転生とらぶる2   作:青竹(移住)

1996 / 2196
4631話

 さて、どうしたものか。

 壊理と名乗った幼女を見つつ、そう思う。

 名字を口にしない……そもそも名字の存在が分からないとなると……まぁ、取りあえず話を聞くだけ聞いてみるか。

 

「それで、壊理。何があったのか聞いてもいいか? 何でその……誰か分からないけど、その相手から逃げてきたんだ?」

「その、いたいのはいやなの」

「えっと……」

 

 壊理の言葉にどのように反応すればいいのか迷う。

 普通に考えれば、何らかの理由で痛い目に遭っていたので、それが嫌で逃げてきたといったところか?

 もし壊理の言ってる内容が事実だとすれば、それはつまり本当の意味でプロヒーローの出番になる訳だが。

 

「壊理ちゃん、その……痛いのが嫌だから、逃げてきましたの?」

 

 俺がどう言えばいいのか迷っているのを見て取ったのか、ヤオモモが壊理にそう尋ねる。

 

「……うん。今日はちょっと出掛ける用事があるからって、おうちから出て、ここに来たの。それで……」

「隙を見つけて逃げてきた、か」

 

 壊理の様子からすると、明らかにこの壊理を痛い目に遭わせていたのはヴィランだろう。

 問題なのは、そのヴィランが何をしにここに来たのか……か。

 それがどんな用事なのかは分からないが、そもそも壊理を連れてくる必要があったのか?

 あるいは、その用事に壊理が必要だったのか。

 その辺りは俺にも分からないが、ともあれ壊理にとっては幸運だったのだろう。

 ヴィランの下から逃げ出した事もそうだが、丁度逃げ出した先に俺達がいた事も。

 もし今日……ヤオモモや拳藤と一緒に遊んでいなければ、当然ながらあの喫茶店に行くような事もなく、そうなれば壊理が逃げてきた時も俺達と遭遇する事はなかったのだから。

 これが幸運以外の何だというのか。

 もっとも、それを言うのならヴィランによって虐待されていた時点でとてもではないが幸運とは呼べない状態になっていたのだろうが。

 

「それで……どうするの、アクセル。壊理ちゃんの事を思えば、まさかヴィランに返すなんて事は言わないよな?」

「そうだな。壊理の様子を見る限り、とてもではないがそういう事は出来ないと思う。幸いにも俺達が影のゲートを使った時、追ってきた相手に顔を見られたりはしなかったけど」

 

 とはいえ、あの喫茶店のあった場所も繁華街だ。

 当然ながら防犯カメラの類は色々と用意されている筈で、壊理を連れてきたヴィランがどうにかしてその辺りの映像データを入手した場合、俺達の存在が知られる可能性もあった。

 勿論、普通ならヴィランに録画された映像を見せるとかはしないだろう。

 だが、ヴィランというのは個性によって何をしてもおかしくはない。

 あるいは個性を使うのではなく、金か……もしくは自分と繋がりのある権力者を使って手を回す可能性も十分にあった。

 そもそも、ヴィランがこの駅の近くに用事があって来るというのが普通ではない。

 ここは雄英からそう離れていない場所であり、以前駅の近くでミッドナイトと遭遇したことからも分かるように、雄英の教師もそれなりに見回りをしている。

 そのような……ヴィランにとってはとてもではないが安心出来ないような場所に、ヴィランが一体何の用事があるのか。

 普通に考えれば、もしここで見つかってもどうとでもなるという自信があっての行動だろう。

 つまり、それだけ自分の実力に自信があるか、あるいは権力者と繋がっているのか、はたまたそれ以外の何らかの理由か。

 生憎と俺にはその辺りについては分からないが、とにかく壊理を追っていたヴィランがその辺のヴィランだとは到底思えない。

 ……まぁ、もしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、実は大物でも何でもなく、ただの馬鹿なヴィランだって可能性も十分にあったりするのだが。

 

「それは……アクセルの個性にはああいうのもあったんだな」

 

 拳藤はそう言い、改めて俺に驚きの視線を向けてくる。

 無理もないか。

 ヴィラン連合の黒霧もそうだが、転移系の個性というのはこのヒロアカ世界でも非常に珍しい。

 まぁ、珍しいという割にはAFOも黒い泥による転移の個性を持っていたけどな。

 ただ、AFOの場合は個性を奪えるので、珍しい個性だという事で誰かから奪っておいたのだろう。

 俺の混沌精霊という個性の中には、転移もあると、そう拳藤は判断したのだろう。

 ヤオモモは……まぁ、うん。拳藤の言葉を聞いて、何か言いたげに俺を見ている。

 壊理の件があるから、今は何も言わないのだろうが。

 ただ、ヤオモモにはこれ以上隠すのは無理だな。

 何しろ昨夜のAFOとの戦いの際、緑谷達と一緒にいたヤオモモを、俺は影のゲートによって明日菜達のいる場所まで転移させた。

 その転移を実際に経験しているヤオモモだけに、俺の使った影のゲートが昨夜自分が体験したものと同じだと、そう判断したのは間違いない。

 あるいはそれは偶然だという事で誤魔化せるか?

 一瞬そう思ったが、すぐにそれを却下する。

 何故なら、転移という個性は一緒であっても、その個性の発動方法というか、現象、プロセス? そういうのは基本的に違うのだから。

 それこそさっき思ったように、黒霧の転移とAFOが使った黒い泥の転移は転移という行動そのものは同じであっても、その仮定は大きく違う。

 勿論、俺もこのヒロアカ世界の個性について全てを知っている訳ではないので、もしかしたら偶然同じ能力を持つ個性で、偶然同じ発動方法の個性で、偶然そのような者が近くにいる……そんな可能性も否定は出来ない。

 いや、でも偶然が3度続けばそれは必然だという風に言われる事もあるしな。

 やっぱり雄英のヒーロー科の生徒である俺と、昨夜AFOと戦ったアクセル・アルマーが別人だというのは……ちょっと難しいか。

 

「アクセル? どうしたんだい?」

 

 俺がヤオモモを見つつ考えていると、拳藤がそう聞いてくる。

 どうやら考えに夢中になっていたらしい。

 

「いや、壊理をこれからどうしたらいいかと思ってな。……今はこうして俺の部屋に連れて来たけど、さっき……出掛ける前だったか? に言ったように、恐らく2学期からは寮生活になる。そうなると、この部屋に匿う事も出来ないし」

「うーん……それは私達も同じだよな」

「その、では私の家に匿うというのはどうでしょう? そうすれば、日中も壊理ちゃん1人だけになるというのは避けられますし」

 

 俺と拳藤の会話に、そうヤオモモが言ってくる。

 なるほど、1人暮らしをしている俺や拳藤とは違い、ヤオモモは実家……というか、テスト前に行った屋敷と呼ぶに相応しい場所から通っている。

 メイドとか執事とかいたし、それを思えば2学期が始まった後も日中に面倒を見てくれる相手がいるという事になる。なるのだが……

 

「それは止めた方がいいな。下手をすれば、壊理を取り返す為にヴィランが襲ってくる可能性もあるぞ」

 

 そう言ってから、今の言葉は壊理に聞かせるのは不味いのでは? と思い、壊理に視線を向ける。

 壊理が今の言葉を具体的にどこまで理解出来ているのかは分からない。

 分からないが、それでも少しでも理解していたら……と思ったのだが……

 

「スー……スー……」

 

 ふと気がつけば、壊理はテーブルにもたれかかるように眠っていた。

 いや、これはどうなんだ?

 普通に考えれば、自分に暴力を振るっていたヴィランから助けてくれたという事で、俺達に気を許すのは理解出来る。

 理解出来るが、それでもだからといって全く知らない場所でこうしてぐっすり眠るというのは……普通、この状況で眠れるか?

 そうも思ったが、あるいはヴィランの暴力によって日頃から眠れない日々が続いていたのかもしれないなとも思う。

 

「アクセルさん、壊理ちゃんをソファに寝かせた方がいいのでは?」

「そうだな」

 

 ヤオモモの言葉に頷き、壊理の身体を持ち上げてソファまで運ぶ。

 その後、一応ということで客用の夏用の薄い布団を持ってきて壊理に掛ける。

 俺の部屋はエアコンによって夏の今も大体25℃から26℃くらいに保たれている。

 本来なら室温28℃がいいというのを何かで聞いた覚えがあるのだが、さすがに夏にその温度は厳しい。

 いやまぁ、俺の場合は混沌精霊なので温度も気にならないんだが、ヤオモモや拳藤……に限らず、誰かが来た時の事を思えば、室温はそのくらいにしておいた方がいい。

 ロボット掃除機とか、AI搭載型スーツケースとかもいるから、気温が極端に高くなるのは避けたいしな。

 それに……何より、ここでの生活費は公安持ちなので、電気代の心配とかそういうのはしなくてもいいし。

 ともあれ、そんな訳で25℃前後なので、普通に暮らす分には何の問題もなかったりするのだが、寝る時に25℃前後となると、寒くなる。

 特に壊理は子供……というか幼女なので、よりしっかりと寒さ対策をする必要があるし。

 そんな訳で眠ってしまった壊理をソファでゆっくりとさせると、再び話題を元に戻す。

 

「えっと……何の話だったっけ?」

 

 壊理が眠るという事で混乱したのは拳藤も同じらしく、戸惑ったように言ってくる。

 

「私の家に壊理ちゃんを匿った時、ヴィランに襲撃されるかもしれないという事ですわ」

「ああ、そうだったな。……ヤオモモの家の警備システムがどういうものなのか俺には分からない。ただ、ヴィランが本気で襲撃してきた場合、対処出来るか?」

「それは……」

 

 俺の言葉にあまり自信がない様子でヤオモモが言うが、そのタイミングで拳藤が口を開く。

 

「ちょっと待ちなよ、アクセル。壊理ちゃんに暴行を加えていたヴィランが、ヤオモモの家を本気で襲撃すると思うのかい? こう言っちゃなんだけど……壊理ちゃんのような子供に暴力を振るっていたヴィランだよ? それこそ弱い相手を苛めるようなことしか出来ない3流ヴィランという可能性もあるんじゃない?」

 

 拳藤の言葉に、ヤオモモも同意するように頷く。

 ……なるほど。この世界に原作が存在し、緑谷がこの世界の原作主人公であると知らなければ、あるいはその考えも決して間違いという訳ではないだろう。

 だが、この世界には原作が存在し、俺はそれを知っている。

 そして……壊理という幼女の存在は、恐らく原作のイベントなのだろうと思うのだ。

 ヴィラン連合の拠点を襲撃し、AFOとの戦いで倒してすぐに別のイベントがあるというのは、正直なところ首を傾げたくなると思う。

 あるいは……本当にあるいはの話だが、もしかしたらこれは原作のイベントでも何でもなく、俺がこの世界に存在する事で起きた、全く関係のないイベントである可能性もある。

 ただ、やはり可能性としては原作のイベントである方が高いし、そうであった場合は拳藤が言うような3流のヴィランが相手とは思えない。

 AFO程ではないにしろ、凶悪なヴィランの可能性が高い。

 ……とはいえ、そうした凶悪なヴィランだったとしても、そんなヴィランが一体何で壊理のような子供に暴力を振るうのかという事になるのだが。

 

「どうだろうな。やってる事は幼児虐待なんだから拳藤の言いたい事も分かる。ただ……その事に何となく違和感があるのも事実だ。それこそ、何らかの大物ヴィランが出て来ても、俺は驚いたりしないけどな」

「昨夜、あんな事があったばかりなのに?」

「拳藤の言いたい事も分かるが、ヴィランの多くは物事をしっかりと考えたりとか、そういうのは出来ないし、それこそその場の感情で動いているヴィランも多い。もっとも、そういうのは本当の意味で3流のヴィランが多いのも事実だけどな」

 

 そう言いつつ、俺はソファで眠っている壊理を見る。

 幸い……本当に幸いな事に、ヴィランによって痛い目に遭っていたという壊理だが、見える場所に傷はない。

 あるいはそういうのが見つからないように、見えない場所……それこそ腹とか背中とか、そういうところを殴る蹴るしている可能性もあるので、本当に問題がないという訳ではないのだろうが。

 この辺は後で……壊理が起きた後でも、ヤオモモや拳藤に風呂に入るついでに確認して貰えばいいか。

 

「ともあれ、ヤオモモの両親も別にプロヒーローって訳じゃないだろ? なら、やっぱりヤオモモの家にというのは止めておいた方がいいと思う」

「じゃあ、どこに匿うのさ? もしかして、雄英?」

 

 拳藤のその提案は、決して悪いものではない。

 あるいは他に手段がなければ、それも考えただろう。

 だが……雄英は、ヒーロー科を持つが故に、ヴィランと思しき者が連れていた幼女であろうと、何らかの証拠がない限りはどうしようもない。

 あるいは一時的に壊理を庇ったとしても、もしヴィランが善良的な人物の振りをして壊理を迎えに来たら、引き渡さない訳にもいかないだろう。

 暴力を振るわれた痕跡でもあれば、また話は別だが。

 となると、他に考えられるところは……それこそ、龍子の事務所、あるいは公安、もしくはいっそホワイトスターに匿うというのもありかもしれないな。

 そんな風に、俺はどうするべきか悩むのだった。

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