俺が壊理と共にTVを見ていると、女達が戻ってくる。
凛、ゆかり、シェリルはいつも通りではあったが、ヤオモモと拳藤の顔は赤く染まっている。
チラチラと俺に視線を向けてくるのだが、俺と視線が合うと素早く視線を逸らす。
何だ?
「ヤオモモ、拳藤、どうした? ……もしかして凛にイジメられたのか?」
「ちょっと、何で私を名指しにするのかしら?」
俺の言葉を聞いた凛が不満そうな様子で言ってくる。
もっとも、その表情にはそこまで不満の色はない。
ちょっとしたじゃれ合いを楽しむかのような、そんな様子だ。
「何でと言われても、凛だからとしか」
「いじめっ子なら、私だけじゃなくてシェリルもそっちでしょ? ゆかりは……寧ろM系だけど」
「ちょっ、誰がMよ!? 馬鹿じゃないの!? てか、馬鹿じゃないの!?」
凛の言葉にヤオモモ達と同じく顔を赤くして叫ぶゆかり。
まぁ……うん。ゆかりはその外見から責める方を好むように思うが、実際には押しに弱い。
夜の行為でもそういうのが露わになるのは珍しくなかった。
まぁ、だからといってそちら一辺倒なのかと言えば、それは違うのだが。
「で? 凛達はともかく……ヤオモモと拳藤はどうしたんだ? まさか本当にイジメられたって訳でもないんだろう?」
「……ケダモノ……」
「まさにケダモノですわ……」
俺の言葉に、拳藤とヤオモモが揃って俺をケダモノ扱いしてくる。
いや、だが……まぁ、顔を赤く染めて俺をケダモノ扱いするというのを考えると、何となく……本当に何となくだが、凛達が何を話したのかを理解出来てしまう。
恐らくは俺との夜の行為について話したのだろう。
……一体何を思って、ヤオモモと拳藤に夜の行為について話したのかは分からないが。
もしかしたら、女同士の話としてそういう話題になったのか、そういう事なのだろうか。
とはいえ、それでも恋人達同士の夜の行為……ましてや、俺達の場合は明らかに普通とは違う行為である以上、わざわざ話す必要があるとは思えないが。
「ケダモノ?」
ヤオモモ達の言葉が聞こえたのだろう。
壊理はどうしたのかといった様子で首を傾げ、そう聞いてくる。
「いや、何でもないから気にするな。ほら、それよりもTVに集中しような」
慌てて壊理の注意をTVに向ける。
そこでは可愛らしいモンスターと共に冒険をするアニメが流れていた。
幸い壊理はそのアニメが気になるらしく、素直に俺の言葉に従ってそちらに視線を向ける。
「ちょっと話があるから、壊理はここでTVを見ていてくれ」
ソファから立ち上がってそう言うと、壊理は分かったと小さく頷く。
そんな壊理を残して俺はヤオモモと拳藤に近付く。
……すると、顔が赤く染まったままの2人は俺から距離を取ろうとする。
だが、俺はそれをさせじと手を伸ばし、2人の腕を掴む。
「きゃ!」
「やんっ!」
驚きと若干の嬉しさが混ざった声を上げる2人。
……あえてどっちがどっちの悲鳴なのかというのは気にしないでおく。
「あのなぁ……壊理がいる前で、一体何を言ってるんだよ、お前達は」
「ごめんなさい、つい……」
「ごめん」
ヤオモモと拳藤がそれぞれ謝る。
どうやら自分達でもやってはいけないこと……とまではいかないものの、避けた方がよかったことをしてしまったという自覚はあるのだろう。
もっとも、俺の夜の営みについての話を聞いてしまえば仕方がないとは思うが。
けど……本当に、何で凛達はわざわざヤオモモや拳藤にそんなことを話したんだろうな?
普通に考えれば、知り合ったばかりの者にわざわざそんなことを言ったりはしないだろうし。
これが……例えば気心の知れた相手であれば、また少し話は違うかもしれないが、わざわざ今回のように言うのは……うん、明らかにおかしいと思う。
もっとも、だからといってその辺について俺が聞くような事をすれば、それはそれで面倒な事になるのは間違いない。
こういう時は、触らぬ神になんとやら。
「分かればいい。……さて、それで……ん?」
これからどうする?
そう言おうとしたところで、扉の開く気配がする。
勿論、この状況で家に入ってくるのだから、それはこの家に住んでいる者だろう。
あるいはどこかの世界からやってきた中にこそ泥がいた可能性もあるけど……いや、その可能性は限りなく低いな。
そもそもの話、それぞれの世界でホワイトスターに行ける者は厳しく調べられている。
例えば以前何らかの罪を犯した者……いわゆる前科者の類であれば、余程の事でもない限り、その世界の代表としてホワイトスターに来る事は出来ないだろうし、もしその余程の事があったとしても、誰かが常に一緒にいるとか、そういう事をするだろう。
ともあれ、そんな訳で帰ってきたのは……
『ただいま』
ルリとラピスが声を揃えて挨拶をする。
もっとも、そうして挨拶をしてから見覚えのない者達……具体的にはヤオモモや拳藤、壊理がいることに気が付き、不思議そうな表情を浮かべていたが。
「こっちの2人は、ヤオモモ……八百万百と、拳藤一佳。で、そっちは年上がルリで、年下がラピス。ヤオモモと拳藤は俺と同じ雄英高校ヒーロー科の生徒で、ルリとラピスは俺の養子だな」
「養子!? ……あ、いや。そういえば養子がいるって言ってたな」
拳藤が養子という言葉に驚くも、すぐに納得する。
拳藤にしてみれば、まさか自分と同じ学科の生徒に養子がいるとは思わなかったのだろう。
もっとも、それはあくまでも10代半ばの俺についての話で、そうでなければ……それこそ、20代の姿でなら養子くらいはいてもおかしくはないし。
それに……自分で言うのも何だが、毎晩のように夜の営みを……それも何時間もやっているにも関わらず、今のところ妊娠をした者はいない。
これは俺が混沌精霊だからこそなのか、それとももっと別の理由があるのか……
その辺りはともかく、そんな訳で俺に養子がいるというのはそこまでおかしな話ではないと、そう思っておく。
勿論、それはあくまでも今の俺がそう思っているだけで、いずれは何かその辺を解決する方法も……いや、そもそも既に、シャドウミラーにおいては女同士でも子供を作れるようになっている。
その辺の技術を改良すれば、あるいはどうにかなるかもしれないな。
「ソファでTVを見ているのは、壊理。ヒロアカ世界で、ヴィラン……悪者に軟禁されていたのを逃げ出したところで、俺達が助けた」
正確にはホテルにいたらしいので、軟禁とはちょっと違うのかもしれないが、普段は軟禁されているのは間違いないしな。
「……その子は、これからうちの子になるんですか?」
俺の説明を聞き、ルリがそう尋ねてくる。
ルリも壊理の事情を聞けばこのまま放っておく事は出来ないとそう思ったのだろう。
何だかんだと、ルリもラピスの姉として今までやって来たので、世話焼きというか、小さい子供の面倒を見るのが半ば癖になっているのだろう。
母性という意味ではマリューや千鶴が思い浮かぶものの、ルリはそういうのじゃないな。
母ではなく、姉としての行動といったところか。
「そこまではまだ考えていない。ただ、壊理をヒロアカ世界に置いておくと、警察やプロヒーローが預かるというような事になっても、ヴィランが来ると法律的に返さないという選択肢を選べないらしいから、そういう心配のないホワイトスターに連れてきたんだよ」
この辺りヒロアカ世界の法律の未整備だよな。
……いやまぁ、こういう法律ってのはヴィランを相手にした場合はイタチごっこだったりするので、もし改正してもすぐにまたヴィランは法律の穴を見つけ、そこを突くんだろうが。
ともあれ、そんな訳で壊理をヒロアカ世界に置いておくのは危険なので、俺はこうしてホワイトスターに連れてきた。
その辺りを説明すると、ルリは少し考え……そんなルリの様子を見ていたラピスが動く。
荷物をその辺に置くと、ソファに座ってTVを見ている壊理に近付いていく。
そのままちょこんと、壊理の隣に座る。
ビクリ、と。
壊理はいきなり見知らぬ相手が横に座った事に驚いた様子でそちらを見る。
「……」
じっと、何も言わずにラピスを見る壊理。
そんな壊理に対し、ラピスは視線を気にした様子もなくTVを見る。
成長した今のラピスにとって、今TVでやってるようなアニメはそこまで気にするようなものじゃないと思うんだが。
もっとも、ラピスも本気でTVを見ている訳ではなく……
「ラピス」
不意にラピスがそう自分の名前を口にする。
だが、壊理にしてみればラピスがいきなり何を言ってるのか分からないといった感じだろう。
実際、壊理は不思議そうにラピスを見るだけだ。
これは……ちょっと介入した方がいいか?
そう思って口を開こうとしたのだが、そんな俺の服の裾をルリが引っ張る。
「ルリ?」
「ラピスに任せて下さい」
「いや、だが……」
ラピスは小さい頃……俺と会うまでに色々とあったせいもあってか、対人コミュニケーションはそこまで得意ではない。
ハシュマルのようなMA……というか、AIとかロボットとか、そういう相手とのやり取りは得意だったりするのだが。
ともあれ、今のこの状況ではラピスらしさを出すのは難しい。
そう思ったのだが、ルリの様子を見る限りではその辺は問題ない、のか?
「ラピスは今まで私の妹として暮らしてきました。ですが、たまには姉としても振る舞ってみたいのでしょう」
「……その対象が壊理だと?」
「ええ。私が自分で言うのも何ですが、私と彼女の名前は似ています。ラピスもそれで余計に彼女を気に掛けているのでしょう」
「……なるほど」
ルリの言ってる事が事実であるかどうかは、俺には分からない。
ただ、言われてみればルリと壊理というのは名前が似ている。
もっとも、そういう意味では名前が似ている恋人は何人かいたりするんだよな。
シーマとシーラのように。
クスコとクリス……は、そこまで似ていないか?
後は、コーネリアとクーデリアのように。
まぁ、その辺は今は気にしなくてもいいか。
今の状況で必要なのは、それこそもっと他の……壊理とラピスの件だろう。
「いいんですのね?」
ヤオモモがそう俺に聞いてくる。
ヤオモモにしてみれば、ラピスは初めてあった人物だ。
それだけに、この状況で信じてもいいのかと、そのように思うのだろう。
……もっとも、それを言うのなら壊理だって俺達と会ったのは今日が初めてなのだが。
「構わない。ラピスがやりたいのなら、任せてみるさ」
これでラピスが粗暴な性格をしているのなら、壊理を任せようとは思わない。
だが、ラピスの性格は大人しいといった表現が相応しいくらいだ。
そんなラピスだけに、壊理との関係も上手くいくかもしれない。
また、ルリが言ってるように、本人が姉として振る舞いたいと思っているのなら、今は黙って見ておいた方がいいだろう
実際、凛、ゆかり、シェリルといった面々も、ラピスの邪魔をしないようにしている。
それとなく話をしているものの、気配がラピスの方に向けられて……あれ? ラピスだけじゃなくて、ルリの方にも向けられているな。
この状況で、一体何故ルリに視線を向けるのか……その辺については、ちょっと分からない。
あるいは今までは姉として妹のラピスの面倒を見ていたルリが、ラピスが姉として振る舞うのを気にしている……といったところか?
「ラピスはラピス。貴方は?」
その言葉で、ようやく壊理はラピスというのが目の前の女の名前で、自己紹介をしているというのが分かったのだろう。
……あれ? 今更だけど、壊理は自己紹介という行動……概念? とにかくそういうのを知ってるんだよな?
少しだけ不安に思ったが、一応、本当に一応だが、俺達と部屋で話した時にそれぞれ自己紹介をしている。
それなら、自己紹介についても分かっていてもおかしくはない、と思う。
そんな俺の期待に応えるように、壊理が口を開く。
「私は壊理」
「そう。じゃあ壊理はこれから私をお姉ちゃんと呼ぶように」
「……お姉ちゃん?」
キョトン、とした様子で壊理がラピスを見る。
うん……まぁ、無理もないか。
自己紹介をしたら、いきなりその相手が姉として扱えと、そう言ってきたのだから。
壊理にしてみれば、一体何を言われているのかと、そのように疑問を抱いてもおかしくはない。
もっとも、壊理の表情はそこまで変わっていないが。
本当に表情が変わっていないのか、それとも驚きが表情に出ていないだけなのか。
その辺は俺にも分からないが、取りあえず嫌がっている様子はないので、黙って見ておく。
というか……あの様子を見ると、もしかしたら壊理にとっても姉という存在は興味深いのかもしれないな。
壊理がどう反応するのか、じっと見ていると……
「ラピス……お姉ちゃん」
やがて壊理がそう言い、ラピスも壊理と同じくあまり表情には出さないものの、嬉しそうな雰囲気を発しつつ、壊理の頭を撫でるのだった。