「……は?」
壊理をホワイトスターに連れていく。
そう口にした俺の言葉に、相澤はそんな声を漏らす。
完全に予想外といった、そんな声。
相澤にしても、まさか俺がそんな事を言うとは思っていなかったのだろう。
「だから、ホワイトスターに連れていくと言ってるんだよ。このヒロアカ世界にいるだけだと、壊理をヴィランから守る事は出来ない。なら、守れる場所まで連れていくのは当然だと思うが?」
「それは……」
相澤は何か反論したい様子だったが、実際にはそれに対して反論することは出来ず、黙り込む。
まぁ、そうだろうな。
相澤にしてみれば、壊理をホワイトスターに連れていくというのは完全に予想外だった筈だ。
だが同時に、壊理がホワイトスターにいればヴィランによる暴力……虐待に怯えなくてもすむのは事実。
相澤のこういうところが、生徒としても信用出来るんだよな。
もっとも、本人にそのような事を言ってもそれを素直に受け入れるとは思えないが。
「ああ、一応言っておくが、これはどうすればいいのかと、相談に来た訳じゃない。壊理をホワイスターに連れていくという、報告をしに来ただけだ」
なので、こう言っておく。
これならもし後で今回の一件が知られた時も、相澤が止めようとしても、俺は既に壊理をホワイトスターに連れていくと決めた上で話をしに来たのだと、そう言う事が出来るのだから。
「はぁ……その前に少し聞きたい。八百万と拳藤がいる中でこうしてホワイトスターがどうとか言っているという事は……まさか、あいつらに話したのか?」
ジト目を向け、聞いてくる相澤。
俺がヤオモモや拳藤と一緒にいて、ホワイトスターに壊理を連れていくといったような事を言ったのだから、相澤もそうなのだろうと予想はしているのだろうが、俺からしっかりと話を聞いておきたかったのだろう。
「あ、しまったー。おれのしょうたいをかくすのをわすれていたなー」
「……おい、そんな棒読みの言葉で一体何を信じろと?」
呆れつつ、相澤がそう言ってくる。
あ、ちょっとこれはからかいすぎたか?
そうも思いつつ、頷く。
「悪いな。ただ、最初に壊理が助けを求めて来た時、ヴィランが近くまで来ていたから、まずはヴィランの対処をするよりも壊理を助けるのを優先する必要があって、それで影のゲートを使って俺の部屋まで転移した。……で、これだけならまだ俺の個性という事になっている混沌精霊の1つだと言って誤魔化せたんだが、昨日AFOとの戦いの時に緑谷達と一緒にヤオモモもあそこにいて、俺が影のゲートを使ってヤオモモ達を転移させていた。……あるいは転移の方法が全く違うのなら誤魔化しようがあったが、影のゲートを使った転移だというのを向こうも分かっている以上、誤魔化す事は出来なかった」
まぁ、それ以前に……AFOの時に助けた俺と、ヒーロー科A組のアクセル・アルマーが同一人物だと……あるいは同一人物ではなくても、何らかの関係があると、ヤオモモは疑っていたしな。
そういう意味では、影のゲートはあくまでも決定打になっただけなんだよな。
一体何でヤオモモがそのように考えたのかは、分からないが……いや、それなら丁度いい機会だし、今ここで聞けばいいのか。
「ヤオモモ、ちょっと来てくれ!」
「はい? 何でしょう? ……少し失礼しますね」
ヤオモモは人の頭部程の大きさもあるリンゴの人形を壊理に渡すと、俺の方に近付いてくる。
……ヤオモモが創造の個性で作れるのは、その大きさの肌面積が必要な筈なんだが、あの大きさのリンゴの人形は一体どうやって出したんだ?
そんな疑問を抱きつつも、取りあえずその辺りについては聞かない方がいいだろうと判断し、黙っておく。
「どうしましたの?」
「いや、ちょっと気になる事があってな。……昨夜、AFOの一件が終わった後で、すぐにヤオモモは俺に連絡をしてきただろ? 何であの時すぐにそういう事が出来たのかと思って。実際に、あの時の人物は俺だったんだから、見事に当たっていた訳だが」
「ああ、その件ですか。……別にそう難しい事でもありませんわ。あの時、私達を転移で助けてくれたアクセルさんは、私に向かって『ヤオモモ』と、そう声を掛けたのです」
「……あ、そういえば言ってたな」
電話で連絡をした時に、そんな風に言われた事を思いだし、それは今更の事だったかと理解する。
ヤオモモというのは、A組で八百万に付けられたあだ名だ。
今ではB組でも普通に使われているものの、それでも八百万をヤオモモと呼ぶのは雄英のヒーロー科1年のA組とB組の面々くらいだ。
そんな中で、初対面だと思っている相手にいきなりヤオモモと呼ばれれば、それは印象に残るか。
だからこそあの時にヤオモモから電話でその件について言われた時、驚いたのだが……壊理の件で俺の正体をヤオモモや拳藤に知らせたこともあって、そのあたりについてはすっかり忘れてたな。
「アクセル、お前……」
そして俺とヤオモモの会話を聞いていた相澤が、呆れの……先程まで以上の呆れの視線を向けて、そう言う。
相澤にしてみれば、俺の行動は迂闊としか言いようがないのだろう。
いやまぁ、自分でもそこは明らかに迂闊だとは思うが。
とはいえ、あの時は咄嗟の事だったし、色々と忙しかったのだから、そんな風に思っても仕方がないと思う。
「あー……まぁ、ヤオモモの鋭さには驚くばかりだな」
「もう、私が言うのも何ですが、アクセルさんはもう少し慎重に行動しないといけないと思いますわよ」
プリプリといった様子で、ヤオモモがそう言ってくる。
まぁ……うん。実際にヤオモモが言ってるのは事実だし、その言葉の意味も十分に理解出来る。
……うっか凛を発動してしまったことについては、俺も気を付けないとな。
何だかどこからともなくガンドが飛んできてもおかしくないような事を考えながら、俺は話を逸らす。
「ともあれ、壊理を匿うにはホワイトスターに連れていくのが一番いいと判断した。相澤も異論はないと思うが?」
「……異論があるかないかと言われれば、勿論ある。だが効率的に考えた場合、それが一番あの子の安全に繋がるのも事実だ」
効率重視の相澤だけに、俺の提案にもあっさり……という訳ではないのだろうが、乗ってくる。
これで何かもっと安全な……それでいてホワイトスターに連れていかなくてもいいような方法でもあれば話は別なのだが、生憎とそういうのはないしな。
あるいはあっても、相澤も思いつかないみたいだし。
「じゃあ、決まりだな」
「ああ、だが……ホワイトスターに連れていくという事だが、住居環境はどうするんだ? まさか、1人暮らしをさせるつもりではないだろうな?」
もしそうだったら、壊理をホワイトスターに連れていくのを阻止する。
そう相澤が視線や態度で自分の気持ちを示してくる。
「安心しろ、そのつもりはないから」
実際には、量産型Wやコバッタがいるので、壊理が1人暮らしをしても何の問題もなかったりする。
だが……それはあくまでも生活をするのに支障がないというだけで、幼女の壊理にしてみれば量産型Wやコバッタだけがいるというのは……まぁ、壊理の性格を思えばもしかしたら壊理本人はそれでいいと思うかもしれないが、情操教育には向いていない。
そんな訳で、どうせなら……
「壊理は俺の家で寝泊まりさせるつもりだ」
「アクセルの家で? ……それは……いや、だが、大丈夫なのか?」
「まぁ、俺だけで生活をしていれば問題だろうが、養子ではあるけど2人の子供がいるし、恋人達も大勢いるから、寂しいって事はないと思うぞ?」
そう言った瞬間、ヤオモモがピキリと動きを止める。
自分の同級生に、まさか養子とはいえ子供がいるとは思っていなかったんだろうな。
「恋人……達、だと? 俺の聞き間違いか?」
「いや、別に聞き間違いとかそういうのじゃない。普通にホワイトスターにある俺の家では、大勢の恋人達と同棲している。……あるいはルームシェアは……ちょっと無理があるか」
ルームシェアというのは、その言葉通りルーム……部屋をシェア、つまり共用する事だ。
俺達の家の状況をルームシェアというのは、明らかに無理があるだろう。
あるいは最初の出会いはルームシェアだったけど、それでやがて付き合うようになるとかそういう事はあるかもしれないが、俺達の場合は最初から恋人同士で住んでるしな。
ルリやラピスの場合は養子という関係だが。
「そ……そそそ……そ……そう、ですの」
「ヤオモモ?」
ヤオモモは俺の口から出た言葉が余程刺激的だったのか、フラフラと拳藤達のいる方に戻る。
あー……まぁ、そうか。ヤオモモの場合はそういう、性的な知識とか恋愛関係に関する知識とか、そういうのはそこまで詳しい訳じゃないしな。
今の俺の言葉が理解出来ないか、あるいは理解出来でも混乱したのかもしれない。
……恋バナが好きな三奈とかと、1学期にはそういう話をしているのを見たりもしんだけどな。
まだまだってところだな。
「アクセル、お前……」
相澤は、何故か唖然とした……まるで自分にとって全く理解出来ないような存在を見るかのような視線をこちらに向けている。
まぁ、相澤の場合は恋愛とかに興味がないだろうし、であれば俺が複数の相手と付き合い、しかもその相手と同棲していると言われれば、こういう感じになってもおかしくはないか。
「本気で刺されるなよ?」
「は?」
いきなり何を言うのかと、そう思ってしまう。
とはいえ、相澤の表情は決して冗談を言ってるようなものではなく、本気なのは明らかだ。
……だからといって、相澤の言ってる意味は分からなかったが。
あるいは、俺は混沌精霊だから普通に刺されただけでは意味がないとでも言った方がいいのか?
そう思ったが……俺が何かを言うよりも前に、拳藤がこちらに来るのが見えた。
ヤオモモは? と思ったのだが、そのヤオモモは再び人形を出して壊理と遊んでいる。
「相澤先生、少しアクセルを借りたいのですが、構いませんか?」
「好きにしろ。いや、俺の用件についてはもう終わったから、後はお前達が好きにすればいい。話が終わったら……いや、別に職員室まで報告をしに来たりする必要はないな。そのまま帰ってくれ。……巻き込まれるのはごめんだ」
最後の一言は周囲に聞こえないように口の中だけで呟いたのだろうが、混沌精霊である俺の耳にはしっかりと聞こえていた。
……もっとも、何に巻き込まれるのがごめんだと言っているのかは、俺には分からなかったが。
「分かりました。……さぁ、アクセル。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいよね?」
相澤が足早に出て行くと、拳藤が俺にそう声を掛けてくる。
その表情には、結構な迫力があった。
具体的にどのくらいの迫力かとなると……その辺のヴィランなら、今の拳藤の前では逃げたり攻撃したりといった事は出来ない、そのくらいの迫力だ。
俺ならその迫力に抗える。
抗えるのだが……拳藤の様子を見れば、何となくそうしない方がいいだろうと判断する。
そんな訳で、相澤はいなくなり、ヤオモモは壊理と共に会議室の端で遊んでいる中、俺は拳藤と共にいる。
「えっと……それで、話というのは?」
黙って俺を見てくる拳藤に、取りあえず今のままでは話は始まらないだろうと判断し、そう尋ねる。
すると拳藤は俺に対し、笑みを浮かべ……それでいて、目は決して笑っていない様子で口を開く。
「実はさっきヤオモモから面白い事を聞いたから、それについてアクセルから話を聞かせて貰おうかと思ってな」
「話……? まぁ、拳藤がそう言うのなら俺は構わないけど。具体的にどんな話だ?」
「アクセルの故郷であるホワイトスターだったか? 何でも、そこにはアクセルの恋人がいて、同棲してるって聞いたんだけど、本当か?」
なるほど、その件か。
拳藤は学級委員長をやっているだけあって真面目な性格をしているし、それにこのヒロアカ世界でも……正確にはこのヒロアカ世界の日本であっても、一夫一婦制が普通だ。
……勿論、中には愛人がいたりする者もそれなりにいるし、あるいは不倫をしていたりする者もいるが、とにかく制度的には一夫一婦制なのは間違いない。
そんな常識の中で育ってきた拳藤にしてみれば、俺が複数の……それこそ20人近い恋人がいて、その多くと同棲しているのに思うところがあるのだろう。
「あー……うん。本当だ。ただ、一応言わせて貰えば、シャドウミラーは別に一夫一婦制って訳じゃなくて、一夫多妻制だ」
まぁ……うん。そうなった理由は俺だったりするんだが、ムウだって喜んで……喜んで……まぁ、多分喜んでいるし、誰から聞いた噂なのかは忘れたが、SEED世界のキラが将来的には一夫多妻制を目当てに、ラクスとフレイの2人と引っ越してくるかもしれないって話だったしな。
「ふーん。……それでアクセルには恋人が何人もいるんだ。……この、すけべ」
「それはまぁ、否定しない」
毎晩のように恋人達としている行為を思えば、そんな風に言われても否定は出来ないしな。
「馬鹿、少しくらいは否定しろよな」
呆れた、といったように拳藤は大きく息を吐くのだった。