「アクセルの言う寮が出来るって、本当なの?」
拳藤の言葉に、一瞬どのように答えればいいのか迷う。
この件については相澤から聞いているので、間違いではない。
だが、同時にまさかその辺りについて話す訳にいかないのも事実。
もし相澤から聞いたと言えば、拳藤もヤオモモも、一体何故そのようなことが出来たのかと、疑問に思うだろう。
特にヤオモモは昨夜AFOと戦ったアクセルが俺であるかもしれないと疑っているのは間違いなく、相澤からその話を聞いたと言えば、それと昨夜の一件を結びつけてしまう可能性は十分にあった。
なので、誤魔化すように口を開く。
「あくまでも俺の予想だ。ただ……雄英の置かれている状況だったり、セメントスがいて、雄英の敷地内にはまだかなり余裕があるのを考えると、絶対とは言わないが、かなり可能性が高いと思うぞ」
そう言いつつ、ふと気が付く。
雄英が寮を建てるにしても、一体どこに建てるのか、と。
校長の性格を考えれば、雄英に建てられる寮はヒーロー科だけではなく、普通科、経営科、サポート科といった他の科の寮も建てられるだろう。
それが3学年分ともなれば、寮の敷地だけで結構な広さが必要となるだろう。
つまり、俺が心配してるのはゲートの設置した場所の近くに寮が建てられないかというものだった。
もしそうなると、雄英の生徒がちょっとしたミスでゲートを使い、ホワイトスターに転移してしまうといった可能性も否定はしきれない。
基本的にはゲートには量産型Wやコバッタがいるので、普通ならゲートの転移装置を起動させるといった事は出来ないと思うのだが……それでもちょっとしたミスの重なりによって、もしかしたら……という事になってもおかしくはない。
なので、寮はゲートとは反対の場所……とまではいかないが、それでも相応に離れた場所に建築して欲しかった。
ただ、寮が出来ると……ゲートが設置された以上、ホワイトスターにある家で寝泊まり出来るのかどうかも微妙なところではあるが。
……いや、それ以前の話として、俺が2学期からも雄英の生徒として通えるかというのはまだ決まっていないんだよな。
個人的には、もうちょっと……この世界の原作が終わるまでは雄英の生徒として通いたいところだけど。
ただ、シラタキを倒せば終わりなのか、それともAFOが何らかの手段でタルタロスを脱獄し、ラスボスとして緑谷の前に立ち塞がるのか。
……いや、今の時点でもAFOは俺がOFAの後継者であると信じている様子だったので、それを考えると立ち塞がるとしたら俺の前にか?
原作主人公の緑谷を守るという意味では、その方がいいんだろうが……ただ、その流れで俺がAFOを倒してしまったら、原作崩壊どころの騒ぎじゃない。
いやまぁ、俺がこうして原作に介入している時点で、原作崩壊は起きているのだから、考えても仕方がないのだが。
「アクセルさんの話を聞く限りでは、寮が出来そうですわね」
「うわぁ……やっぱりなのか。なら、後で忙しくならないように今のうちから準備をしておいた方がいいな。ヤオモモは……どうするんだ?」
「どうするとは?」
「いや、だから今は家から雄英に通ってるんだろ? なら、ヤオモモも寮に引っ越す準備をしないと駄目だろ?」
少し心配そうなのは、拳藤から見てもヤオモモはお嬢様で常識を知らない……つまり、世間ズレをしていないように見えるのだろう。
実際、その拳藤の言葉は俺も同意する。
ただし、ヤオモモはそうでもヤオモモの家族、あるいはメイドとか執事とかなら、その辺については分かるので、拳藤の心配しているような事にはならないと思う。
「まぁ……」
拳藤の言葉に微妙に不満そうな様子を見せるヤオモモ。
ヤオモモは自分が世間知らずではないと、そう思っているっぽいしな。
もっとも、A組の面々との付き合いであったり、あるいは放課後に行われていた自主訓練が終わった後の買い食いで色々な店に寄ったりしているので、そういう意味ではヤオモモも決して世間知らずといった訳ではない……と、思う。
断言出来ないのは、時々俺にとっても完全に予想外な反応をしたりする為だ。
「とにかくヤオモモも引っ越しの準備はしておいた方がいいかもしれないな。……まぁ、俺の予想が間違っている可能性もあるから、その場合は無駄骨になるかもしれないけど」
実際には相澤から聞いているので決して間違いという訳ではないのだが、まさかその辺りの事情を話す訳にはいかないので、そう誤魔化しておく。
「アクセルさんがそう仰るのであれば、私は学級委員長としてその言葉を信じます」
いや、この場合学級委員長というのが一体どういう意味がある?
そう突っ込みたくなったが、真剣な表情を浮かべるヤオモモを見れば、俺からは何も言えない。
ヤオモモの様子からすると、本気で今のような事を言ってるのは間違いないのだから。
であれば、やはり俺がここでわざわざ何かを言ったりとか、そういうのをする必要はない訳だ。
「それなら、私も学級委員長なんだから、アクセルの言葉を信じた方がいいのかもしれないな。……A組じゃなくて、B組だけど」
そう、拳藤が言ってくる。
拳藤が何を思ってそのような事を言ったのかは、生憎と俺には分からない。
ただまぁ、俺の言葉を信じてくれるというのなら、それは俺にとっても悪い事ではないだろう。
「2人に信じて貰えて何よりだよ」
「その、アクセルさん。そうなると、クラスのLINに引っ越しの準備をした方がいいと、そう書き込んでもいいでしょうか?」
ヤオモモのその問いに対し、俺は首を横に振る。
「いや、止めておいた方がいい。さっきも言ったけど、寮になるというのはあくまでも俺の予想でしかない。もしかしたら寮が出来ない可能性もあるしな」
そのような事はまずないとは思うが、寮生活について大々的に知らせるのは、今はまだ止めておいた方がいいと判断した。
……後で、相澤に突っ込まれるような事になったりするのもごめんだしな。
まぁ、相澤ならそのくらいは効率的だと判断して責めたりはしないと思うけど。
「それにこれもさっき言ったと思うが、雄英に寮が出来たとして、そこに引っ越すのについては雄英側でもしっかりと考えている筈だ。多分寮生活になると聞いてから引っ越しの準備をしても、間に合うようにしてくれると思う」
もしくは、雄英側で引っ越し業者を用意してくれるかもしれないが、その時は引っ越しの準備も手伝ってくれると思う。
……あ、でもそうなると峰田は厳しいかもしれないな。
何しろ極度の女好きで、欲望に素直な峰田だ。
いわゆるエロ本だったり、その手のDVDだったりを大量に所持していてもおかしくはない。
それこそ18禁の代物を持っていた場合、18歳未満の峰田は当然のように知られると不味い。
それこそ場合によっては、相澤なら停学にしたりしてもおかしくないと思う。
……あるいは、そのくらいなら問題ないとか、そんな風に言うか?
その辺はどうなのか、生憎と俺には分からない。
分からないが、それでも峰田にとって決して好ましい状態ではないのは明らかだろう。
また、18禁的な意味ではないが、厨二的な忌みで常闇もあまり引っ越し業者の手伝いとかそういうのはされたくないかもしれない。
もっとも、常闇の場合は個性のシャドウが自我を持っているので、そのシャドウに手伝わせたりすれば引っ越しの準備にもそう時間は掛からないかもしれなかったが。
ともあれ、峰田辺りには後で引っ越しについて教えておいた方がいいかもしれないな。
また、峰田の相棒的な存在である上鳴は……どうだろうな。
いやまぁ、峰田の相棒的な存在だけあって、上鳴も女好きなのは間違いない。
実際、以前ちょっと聞いた話だと峰田と上鳴は休日には2人でナンパに行ったりしてるらしいし。
とはいえ、今のところナンパが成功した事はまだ1度もないらしいが。
……峰田はともかく、上鳴は比較的顔立ちが整っていることもあるから、ナンパが成功してもおかしくはないと思うんだけど。
峰田も、本音を口にしなければマスコット的な愛らしさがあるので、ナンパが成功してもおかしくはないと思う。
もっとも、峰田の場合は自分を曲げないというのがあり、常に本音を口にしていたりするのだが。
ただ、それで結局ナンパが失敗しているのなら、意味がないと思う……思うのだが、それはあくまでも俺の考えだしな。
まぁ、ナンパの件については、今はそこまで気にする必要もないだろう。
……もしかしたら、こうしている今も峰田と上鳴はナンパをしている可能性は十分にあったが。
「えっと……引っ越しの件については分かった。それで、その……アクセルは今日これから何か用事があるのか?」
「え? あー……いや、特にないな」
拳藤の言葉に少し考え、そう返す。
実際、今日の最大の目的であった雄英での会議が終わった以上、特にやるべき事はない。
トールギス・グレイルについては少し気になっているものの、現在機体はホワイトスターの魔法球の中で色々と弄られているだろうし。
しっかりと俺が操縦するように設計されていたのは間違いないだろうけど、実際に俺が操縦してみないとどこでどんな風に予想外の被害が出るのか分からないしな。
……とはいえ、火星のゲリラと戦いではそこまで大袈裟に機体を動かしたりしなかったので、関節の負荷とかそういうのはそこまで掛かっていないと思う。
ただ、トールギス・グレイルは基本的にW世界とオルフェンズ世界の技術だけを使っているので、関節部分の強化とかで他の世界の技術は使えないんだよな。
グルンガスト系で採用されたTGCジョイントとか、SEED世界のPS装甲を使った技術とか。
高硬度レアアロイを使ったフレーム構造であっても、関節部分がどうなっているのかは……それこそ実際に試してみないと何とも言えないというのは痛い。
一応、高硬度レアアロイは数百年経っても全く問題なく使えるという意味では、非常に強固な金属……合金ではあるけど、それはそれって感じだしな。
ともあれそんな訳で、トールギス・グレイルについては取りあえず今はどうこう出来るようなものではない事は明らかだった。
なので、雄英での会議が終わった以上、もうやるべき事はないんだよな。
一応、茨の見舞いにでも行こうかと思って見舞いの果実を1階のスーパーで購入したが、行けるかどうか分からないし。
「あ、そうなんだ。じゃあ、その……一緒に遊びに行かない?」
拳藤の口から出たのは、俺にとっても予想外の言葉だった。
「これからか?」
「うん、その……どうかな? あ、勿論ヤオモモも一緒に」
「え? 私も一緒に……いいんですの?」
「友達なんだから、当然でしょ」
「お友達……」
拳藤の口から出た友達という言葉が嬉しかったのか、ヤオモモがプリプリし始める。
そんなヤオモモの様子に笑みを浮かべつつ、それならそれでいいかと思う。
もっと言わせて貰えば、プリプリした事によってヤオモモが俺に対する疑惑……昨日、AFOと戦っていたのが俺だったというのを、一時的にしろ忘れてくれたら助かるという思いもある。
あるいは俺がもう雄英を辞めなければならなくなった時なら、あの時のアクセルが俺だったと教えてもいいんだが……その辺、今のところまだ分かってないんだよな。
だからこそ、今のこの状況においては俺が俺であると……AFOの時に戦っていたのが俺であるというのは、まだ隠しておきたい。
「俺と拳藤、ヤオモモの3人でか。……けど、遊びに行くって言っても、どこに行くんだ? 今からだと、もう遠出するのも無理だぞ?」
いや、勿論絶対に無理という訳でなく、夜遅くなってもいいのならそれなりに遠い場所まで遊びに行ったりも出来るだろう。
しかし、俺や1人暮らしをしている拳藤はともかく、ヤオモモは……まぁ、ヤオモモなら、それこそ遊びに行った先に迎えの車がやってきてもおかしくはないかもしれないけど。
「あ、勿論遠くまでとは言わないよ。駅前に出てみるのはどう?」
「駅前か……」
拳藤の言葉に、俺にとっては馴染みのある場所を思い浮かべる。
何しろ、この場合の駅前というのは1学期には毎朝のように拳藤と待ち合わせをし、一緒に通学していた場所なのだから。
これまで、一体何度嫉妬の視線を向けられた事か。
別に拳藤とは付き合ってる訳ではないんだが、その辺りについて話しても、嫉妬の視線を向けてくる者はその辺りについては全く気にしてはいない。
それこそ付き合っていなくても……いや、付き合っていないにも関わらず、拳藤のような美人と朝に待ち合わせして通学しているというのが、面白くないのだろう。
それで嫉妬をするのなら、それこそ自分で口説いたらどうかと思うんだが。
そういう意味では、峰田や上鳴は恋人が欲しいと……あるいは一夏の体験をしたいとか? とにかくそんな感じでナンパをしている。
待ってるだけではなく、しっかりと行動しているだけ、峰田や上鳴の方がマシだと思う。