作主人公。
ただ、その育ちが育ちだからか、敵と認識した相手は容赦しないで殺す。
もしテロリストが勝ち目がないからと降伏しようとしても、その降伏を許容したりはしないで皆殺しにしたりする筈だ。
……まぁ、現状を認められず、テロリストになった者達の最期として考えれば、当然のものかもしれないが。
ただ、オルフェンズ世界のMSは基本的にビーム兵器は効果がない。
物理攻撃も、巨大質量による攻撃でなければ、ナノラミネートアーマーに対してダメージを与える事は出来ないんだよな。
だからこそ、オルフェンズ世界のMSは巨大なハンマーとか鉄塊のような棍棒とか、そういうがメインの武装となっている。
それに対して、トールギス・グレイルはドーバーガンはビーム兵器だから普通には効果がない。
あ、でもライフルはどうだ? ダインスレイヴの技術を応用しているだけに、ナノラミネートアーマーも貫通出来そうなんだよな。
ヒートロッドは……どうだろう?
まぁ、俺の場合は敵がどういう存在であっても精神コマンドの直撃で対処出来るけど。
ただ、当然ながら精神コマンドを使えば、トールギス・グレイルの本当の性能を把握出来たりしない訳で、そういう意味では決して好ましい事じゃないんだよな。
「話は分かった。取りあえずそういう連中に遭遇したら、こっちでも相応の対応をするから」
「はい、お気を付けて」
オルガとの会話を終えると、俺は影のゲートでその場から移動する。
……俺とは初対面の護衛だった者達は、影に沈んでいく俺の姿を見て驚きを露わにしていたが、そのうち慣れるだろう。
ホワイトスターに行けば魔法使いもいるし。
もっとも、転移魔法はかなり難易度の高い魔法なので、使える者は限られている。
そういう意味では、転移魔法を使える者に遭遇するのは難しいかもしれないな。
そんな風に思いつつ、火星の……まさに荒野と呼ぶに相応しい場所に出る。
周囲には、見える範囲……混沌精霊の俺から見える範囲にも、何もない。
なので、取りあえず問題はないと判断し、空間倉庫からトールギス・グレイルを出す。
「相変わらず……違和感があるような、ないような」
赤く塗られたトールギス・グレイルを見て、そう呟く。
一般的に、トールギスというのは白というイメージだ。
あるいは、アクセント的に青が入っていたりもするが、それでもやはり面積的には白が圧倒的に多い。
だが、このトールギスは俺のパーソナルカラーとして赤く塗られているので、トールギスとして考えれば違和感がある。
違和感はあるのだが……俺の使用するMSとして考えれば、やはり赤というのはおかしくない。
いや、寧ろしっくり来ると言ってもいいだろう。
……実際には、俺のパーソナルカラーはニーズヘッグのように黒と赤なのだが、赤だけでも慣れた一面があるんだよな。
そんな訳で、トールギス・グレイルのコックピットに乗り込む。
本来なら乗降ワイヤーとかを使ったり、あるいはMSを跪かせるとかしてコックピットに乗り込むのだが、混沌精霊の俺は普通に空を飛べる。
技術班の面々であれば、それこそ虚空瞬動を使うなりなんなりしてどうにでもする筈だ。
まぁ、能力について公に出来ないような時は普通に乗り込むが。
コックピットに乗り込むと、一応レイアウトを確認する。
……なるほど。オルフェンズ世界のMSのレイアウトになっているな。
トールギス・グレイルなのだから、てっきりW世界のMSのレイアウトになってるのかと思ったが。
まぁ、このトールギス・グレイルはトールギスの外見をしているものの、コンセプト的にはあくまでもオルフェンズ世界のMS技術を試すという為に設計されたのだ。
であれば、MSを操縦する為のコックピットのレイアウトもオルフェンズ世界風にするのはおかしな話ではない。
ただ、当然の話だが阿頼耶識については採用されていない。
あれ、かなり有益なシステムなのは間違いないが、同時にリスクも大きすぎるんだよな。
システムに適応出来なければ、産廃と呼ばれるようになるし。
もっとも、スラム街に存在した産廃達は既に回収し、レモンが治療をしてある。
そういう意味では、阿頼耶識の危険度は以前より下がっているのは間違いない。
オルガは新しく鉄華団に入団した連中には、阿頼耶識を使わず、普通にMSを操縦させているらしいが。
ともあれ、オルフェンズ世界のMSのレイアウトであれば俺にも慣れたものだ。
それに元々この手のレイアウトというのは、効率的にMSを操縦出来るようにする必要があり、そういう意味ではどの世界のMSも似たような感じになる。
勿論全てが完全に同じという訳ではなく、微妙に違うところもあったりするのだが。
ともあれそんな訳で、俺は特に躊躇うこともないままにトールギス・グレイルを起動させていく。
OSが立ち上がり、機体に火が灯る。
まずは……この状態では当然ながら技術班の方でしっかりと問題がないかどうかを確認しているのだろうが、トールギス・グレイルに始めて乗る俺にしてみれば、一応その辺もしっかりと確認しておきたい。
そうして暫くの間、機体の様子を眺め……何も問題がないというのを確認すると、まずは軽く、トールギス・グレイルを歩かせてみる。
トールギス・グレイルの最大の特徴は、スーパーバーニアを全開にした50Gの加速だろう。
それは分かっているが、それでもやはり最初に操縦するMSなので、機体の細かい癖とかそういうのを確認する意味でも、基礎的な動きを確認していく。
歩き、止まり、方向転換をして歩き……やがて走り出す。
ガンダムフレームを使っている為か、その動きがかなり滑らかだ。
そうして暫く走り続けると、今度は跳躍する。
スーパーバーニアやスラスターを使った訳ではなく、普通にトールギス・グレイルの脚力だけで跳躍してみるが……なるほど悪くない。
勿論スラスターを使って跳躍すれば、より高く、そして素早く跳躍出来るだろう。
だが、スラスターを使わずとも普通に跳躍出来るのは、トールギス・グレイルのベースとなったガンダムフレームと、そして機体性能に十分なエネルギーを発揮出来る2基のエイハブ・リアクターのお陰だろう。
機体制御をし、一瞬だけふくらはぎのスラスターを噴射させ、衝撃が殆どないままで地面に着地する。
そうして機体をある程度動かすことが出来たら、次に俺が行うのは、武器の確認だ。
シャドウミラーの技術班が作ったMSだけに、トールギス・グレイルのFCSの類は信頼出来るだろう。
しかし、それでもやはりしっかりとその辺については調べておく必要があった。
まずは、頭部バルカン。……正確には、頭部ビームバルカン。
少し離れた場所にある2m程の高さの岩を狙い、トリガーを引く。
トールギス・グレイルの頭部から次々に発射されるビーム弾が、見る間に岩を破壊していく。
なるほど、問題ないな。
なら、次はドーバーガン……それも折り畳んだ状態でだ。
別の岩に向け、ドーバーガンのトリガーを引く。
砲身が折り畳まれた状態ではあるが、そこから次々とビーム砲が放たれ、ビームバルカンの時以上にあっさりと岩を破壊していく。
なら、次は砲身を展開して……そう思ったところで、不意にトールギス・グレイルのレーダーに反応があった。
何だ? と疑問に思い確認してみると、どうやら数機のMSがこちらに近づいてきているらしい。
オルガが連絡をして、鉄華団の面々でも寄越したのか?
そう思いつつ、俺はドーバーガンの試射を一時中断するのだった。