「仕方がない、か」
眠っている壊理を見て、どこに匿うのがいいのかという拳藤の言葉を聞き、俺はそう呟く。
公安というのも考えたが、壊理の様子を見る大人ばかりいる場所、それも公安という組織の性格を考えると、やはりこの場合は向いていないだろう。
警察……というのも考えたが、警察の場合は壊理に暴力を振るっていたヴィランがやって来れば、明確な法律違反でもない限り引き渡さないといけない。
なら、龍子の事務所は……と思ったのだが、龍子もプロヒーローである以上、向こうが法律に則って行動してくれば、それを断る事は出来ない。
龍子の性格を考えれば、壊理の為なら法律がどうであっても引き渡さない……といったような事をしそうだが、それはそれで俺としてもどうかと思わないでもない。
優もまた龍子と同様だろう。
そうなると、やはり最善の選択なのはこのヒロアカ世界の法律が届かない場所に壊理を連れていくというのがいい。
まぁ……うん、例えばヒロアカ世界の無人島に壊理を連れていくといった方法もない訳ではない。
だが、そうなると壊理が無人島で暮らしていけるかというのもある。
量産型Wやコバッタがいれば、野生動物に襲われても問題はないだろうし、生活に困る事もないだろうけど……それはそれでどうかとも思うし。
量産型Wとコバッタがいるだけなら、コミュニケーション能力的な問題も出て来るだろうし。
そうなると、やっぱり最善なのはホワイトスターなんだよな。
ただ……と、壊理から視線を逸らし、ヤオモモと拳藤を見る。
この2人も壊理についての事情を知っているし、どこに壊理を匿うのかで悩んでいる以上、ホワイトスターに匿うとなると、諸々について説明する必要があるんだよな。
ヤオモモにしろ拳藤にしろ、学級委員長をやっているだけあって真面目だ。
それだけに、何も聞かずに壊理を俺に預けて欲しいと言っても、それで納得するとは到底思えなかった。
つまり、ホワイトスターに壊理を匿うとなると、俺の事情を……ホワイトスターやシャドウミラーについてとか、そういう事情について説明する必要があるのだ。
「壊理を匿える場所に思い当たるところがある。そこなら絶対……それこそ何があっても、壊理の安全は確保されるだろう」
もっとも、その代わりという訳ではないがホワイトスターはホワイトスターで騒動が起きたりするが。
その一番分かりやすいトラブルが、逃げ出した技術班の面々をエキドナや茶々丸、セシルといった面々が追うといった騒動だろう。
虚空瞬動とかも普通に使われるその騒動は、初めて見る者……ホワイトスターに来る事が出来るようになった者達にしてみれば、一体何がどうなっているのかと驚愕する。
特にネギま世界からやって来た面々にしてみれば、虚空瞬動という難易度の高い技術を普通に使いこなして空中を走り回っているのに、余計に驚くだろう。
ホワイトスターに何度も来ていて、技術班の追いかけっこも何度か見た者なら、またやってるとか、そういう風に思ってもおかしくはないのだが。
あるいは、空を飛んでいるワイバーンを見て驚くとか?
また、ホワイトスターにはネギま世界から魔法使いもやって来るので、それによる騒動とかが起きる可能性もある。
そんな諸々について考えれば、やはりホワイトスターもそれはそれでトラブルがあったりするかもしれない。
だが……それでも、ヴィランを相手にした場合を考えれば、やはりホワイトスターにいた方がいいのは間違いない。
それに俺が保護する以上は、当然ながら俺の家で保護する事になり、そうなれば壊理を構う者も結構いる筈だ。
ルリは何気に面倒見が良いし、ラピスも自分がいつもルリに面倒を見て貰っているので、妹ではなく姉として振る舞いたいと思ってもおかしくはない。
それにマリューや千鶴、ミナトといったように世話焼きな者も多いし。
そういう意味では、今の壊理の状況よりも圧倒的にマシなのは間違いなかった。
「絶対って……凄い自信だけど、一体どこに連れていくのさ? リューキュウやマウントレディの事務所とか?」
拳藤は優とこの部屋で会った事がある。……というか、まぁ、うん。
気絶して失禁した優の後始末の為に俺が助けて欲しいと呼んだのが、拳藤だったしな。
また、体育祭の昼休みに優が俺と拳藤を呼びに来て、その時に拳藤は龍子とも会っている。
もしくは、職場体験で俺が龍子の事務所に行ったのもLINとかで情報共有はされていたので、とにかく俺と龍子や優が親しい関係にあるというのは十分に知っているのだ。
だからこそ、今こうして俺の言葉にその2人の名前が出てくるのはそうおかしな話でもなかった。
しかし、俺はそんな拳藤の言葉に首を横に振る。
「いや、あの2人は頼れるけど、それでも結局のところプロヒーローである以上は、法律を盾にされると対処出来ない」
そう言うと、拳藤は訝しげな視線を俺に向けてくる。
拳藤にしてみれば、まさか俺が自分の言葉を否定するとは思っていなかったのだろう。
「では、どういう事ですの? 一体どこに壊理ちゃんを隠すんです?」
そしてヤオモモが俺にそう聞いてくる。
ただし、そこにあるのは拳藤のような訝しげな視線ではない。
いや、勿論訝しそうな色もそこには十分にあったが、それ以外に何らかの確信があるかのような、そんな視線を俺に向けていた。
……ヤオモモにしてみれば、既に俺が何を言いたいのか大体予想出来ているのだろう。
「この世界の……より正確には日本の法律が問題なら、日本の法律が届かない場所に壊理を避難させればいい」
「それって……どこ?」
「この世界とは違う世界、異世界だ」
そう言うと、拳藤は一瞬ポカンとした表情を浮かべる。
ヤオモモも同じような表情を浮かべてはいるが、そこにあるのは予想外といった様子の表情だった。
ヤオモモは昨日の一件で影のゲートを使って転移させたのが俺だというのは予想していたのだろうが、それでもまさかここで異世界という言葉が出て来るとは思っていなかったのだろう。
「異世界って……アクセル、あんたねぇ。夢物語もいいけど、今はまず壊理ちゃんをどうにかする方が先だろ?」
そして拳藤の口から半ば呆れ、半ば俺を責めるような言葉が出る。
無理もないか。
正義感の強い拳藤にしてみれば、壊理をどうするのかというところで、いきなり俺が異世界がどうとか、そういう風に言ってきたのだから。
拳藤にしてみれば、ふざけるのもいい加減にしろと言いたくなってもおかしくはない。
こうなると、仕方がないか。
もうヤオモモや拳藤に対して俺の正体について話す覚悟は決めていたのだから、ここで躊躇するつもりはない。
パチンと指を鳴らすと、瞬間俺の身体が白炎に包まれる。
「きゃあっ!」
「アクセル! おい、大丈夫か!?」
ヤオモモと拳藤がそれぞれに悲鳴と驚きの声を上げる。
だが、そんな2人の前で俺の姿は10代半ばから20代半ばに変わる。
「え? 嘘……だろ……?」
「やっぱり……」
拳藤は目の前にいる俺が、つい先程までは同じ年齢だと思っていた俺が、いきなり20代という年上になった事に驚きの声を上げる。
ヤオモモは驚きつつも、納得の方が大きい。
まぁ……ヤオモモの場合は元々AFOとの戦いの時にいたのが俺だと怪しんでいたしな。
そういう意味では、寧ろ納得出来るような事なのだろう。
「改めて自己紹介させて貰おう。俺はアクセル・アルマー。……まぁ、名前そのものは雄英に通っていた時と同じだが。ただ、立場としては異世界からこの世界にやって来た国の代表だ」
『え……』
ヤオモモと拳藤がそれぞれ理解出来ないと言った様子で声を上げる。
まぁ、普通に暮らしていれば異世界とかそんな存在と接するような事はまずないだろうしな。
あるいはこれでヤオモモや拳藤が漫画とかアニメとか、そういうのを好んでいれば……いや、それはまずないか。
とはいえ、俺は今まで幾つもの世界を旅し、何人もに自分が異世界からの存在だというのを知らせてきた。
その中にはヤオモモや拳藤のように、理解出来ない……あるいは理解したくないのかもしれないが、とにかくそんな感じの奴がそれなりにいた。
なので、こういう場合はヤオモモや拳藤が我に返るのを待つのではなく、どんどんと話を進めていった方がいいというのは理解していた。
勿論、そういうのは人によっても違うのだが、ヤオモモや拳藤はそんなタイプだろうと判断したのだ。
「元々俺達シャドウミラーという国は、異世界……と表現しているものの、正確には世界と世界の狭間とでも呼ぶべき場所に本拠地がある。で、その立地条件……という表現が相応しいのかどうかはともかく、それによって俺達は色々な世界に接触してきた」
そこまで説明すると、ヤオモモは完全に俺の話を聞く体勢となっており、拳藤もまたヤオモモに少し遅れてはいるが、まずは俺の話を聞こうとしていた。
「俺達が関与してきた世界には、色々な世界があった。例えば人型機動兵器……まぁ、ロボットと言えば分かりやすいか。そういうのを使って地球と宇宙で戦争をしている世界もあれば、銀河に旅立って居住可能な惑星を探している移民船団だったり、あるいは魔法の存在する世界だったり、魔術師が使い魔を使って戦争をしている世界だったり、宇宙生物が地球を侵略している世界だったり……他にも色々とな」
今まで俺が関与してきた世界を思い浮かべる。
本当に色々な世界があったよな。
まぁ、BETAの場合は正確には宇宙生物ではなく、資源を採掘する為の機械だった訳だが。
「そんな訳で、シャドウミラーは色々な世界に関与し、未知の技術を集めたり、あるいはホワイトスター……世界の狭間にあるシャドウミラーの本拠地だが、それを使って異世界間貿易をしたりと、色々としている訳だが、そんな中でまた未知の世界に行く為にこの世界……今ではヒロアカ世界と呼んでいるんだが、この世界に来た訳だ」
ヒロアカ世界という名称に、ヤオモモと拳藤は微妙な表情を浮かべる。
まぁ、自分の世界がそんな風に呼ばれるというのは色々と思うところもあるのだろう。
「で、俺がこの世界に来た時、丁度そこでは龍子……リューキュウとマウントレディが模擬戦をやっているところだった。それもドラゴンとなったリューキュウと、巨大化したマウントレディでな」
正直、あの時は一体どんな世界に来たのかと、本気で疑問に思った。
もしちょっと何らかのタイミングが間違っていれば、巨人がドラゴンに襲撃されていると判断して、ドラゴンを……龍子を攻撃していたかもしれない。
そうなった場合、当然ながら龍子を先輩として慕う優も俺をそのままにしておく筈もなく、間違いなく捕らえようと攻撃した事だろう。
そうなれば当然ながら俺も黙って捕まってやる筈もなく、優に反撃をし……俺が勝利したのは間違いないものの、プロヒーローと敵対したのだから当然ながらそのままそこにいられる筈もなく、ヴィラン側に所属していた可能性が高い。
もしかしたら……本当にもしかしたらだが、何だかんだとあってヴィラン連合に所属する事になっていてもおかしくはない。
とはいえ、俺とAFOの相性は決定的に悪いので、最終的にはヴィラン連合を抜けるという事になっていた可能性の方が高いのだが。
そうなると、プロヒーロー側でもなく、ヴィラン側でもなく、第3勢力として活動していた可能性もあるな。
結局はifの話なので、今更考えても仕方のないことではあったが。
「ともあれリューキュウやマウントレディと接触した事によって、リューキュウから公安に連絡がいって、俺は取りあえず公安と取引をして、最終的には異世界の存在というのを隠して、個性事故として色々とあったという事にした訳だ」
「えっと……その、何故そのような方が雄英に通う事に?」
ヤオモモのその質問に、拳藤も同意するようにうんうんと何度も頷いている。
まぁ、普通に考えれば、今の話の流れで何でそうなるのか分からないというのは理解出来ないでもない。
「公安からの依頼でな」
「依頼……ですの? あ、その、もし聞いても問題がなければですが」
聞いても問題がないかどうかと言われると、どうなんだろうな。
いやまぁ、生徒達の壁として立ち塞がり、それによって生徒達を鍛えるのが目的であるというのは……言わない方がいいか?
もしヤオモモがそれを知ったら、色々と影響がある可能性もあるし。
であれば、その辺についてはまず今のところは言わないでいた方がいいと思う。
そうして悩んでいると……
「あ、その、無理にとは言いません。聞かない方がいいのでしたから聞きませんので」
俺が何かを言うよりも前に、ヤオモモがそう言う。
別にそこまでして隠す必要がある内容ではないのだが……まぁ、ヤオモモがそう言うのなら、この件については黙っておくことにしよう。