ワイバーンで降下してきたガエリオの口から出た、今日の午前中にオルフェンズ世界の火星で倒したゲリラの件。
そう言われて思い浮かべるのは、トールギス・グレイルの試乗をした時の事だ。
「技術班がオルフェンズ世界のMSの技術を使って作った新型のMSで色々と試していた時に襲い掛かって来た連中がいたな。そいつらの事か?」
ちなみにトールギス・グレイルという名称ではあるが、オルフェンズ世界におけるガンダムの定義というのは、ガンダムフレームを使ったMSという事で、そういう意味ではトールギス・グレイルもまたガンダムに入るのだろう。
もっともそれを言うのならW世界においてもトールギスは全てのMSの祖とでも呼ぶべき存在で、W世界のガンダムもトールギスの系統と言っても無理は……ない、か?
「そうそう、それだ。最近、火星が国となった事でそれを不満に思って、ゲリラが増えてるんだよ」
「知ってる。ちょうど今日オルフェンズ世界に行った時、ホワイトスターに来ようとしていたオルガに会ってその辺を聞いたからな。……まぁ、まさかその日のうちどころか、それから数時間もしないうちにそのゲリラに遭遇するとは思わなかったが」
今にして思えば、オルガのあの言葉がフラグだったのだろう。
「そうだったのか。……ともあれ、その件で火星は少し忙しくなっていると教えておこうと思ってね」
「……火星が忙しく?」
「当然だろう? 火星にとって、シャドウミラーというのはまさに命綱に近い。そんなシャドウミラーの代表がゲリラに襲われたんだからな」
「なるほど」
実際、オルフェンズ世界の火星は1つの国家として……いわゆる惑星国家という事になっている。
だが、当然ながらそのような事が出来ているのは、シャドウミラーの存在が非常に大きいのだ。
もしシャドウミラーが関わっていなければ……火星が国家としてやっていけたかどうかは微妙なところだろう。
あるいは火星が国家としてやっていけたとしても、今よりもっと苦しい状況になっていた筈だ。
そういう意味で、火星にとってシャドウミラーというのは……何て言えばいいんだ? お得意様? それはちょっと違うかもしれないけど、とにかくそんな感じの存在なのは間違いない。
そんな火星で、シャドウミラーを率いる俺が襲われたのだから、火星としてもそのままという訳にはいかないだろう。
「そうなると、ゲリラ狩りでも行われているのか?」
「そんな感じだな。また、今までは表立って反抗はしていなかったが、そういうゲリラとかに武器や金を流していた者達にも取り調べの手は伸びているらしい。特にゲリラの方は、鉄華団が出るという話もある」
「うわぁ……悲惨だな」
「襲われたお前がそういう風に言うのか」
ガエリオが呆れた様子でそう言ってくる。
ガエリオの言いたい事も分からないではない。
分からないではないが、俺が遭遇したゲリラについても、トールギス・グレイルを慣らすという意味で丁度いい相手だったしな。
そもそも万が一……億が一にもトールギス・グレイルがゲリラに撃破されたとしても、混沌精霊の俺には魔力や気が使われていない攻撃は無意味だ。
そういう意味では、ゲリラ達はトールギス・グレイルを撃破したとしても、俺を殺す事は出来ない。
……いやまぁ、技術班が作ってくれたMSを破壊されたら、その時はその時で俺もしっかりとやり返すつもりではあったが。
「俺だからこそ、そういう風に言えるというのが正しいだろうな。……ともあれ、時を待たずに動いたのが連中のミスだ。もし俺が向こうの立場なら、目の前にエサが出て来たからといってすぐに食いつくようなことはせず、暫く様子を見たけどな」
「……アクセルの言いたい事も分かるけど、火星は今急速に落ち着き、発展している。今この場で動かなければ、向こうもどうしようもなくなると、そう思った可能性もあるだろう?」
ガエリオの言葉には、強い説得力があった。
俺から見たガエリオは、ワイバーンに乗る為に火星に駐留し、毎日のようにホワイトスターに来てはワイバーンに乗っている趣味人……もしくは遊び人? 取りあえずそんな感じの奴なのだが、何だかんだとセブンスターズ――今はスリースターズだが――の1つであるボードウィン家に産まれ、次期当主として教育を受けてきただけの事はあるといったところか。
「そういうものか?」
「こちらの予想だけどね。……勿論、アクセルが言うように待つという選択肢もある。けど、そうなったら待つにしても徹底的に……下手をすれば十年単位、百年単位で待つ必要が出てくるだろう。ゲリラ達がそれに耐えられると思うかい?」
「無理だな」
そう断言する。
ゲリラと一言で言っても色々な者達がいるが、その多くは有象無象と呼ぶべき存在だ。
目標を達するまでの短時間であればともかく、何十年、何百年単位でゲリラとして纏まって潜伏出来るかと言われれば、難しいだろう。
内紛で壊滅するか、あるいは皆が理解した上で解散するか、もしくはどこか他のもっと大きなゲリラに吸収されるか。
ゲリラの中に傑物がいれば、その者を中心に結束を保ったまま何十年くらいなら保つかもしれない。
だが、アンチエイジングとかそういう技術が発展していても、火星にいるゲリラがそう簡単に受けられる訳がないし、あるいは受けたとしても何百年も生きるのは無理だろう。
つまり百年くらいは保っても、何百年もとなると無理な訳だ。
……まぁ、実際の話、何百年も経てば火星の統治機構も色々と変わっていると思うが。
それに現在火星の大統領……あれ? 大統領だったか? まぁ、多分大統領で間違いないと思うが、とにかく大統領のクーデリアもいずれ引退するだろうし。
クーデリア本人は時の指輪の受信機を持っているので不老だが、それでもいつまでも大統領を続けようとは思わないだろう。
クーデリアの性格を考えれば、後進が育ってきたらあっさりと地位を譲るはずだ。
もっとも大統領制となると選挙で決まる訳なので、単純に次の大統領選挙に出ないとか、そんな感じになる可能性の方が高いが。
「だろう? なら……うん?」
俺の言葉にガエリオが何かを言いかけるが、その言葉が途中で止まる。
俺から視線を逸らしたガエリオ、
何だ? とそのガエリオの視線を追うと、壊理がワイバーンに近付いてきているところだった。
これは……度胸があると言ってもいいのか?
交流区画にいた者達も、いきなり上空からやって来たワイバーンの存在に驚き、距離を取った。
だというのに、壊理はそういうのを全く気にした様子もなくワイバーンに近付いて来たのだ。
……壊理は半ば軟禁されているような状態だったので、常識の類はない。
だからこそワイバーンを見ても怖がるようなことはなかった……とか?
あるいは単純に、このワイバーンの姿が壊理にとって何か感じるものがあったのかもしれないな。
「アクセル、あの子は何だい? 子供がホワイトスターにいるというのは珍しいけど」
そう、ガエリオが聞いてくる。
まぁ、そんなガエリオの疑問は分からないでもない。
基本的にホワイトスターに来る事が出来るのは、それぞれの世界で問題ないと……ホワイトスターで騒動を起こすようなことはしないと認められた優秀な者達だ。
であれば、自然と子供がその中に入るのは難しくなる。
勿論、世の中にはネギのように子供の時から天才と呼ぶに相応しい者達もいるから絶対ではないが……それでもこうして壊理のような子供がホワイトスターにいるのは珍しいのだ。
……また、ガエリオは表に出さないようにしているものの、その口調には多少だが嫌悪感がある。
その事に不満を抱くが、その辺は仕方がないと自分を納得させる。
オルフェンズ世界において、ギャラルホルンは阿頼耶識の危険さを把握し、それが広まらないようにと人の身体を弄るような事は嫌悪すべき事だと、広めてきた。
火星のような地球と離れた場所であったり、あるいはヒューマンデブリのような存在にはそういうのとは関係なく、性能優先で阿頼耶識の手術が行われたりしたが、そのような者達は宇宙ネズミと呼ばれ、軽蔑される存在として扱われていたのだ。
今となってはガエリオも、それがギャラルホルンが意図的に広めた話のせいだというのは理解している。
理解してはいるが、それでも小さい頃からそのように教育されてきた以上、壊理のように一本だけだが角のあるような存在にはどうしても……無意識のうちに嫌悪感を抱いてしまうのだろう。
もっとも、それを言うのならマクギリスもバエルを操縦する為に阿頼耶識の手術をしたし、俺はそもそも人ですらなく混沌精霊なのだが……その辺はどうなんだろうな。
あるいは俺やマクギリスならガエリオも知り合いだから、嫌悪感を抱かなくなった……あるいは嫌悪感を抱いても、それを表に出さないようにしているのかもしれないな。
「この子供は壊理。シャドウミラーが現在接触している、ヒロアカ世界という世界でヴィラン……まぁ、悪者とか悪役とか敵とか、そんな感じの奴に暴力を振るわれていたのを偶然俺が遭遇して助けて、このホワイトスターに避難させてきたといった感じだ」
そう言うと、ガエリオが微かに抱いていた嫌悪感が消える。
この辺り、素直というか正直というか……とにかくそんな感じなのがガエリオらしいよな。
恐らく今の話を聞き、虐待されていた壊理に対する嫌悪感が消え、哀れみを覚えたのだろう。
壊理のような幼女が暴力を振るわれていたとなれば、普通ならガエリオのように思ってもおかしくはない。
そういう意味では、ガエリオのこの対応は決して間違ってはいないのだろう。
とはいえ、それはあくまでも壊理だったからだ。
そう考えると、ガエリオはあまりヒロアカ世界の住人と会わせない方がいいな。
ヒロアカ世界に存在する異形系の個性は、ガエリオにとっては決して好ましいものではないだろうし。
ガエリオも世界によってそういうのが違うというのは理解出来ているだろうが……小さい頃からの教育でそういう風になっているとすれば、自分でもどうしようもないというのは理解出来ている筈だ。
「触ってみるか?」
ガエリオがワイバーンに近付いて来た壊理に対し、そう尋ねる。
壊理はそんなガエリオの言葉に何を言うでもなく、じっと視線を向ける。
そんな壊理の視線に押されたという訳ではないのだろうが、ガエリオが口を開く。
「このワイバーンは賢い。君のような子供が撫でたところで、それで怒ったりはしないさ」
そんなガエリオの言葉に、壊理はそっとワイバーンに近づき……
「ちょっ、壊理ちゃん! 危険ですわ!」
「アクセルも何を黙って見てるんだい! 壊理ちゃんを止めなよ!」
丁度そのタイミングで、ヤオモモと拳藤が声を掛けてくる。
実際には、当然ながらヤオモモも拳藤も先程からガエリオの存在に気が付いてはいた。
だが、それでも声を掛けてこなかったのは、俺とガエリオが知り合いだったしまだ壊理とワイバーンの間に距離があったからだろう。
だが、その壊理がワイバーンに触れようとしたのを見て、我慢が出来なくなったらしい。
慌てたように近付いて来て、そう告げる。
この2人にしてみれば、壊理をワイバーンのような……見るからに危険そうな生物に触れさせるのは危険だと判断したのだろう。
これが例えば牧場にいるワイバーンを離れた場所から眺めるだけとか、そういうのであればまた話は違ったかもしれないが。
「ヤオモモ、拳藤、心配はいらない。このワイバーンはこのホワイトスターの牧場で飼育されている個体で、人に慣れている。ガエリオ……そのワイバーンに乗ってる奴を見れば、人に慣れているというのは分かるだろう? それに、乗ってる奴を見れば分かるように、牧場では希望者はワイバーンに乗ったりも出来る。ホワイトスターでは人気のアトラクション……と言ってもいいのかどうかは微妙だが、とにかくそんな感じの奴なんだ」
そう言うも、ヤオモモと拳藤はそれでもワイバーンを警戒した様子で見る。
うーん、ヒロアカ世界でもドラゴンに変身出来る龍子はもの凄い人気なんだし、そういう意味では、ワイバーンをそこまで警戒する必要はないと思うんだが。
いや、龍子の場合はプロヒーローとして活動しているし、何より人がドラゴンに変身する訳で、そういう意味でワイバーンを完全に信用しろという方が無理か。
結局のところ、ヤオモモにしろ拳藤にしろ、こうしてワイバーンを初めて見たので、どうしても警戒してしまうという事なのだろう。
「でも……本当に大丈夫ですの?」
「大丈夫だ」
ヤオモモの言葉にそう答えたのは、俺……ではなく、ガエリオ。
自分の乗っているワイバーンだけに、自信を持ってそう言い……そんなガエリオの言葉に押されるように、壊理はそっとワイバーンに触れるのだった。