壊理の個性について、把握しておいた方がいいという事になり、何故かそれを聞く役目が俺に回ってきた。
いやまぁ、壊理を連れてきたのが俺であるということを考えれば、そういう役割が俺に回ってくるのも分からないではない。
まさか、ヤオモモや拳藤に任せるといった訳にもいかないしな。
ヤオモモや拳藤の性格を考えれば、それこそやって欲しいと言われれば問答無用でやるだろう。
それは分かっているが……壊理の状況からして、原作にも関係していてもおかしくはない壊理の個性と考えれば、もしかしたらかなり危険なものである可能性は十分にあった。
俺もそれを理解しているからこそ、俺が壊理に聞いた方がいいと、そう判断したのだ。
俺は基本的に魔力や気以外の攻撃では、ダメージは受けない。
……受けないのだが、ヒロアカ世界の個性は一体どのような判定になっているのか、俺にダメージを与える事が出来たりする。
かと思えば、個性が俺に通じないこともある。心操の洗脳の個性とかな。
また、ちょっと……いや、かなりの例外として、マンダレイのテレパシーとかも……うん、これについては考えない方がいいな。
色々な意味で危険なので止めておく。
ともあれ、そんな感じで個性は俺に通用する事もあれば、通用しない事もある。
壊理の持つ個性が一体どういうものなのというのは、俺にも分からない。
だが、それでも俺に通用しない可能性は十分にあるのも間違いなかった。
そんな訳で、俺が壊理の個性について聞くというのは、そう間違った選択という訳でもないのだ。
……まぁ、実は壊理の個性は右の額から生えている角で、異形系であるという可能性も否定は出来ないのだが。
ともあれ、話を聞く為に俺は壊理と……その隣で姉として振る舞いたいらしいラピスに近付く。
丁度そのタイミングでTVでやっていたアニメも終わり、一息吐いたところで声を掛ける。
「壊理、ちょっといいか?」
「?」
俺の言葉に壊理は小さく首を傾げ……愛らしい様子でこちらに視線を向けてくる。
「ちょっと聞きたい事があるんだが……ここだとちょっと人が多いな。あまり壊理も人に聞かれたくないかもしれないし、他の場所に行くか」
そう言うと、壊理は頷く。
どうやら壊理にしてみれば、今のこの言葉については特に何か思うところがある訳でもないらしい。
なので、こうして俺に近付いてくる。
「じゃあ、そんな訳でちょっと出掛けてくる」
「アクセル」
俺の言葉にそう口を挟んできたのは、ラピスだった。
どうやら壊理から姉として扱われた事もあってか、ラピス的には壊理を連れていくのは納得出来なかったらしい。
……あるいは、このまま壊理をどこか他の場所に連れていき、もうこの家には戻ってこないのかもしれないと思ったのかもしれないな。
「心配するな。ちょっと壊理と話があるだけだ。ただ、その話の内容は壊理にとってもあまり人に知られたくない……かもしれないから、今は2人で話をしたいと、そう思ったんだよ」
「……だいじょうぶ、お姉ちゃん」
俺に続き、壊理もそうラピスに言う。
あれ、これもしかして壊理も自分が何を聞かれるのか分かっていたりするのか?
壊理の年齢を考えると、もし今の短いやり取りでその辺りについて分かっていたとしたら、それはそれで凄いとは思う。
自分に暴力を振るうヴィランから、少しでもそういうのを避けたいと思っての行動であるかもしれないと思えば、哀れにも、不満にも思うが。
「分かった。……気を付けて」
ラピスも完全に安心した訳ではないのだろうが、壊理の様子から心配はないと判断したしい。
そんな壊理が近くに来たところで、レモンに視線を向ける。
俺と視線が合ったレモンは、小さく頷く。
壊理の個性について聞くのだが、場合によってはそれが切っ掛けとなって個性が暴走する……そんな可能性もある。
勿論、そうならないのが最善ではあるのだが、それでも万が一を考えると、壊理に個性の件を聞くのは誰もいない場所がいい。
そして同時に、そこで何か起きたのかをレモンが……あるいは他の面々も見て知っておくべき必要がある。
だからこそ、これから行く場所の様子をここから見て、把握して貰う必要がある。
人に聞かれたくないとかラピスに言ったが、まるっきり矛盾してるよな。
そう思いつつ、俺は壊理と共に影のゲートを潜るのだった。
「ここ……」
壊理が俺の服を掴んだまま、周囲の様子を確認する。
壊理にしてみれば、別にこれが初めての影のゲートという訳ではないのだが、それでもやはり、影のゲートについては驚きを感じるのだろう。
「ここは家から少し離れた場所だ」
実際には、少しどころじゃないくらいに離れていたりするのだが。
ホワイトスターは、ちょっとした惑星……というのは大袈裟かもしれないが、ちょっとしたコロニー以上の大きさを持つ。
つまり、実際に俺達が使っている場所となると、非常に狭い範囲でしかない。
かといって、普段使用していない場所は放っておいてる訳ではなく、量産型W、コバッタ、バッタ、メギロート……そんな者達がそれなりに整備をしたりしている。
天気とかもこっちで自由に調整が出来るという事もあってか、環境を整備する事そのものはそこまで難しくはない。
……とはいえ、それはあくまでも量産型Wやバッタ、コバッタ、メギロートといった者達を自由に使えるからこそ、ホワイトスターの環境の維持も問題がなかったりするのだが。
ともあれ、そんな訳で……現在俺と壊理がいるのは、俺の家から大体30km程離れた場所だ。
分かりやすい例で言えば、大体東京から横浜くらいの距離……といったところか。
このくらい離れれば、もし壊理の個性が何らかの理由で暴走したとしても、どうにかなる……と思う。
どうにかなると断言出来ないのは、壊理の個性が具体的にどういうものなのかが分からないからだ。
で……と、壊理から視線を逸らして周囲の様子を確認する。
具体的にはどこにあるのか分からないが、現在家では恐らくレモンの指示によってこの状況を把握している筈だ。
スライムを使えば、恐らくカメラのある場所も発見出来るだろうけど……残念ながら、今のところそれは難しい。
いやまぁ、やろうと思えば出来るんだろうけど、ホワイトスターにあるカメラとかの監視装置を壊すのは俺の立場としてどうかと思うし。
「……」
壊理を見ると、物珍しげな様子で周囲を見ている。
ここはホワイトスターの中でも荒れ地とでも呼ぶべき場所だ。
そんな場所を見て何が面白いのかと疑問に思うのだが、壊理してみれば脱出出来た今日は特別に外出していたが、基本的には軟禁されていたらしい。
その辺を考えると、壊理にしてみればこのような荒れ地であってもかなり珍しい場所であるのは間違いないのだろう。
なので、壊理にとってはこういう荒れ地でも十分に珍しい。
月明かり――正確には当然ながら月ではないのだが――に照らされる荒れ地を見ている壊理だったが、そんな壊理に向かって口を開く。
「壊理、ちょっといいか?」
「……はい」
荒れ地を見学している壊理の邪魔をするのは申し訳なく思ったが、それでも個性について聞くとなれば、まさかこのままの状態で何気なく聞くというのもどうかと思う。
……あるいは、そういう聞き方もあるのかもしれないが、だからといって俺がそういう聞き方が得意な訳ではないし、この状況でそういう聞き方をするのもどうかと思う。
なので、俺は壊理に向かって何を誤魔化すでもなく、単刀直入に尋ねる。
「お前の個性は何だ?」
「……あ……」
その問いは、壊理にとっても予想外だったのだろう。
完全に意表を突かれたといったような声を上げる。
……あるいは、壊理は自分に暴力を振るっていたヴィランについて俺が聞こうとしたのかと思ったのかもしれない。
いやまぁ、実際のところその辺についてもいずれ聞かないといけないとは思っているんだが。
今はこうして俺が壊理を保護しているものの、壊理に暴力を振るっていたヴィランが一体どのような奴だったのか、それを知らないと……そして、そのヴィランをどうにかしないと、壊理をヒロアカ世界に戻すといったことも出来なくなる。
いやまぁ、壊理がラピスを姉と慕っているのを見る限りだと、このままホワイトスターに残し、ルリやラピスと同じく俺の養子にするといった選択肢もない訳ではないのだが。
ともあれ、もしそうするにしても壊理の個性について知らないといけないのは事実。
なので、こうして周囲に誰もいない……万が一の時に何があっても大丈夫な状況を作ってから聞いた訳だ。
「私の、個性……わたしのこせい……それは……あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああああああっ!」
その言葉の途中で、何か思い当たることでもあったのだろう。
角を……いつの間にか数分前よりも明らかに伸びていた角のある部分を抑えながら、壊理が叫ぶ。
「壊理、おい、壊理! しっかりしろ! 俺の声が聞こえるか!?」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
だが、壊理はそんな俺の言葉が聞こえないかのように叫び……そして……何だ、これ?
何かの力が発せられているのは分かる。
いや、ただ見るだけでは分からないが、何と言えばいいのか……そう、魔力を感知する目というか、感覚? 人の目では見ることが出来ない、把握出来ない……そんな視界。
混沌精霊だからこそ把握することが出来る、そんな視界だ。
そんな感覚で、俺は壊理を中心に広がっている何らかの力の範囲……ドーム状に近い、そんな力場的なものを感知する。
勿論、ドーム状といっても綺麗なドーム状という訳ではない。
かなり不揃いというか、不格好というか……とにかく、そんな形状の力場であるのは間違いない。
ただ、この場合で問題なのはその力場が具体的に何なのか分からない。
分からないが……壊理の個性が暴走しているのだけは間違いない。
もっとも、個性の暴走そのものはそこまで珍しい話ではないのを俺は知っている。
何しろ個性が発現するのは4歳前後だ。
そのくらいの年齢で個性を完全に制御しろというのが、そもそも不可能なのだから。
そういう意味では、多くの者が大なり小なり個性を暴走させているのは間違いない。
壊理の場合は……年齢はともかく、やっぱりこの様子からすると原作にも関係しているのだろう存在であるのは間違いなく、だとすればこの混沌精霊の俺だからこそ把握出来ている力場も何か大きな……強力な個性の影響の可能性もある。
で、そうなると問題なのは一体この力場が……より正確には壊理の個性がどういうものなのかということだ。
今もまだ叫び続けている壊理を見て、どう行動するべきなのかを即座に決める。
壊理の個性がどのような能力をもっていようとも、今はとにかく壊理を落ち着かせるのが先だ。
なので、俺は意を決し……それこそ何が起きても即座に反応出来るようにしながら、足を前に踏み出す。
1歩、2歩……そして3歩目で壊理の個性の範囲内に入り……
「……あれ?」
特に何もないのを疑問に思う。
もしかして、実は壊理の個性の範囲内に入っていないのではないか?
そうも思ったが、周囲の様子を確認する限りでは、間違いなく俺の姿は壊理の個性の範囲内、俺にしか把握出来ないのだろう力場の中に入っているのは確認出来る。
しかし、こうして実際にその力場の中に入っているにも関わらず、俺には全く何の影響もない。
もしかしたら何らかの影響があるけど理解出来ていないだけか?
そう思って自分の身体の様子を確認してみるものの、やはりそこには何の異常もない。
念の為にステータスを確認して見るものの、そもそも俺のステータスは名前、レベル、PP、格闘、射撃、技量、防御、回避、命中、SP、エースボーナス、成長タイプ、地形適応、精神コマンド、スキル、撃墜数しか表示されない。
俗に言う、HPや状態異常の類は表示されないのだ。
……まぁ、SPはMPと同じなので、そういう意味ではMPだけは表示されているようなものなのだが。
ともあれ、念の為にステータスを見ても特に何もおかしなところはない。
あるいは俺の魔力を削っているとか、そういうのがあれば寧ろ魔力によって俺に何らかの影響を与える個性に対抗していると分かったりもするのだが……SPの減りもないとなると、これは一体どういう事なのかと、そう疑問に思う。
思うのだが……ともあれ、今はその辺について特に何かを考える必要もない。
今俺がやるべきなのは……壊理を安心させることなのだから。
その為、1歩、また1歩といった具合に壊理との距離を詰めていく。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
まだそうやって叫んでいる壊理の側まで近付くと……そっと、その身体を抱きしめるのだった。