バックアップの設定をオフしてないと、リワードでESU登録出来ないって、何だそれ……
ヤオモモが呼んだ車で拳藤は帰っていった。
いや、ヤオモモはともかく、拳藤の場合は自分の家に戻るんじゃなくて、ヤオモモに家に向かうんだから、帰るという表現は正しくないのか?
ともあれ、これで拳藤の安全は確保出来た……と思ってもいいのだろう。
ヤオモモの車の運転手、何故夏休みに雄英の校舎に迎えに来るのかと、疑問に思っていたりしないだろうか。
その辺については俺がどうこう考える事じゃないか。
とにかく、今日ヤオモモと拳藤には色々と……本当に色々とあったので、そういう意味でも今日はゆっくりとして貰った方がいいのは間違いない。
具体的にどういう事をするのかとか、そういうのは分からないんだが。
とにかく、俺が1人になったところで影のゲートを使用し、俺が住んでいるマンションの側まで転移する。
当然ながら、マンションの中に直接転移するような事はしない。
また、マンションのすぐ側にいきなり転移するような事もしない。
個性を公の場で使ったという事で通報される可能性もあるし、何より俺のマンションを見張っている相手がいた場合、転移してきた俺の存在を察知し、即時に襲い掛かってくる……そんな事になる可能性も十分にあるのだから。
俺としては、出来ればそういう事は避けたい。
……いや、いっそそいつを締め上げて、色々と聞き出した上でこっちから攻めるといった方法を取ってもいいのか?
そうも思ったが、それはそれで緑谷の戦闘経験を奪う的な意味で不味いんだよな。
勿論、壊理の件を思えば、ヴィランをそのままにしておくというのには思うところはある。
特に千鶴なんかは、俺達が手を出さないと言えば、手にした長ネギの矛先を俺に向けてくるだろう。
長ネギなのに矛先とはこれいかに?
ともあれ、そんな訳で……考えるとすれば、緑谷が壊理に暴力を振るっていたヴィランと揉めた時、千鶴を連れてそれに参加するといったところか。
もっとも、そうなればそうなったで問題もあったりするのだが。
具体的には、どうやって千鶴をその戦いに参加させるかだろう。
俺の正体を知られてもいいのなら、その辺はどうにでもなるが……その辺り、具体的にどうなるかといったところか。
さらりとプロヒーローだという事にするとか?
……いや、緑谷がいる以上、そういうのは通じないと思った方がいい。
緑谷はオールマイトのファンではあるが、同時にプロヒーローそのものにも強い興味を持っている。
千鶴がプロヒーローだという事にすれば、知らないプロヒーローだからという事で緑谷が疑問を抱いてもおかしくはない。
本当に日本全国のプロヒーロー全てを把握してるのか? と思わないでもないが……緑谷の場合、その辺を普通に知っていてもおかしくはないんだよな。
そうなると、公安に頼んで臨時にプロヒーローという扱いにして、ヒーロー免許を交付して貰うか?
……そこまでするのなら、それこそ俺もAFOを倒した時の20代の姿になって、臨時ヒーロー免許を発行して貰う方がいいか。
ともあれ、千鶴は何としてもヴィランとの戦いの時に参加させないとな。
そんな風に思いつつ、俺はスライムを出して細く、細く、細く、細くし、マンションの周囲を探索する。
……まぁ、探索出来るのはマンションの周囲であって、例えばどこかの空き部屋からこのマンションを監視しているような奴がいたら、俺にはどうしようもないんだけどな。
そこまでされると、スライムでも……いやまぁ、やろと思えばどうにか出来そうだけど、何だか完全に無駄足になりそうな気がする。
現に今も……
『何で私のお母さんにまで手を出すのよ! これが姉さんだったり妹だったり、あるいは友達だったりしたらともかく、お母さんよ!? 年齢差がどれくらいあると思ってるのよ!』
『い、いや、そう言われたって……まさか、あんなに若いのがお前の母さんだなんて、分かる訳ないだろ!?』
『しょうがないじゃない、それがお母さんの個性なんだから!』
……うん。こんな感じだ。
どうやらスライムを通して聞こえてきたこの話は、男の方が何かの間違いで恋人の母親を口説いた……あるいはそこまでいかなくても、声を掛けた?
取りあえずそんな感じらしい。
うーん……これはまた……どう反応すればいいか分からないな。
男の方が浮気をしたとか、そういう分かりやすい例ではないっぽいし。
話を聞く限りだと、女の母親の個性が若返りとか、そういう感じの個性なのか?
……まさか不老とかじゃないよな?
いや、でも個性というのはそういう簡単なものではない。
例えばだが、4歳から6歳で不老の個性に覚醒した場合、それはつまり4歳から6歳の、個性が発動した時点で年齢が止まるという事を意味している。
分かりやすく言うのなら、それはエヴァと同じような感じだろう。
まぁ、エヴァの場合はもう少し年齢が上になってから吸血鬼になって成長が止まったのだが。
生憎と、俺にも正確なエヴァの正確な情報……何歳の時に吸血鬼になったのかとか、そういうのは分からないんだよな。
俺はエヴァとはそれなりに親しいとは思う。
思うのだが、それでもだからといってエヴァの全てを知っている訳ではないのだ。
……もしそのような事になったら、それはそれで問題だとは思うけど。
ともあれ、恋人の母親の件がどうこうといった件については聞き流し……マンションの周囲に他に誰もいないのを確認する。
勿論、この場合の他に誰もというのはマンションを見張ってるような奴って意味だ。
マンションの周囲には夜であっても普通に歩いている者もいる。
ただ、当然ながらそういう連中は俺が狙いを定めた相手……壊理に暴力を振るったヴィラン、あるいはその仲間や手下といった訳ではないので、残念に思うと同時に安堵もする。
残念に思うのは、こうして俺のいる場所にヴィランの部下や仲間が現れなかったことで、俺が倒すなり、あるいは捕らえるなりして千鶴への貢ぎ物に出来なかった事。
……そういう連中がいれば、俺としても千鶴を少しでも大人しくする為に便利に使えると思ったんだが。
ともあれ、俺の家の周囲には……さっきも思ったが、離れた場所からマンションを監視していた場合はどうする事も出来なかったが、とにかくそんな感じで確認する。
まぁ、今はこんな感じではあるが、もし何らかの個性を使ってマンションを監視していた場合は、今の俺には見つけようがないんだが。
何しろ個性についてはまだ分かっていない事も多い。
これが例えば、魔法や気であれば、それらを使えば普通に察知する事が出来るのだが、残念ながら個性の発動については理解出来ない。
いやまぁ、これが例えば爆豪のように個性を使えば爆発するとか、そういう分かりやすい例であれば対処もそう難しくはないのだが、監視に使える個性とかなるかと、そうは出来ない。
……監視をしている間、ずっと光り輝いているとか、うるさい音が周囲に響くとか、そういう事でもあれば、あるいは分かりやすいのかもしれないが。
ただ……ヴィランにしても、監視をしていると相手に教えるような者を監視に回りしたりはしないだろう。
ともあれ、俺のマンションについては問題ないという事で、影のゲートを使って拳藤のアパートに行く。
拳藤の家のアパートは、駅前とは違って細々とした家とかがあるような場所にある。
拳藤にしてみれば、出来るだけ家賃の安い場所をと考えて、それでこういう場所を選んだのだろう。
拳藤の家はヤオモモの家のように金持ちではないし、あるいは俺のように公安からのバックアップがある訳でもない。
雄英に入学する事が出来るのだから、別に貧乏といった訳でもなく、普通の一般家庭、いわゆる中流家庭といった感じらしい。
だからこそ、少しでも家賃の安いところを……と思ったのだろう。
とはいえ、拳藤は言うまでもなく顔立ちは整っており、お姉様系の美人だ。
いや、より正確には姐御系か。
ともあれ、そうした顔立ちが整っている以上は男に……それもどうしようもない男に言い寄られたりする可能性もある訳で、そう考えるとやはり拳藤の両親としてはセキュリティの高いマンションにして欲しかったんじゃないかと思う。
……もっとも、拳藤はヒーロー科のB組の学級委員長だ。
妙な男が言い寄ってきても、それこそばっさりと断りの言葉を口にするだろう。
それで相手が怒り狂っても、その時はそれこそ自己防衛をすればいいだけだし。
とにかく、アパートからある程度距離を取って周囲の様子を窺うものの……幸いにも、今のところ誰かが見張っているような事はない。
こちらでも念の為にスライムを使って周囲の様子を窺うが……
『がああああああっ、くそっ、しまった。選択肢ミスった! リワードだろ、リワード! 何でバックアップを選ぶかな!?』
『ちょっ、おいマジでバックアップにしたのか!? そうなるとかなりの容量が必要になるし、頻繁に容量が足りないとかそういうメッセージが出てくるって話だぞ!?』
『仕方ないだろ、最初リワードの選択肢がなかったんだから! くそっ、本当に何でリワードの選択肢がなかったんだ!?』
『ちょっ、待て……これ見ろよ。設定でバックアップをオフにしないと、そもそもリワードの選択肢が出て来ないらしいぞ!?』
『マジか……何でそんなに分かりにくい仕様にしてるんだよ! デフォのブラウザもそうだけど、意地でも自分達の利益にするようにしようとしてないか?』
『それについては今更の話だろ。とにかく今は、何とかして変更しないと……サポートって……うげっ、もう今日のサポート終わってるじゃねえか! これは……明日だな』
そんな会話がスライムを通して聞こえてきた。
俺のマンションの時の、恋人の母親を口説いたって奴よりはマシだけど、これはこれでどうなんだよって話だな。
うーん……こういうのは色々な世界でも有り得る事だし、何なら似たような事を聞いた覚えもある。
あるんだが、だからといって今のこの状況でどうにかするのは難しい訳で。
あるいはここにいるのが俺じゃなくてルリやラピスなら、その辺もどうにかするかもしれないけど。
……いや、そもそもの話、俺がその件でどうにかする必要があるのかという問題がある。
俺にしてみれば、それこそこの件は俺がどうこうしても意味がないし、わざわざしてやる必要もないと思う。
ただ、それはそれとして、企業の思惑に乗ってしまったのは迂闊ではあるものの、自分のミスだとも思う。
なので、これから……明日以降にサポートに連絡をした後で、上手くいくように祈っておこう。
そんな訳で、拳藤のアパートも取りあえず今は見張られていないのを確認する。
まぁ、俺のマンションでもそうだったが、何らかの個性を使って見張っていた場合は俺にも把握出来ない可能性があるが……ただ、それはそれで仕方がないとも思う。
それに、今はまだ見張っていなくても、それは今はまだヴィランが俺や拳藤、あるいはヤオモモの情報を手に入れていないだけで、明日以降には遅くなってもその情報を入手して見張るという可能性もあるので、今日見張られていないからといって決して安心出来る訳ではない。
なので、明日以降も確認を……いや、それこそルリやラピスに頼んで、ネットの方から確認して貰った方がいいか?
ともあれ、今日のところは問題ないので、俺はその場を後にして雄英の敷地内に設置されたゲートに戻る。
当然ながら、影のゲートを使っての移動なんで、一瞬だ。
……もしこれを知ったら、他の者は一体どう思うか。
ふと、そんな風に思う。
いや、黒霧やAFOが使った泥のワープを見れば分かるように、この個性の存在するヒロアカ世界においても、転移系の個性はかなり珍しいらしいし。
そう思えば、個性……いや、個性ではないが、とにかくそんな個性ということになっている俺の影のゲートを見れば、羨ましいと思う者は多いだろう。
だからどうしたって話でもあるんだが。
結局のところ、人というのは配られた手札でどうにかするしかない訳で。
そうなると、俺にとって配られたカードというのはこの混沌精霊としての能力な訳で。
であれば、ここで俺がどうこう考えても意味はないんだよな。
そんな訳で、改めて影のゲートについてどのように思われるのかというのは気にせず、雄英の敷地内に転移するのだった。
「誰もいないか。……いや、量産型Wはいるけどな」
雄英の敷地内に転移したものの、そこには当然のよう量産型Wやコバッタしかいなかった。
「俺がいなくなってから、誰か来たか?」
一応、ということでそう尋ねてみる。
しかし、当然のように量産型Wは俺の言葉に首を横に振る。
「特に誰も来ていません」
「そうか。……なら、俺はホワイトスターに戻るから、お前はここで仕事を続けろ」
「了解しました」
そうした量産型Wとの言葉を交わすと、俺はゲートを使ってホワイトスターに戻るのだった。