転生とらぶる2   作:青竹(移住)

2006 / 2196
4641話

 真っ先に向かった売店での買い物を終えると、次に俺達が向かったのは当然のように牧場の中でも動物を放牧している場所。

 

「あら……あの馬、良い馬ですわね」

 

 最初に行った馬の放牧地で、少し離れた場所にいる馬を見てヤオモモがそう呟く。

 

「分かるのか? ……いや、ヤオモモなら分かって当然か」

 

 ヤオモモは名家の出身だ。

 そうである以上、それこそ乗馬とか普通に出来てもおかしくはない。

 

「馬を一目見ただけで良いか悪いか分かるなんて、素直に凄いな」

 

 しみじみと拳藤が呟く。

 ヤオモモのように金持ちという訳ではなく、一般家庭の出身である拳藤にしてみれば、やはり馬を見ただけで良い馬か悪い馬かを判別するのは素直に凄いと思うのだろう。

 ちなみに、壊理は……と思って視線を向けると、そこで珍しく目を大きく見開いて馬を見ている壊理の姿があった。

 どうやら壊理にとっては、馬というのは初めて見たのだろう。

 あるいは本や図鑑、もしくはTV辺りでなら馬を見たことがあったかもしれないが……それでも実際に自分の目で見るというのは、大きく違うのだろう。

 

「壊理、どうだ? 馬を見た感想は」

「おっきい」

 

 一言で壊理がそう返してくるが、実際に俺達が見ている馬は大きい。

 サラブレットと呼ばれる種類とはまた違う馬なのだが、それでも大きく、速そうに見える。

 そういえば北海道にはもっと巨大な馬がいるという話を何かで聞いた事があるが……そういう馬はいないんだな。

 

「ほら、壊理ちゃん。あっちの馬は小さくて可愛いよ」

 

 拳藤が離れた場所にいる馬を指さし、そう言う。

 その指の先にいるのは、いわゆるポニーと呼ばれる類の馬だった。

 勿論、ポニーにも色々な種類がいるのだが、拳藤が指さしているポニーは、かなり小柄な種類だ。

 

「ちいさい」

 

 壊理がそう呟くのを聞きながら、牧場を眺める。

 他にも牧場は多種多様な馬がいて、ストレスもなく自由にすごしていた。

 これが競馬に出る馬、サラブレットの類であれば、それこそしっかりと訓練とかをするのが当然なのだが、この牧場の馬はそのような訓練は必要ない。

 のびのびと、自由に生きればいいのだ。

 あるいは、競馬に興味のあるような者がシャドウミラーに入るような事でもあれば、この牧場にいる馬を使ってしっかりと訓練をしたりするかもしれないが。

 

「ほら、壊理。これをやるよ」

 

 そう言い、俺は空間倉庫の中からニンジンを取り出す。

 どこで買ったニンジンだったかはちょっと忘れたが、とにかく普通のニンジンだ。

 壊理はそのニンジンを手渡されたものの、どうすればいいのか分からないといった様子で俺に視線を向けてくる。

 

「それは馬の餌にもなる。馬に見せてみろ」

「……うん」

 

 壊理は俺の言葉をどこまで理解出来たのかは分からなかったが、それでも素直に手にしたニンジンを柵の向こう側にいる馬に見せる。

 するとそのニンジンを見た馬は、真っ直ぐ壊理に向かって近付いてきた。

 ビクリ、と。

 馬の大きさに対してだろう。壊理が驚いたように動かなくなる。

 

「ほら、大丈夫だ。この牧場にいる馬に、気性の荒い馬はいないから」

 

 正確にはこれだけの馬がいるのだから、その中には当然ながら気性の荒い馬もいる。

 だが、牧場を管理している量産型Wはその気性の荒さを抑え……どうしてもそれが出来ない場合は、こうして観光客のいる場所には出さないようにしている。

 そんな訳で、壊理の持つニンジンに引き寄せられるようにしてやってきた馬は、外見こそ大きく、壊理から見るとその大きさは恐怖しかないのかもしれないが、それでもこうして間近までやって来ても暴れたりとか、ましてや壊理を蹴ろうとしたりとか、そんな事はしない。

 壊理が必死に伸ばす手に持つニンジンを、フンフンといった様子で臭いを嗅ぎ……その大きな口を開くと、ニンジンの先端分を食べる。

 

「ブルルル」

 

 壊理の出すニンジンが美味かったのか、馬は上機嫌に喉を鳴らす。

 そして、壊理もまた自分の差し出したニンジンを馬が食べてくれたことが嬉しかったのか、更に手にしたニンジンを差し出してた。

 二口目でニンジンを完全に食べきる馬。

 そんな馬の様子を、壊理はじっと見ていた。

 ……これなら少しくらいは笑うかと思ったんだが、どうやら駄目だったらしい。

 

「さて、馬を見たし……順番的には、やっぱり次は牛か?」

「うし?」

「そう、牛だ。……ヤオモモや拳藤が買ったチーズケーキのチーズを作るのに使う牛乳を出す動物だな」

「ぎゅうにゅう……」

 

 壊理は理解出来ていないようだったが、取りあえずといった様子でそう呟く。

 取りあえず見せれば分かるだろうと考え、牛が放牧されている場所に向かう。

 なお、馬と一口に言っても色々な種類がいたように、牛もまた多種多様だ。

 ……いや、寧ろ牛の方が馬よりも種類が多いのではないかと思える。

 ただ、闘牛で使われるような獰猛な牛は、放牧されてはいない。

 いや、正確には放牧はされているものの、牧場に来た客が見えるような場所にはいないといったところか。

 勿論、相応の実力を持つ者であれば……もし闘牛用の牛が襲い掛かっても対処出来るような実力があれば、闘牛用の牛を見たりも出来るのだが、今日はそうしない方がいいだろう。

 今日はあくまでも壊理の見学がメインなのだから。

 ヤオモモや拳藤なら、闘牛用の牛が暴走してもある程度はどうにか出来そうではあったが。

 ヤオモモなら創造の個性を使って牛に対処出来る何かを作れそうだし、拳藤の場合は掌を大きくして牛の突進を止めたりしそうだ。

 これはあくまでも俺の予想だが、それが正しいのかどうかは、確認するまでもないだろう。

 

「おおきい……」

 

 牛の放牧地帯に到着すると、そこではホルスタインだったり、あるいは食用の牛だったりが放牧地帯でゆっくりと動き回っていた。

 馬の中には走っている個体もいたのだが、牛は走り回るような個体はおらず、全員がゆっくりと歩き回り、牧草を食べていた。

 うーん……これぞまさに牧場といった印象を受ける、そんな光景。

 もっとも、一口に牧場と言っても人によって受ける印象は違う。

 そういう意味では、これが牧場だと言われても、素直に納得出来ない者もいるかもしれないが。

 

「うし……」

 

 牛を見つつ、壊理が呟く。

 ……何だが、初めて俺達と会った時、正確にはその後で眠るまでの間と、起きてからでは大分こう……幼くなっている? そんな感じがするな。

 まぁ、その辺についてはヴィランの下から逃げる事が出来て安堵したからとか、そういう理由なのかもしれないが。

 牛をぼーっと眺めている壊理を見つつ、そんな風に思う。

 あるいはこの牧場が余程壊理にとってリラックス出来る場所だったのか……その辺は、生憎と俺にも分からないが。

 ただ、こうして見る限りでは壊理も多分楽しめているようだから、問題はない……と思う。

 

「アクセル、次はどこにいくの?」

 

 そんな壊理を眺めていると、拳藤がそう聞いてくる。

 

「うーん……色々とあるけど、全てを見て回る訳にはいかないし……次が恐らく最後になると思うんだよな。ずっと牧場にいる訳にもいかないし」

 

 この牧場は色々な種類の動物がいるし、乗馬体験が出来たり、動物と直接触れ合ったりも出来る。

 それこそその気になれば、1日中この牧場で遊ぶ事も可能だろう。

 レストランのような食事をする為の場所もあるし。

 ……なお、そのレストランで使われている食材はこの牧場産のものも多いので、結構人気の店だったりする。

 何しろ調理をするのも量産型Wで、料理の技術も疑似記憶や疑似経験で習得出来るので、調理技術も一級品なのだから。

 そんな場所だったが、生憎とずっといる訳にもいかない。

 いや、きちんと壊理を俺の家で預かる事になった後でなら、誰かが……もしくは量産型Wやコバッタと一緒に牧場に来て遊ぶといった事をしてもおかしくはないが、残念ながら今日はそのような余裕はない。

 そんな訳で、残りはもう1つくらいしか見ていけないという事になったのだが……

 

「え? 壊理、本当にここでいいのか?」

 

 壊理に最後にどこに行きたいのかと尋ねたところ、選んだのはワイバーンの体験試乗の出来る場所だった。

 

「うん、ここがいい」

「……アクセル、あんたの友達が壊理ちゃんに余計な事を教えたから……」

「いや、それはちょっと違うだろ」

 

 拳藤の言葉にそう返す。

 実際、壊理がワイバーンに興味を持ったのはガエリオが乗っているのを見てからのことであるのは間違いない。

 だが、それは別に俺が悪い訳ではない。

 あくまでもガエリオがワイバーンに乗ったまま俺のいる場所まで下りてきたのが理由なのだ。

 であれば、この件は俺のせいという事はないと思う。

 ……まぁ、俺がそこにいたからと言われれば、俺としても反論は出来なかったりするのだが。

 

「とにかく、絵里ちゃんが選んだんですもの。ワイバーンを見に行くということでいいのではないですか?」

 

 ヤオモモのその言葉に、拳藤はまだ何か言いたげだったものの、結局仕方がないと名得するのだった。

 

 

 

 

 

「うわ……凄いですわね、これ」

 

 ワイバーンの騎乗体験の出来る場所までやって来た俺達は、ワイバーンを眺めていた。

 騎乗体験は、壊理の小ささ……幼さを思えば出来る筈もなく、騎乗はしないでこうして間近でワイバーンを眺める。

 ここに来たがったのは壊理だったのだが、どうやらヤオモモもワイバーンにはそれなりに興味があったらしい。

 そんな風に驚くヤオモモの横で、壊理はじっとワイバーンを見ている。

 

「壊理」

 

 そう呼ぶと、壊理がこっちを見てくる。

 そんな壊理に、空間倉庫から取り出した鶏肉を渡す。

 生の鶏肉は……あれ、これはどこで買ったものだったか。

 ニンジンの時もそうだったが、ちょっと思い出せない。

 とはいえ、空間倉庫に入っている以上はどこかで購入したのは間違いなく、であればこの時に使ってもいいだろう。

 

「?」

「馬の時と同じだ。……生肉だから、ちょっと手が汚れるけど」

 

 ニンジンの時は普通に持っても何の問題もなかったが、これが生肉となると話は違ってくる。

 いやまぁ、それでも壊理は特に気にした様子もなく生肉を掴んだのだが。

 そして、馬の時と同じという言葉から、掴んだ生肉を前に出す。

 すると近くにいたワイバーンがそんな生肉の様子に興味を惹かれたのか、歩いてやって来る。

 俺達がいるのは、ワイバーンのいる場所だったが、その中でもガエリオのように直接騎乗するのを目的にするのではなく、他の動物の時と同じように眺める場所だ。

 ワイバーンは当然のように羽根があるので飛べるのだが、その辺りは量産型Wがしっかりと躾をし、ここでは飛ばないようにしている。

 ……まぁ、中にはそれでも空を飛ぶべく量産型Wの命令を無視するような個体もいたりするのだが、その時はその時で量産型Wなり、コバッタなり、バッタなり、メギロートなりが対処する。

 ワイバーンもその辺りは理解しているのか、それとも完全に量産型Wに逆らえないという風に思っているのか……そこは俺にも分からなかったが、とにかくそんな感じで安心なのは間違いない。

 ただし、今回の一件においてはそんな感じな訳だ。

 そんな……悪い言い方をすれば飼い慣らされたワイバーンは、鶏肉を差し出す壊理に向かって近付く。

 ヤオモモと拳藤は、もし万が一にもワイバーンが壊理に危害を加えようとした場合はすぐに助けられるように準備をしていた。

 そんな、ある意味で緊張の一瞬……と表現してもいいのか?

 とにかくそん中、少しずつ……本当に少しずつワイバーンの頭部が壊理に近付く。

 ゴクリ、とヤオモモか、拳藤か……もしくは壊理か、とにかく唾を飲み込む音が周囲に響く。

 ……多分これ、ワイバーンも何となく周囲の状況がおかしいと、緊張していると、そういう風に思ってるんだろうな。

 しかし、それでも壊理の持つ鶏肉には興味があるのが近づき……近づき……口を開く。

 ワイバーンらしい、鋭い牙の並んだ口。

 もしあの口が壊理の持つ鶏肉ではなく、壊理に向けられれば致命的な事になってもおかしくはない。

 しかし、そんな中でもワイバーンは口を近づけ……パクリ、と。

 壊理ではなく、壊理が持っていた鶏肉を食べる。

 

「……ふぅ」

 

 恐らくは壊理もそれなりに緊張していたのだろう。

 少しだけだが、安堵したように息を吐く。

 それは壊理だけではなく、ヤオモモや拳藤も一緒だった。

 いや、寧ろ壊理以上に大きく安堵していたのは間違いない。

 そんな様子を見れば、やはりそこには色々と思うところがある。

 ……やっぱりワイバーンの区画に来るのは早かったのではないか、とか。

 ただ、この様子を見る限りだと……多分だが、将来的には壊理はこのワイバーンの区画に入り浸るような気がするのは、きっと俺の気のせいではないだろう。

 勿論これは、あくまでも予想であって、それが正解かどうかはまだ分からないのだが。

 そんな風に思いつつ、俺はワイバーンの顔を撫でる壊理を眺めるのだった。

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