取りあえず、拳藤の追及はあっさりと終わった。
……いや、正確には終わったというか、ホワイトスターに行ったら俺の家に行って実際にどうなっているのかを見てから判断するらしい。
判断って何だ?
そう思ったが、拳藤に言わせると教育上良くない場所であれば、壊理をどこか別の場所に匿う必要があるという事らしい。
……まぁ、うん。
俺が恋人達と毎晩のように行為を楽しんでいる事を思えば、まだ幼女の壊理の教育に良くないというのは分からないでもない。
ただ、一応言い訳をさせて貰うとすれば、寝室は完全防音になっていて行為の時の声は部屋の外に漏れるような事はないし、また行為自体も寝室でやっていて、スリルを求めてリビングで……とか、そういう事はない。
それに、ルリやラピスが養子にいて、正常に……正常に? まぁ、多分正常に育っているのを見れば、教育上の問題はないと思う。
まぁ、その辺については実際にホワイトスターに行ってからの話だな。
「さて、じゃあゲート……ホワイトスターに行く為の転移装置のある場所まで移動するぞ」
そう言うと、拳藤はまだ完全に納得した様子ではなかったものの、それでもとにかく今はこれ以上何を言っても仕方がないと判断したらしく、こちらに近付いてくる。
俺と拳藤の会話が聞こえないようにと、会議室の端で遊んでいたヤオモモも、壊理と共にこちらに近付いてくる。
……ヤオモモの方も、色々と俺に言いたい事はあるらしい。
とはいえ、ヤオモモはいわゆる上流階級の出身だ。
であれば、妻以外に愛人がいたりとか、そういうのは普通に知っていてもおかしくはないんだが。
愛人を囲うにしろ、当然ながらその愛人が住む場所の用意、生活費、場合によっては給料とかそういうのも出す必要があるのだから、相応の財力がなければそういうのは難しい。
あるいは職業としての愛人ではなく、純粋に自分の魅力だけで愛人にするといったような者もいたりするだろうが……その辺はそう簡単に出来る事じゃないしな。
これが例えば一夜限りの関係とか、そういうのならともかく。
「……どうしたの?」
俺達の間に流れる微妙な雰囲気を感じたのか、壊理がそう聞いてくる。
表情はあまり変わらないが、雰囲気的には心配そうにしている感じか。
「いや、何でもない。ちょっと難しい事を考えていただけだ。なぁ、ヤオモモ、拳藤?」
「……そうですわね。少し難しい事がありまして」
「そうだね」
ヤオモモと拳藤も俺の言葉に素直に乗ってくる。
本心でどう思っているのかはともかく、壊理の前ではそれを言葉に出さない方がいいと、そう判断したのだろう。
ともあれ、このままだと壊理に心配を掛けるし……
「ほら、行くぞ。あまり時間を掛けると、また何かトラブルに巻き込まれるかもしれないし」
俺について詳しい者であれば、お前が言うな! と突っ込まれてもおかしくはない言葉ではあるが……まぁ、それはともかくとして。
「そうだね。……それで、また影のゲート? とかいうので移動するのかい?」
拳藤がそう尋ねてくる。
あれ? と一瞬そう思ったものの、そういえばゲートがどこに設置されているのかはまだ教えていなかったなと思い出す。
「心配ない」
相澤からは帰る時に特に声を掛ける必要はないと言われていたので、会議室の中は軽く整頓するだけにする。
「で、人形は……まぁ、俺が預かっておくか」
ヤオモモが壊理の為に生み出した各種人形。
特にその中でも頭部サイズのリンゴの人形は、まさかこうして持ち歩く訳にもいかない。
また、ヤオモモの個性である創造は、その名の通り創造……生み出す事は出来るものの、一度創造した物をキャンセルというか、消滅させる事は出来ない。
つまり、作れば作りっぱなしとなる訳だ。
そうなると、ヤオモモが壊理の為に作った人形も当然ながら作ったままとなる。
何気に人形は結構な数になるので、その大半を空間倉庫に収納する。
人の頭部程の大きさのリンゴの人形は空間倉庫に収納するのを壊理が嫌がったので、結局その人形だけは壊理が持ち歩く事になったが。
そんな訳で、出発する用意が終わり……そのまま校舎を出る。
「アクセル? どこに行くんだ?」
壊理の手を握る拳藤が、そう聞いてくる。
なお、壊理の右手は拳藤が左手はヤオモモが握っていた。
普通ならそういう時はどちらかの手は俺なのでは?
そうも思ったが、別にどうしても俺も壊理と手を結びたいという訳でもないので、その辺については気にしない事にする。
「こっちだよ」
そうして拳藤やヤオモモ、そして壊理と共に向かったのは……
「え? コンクリートの壁?」
ヤオモモが視線の先にあるのを見て、そう呟く。
いや、俺が今日の午前中に来た時は別にこういうのはなかったと思うんだが。
恐らく、俺が来てから今までの間にセメントスが作ったのだろう。
そこにあるのは、コンクリートの壁で、その壁には扉が……雄英らしく、障子のような大きな身体を持つ異形系の個性に持ち主であっても自由に出入り出来るような扉があった。
「行くぞ。目的地はあの扉の向こうだ」
「ちょっと、アクセル? もしかして、アクセルが言っていたゲートって……」
拳藤は俺の様子を見て、そしてコンクリートの壁を見て、思いついたらしい。
そう聞いてくる。
「答え合わせは、あの扉の向こうだ。いいから行くぞ」
そう言い、扉の前まで移動する。
……この扉の鍵が掛かっていたり、あるいは事前に登録した指紋とかそういうのがないと聞かなかったらどうしようかと少し心配だったのだが、幸いなことに扉はあっさりと開く。
どうやら俺が心配したような事にはなっていなかったらしい。
その事に安堵しつつ、扉を完全に開いて中に入ると……
「あ……」
まず真っ先に口を開いたのは、ヤオモモ。
そんなヤオモモの視線の先には、ゲートを守る量産型Wの姿があった。
……ああ、そうか。ヤオモモを含めた面々は昨日のAFOとの戦いで俺が明日菜達のいる場所まで影のゲートで転移させたが、そこで明日菜達を守る為に量産型Wも何人かいたんだったな。
その時に量産型Wを見ていたのだから、ここにいる量産型Wを見て今のように反応するのはそうおかしくはない。
もっとも、本当の意味で量産型Wが一体どのような存在なのかとか、そういうのは分かっていないだろうが。
……知られると、それはそれで微妙に困ったりしそうだけど。
何しろ量産型Wについて話した時、雄英側でも脳無とどう違うんだ? といったような事が話題になったくらいだったし。
実際には脳無と量産型Wでは全く違う存在なのだが……その辺りを説明するにも色々と手間なので、出来れば今は遠慮したい。
「あのロボット……雄英の奴とは違うね」
ヤオモモと違い、拳藤が見ていたのは量産型Wと共にゲートを守っているコバッタ。
なるほど、拳藤にしてみれば入試の時に見たロボットを思い出したらしい。
あるいは授業でロボットと戦ったりもしたのかもしれないが。
「そうだな。あれはコバッタだ。基本的には雑用とかそういうのをやるロボットだ」
実際、量産型Wやコバッタがいなければ、恐らくホワイトスターは回っていない。
コバッタは量産型W共々、シャドウミラーを裏方というか、縁の下の力持ちといった感じの存在なのだから。
「ふーん。……で、今は何をしてるんだ?」
「量産型Wと一緒に、ゲートに不審者が近付かないようにしているんだよ。あそこにあるゲートを使ってホワイトスターに転移するんだが、それだけに見知らぬ者が勝手に入ってきたりされると困るし」
特にこのヒロアカにおいては、マスゴミが強い影響力を持っている。
……いや、影響力を持つというか、声が大きいから目立つといった方が正しいか?
そのうえ、マスゴミだけにTVとかでは自分達の好きな情報を選択して流せるし。
もっとも、世の中には報道しない自由を使うマスゴミという存在が嫌だと、TVとかじゃなくてネットで情報を入手する者も増えてきている。
今はまだそこまででもないが、マスゴミが今のように変わらないのなら、いずれきっとそのうち……TVとかが古いメディアとなり、ネットが中心になっていったりしてもおかしくはない。
ともあれ、そういうマスゴミ対策としても、量産型Wやコバッタは必要なのだ。
今のところはまだゲートが見つかっていないが、見つかれば……あるいはシャドウミラーの存在が公になれば、マスゴミも騒ぎ始めるだろうし。
そうなれば、ここにあるゲートに無理矢理入ろうとする者がいてもおかしくはない。
それも、知る権利を錦の御旗として。
……そうなるよりも前に、いっそこの辺りを大使館にするというのも悪くないな。
そうなれば、大使館の中はシャドウミラーの領土となり、治外法権となるので勝手に入ってきた相手はシャドウミラーの法で裁くことが出来る。
とはいえ、その辺りって実はまだ決まっていないんだよな。
何しろシャドウミラーの面々は騒動を起こしてもそこまで大きなものではないし。
他の世界から来た者達なら、その罰はその世界全てに与えるということで、暫くその世界全体がホワイトスターに来るのが禁止になる。
ただ、まだヒロアカ世界との間には明確な条約が結ばれたりしていないので、この世界の住人が来るのを禁止するのは難しい。
となると……そうだな、例えばUC世界の月に連れていって、そこで農作業をさせるとか。
もしくはマブラヴ世界に連れていって、復興作業に従事させるとか。
そうなれば、仮にも異世界の事を知る事が出来るし、同時に罰も受けさせる事が出来るので、わるくはないと思う。
……まぁ、いつヒロアカ世界に戻ってこられるのかは、俺にも分からないけど。
それに異世界という存在に釣られたヴィランがやって来たら、その連中は研究対象にも出来るだろう。
オールマイトの治療でタルタロスにいるヴィランの引き渡しについての条件もあったが、実際にあれが遂行される可能性はかなり低いだろうし。
あるいはそれが成功したとしても、研究対象は多ければ多い方がいいのだから。
「アクセルさん、どうしましたの?」
「いや、妙な連中が来るよりも前に、ここを大使館とかそういう扱いにした方がいいかもしれないと思ってな」
「ああ……」
ヤオモモが俺の言葉に納得したように頷く。
ヤオモモは上流階級の出身だけに、マスゴミについても色々と思うところがあってもおかしくはない。
何しろヤオモモは名家の八百万家の令嬢にして、天下の雄英高校ヒーロー科に推薦入学出来るだけの能力を持ち、整った顔立ちと高校生離れした発育の暴力ともいうべき身体付きだ。
それこそ弱点の類が一切ないのではないかと思える、そんな状況。
……もっとも、一見すれば弱点がないように思えるヤオモモだったが、世間知らずな一面もあるので、弱点はしっかりとある。
あるいは騙されやすかったり。
体育祭のチアリーダーの衣装の件とかを見れば、それは明らかだろう。
「さて、いつまでもこうして見ているのもどうかと思うし、行くぞ。……異世界だ」
そう言うと、拳藤とヤオモモが反応する。
異世界という存在は、それだけ拳藤やヤオモモにとっても大きいのだろう。
まぁ、普通に考えれば、異世界などという場所に行く事は不可能に近いし。
あるいはヒロアカ世界なら異世界に転移するとか、異世界に続く扉を作る個性とか、そういうのがあってもおかしくないけど。
とはいえ、俺が知ってる限り――ネットで調べた限りだが――では、そういう個性を持っているという情報はどこにもない。
……まぁ、もし本当に異世界に行けるような個性があった場合、即座に国によって確保されるだろう。
あるいは国ではなく日本でいう公安に確保される可能性もあるが。
「行きましょう。壊理ちゃんの為ですもの」
「そうだね。……まぁ、異世界というのは興味があるけど」
「……いせかい」
ヤオモモ、拳藤、壊理がそれぞれ俺の言葉に反応する。
何だかんだと、3人ともそれぞれ異世界には興味があるのだろう。
「アクセル代表」
俺が視線を向けたのに気が付いた量産型Wが、俺に近付いてくる。
ビクリ、と。
量産型Wを初めて間近で見る拳藤と壊理は、ヘルメットを被った量産型Wの姿にビクリと反応する。
ヤオモモは昨夜の一件があってか、そこまで驚いた様子はなかったが。
「ホワイトスターに転移する。俺だけじゃなくて、ここにいる3人も一緒にだ」
「了解しました。すぐに手続きに入ります」
敬礼をしてそう言うと、量産型Wはすぐに手続きに入る。
「よし、行くぞ。ゲート……あそこにある機械の側に来てくれ」
そう言うと、3人共素直に俺の言葉に従ってゲートの側までやってきて……
「ゲート、起動します」
量産型Wのその言葉と共にゲートが起動し、俺達はホワイトスターに転移するのだった。