「凄いな、ヤオモモ」
「そうですの? でも、これくらいならアクセルさんでも……」
「いやいや、アクセルだってそう簡単にここまで正解は出せないって」
ヤオモモの言葉に拳藤がそう言う。
実際、拳藤のその言葉は決して間違いではないと思う。
現在ヤオモモがやっているのは、ゲームセンターの中ではそこまで人気がある訳でもない、クイズ形式のゲーム。
俺にも分かる問題があるが、分からない問題の方が多い。
そんなクイズを、ヤオモモは次から次に攻略しているのだ。
なお、このクイズはステージをクリアするごとにコインを貰える。
とはいえ、当然ながらこのコインは現金に換えたりは出来ず、使えるのはこのゲームセンターにあるコインで遊べるゲームに使えるだけだ。
ただ、コインで遊べるのは子供がやるようなお菓子を取るクレーンゲームとか、そういうので、普通の……一般的なゲームは遊ぶ事が出来ないようになっているが。
その後もヤオモモがクイズのステージをクリアしていき……最終的には、見事に完全攻略する事に成功する。
ヴィラン大帝と名乗る奴とのクイズ勝負は、向こうが個性を使ってこっちがまだ考えているのに勝手にスイッチを押してきたり、あるいはヤオモモが答えようとした内容とは別の答えを選んで強制的に失敗させたりしたものの、それでも最終的にはヤオモモが勝ったのだ。
その辺がヤオモモの凄いところだなよな。
そんな訳でヤオモモは高得点を取ってクリアという事で何と全国2位。
1位との差は本当に少しだったのだが、ヤオモモはそれを悔しがった。
「悔しいですわ……ですが、次はもっと!」
「いや、ヤオモモ。嵌まるのはいいけど止めておけ。何だかんだ、このクイズにも結構時間が掛かったし、他のゲームも遊びたいんだろう?」
「そうでしたわ!」
こうしてヤオモモは言葉を素直に聞いて、2位にヤオモモと名前を入れる。
……いや、ヤオモモっていいのかそれで?
まぁ、下手に八百万家といった名前を出すのは不味いだろうし、それならヤオモモの方がいいのか。
「それで、このコインはどうすればいいのですか?」
ヤオモモが箱……パチンコとかスロットとかそういうので玉やコインを入れる箱一杯に入っているコインをこちらに見せてくる。
「そうだな。このゲームセンターにある幾つかのゲームは、このコインで遊べる。ただし、このコインを換金したり、あるいは直接何らかの商品と交換出来たりとかはしないから、注意が必要だな」
これがパチンコであれば、何故かパチンコの側にある店でパチンコの玉と交換した奴を換金……もとい買い取ったりしてくれるんだけど、このゲームセンターの側にそういうのはない。
警察も何故か……そう、何故かパチンコ店の摘発とかそういうのはないしな。
まぁ、そこには色々とあるんだろうけど。
「そうですの? ですが、こんなにコインがたくさんあっても使い切れないと思いますが」
「その時はカウンターにコインを預けたり出来る。とはいえ、一定の期間来なければコインが店に没収されるとか、そういうのもあるから気を付ける必要があるけど」
そう言いつつも、恐らくこのコインの大半は店に没収されるんだろうなと、そのように思う。
理由としては、今日はヤオモモもこのゲームセンターに来たが、次もこのゲームセンターに来るとは思えない為だ。
……まぁ、もしかしたらヤオモモがゲームセンターに嵌まってここに入り浸るといった可能性もない訳ではないが……普通に考えれば、まずないだろう。
「分かりました。では、今日はこのコインを使って遊べるゲームをしましょう」
そうヤオモモが言い、俺と拳藤はヤオモモからコインを奢って貰ってゲームをするのだが……
「拳藤さん、あのゲームはなんですの?」
「え? あれか? あれは踊りのゲームだな」
コインのゲームで取ったお菓子……駄菓子とかだが、その駄菓子を食べていると、ヤオモモが飴を舐めている拳藤にそう尋ねる。
ヤオモモが興味を持ったのは、三奈が得意そうにしていると俺が思っていた、ダンスのゲーム。
現在そのダンスのゲームには、頬がエラになっている異形系の男が次々と光っている場所を踏み、音楽に合わせてダンスをしている。
多分、あのエラの男は本来ならダンスは出来ないと思う。
だが、ゲームの指示に従って光る場所を踏んでいるその動きは、何も知らない者が見ればダンスをやっているようにしか見えない。
実際に踊っているように見えるエラの男は、顔立ちが整っている訳ではないのに格好いいように見えるし。
あるいは、ヤオモモが興味を持ったのは、その辺も理由なのかもしれないな。
「まぁ、ダンス……ただ、あの様子を見ると私が知っているダンスとは少し違いますわね」
「だろうね」
ヤオモモの言葉に、拳藤がそう返す。
実際、俺も拳藤のその言葉には同意だった。
俺や拳藤にしてみれば、ヤオモモの踊れるダンスというのは、それこそ上流階級の者達がパーティで踊るような……いわゆるチークダンス的な?
まぁ、その辺は俺もあまり詳しくないので何とも言えないが、三奈が踊るようなダンスではないのは間違いない。
そしてあのダンスゲームは三奈が踊るような系統のダンスとなる。
「面白そうですわね。少しやってきてもいいですか?」
「いいんじゃないか? 今日はヤオモモにゲームセンターを体験して貰うのが主な目的だし」
「え? いやそれは……」
俺がヤオモモにそう言うが、何故か拳藤は戸惑った様子を見せる。
あれ? 何でこのタイミングでそういう風な対応を?
そんな風に疑問を抱くも、丁度エラの男が終わったのを見たヤオモモは、ダンスゲームをやりに行く。
「おい、アクセル。本当にいいのか?」
「何がだ?」
焦った様子で拳藤が聞いてくるも、俺は拳藤が何故そこまで焦っているのかが分からない。
「いや、だから、その……」
そして何故か拳藤は、俺が焦っている理由を尋ねても、言い淀んで口に出そうとはしない。
いや、これ……本当に何でだ?
そんな疑問を抱いたのだが、ヤオモモが金を入れてダンスゲームを始めようとしたところで、口を開く。
「ほら、アクセルもこっちに来いって。自分で見れば分かるから!」
そう言い、俺を引っ張る拳藤。
手にしていた駄菓子……ヤオモモがコインゲームで取った駄菓子を落とさないように注意しながらダンスゲームの場所まで行くと……
「あー……うん」
俺はそこでようやく拳藤が何を言いたかったのかを理解した。
現在俺の視線の先では、ヤオモモがダンスをしている。
初めてやるゲームだと思うのだが元々運動神経が良いからだろう。
その動きには戸惑いのようなものはなく、それどころかゲームをやり慣れているようにすら見える。
見えるのだが……そうしてヤオモモが激しく上下に身体を動かせば、誰が言ったか発育の暴力の象徴たる豊かな双丘が、服の上からでも激しく揺れているのが見える。
ヤオモモは踊りに夢中になっていて気が付いた様子はないが、そんなヤオモモの発育の暴力の象徴に目を奪われる者は多い。
それでも恋人だったり女友達と一緒に来ている者達は、抓られたり足を踏まれたりする事によって我に返っているが……そんな中でも、一緒にいる女の存在を忘れ、ヤオモモの激しく揺れる胸に意識を向けている者が何人かいた。
いや、それはどうなんだ?
そう思わなくもなかったが、マリューや千鶴レベルには及ばないがそれでも年齢に不釣り合いな程に大きな胸があれだけ激しく動いているのを見れば、男なら……あるいは女であっても目を奪われるなという方が無理だろう。
「ほら、アクセル。私達で少しでもヤオモモを他の人の目から隠すよ」
そう言い、拳藤はヤオモモが踊っているすぐ側まで移動し、自分の身体を使って男達の視線がヤオモモに向けられないようにする。
まさか拳藤だけにそういう事をさせる訳にもいかないので、俺もまたヤオモモと観客達の視線を遮るようにするのだが……
「ちっ、幾らなんでもかぶりつきで見たいからって、あそこまで近付くか?」
「お前は自分が見られなくなって不機嫌なだけだろ」
「ぐ……っていうか、あの男、どこかで見た事があるような……いや、それはあの踊ってる女も……」
「あれって、アクセル・アルマーだろ? アークエネミー。ほら、ステインを倒した」
「え? あ……あああああっ! そうじゃん、あれってアークエネミーだろ!?」
あ、しまった。
今日は特に変装とかそういうのはしてなかったからか、すぐに俺だと分かってしまったらしい。
とはいえ、ヤオモモや拳藤達と一緒に行動している以上、まさか20代の姿になったりも出来ないし。
せめてサングラスをするとか、帽子を被るとか、そういう風にしておけば……いや、もう遅いが。
俺がアクセルで、アークエネミーであるというのが囁かれると、それは驚く程に広がっていく。
これってもしかして……本当にもしかしたらの話だけど、やっぱりネットに上がるのか?
いやまぁ、ヤオモモが踊っている姿だけで、かなり凄い光景なのだろうし、間違いなく多くの者達が見る……いわゆる、バズるだろうが。
もっとも、八百万家がそれを知ったらどう出るのかとか、そういうのは俺にもちょっと分からないが。
こうしている間にも踊りは進み、激しくヤオモモが踊る事によって双丘は激しく揺れる。
……あれ、こうして自分で言うのも何だけど、さっき周囲にいる奴が言っていたように俺はもしかしたら本当に齧りつきでヤオモモの胸が揺れているのを見ているだけじゃないか、これ?
うん、取りあえずその辺については気にしないようにしておこう。
実際、目を奪われるには十分な胸の揺れ具合なんだし。
しかもヤオモモはスカートだ。
ただ、ミニスカートの類ではなく、お嬢様らしいロングスーかとの類なので、下着が見える事はない。
ことはないが……その代わり、ヤオモモの白い太股が半ばまで露わになる事もある。
自主訓練とか、身体を動かす時の授業ではヤオモモの太股が見える事も珍しくないのだが、こうしてスカートの中に隠されている太股が見ると、少しドキンとする。
この辺は男の性といったところだろう。
あるいは普段隠されているからこそ、そこに興奮を覚えるとか?
女のうなじに興奮する奴が多いのも、その辺が影響してるのかもしれないな。
とはいえ、その辺りも気になるが……そうしたロングスカートを履いたまま激しく踊ってるのって、何気に凄いな。
場合によってはスカートが足に絡まったりしてもおかしくはないと思うんだが。
あるいはヤオモモの事なので、こういう長いスカートを履いて踊る練習をしたりしてるのかもしれないな。
ジャン、と。
そんな音楽が聞こえてきてそちらに視線を向けると、どうやらダンスが終わったらしい。
そして点数が表示され……
「うう……また2位ですわ……」
残念そうにヤオモモが呟く。
その言葉通り、ヤオモモの点数は2位だった。
クイズの時も2位だった事を思えば、色々と思うところがあるのだろう。
もっとも実際にはクイズの2位の方が価値は高い。
何しろあのクイズの2位は全国で2位なのに対し、このダンスはあくまでもこの店の中での2位なのだから。
……まぁ、クイズとダンスではどっちの方が人気があるのかというのは一目瞭然なので、そういう意味ではダンスの2位の方が価値があると思う者がいてもおかしくはないと思うけど。
そういう意味では、多くの者が遊ぶダンスのゲームで、初めて挑戦したにも関わらす2位というのは素直に凄いと思う。
「ほら、いいから……まずはここを離れるよ!」
「え? あ、ちょ……」
残念そうな様子のヤオモモを、拳藤が半ば強引に引っ張っていく。
このままここにいたら不味いと、そう思ったのだろう。
実際、その考えは間違っていないと思う。
何人かはヤオモモの美貌とその発育の暴力に対して……そして今が夏休み中という事もあってか、欲望の視線を向けていたのだから。
もっとも、もしそういう連中がヤオモモをどうにかしようとしても、日頃から鍛えているヤオモモならどうとでも出来そうだったが。
ともあれ、そんな訳で俺達はダンスゲームのある場所から離れた場所……先程撮ったプリクラの場所まで戻ってくる。
ヤオモモは一体何故急にここまで連れてこられたのか分かっていないらしく、戸惑った様子で見ている。
「どうしたのですか?」
「あのねぇ……ヤオモモ、自分の体型を理解している? というか、あんなに胸を揺らして痛くないの?」
「……え? あ……」
呆れた様子で言う拳藤の言葉に、ようやくヤオモモは自分が踊った事でどのようになっていたのかを理解したらしい。
驚きの表情を浮かべ……それから、暑さや身体を動かした事によるものとは違う意味で顔を赤くし、こちらに視線を向けてくる。
「その……アクセルさんも、みました?」
そう言われると、俺としても頷く事しか出来なかった。
ただ、一言言うのなら……ヤオヨロッパイ。