牧場を出ると、次に向かうのは……家だ。
「本当なら他にも色々と寄り道をしたかったんだけど、時間がないしな」
「……ホワイトスターがどういうところか、分からなくなりましたわ」
ヤオモモが戸惑ったように言う。
まぁ、無理もないか
恐らくだが、ヤオモモにしてみればシャドウミラーというのは戦闘が得意な国……軍事国家か何かだと思っていたのだろう。
もっとも、その判断そのものは決して間違ってはいない。
実際、シャドウミラーが有する戦力はかなりのものなのだから。
実働班にはエース級しかいない……というか、実働班の中でも強さという点では最下位のアウル、スティング、レイといった面々ですら、他の軍隊ではエース……どころか、エースの中のエース、トップエースと呼ばれるような実力を持つ。
また、その実働班には及ばないものの、それでもかなりの腕利きが揃っている精霊の卵がいる。
エルフ達によって結成されたこの組織は実働班の下部組織といった扱いではあるものの、SEED世界の高性能MSや高性能戦艦によって組織されており、同じエルフ同士だからこその連携を得意とする。
……難点としては、あくまでもMSが主体である事と、魔力や気による身体強化は一応出来るが、そこまで得意ではないので、実働班のように極端なGに耐える事は出来ない事だろう。
そして……ある意味これこそがシャドウミラーの本領とも言うべき、無人機達。
量産型Wの操縦するシャドウや、メギロート、イルメヤ、バッタ……カトンボ、ヤンマ。
特に無人機はその数が圧倒的だ。
数千どころか、数千万……あるいは億にすら届いているのではないかと思える程の数。
そして何より、俺という存在。
ニーズヘッグを操縦した時の俺は、自分で言うのもなんだがシャドウミラーの中でも最強の戦力だ。
ニーズヘッグという、俺の為だけに作られた機体を使った時、俺を倒すのは不可能とまでいかないが、限りなく不可能に近いのも事実。
また、偶然に偶然が重なった結果、もし俺を倒す事が出来たとしても、ニーズヘッグを操縦している俺は魔力や気がなければろくにダメージを与える事が出来ない。
そういう意味でも、俺という存在は敵にとってシャドウミラーの中でも最悪の相手という事になる。
そんな戦力が揃っているシャドウミラーだ。
いやまぁ、ヤオモモもそこまでシャドウミラーに詳しくはないだろうが、とにかくそんな諸々の理由からシャドウミラーが軍事国家であると思っていたのに、こうして実際にシャドウミラーに来てみると、実はそこはとてもではないが軍事国家には見えませんでしたといったような場所だったのだから。
今日俺達が行った牧場もそうだが、他にも魔力泉のスパとか、博物館とか……到底軍事国家とは思えないような、そんな場所があったりするしな。
その辺りの事を考えれば、やはりシャドウミラーが普通ではないと……とてもではないが国とは思えないと、そのように思ってもおかしくはない。
「ホワイトスターはどういうところと、自分の予想を当て嵌めるんじゃなくて、そういう場所だと……ホワイトスターという場所だと、そう認識した方が分かりやすいと思うぞ」
そう、言っておく。
今の言葉でどこまで事情を理解したのかは分からない。
ただ、俺が言うのも何だがシャドウミラーというのはとてもではないが普通の国ではない。
それこそシャドウミラーと類似した国を探す方が無理があるという……そんな国だ。
なので、シャドウミラーはどこそこのようだといったような事は考えない方がいい。
……そもそもの話、一体どこに国の代表が未知の世界に転移して、国の運営そのものは政治班に任せるかというのがある。
国の代表というのは一体どんな意味が?
そんな風に思われても仕方がないのが、今の俺の状況でもあるのだ。
あるいは国を率いるのではなく、国の象徴といったような感じで……まぁ、これならありか?
もっとも、その国の象徴が20人以上の恋人がいるというのを考えると、女好きが揃っている国……といったようなイメージを持たれる事になってしまうが。
……政治班を率いるエザリアであれば、とでもではないが許容出来ないといったように言われてもおかしくはないな。
なので、取りあえずこの件については忘れておこう。
「とにかく、ホワイトスターで遊ぶのは終わりだ。そろそろ壊理を匿う場所……俺の家に向かうぞ」
「そうだね。私もアクセルの家には是非行ってみたかったし。ねぇ、ヤオモモ?」
「ふふふ、そうですわね。私としても、アクセルさんの家に行くというのに異論はありません」
そう言い、笑みを浮かべる2人。
うーん……この、生真面目な性格の2人を俺の家まで連れていくのは、色々と問題がありそうな気がするんだよな。
とはいえ、不幸中の幸いと言うべきか、今はまだ時間的には夕方より少し前……午後4時ちょっと前といったところだ。
シャドウミラーも基本的に国として運営はしているものの……分類するとすれば、ホワイト企業……あるいはホワイト国? そんな感じになる。
つまり、仕事にもよるが夕方の5時から6時くらいには仕事が終わる訳だ。
勿論それは普段であって、何らかの緊急事態があった時は、また話は別だったりするが。
だが、今はそのような緊急事態ではない。
いやまぁ、ヒロアカ世界との間でゲートが繋がったのも一種の緊急事態と言えなくもないが。
ともあれ、そういう訳で今家に帰っても……誰もいないという事はないだろうが、それでもそこまで多くの者達がいないのは間違いないと思う。
であれば、ヤオモモや拳藤を連れていっても構わない……筈だ。
「よし、じゃあ行くぞ。こっちだ」
半ば希望的な予想を抱きつつ、俺はヤオモモ、拳藤、壊理を連れて家に向かうのだった。
「へぇ、ここがアクセルの家か。……十分に大きいとは思うけど、それでも国を率いる立場として考えれば、やっぱり少し小さくないか?」
「そうですわね」
拳藤の言葉にヤオモモが同意する。
いやまぁ、実際ヤオモモの家……というか屋敷と比べると大分小さいのは間違いないしな。
「俺の場合は家の大きさはそこまで拘りはないしな」
それに、この家でも今のところ特に問題なく暮らせているのも間違いない。
あるいは……今以上に恋人が増えたりした場合、いずれこの家が狭くなる可能性も否定は出来ないが、その時は量産型Wに指示して増築するなり、あるいはいっそ魔法球を用意してそこを家にするなりしてもいい。
もっとも魔法球を家にした場合、それこそ魔法球の内部時間と外部時間の差によって、実働班の面々のよう魔法球の中に閉じ籠もる……引き籠もる? とにかくそんな感じになる可能性もある。
何となく……本当に何となくだが、少しくらいならと考えて1.5倍くらいの時差にして、どうせなら……という事で次第に時間が延びていくような感じがする。
勿論それはあくまでも俺の予想であって、実際にはしっかりと規律正しく生活するという可能性もあるのだが。
「アクセルさん? どうしましたの?」
家を見ている俺に疑問を抱いたのか、ヤオモモが不思議そうに聞いてくる。
「いや、何でもない。もしかしたら、そのうちもっと大きな家にする必要もあるかもしれないと、そう思っただけだけだよ」
取りあえず、そう返しておく。
実際それは決して大袈裟だったり、間違いだったりする訳でもないので、嘘という訳ではない。
だからこそ、ヤオモモも納得した様子で頷く。
「さて、いつまでもこうして家の前にいるのもなんだし、中に入るぞ」
そう言い、扉を開けて中に入る。
すると、そこには……
「あら、アクセル。お帰りなさい。今日は早かったのね」
「……おい、シェリル」
丁度玄関前を通り掛かったシェリルが俺を見てそう声を掛けてくるものの、その姿は何故か水着姿だった。
それも黒いビキニ。
シェリルの女らしい……マクロス世界では銀河のトップシンガーだったその女らしい身体を見せつけるかのような、そんな露出度の多いビキニ。
せめてもの救いだったのは、いわゆるスリングショットとかそういう攻撃的な……そう、攻撃的な水着ではなかった事か。
もっとも、その黒いビキニ姿のシェリルでも、男が見れば理性が蒸発して襲い掛かってもおかしくはないような、そんな外見だったが。
ただ、シェリルもシャドウミラーの一員として……そして何より、銀河のトップシンガーだった経験から、いわゆるストーカーとか悪質なファンとか、そういう者達に狙われる可能性については十分に理解している。
ましてや、シェリルはシャドウミラーの広報を担当する事もあり、俺とはまた違った意味でシャドウミラーの顔と呼ぶべき存在でもある。
当然ながら歌手であった時以上に狙われる可能性もあるので、エヴァとの戦闘訓練はシェリルもしっかりと行っている。
襲い掛かってくる男がいても、それが余程の達人――ネギま世界準拠で――でもなければ、シェリルには指一本触れる事が出来ないのは間違いなかった。
「あら? お客さん? ……随分と可愛い子達ね。もしかしたら、もう手を出したのかしら? ああ、でもアクセルがヒロアカ世界に行ってからもう少しで1年だっけ? そう考えると、別に手が早いって訳でもないのね」
「……何を勘違いしているのかは話の内容から分かりますけど、別に私やヤオモモはアクセルとはそういう関係じゃありません。私達が来たのはこの子を匿うのに相応しい場所かどうかを確認する為です」
シェリルの言葉を聞いた拳藤、冷静な様子で……あるいは平静な様子でか? とにかくそんな感じで言う。
ただし、自分で言うのも何だが俺がそれなりに拳藤を親しいからこそ、今の拳藤の様子が普通ではないというのが理解出来た。
……まさか、俺の家に入ってすぐに水着姿のシェリルがいるなんて、拳藤も思っていなかっただろうしな。
それにこう言うのも何だが、水着姿というのは普通に考えて客を迎える格好じゃないのは間違いないしな。
だからこそ、今のこの状況を思えば、拳藤にとっても……それに今は黙ったままだがヤオモモにとっても、思うところがあるのだろう。
とはいえ、まさかこのままの状況で黙っている訳にもいかないし……
「シェリル、家には今誰がいる?」
「え? そうね。私は言うまでもないと思うけど、他には凛とゆかりがいるわよ」
「は? えっと……凛はともかくとして、なんでゆかりが?」
勿論、凛も政治班で働いている以上は、今の時間に家にいるのはおかしい。
だが、何故ペルソナ世界に住んでいるゆかりがいるのか。
これは素直に俺にとって疑問だった。
「あのね、女心も少しは分かってあげなさい?」
そうシェリルが言うと、拳藤とヤオモモの視線が俺に向けられる。
どことなく責めているような、そんな視線だ。
……ちなみに視線というだけなら実は壊理も話の成り行きを見守るように俺を見ていたりするのだが、そこにはさすがに責める色とかそういうのはない。
なので、微妙に安心出来たりはするんだが。
「もっとも、時間が出来たからちょっと顔を出しに来たというのも、間違いじゃないと思うけど」
「……そうか」
なら、最初から女心がどうこうというよりも、自分で言って欲しいと思うのはきっと俺だけではないだろう。
もっとも、それを言えば色々と面倒な事になりそうだったので、止めておくが。
「で、アクセル。新しい恋人の紹介じゃないのなら、一体どうしたの? アクセルが家に全く関係のない人を呼ぶというのは、ちょっと珍しいわね」
シェリルの全く関係のないという言葉に、ヤオモモと拳藤はピクリとする。
いやまぁ、シェリルの言ってる事は実際そこまで珍しかったり、あるいは大袈裟という訳でもない。
実際、この家に住んでいるのは俺の恋人達と、後はルリとラピスという養子の2人なのだから。
「そういう意味では、どっちかというとルリやラピスに近い感じだな。さっき拳藤……そっちのサイドポニーの方が言ったけど、ちょっとこの子供……壊理を匿おうと思ってな」
そう言い、俺は視線を壊理に向ける。
するとそれに釣られるように、シェリルの視線も壊理に向けられ……その視線を感じた壊理が、そっと俺の後ろに隠れる。
壊理にしてみれば、どうやらシェリルから視線を向けられるのが怖かった……いや、別に怯えているようには見えないな。
あるいは壊理はずっとヴィランに暴力を振るわれていたようだったから、それを思えばシェリルに視線を向けられるのが怖いとは思わなかったのかもしれないが。
……もっとも、これは間違いなく断言出来るが、壊理に暴力を振るっていたヴィランとシェリルでは、間違いなくシェリルの方が強いと思う。
「あら、可愛い角ね。……それで、匿うって?」
シェリルは壊理が隠れたのを見てもそこまで気にした様子はなく、それだけを言って俺に視線を向けるのだった。