ホワイトスターに戻ってきた俺は、当然のように影のゲートを使って家まで転移する。
時間も時間なので、交流区画に顔を出すような事はない。
……そもそも、交流区画はヤオモモや拳藤を送る時に既に誰もいなかったしな。
日中に交流区画にいた者達は、既に全員がそれぞれ自分の世界に帰っている。
絶対に自分の世界に帰る訳ではなく、あるいはホワイトスターで仲良くなった相手の世界に遊びにいく、あるいは泊まりに行くとか、そういう事をしている可能性もあるが。
ともあれ、そんな訳で交流区画は今はもう人が殆どいない。
いるとすれば、それこそシャドウミラーに所属するような者達だけだろう。
あ、でも超包子によって何か土産に買ってきてもよかったかもしれないな。
いやまぁ、無理に土産を買う必要もないかもしれないが。
ともあれ、そんな訳で家に戻ってきた俺は……中に入る。
すると聞こえてきたのは、わーわー、キャーキャーといった賑やかな声だ。
もっとも、これは別に今日が特別騒がしい訳ではない。
普段からこんな感じだ。
何しろ、この家には結構な人数が住んでいる。
そんな者達が一緒に生活をしていれば、自然と騒がしくなるのは当然だろう。
……もっとも、中には静かな時間を楽しみたいという者も……者も……いや、いないな。
勿論、毎日ずっと騒がしいままだとそれはそれで問題があるので、たまには静かな時間を楽しみたいと思う者がいてもおかしくはないが。
エリナとか、そんな感じだよな。
後は、シェリルなんかも普段はともかく、歌を考えている時とかはそれに集中したい方らしいし。
ただ、シェリルの場合は歌を考えようと思って考えるのではなく、普通にしているところで、不意に降ってくる? らしい。
この辺り、天才だよなと思う。
とにかく、今日騒がしいのは……普段通りというだけではなく、壊理の存在もあるからだろう。
壊理に自分が来たという事で皆が喜んでくれていると、そんな風に思ってくれると助かるんだが。
とはいえ、昨日の今日どころか、今日の今日である事を考えれば、さすがにそれは無理か。
離れた場所から見た限りだと、壊理はラピスには懐いているし、ラピスの側にいるルリに対しても、それなりに懐いているように見える。
……ただ、見ているTVの内容が、不倫を扱っているドロドロのドラマだというのは……うん。
これ、一体どこの世界のドラマだ?
というか、この時間帯にこういうドラマを放映するというのは、それはそれで問題なような気が。
「おーい、ただいま」
「……あら、アクセル。あの2人を送ってきたのよね? 随分と時間が掛かったんじゃない?」
ドラマを見ていたマリューが俺の姿に気が付き、そう声を掛けてくる。
「念の為に、俺と拳藤の部屋にヴィランが見張りを置いていないか確認してきたからな」
「へぇ……それで、どうだったの? いえ、アクセルの様子を見れば、何となく答えは分かるけど」
マリューの言葉に、俺は頷く。
「正解だ。ヴィランの見張りはどこにもいなかったよ。……TVでやってるドラマに近い感じの事はあったが」
言うまでもなく、それはスライムを使った時に聞いた、不老の個性を持つらしい母親を、娘の恋人が口説いたとか何とか、そういう件だ。
きちんと全てを聞いた訳ではないので、細かいところでは色々と違うかもしれないが、大雑把にはそんな感じだ。
「……少し興味があるわね」
「というか、一体何であんなドラマを見てるんだ? ルリ……はともかく、ラピスや壊理の教育に悪そうじゃないか?」
そう、言っておく。
そんな俺の言葉に、マリューは少し困ったように笑う。
……そんな笑みも、人をというか、男を惹き付けるような魅力を持つのだから、マリューは凄い。
「しょうがないじゃない。いつの間にかTVでやっていたんだから」
「それなら、別の番組に変えるとかしてもよかったんじゃないか?」
「……あら、アクセルにはあのドラマを見て、何か思うところでもあるのかしら?」
そうマリューに言われると、俺としても即座に反論することは出来ない。
実際問題、現在の俺の状況があのドラマに近い状態なのは……いや、それでも色々と違うよな? うん、違う筈。違うといいな。
「特に何も思う事はないという事にしておくよ」
「ふふっ、それがいいわ。……アクセルは私達が賢明でよかったわね」
マリューのその言葉は、否定するのが難しい。
実際問題、俺から見た限りではマリューの言ってる内容は決して間違ってはいない。
俺がこうして多数の恋人達を作り、いわゆるハーレムに近い状態――近いではなくハーレムそのものだという突っ込みはありそうだが――になっているのは、マリューを始めとして俺の恋人達が上手い具合にやっているからだ。
これで自分だけを愛して他の女には決して目を向けるな……そんな風に言われた場合、俺は悩みに悩むだろうが、最終的にその相手とは別れる事になるだろう。
だが、マリューを含めた恋人達は、誰一人としてそのような事を言ってくる様子はない。
それどころか、下手をしたら恋人の俺よりも女同士の方が仲が良いんじゃないかと思うようなことも珍しくはない程だ。
その辺りは、多分夜の行為で関係しているんだろうと思う。
人として、肌を重ねた相手にはどうしても情が移る。
勿論、その辺りは人によっても違うし、あるいは暴力で強引に……とか、そういうことになった場合は、また話は別だったが。
自分で望んでそういう関係になれば、絶対に大丈夫とまではいかないが、それでも女同士仲良くなるには十分だったらしい。
「とにかく、今日はもう特にやる事がないからゆっくりとするか。見た感じ、壊理もラピスにかなり懐いているから、心配はいらないようだし。……そういえば、壊理の個性についてはどうするんだ?」
「明日、レモンが色々と調べるそうよ」
「そうか」
これが、以前校長と約束した、タルタロスに収監されているヴィランを引き渡されたのであれば、レモンも個性を調べる際にはそこまで気にしないだろう。
勿論、死なないように最低限は気にするだろうが、痛みに泣き喚いても気にしたりはしない筈だ。
……もっとも、校長の性格を考えればタルタロスに収監されているヴィランが引き渡されるようなことは、実質的にはないと思ってはいるが。
ともあれ、そんなヴィランとは違い、壊理の個性について調べる際にはレモンも何か酷い事をしたりとか、そういう事はしないと思う。
これはあくまでも俺の予想だが、レモンの性格を考えれば間違いないだろう。
そんな訳で、レモンが壊理の個性を明日調べるとしても、俺にとってはそこまで気にする必要はない。
……そもそも、壊理の個性である巻き戻しは俺には効果がないしな。
あくまでも人にしか効果がないので混沌精霊の俺には効果がないのか、それとも俺の魔力とか念動力とか、そういうので効果がないのか。
その辺は俺にも分からないが、それでも壊理の個性が俺に効果がないというのは、壊理と接する上で大きなメリットになるしな。
壊理の様子を見る限り、自分の個性によって相手を傷つける事を極端に恐れている。
だが、そんな壊理の個性は俺には効果がないので、そういう意味でも壊理が俺に気楽に接する事が出来るというのは、この場合大きい。
「レモンなら大丈夫だとは思うけど、壊理の個性には気を付けるように言っておいてくれ」
「ええ、そのつもりよ。……アクセルが言うように、レモンならその辺はしっかりと考えた上で行動すると思うけど」
マリューのその言葉には、レモンに対する強い信頼がある。
マリューもレモンと一緒に技術班を率いる事になって、それなりに時間が経つ。
であれば、レモンの能力については十分に理解しているのだろう。
もっとも、それはマリューよりもレモンとの付き合いが長い俺も同じようなものだが。
……いや、レモンとの付き合いが長い分、その信頼度は俺の方が上だろう。
「壊理の個性、上手い具合に使えるようになれば、かなり便利なんだけどな」
巻き戻しといった個性の名称からすると、相手の時間を巻き戻すような個性だろう。
そうなると、例えば怪我をした相手に個性を使い、その怪我を負う前にするとか出来るだろう。
だが、怪我はそうしてどうにかなるだろうが、病気の方は難しいと思う。
病気というのは発症そのものは突然だが、発症するまで、あるいは自覚するまで静かに進行している。
巻き戻しが俺の思うような個性であった場合、巻き戻るのはあくまでも発症前で……まぁ、まだ発症や自覚のないうちに治療をすることが出来るというのは、病気の治療という意味では決して悪くないとは思うけど。
「そうね。怪我の回復手段が増えると考えれば、いいわね。……もっとも、治療という意味ではシャドウミラー程に充実している国はあまりないと思うけど」
マリューのその言葉は事実だ。
基本的に怪我をした場合は木乃香に治療して貰うし、あるいは木乃香でも手に負えない場合はレモンに治療して貰う。
ヒロアカ世界においても、オールマイトの治療はリカバリーガールでも無理だったのが、全快しているし。
もっとも、既にオールマイトのOFAは緑谷に譲渡されていたので、全快をしても以前のように万全の状態で戦うといった事は出来ないが。
しかし、それでも昨夜の神野区での一件……オールマイトがAFOを倒したことを思えば、その能力は十分すぎる程だとは思うが。
そんな風に思いつつ、俺は他の面々とも話をするのだった。
翌朝、俺の姿はヒロアカ世界にあった。
昨夜もいつも通りの熱い……めくるめく夜を楽しみ、例によって例の如く朝から魔法球で休憩を終えたマリューや千鶴達が作った朝食を食べ、そして……
「アクセルさん」
俺の視線を感じたのか、手を繋ぐ壊理が俺を見上げてくる。
校長に事情を説明するにしろ、壊理は連れてくる必要があった。
……これが、あるいはただの暴力、それこそ殴る蹴るといった暴力を振るうくらいのヴィランであれば、あるいは壊理をわざわざ雄英に連れてくる必要もなかっただろう。
だが、生憎と今回の一件においてはそれどころではない。
それこそ、恐らく原作においても緑谷に影響する何らかの騒動という事もあるので、最初から校長に話を持っていく必要があった。
幸いな事に、ゲートは雄英の敷地内にあるので、壊理に暴力を振るっていたヴィランに見つかるとは思えない。
まぁ、見つかったら見つかったで、その時はこっちも相応の対応をするだけだが。
緑谷の成長の阻害となるかもしれないが……その時は、訓練で鍛えてやればいいだろう。
あるいは緑谷には俺の正体を説明し、ホワイトスターで行われる実働班の訓練に参加させるとか?
……そのうち、緑谷がOFAを使ってシラタキと戦うんじゃなくて、PTのシャドウに乗ってシラタキと戦うとか、そういう事になりそうな予感もするが。
まぁ、それはそれで楽しそうだけど……どうせならエヴァと行う生身での戦闘訓練に参加させた方がいいよな。
もっとも、緑谷に事情を話すかどうかはもう少し考える必要があるし、場合によっては緑谷の師匠的な存在でもあるオールマイトとしっかりと話をする必要があるが。
ヤオモモと拳藤には仕方のない流れで事情を説明したが、緑谷はどうしてもって訳じゃないし。
そういう意味では、無理にという訳でもないんだよな。
「取りあえず、行くか。俺がいれば怖くないだろ? それにここは雄英……プロヒーローになる為に多くの生徒が通う場所で、教師も全員がプロヒーローだ。ましてや、オールマイトのいる高校でもある以上、何らかの騒動が起きるという事はまずないから、安心してもいい」
実際、一昨日オールマイトはTVで生放送されている中、AFOをボコボコにした。
あれを見た上で、ヴィランがオールマイトのいる雄英に来るとは考えられない。
いやまぁ、ヴィランの中にはオールマイトの強さを見たからこそ、自分がオールマイトを倒せば目立てる、あるいはヴィランの頂点に立てるといったようなことを考えてもおかしくはない。
実際、それは間違っている訳ではないのだが、それはあくまでもオールマイトに勝てたらの話だ。
当然ながらどんなに馬鹿なヴィランであっても、オールマイトに正面から勝てるとは思わないだろう。
だからこそ、正面から戦うのではなく不意打ちをしたり、あるいは何者かを人質に取るといったような卑怯な手を使ったとしても、おかしくはない。
オールマイトにそんな手が通用すると考える方が、そもそも間違いではあるのだが。
とにかく、これからの事を思えばオールマイトがいるので雄英が安心というのは間違いない。
オールマイト以外にも腕の立つプロヒーローは多いしな。
「……うん」
俺の言葉をどこまで理解したのか、あるいは納得したのか、とにかく壊理は頷き……こうして俺と壊理は雄英の校舎に向かうのだった。