転移が終わると、俺達の姿はホワイトスターの転移区画にあった。
「えっと……アクセル?」
目を瞑っていた拳藤が、周囲の様子を確認しながら、不思議そうに聞いてくる。
それは拳藤だけではなく、ヤオモモも意外そうな様子で周囲を見ている。
拳藤とヤオモモと手を繋いでいる壊理は、周囲の様子を見ても特に何も感じたりはしていないように見える。
いやまぁ、表情には出さないだけで、内心ではどう思っているのかは分からないが。
「ここはホワイトスターの中でも転移区画といって、ここから色々な世界に転移するところだ。……見ろ」
俺達以外にも、色々な世界から転移してきた者達がいる。
そのような者達は俺を見て驚きの表情を浮かべる者もいれば、俺をアクセルだと認識出来ないのか、それでもホワイトスターに来たばかりだというのを見て、微笑ましそうにしていた。
前者は俺が一緒にいる事でヤオモモや拳藤、壊理が何か重要な人物なのもしれないといったように驚き、後者は自分達が初めてホワイトスターに来た時も同じように驚いていたなと、そう昔を思い出したといったところか。
「特に何もないですわね」
ヤオモモが壊理の手を握りながら、周囲を見つつそう呟く。
「今も言ったが、ここは転移区画という場所だ。ヤオモモ達もさっき使ったゲートが色々な世界にあって、それを使ってゲートに来ている者達だ。……どうせだし、歩いて移動するか」
量産型Wに頼めばバスであったり、車であったり、場合によってはバイクや自転車を用意してくれたりもするのだが、ヤオモモ達は初めてこのホワイトスターに来たのだ。
オールマイトや校長が初めてホワイトスターに来た時は歩きではなく車で移動したものの、あの時はホワイトスターの観光どころではなく、一刻も早くオールマイトの治療をする必要があったしな。
そういう意味では、仕方がなかった。
だが、今回は特に急ぐ必要がある訳ではない。
いや、壊理の避難という意味では急ぐ必要があるのだが、壊理に暴力を振るっていたヴィランから匿うという意味では、ホワイトスターに到着した時点でもう問題はない。
……あるいは、本当にあるいはの話だが、もし俺達がゲートを使って異世界のホワイトスターという場所にやって来たと知って、雄英に設置したゲートに来ても、そこには量産型Wやコバッタがいる。
勿論、そのヴィランの個性によっては、もしかしたら量産型Wやコバッタもやられてしまうかもしれない。
量産型Wは金ぴかの細胞を取り入れ、魔力や気を使った戦闘が可能だし、魔術もガンド程度なら使える。
もっとも、量産型Wのガンドは物理的な攻撃力があり、ちょっとしたマシンガン的な威力を持つ凛のガンドとは違い、いたって普通の……ランダムで病気にするとか、そういうガンドが多いが。
ただ、中には何がどうなったのかガンドに高い適性を見せ、凛程ではないにしろ物理的な攻撃力を得る事に成功している量産型Wもいる。
また、気の派生という事で呼吸を使える量産型Wもいた筈だ。
そして何よりも恐ろしいのは、量産型Wはその名称通り量産されるのを前提としているという事。
いや、この場合はそれぞれの量産型Wの知識や経験を疑似記憶とかで習得出来る事の方が恐ろしいか?
ともあれ、量産型Wの名称通り量産出来るので、もしゲートの護衛をしている量産型W達がヴィランによって倒され、あるいは殺されても、即座に別の量産型Wが延々とゲートで転移されてくる。
それだけではなく、場合によってはコバッタ、バッタ、イルメヤ、メギロート、シャドウといった機体までもが転移してくる可能性がある訳だ。
もっとも、当然ながらそのような機動兵器が転移してくればどうしても目立ってしまい、マスゴミの注目を集める事になったりしかねないが。
まぁ、さすがにそこまで行く前にヴィランは倒されると思うし、あるいはもしヴィランが持ち堪えていても雄英の教師が応援に来るとは思うけど。
ともあれ、壊理がホワイトスターに来た時点で既に問題は大体解決している訳で、それなら壊理が寝泊まりする予定の俺の家に行くまでに、ホワイトスターの内部を色々と見て回るというのは悪くないと思う。
……なお、決して何故か俺が複数の恋人と同棲していると知ったヤオモモや拳藤を家に連れていくのを気まずく思っているといった訳ではない。
「いいの、アクセル。壊理ちゃんの件は急いだ方がいんじゃ……」
拳藤が心配そうに尋ねてくるも、俺は問題ないと首を横に振る。
「その辺は気にしなくてもいい。既にホワイトスターに来た時点で、壊理の心配はいらないから」
そう言うと、会話の中で自分の名前が出た為だろう。
どうしたの? といった様子でこちらを見てくる。
「何でもないから、気にするな」
ポン、と、その頭を軽く撫でると、転移区画を出る。
そのまま進み、やがて交流区画に到着する。
「わぁ」
その光景を見た壊理の口から、驚きの声が上がる。
無理もないか。
壊理からちょっと聞いた話だと、普段は家に閉じ込められており、外出する機会はなかったらしいし。
今日は何らかの理由でヴィランが壊理を連れ出したらしいが、それだって勇気を振り絞って逃げ出した後は必死に走っていたのだから、街中を見るような余裕とかはなかっただろう。
そういう意味で、このホワイトスターの交流区画は……場合によっては壊理が生まれて始めて見る街中の光景といった事なのかもしれない。
「うわぁ……ちょっと、ヤオモモ。ほら、あそこ。手から火の玉を出してジャグリングしてる人がいるよ。あれも個性なのかな?」
「いえ、違うでしょう。アクセルさんの話によると、個性というのは私達の世界……何故そのような名称で呼ばれているのかは分かりませんが、とにかくアクセルさん曰くヒロアカ世界固有のものだという事ですし。……あ、壊理ちゃん、1人で行っては危険ですわ」
ヤオモモがフラフラと魔法使いの方に向かおうとしていた壊理を引き留める。
「正解だ。あれは個性じゃなくて、魔法だ。……ああ、ちなみにプロヒーローの中にも魔法を使う奴がいたが、それとは違う本物の魔法だ」
そう言うと、ヤオモモと拳藤が魔法使いを見る目に力が入る。
ヤオモモや拳藤にとっても、個性とかではなく本物の魔法というのはそれだけ興味深い存在なのだろう。
「ねぇ、アクセル。ちょっと見ていってもいい?」
拳藤がそう聞いてくるが、ヤオモモも言葉には出さないながらも同じような感じだ。
壊理は……ヒロアカにおける常識というのをよく知らないからこそ、そこまで魔法使いに目を奪われている様子はない。
もっとも、自分が手を握っているヤオモモと拳藤が興味深そうに魔法使いを見ているので、そういう意味では壊理にとっても魔法使いは多少なりとも興味はあるらしい。
「別に構わないぞ。もう壊理の心配はいらないし、こうして交流区画を歩いているのも、結局のところお前達にホワイトスターがどういう場所なのかをしっかりと見せたいという思いもあるから」
そう言うと、ヤオモモ達は魔法使いの方に近付いていく。
その魔法使いの周囲には、他にも多数の見物客達がいる。
恐らくは、その大半が最近ホワイトスターに来られるようになった者達ばかり、それもネギま世界以外の者達なのだろう。
一応ペルソナ世界にも魔法は存在しているものの、ペルソナ世界の魔法というのはペルソナの存在が前提となっており、そうなると一般人には使えるものではない。
……まあ、ペルソナ適性があって、ペルソナが使えるようになったりすればまた話は別だったが。
後は……門世界か。
より正確には門世界からホワイトスターに移住してきたエルフ達。
このエルフ達も魔法を使えるんだが……まぁ、うん。その対象というか、混沌精霊の俺という存在を崇める事によって使える魔法だしな。
そういう意味では、ちょっと……いや、かなり思うところがない訳でもない。
とはいえ、その辺を気にするのはもう今更の話なので、気にしない。
俺は少し離れた場所で魔法使いとそれを見ている者達を眺めていたが……
「うん?」
ふと、気配を感じて空を見上げる。
するとそこでは、牧場で貸し出されているワイバーンがこちらに向かって降下してきているところだった。
もっとも、事故か何かで俺のいる場所に来ているとか。あるいは俺を狙って急降下しているとか、そういうのじゃない。
ただ、それでも周囲にいる者達のうちの何人かが降下してくるワイバーンに気が付くと、慌てて距離を取る。
そうして数人が慌てて距離を取れば、当然ながらそれに気が付いた他の者達も上を見てワイバーンに気が付いて距離を取り、それを見て他の者達も……といった具合に、ワイバーンの下りてくる場所、つまり俺の周囲からすぐに人がいなくなる。
普通に考えてもこの辺りの判断力は高い。
……まぁ、ホワイトスターに来る事が出来る者達である以上、能力の高い者が集まっているのはおかしくないし、何よりホワイトスターの中では時々技術班とエキドナ、茶々丸、セシルといった面々の虚空瞬動を使った追いかけっこが起きたりもするし、その影響だろう。
シャドウミラーの面々だったりすればその程度で動揺したりはしないし、何かあっても対処出来るが、交流区画にやって来ている者の多くは一般人だ。
いや、ホワイトスターに来る事が出来ているという意味で選ばれた存在で、エリートと言ってもいいのかもしれないが、戦闘力的な意味では一般人でしかない。
あるいは元軍人や元警察といった者もいるので、全員がそのような存在という訳ではないだろうが。
後は……ネギま世界からなら、ヤオモモ達が見ているような魔法使いとか来るので、何かあっても対処が出来たりすると思う。
そんな風に思っていると、ワイバーンが俺の目の前に着地する。
そして、ワイバーンの背に乗っていた人物が俺に声を掛けてくる。
「あ、やっぱりアクセルだったか。……小さくなっているから、ちょっと見分けが付かなかったけど、正解だったみたいだな」
そう俺に声を掛けてきた人物が誰なのか、俺は知っている。
「ガエリオ……お前、一体何を考えてこんな街中でワイバーンを下ろすなんて事をしたんだ?」
俺の言葉に、ガエリオは意表を突かれた表情を浮かべる。
ガエリオ・ボードウィン。
元セブンスターズ、現スリースターズの1つであるボードウィン家の次期当主だ。
マクギリスに味方をしてラスタル率いるセブンスターズ……のうちから3つ抜けていたが、とにかくそこと戦った人物の1人となる。
言ってみれば現在のギャラルホルンにおいても最重要人物の1人なのだが、そのガエリオは以前……初めてホワイトスターに来た時、ワイバーンに乗ってからそれに嵌まり、ギャラルホルンからの連絡役というかお目付役という名目で火星にいるのだが、実際にはこうしてホワイトスターに入り浸り、毎日のようにワイバーンに乗っている訳だ。
どうやら今日もまたそうしてワイバーンに乗っていたのだろうが、空を飛んでいる中で俺を見つけ、下りてきたらしい。
ちなみにだが……チラリと視線を向けると、当然ながらヤオモモや拳藤、壊理が見ていた魔法使いの芸――といった表現が適切なのかどうかは微妙だが――も中断しており、ヤオモモ達もこちらにやって来ていた。
ワイバーンが怖いらしく、距離を取ってはいたが。
「すまないね。ただ、ちょっとアクセルに知らせておいた方がいいと思う事があって」
「……俺に? それなら、政治班に伝言を頼むとかすればよかったんじゃないか?」
「一応そちらの手筈も整えてはおいたが、空を飛んでいる時にアクセルを見つけたからな。どうせなら、直接話した方がいいだろう?」
「まぁ、それは否定しないが……」
ただ、ワイバーンは結構な高度を飛んでいた筈だ。
そんな中でポツンと俺だけがいるのならまだしも、多くの人がいる交流区画の中にいる俺を見つけるというのは……一体どうやって見つけたんだろうな?
あるいはこれだけワイバーンに乗っているガエリオだ。
ワイバーンとの間で心を通わせ、ワイバーンに俺を見つけたら知らせるように頼んでおいたとか?
普通ならまさか……と思うような内容ではあったが、今回の一件を考えれば普通にそれもあるのかもしれないと思ってしまう。
……まぁ、UC世界のバーニィのように、ザク系MSに乗るとその性能を最大限に発揮させるなんて能力を持つ者もいるんだ。
それを思えば、ガエリオがワイバーンと心を通わせていても不思議じゃない。
もし本当にそうだとしたら、珍しい事には間違いないけどな。
「取りあえず話は分かった。それで、俺に知らせたい事ってのは?」
「アクセルは今日、オルフェンズ世界の火星でゲリラと戦っただろう?」
そう、ガエリオに聞かれるのだった。