壊理を連れて職員室に顔を出したのだが……
「あら、アクセル。イレイザーとオールマイトならいないわよ?」
何らかの書類を書いていたミッドナイトが、俺を見てそう言ってくる。
……ミッドナイトの視線が俺と手を繋いでいる壊理に向けられたが、特に何も言わない。
昨日、相澤がミッドナイトに……というか、雄英の教師達に壊理の件についての情報が回っていたといったところか?
俺にとっては楽なので、その辺は問題ないんだが。
「2人共いないのか?」
今日は生徒としてのアクセル・アルマーではなく、シャドウミラーのアクセル・アルマーとしてやって来ているので、今のような対応になる。
……20代の姿ではなく、壊理が慣れている10代半ば、このヒロアカ世界で生徒として通っている姿ではあるが。
だが、ミッドナイトも俺の正体については知っている為か、俺の言葉を聞いても特に驚いたり、不愉快になったりといった様子はない。
「ええ。A組の生徒の家に行って、寮生活についての説明と……出来れば今日のうちにそれを受け入れて貰って、書類を貰ってくる為に行動してるわ」
「ああ、なるほど。その件があるか」
そう思い、俺の場合は家庭訪問どうするんだろうと思う。
いや、俺が2学期もまだ雄英に生徒として通うかどうかは、まだ決まってないから何とも言えないが。
ただ、何となく……何となくだが、相澤やミッドナイト、プレゼント・マイクと話をしたり、あるいはその態度を見れば、2学期からも生徒として通えそうな気がするんだよな。
勿論、しっかりとそう言われた訳ではないので、実際にどうなるのかはそれこそ後でしっかりと聞かないと分からないが。
「話は分かった。ただ、俺が今日来たのは校長に会いたくて来たんだけど、校長はいるか?」
「根津校長に? ……じゃあ、行きましょうか」
「あれ? いいのか?」
まさかミッドナイトが俺と一緒に来ようとするのは少し予想外だった。
いやまぁ、そうしてくれると助かるのは間違いないんだけどな。
「ええ。案内役は必要でしょう?」
別にいらないんだが。
校長室のある場所も分かってるし。
……そう思ったが、ミッドナイト的にも恐らくは俺がシャドウミラーのアクセル・アルマーとして行動している以上、俺だけで雄英の中を歩き回らせるのは不味いと思ったのだろう。
そこまで気にする必要があるとは思えないのだが。
それでもミッドナイトが気を遣ってくれたのだから、その厚意に甘える事にする。
ミッドナイトは他にも何人かいる教師達に声を掛けてから、俺達を連れて校舎の中を歩く。
「ねぇ、アクセル。校長に用事って事は、神野区の件? それとも……」
隣……俺が右手で壊理と手を繋いでいるので、そんな壊理を怯えさせないようにと、左側を進むミッドナイトがそう聞き、視線を壊理に向ける。
神野区の件で来ているのなら、わざわざ壊理を連れてくる必要はない。
そうである以上、俺が今日壊理を連れて雄英に来たのは、当然ながら壊理の件で雄英に……というよりも、校長に用事がある為だ。
「壊理の件だよ」
「でも、その子については昨日イレイザーに話をしたでしょう? 校長にも話は通っていると思うわよ?」
「そうだな。昨日の時点ならそうだったんだが……昨日、色々と壊理から話を聞いたところ、少し……いや、絶対に聞き逃せないような話を聞いてな。その報告もあるし、それ以外にも場合によっては壊理を俺の養子にしようと思って、その相談もだな」
「養子って……本気?」
ミッドナイトが信じられないといった様子で俺に視線を向けてくる。
あ、これ……ミッドナイト、ちょっと勘違いしてるな。
ミッドナイトは20代の俺の姿も見ている筈だが、それでも今の俺は10代半ばの外見だ。
それを思えば、今の俺が養子を取るというのは驚きではあるし、許容も出来ないといったところか。
「安心しろ。別に養子は壊理が初めてって訳じゃない。……なぁ、壊理? ルリやラピスと一緒にいたくないか?」
「……」
壊理も自分の事が話題になっているのは理解していたのだろう。
俺の言葉に何も答えないものの、手を握る力が明確に強くなる。
それが壊理の気持ちを表していた。
……普通に考えれば、昨日会ったばかりの俺の養子になるというのは、それはそれで色々と問題があるとは思う。
だが、壊理にしてみれば……それこそ半ば軟禁されていた状態の壊理にしてみれば、自分の世界というのは狭い。
昨日、何らかの理由で家から連れ出したヴィランから逃げ出し、それを助けたのが俺だ。
正確には俺だけじゃなくて、ヤオモモや拳藤もいるのだが。
ただ、それでもメインとなって助けたのは俺だし、ホワイトスターに避難させたのも俺だ。
それでいて、俺はホワイトスターを本拠地とするシャドウミラーを率いる立場である。
もっとも、壊理がその辺りについてどこまで理解しているのかは、微妙なところだが。
ともあれ、それでも壊理にとって俺は自分を助けてくれる相手と認識している訳だ。
それ以外にも、ルリやラピスの件もあり……それを思えば、壊理が俺の養子になりたいと思うのは自然な流れだろう。
実際、今朝……というか、昨夜も壊理はラピスと一緒に寝て、それが嬉しかったらしいしな。
「まぁ、そんな訳で壊理は俺の養子になるのを前向きに検討している訳だ。ただ、壊理はヒロアカ世界の人間だしな。それを考えると、その辺りについて校長に相談しておきたい」
校長は巨大なネズミだが、個性によって高い知能を持ち、偉人と呼ばれている程だ。
それだけに色々な場所に繋がり……コネがあり、壊理を養子にするにはその辺りが役立つだろう。
もっとも、それを言うのなら公安の目良に連絡をした方が早かったかもしれないが……まぁ、今回は校長に頼むという事にしたんだよな。
それに公安は公安で、神野区の件……特にAFOの件で今は猫の手も借りたい程に忙しいだろうし。
そこに俺が連絡して……となると、目良の目の隈が今まで以上に酷い事になりそうなんだよな。
なので、ここは校長に頼ろう。
……もっとも、ここで校長に話をしたところで最終的には公安に話が行くの間違いないだろうし、そうなれば結局目良も大変な目に遭うのかもしれないが。
ただ、今はAFOの件で忙しい公安も、校長を経由して……もしかしたら、そこから更に何人か経由する事によって知らせが届くのが遅くなり、結果としてAFOの件が一段落した……もしくはそこまでいかなくても、忙しさのピークがすぎたところで俺の件が伝われば、そこまで忙しくはならないと思う。
あくまでもそうだろうという予想であって、実際のところどうなっているのか……その辺はちょっと分からないが。
ともあれ、俺はそういう風に思えるというだけだ。
「なるほど。私はまだ完全に納得した訳じゃないけど……本人に問題がないのなら、どうにかなるかもしれないわね。その辺も含めて校長先生に話をしてみるといいわ」
ミッドナイトがそう言うと、ちょうどそのタイミングで校長室の前に到着する。
「ちょっと待っててね。まずは校長先生に話を聞いてくるから。多分大丈夫だとは思うけど」
「頼む」
短く言葉を交わすと、ミッドナイトは校長室の前に立ってノックをする。
すぐに中から反応があり、ミッドナイトは校長室に入り……廊下には俺と壊理の2人だけが残された。
それにしても……案内するのはともかく、俺が来た。それもこのヒロアカ世界の子供を養子にしたいという話をすると、前もって職員室から校長室に連絡をしてからこうして校長室まで来れば、わざわざ待つ必要はなかったと思うんだが。
もっとも、何か理由があってそのようにしているのかもしれないけど。
「壊理、大丈夫か?」
「?」
俺の問いに、壊理は首を傾げる。
まぁ、こうして廊下で待っているだけで、大丈夫か? と言われても一体何について言われているのか、分からないだろうし。
それに俺も、特に何か理由があって尋ねた訳でもない。
ただの暇潰し……という表現はどうかと思うが、とにかくそんな感じで尋ねてみたのは間違いない。
「大丈夫なようなら、問題ない。……お」
壊理と話していると、校長室の扉が開き、ミッドナイトが姿を現す。
「アクセル、壊理ちゃん、入ってもいいわ。校長先生がお待ちよ」
ミッドナイトの言葉に、俺と壊理は手を繋いだまま校長室の中に入る。
校長室の中には、当然のように校長……根津の姿があった。
根津以外にも、俺達をここまで案内してきたミッドナイトも校長室の中に入ったままだ。
……まぁ、それは無理もない。
今の俺はシャドウミラーの代表としてここに来ている以上、ミッドナイトとしては校長を俺と2人だけ――壊理もいるが――にする訳にはいかないのだろう。
もし万が一……本当に万が一にも、俺が校長に危害を加えようとした場合、校長は対処のしようがない。
勿論校長も個性を持っており、偉人として扱われている。
だが、校長の個性は高い知能をもたらすというものであって、純粋な攻撃に使えるような個性ではない。
つまり、正面から俺と戦いになった場合、校長はどうしようもないのだ。
ミッドナイトも俺が実際にそういうことをするとは思っていないだろうが、それでも俺が違う組織の代表として来ている以上、警戒は当然だろう。
また……俺以外に壊理がいるのだから、校長以外にミッドナイトがいても、2人ずつ同士という認識も出来ない訳ではないし。
半ば屁理屈に近いものの、決して間違っているという訳ではない。
「さて、アクセル代表。今日はそちらのお嬢さんの件で話があるという事だったけど」
「ああ。……ちなみに、この子……壊理というんだが、壊理については昨日相澤から話を聞いていたりするか?」
「……ああ、勿論。壊理ちゃんだったかな。君には悪い事をしたと思う。この世界の住人として謝罪したい」
そう言い、校長は壊理に向かってその小さな頭を下げる。
だが、壊理はそんな校長をじっと見ているだけだ。
あー……これはまぁ、うん。何となく分かる。
多分壊理にとって、校長ということで出て来たのが根津のような人物――人ではないが――であったことに、それだけ驚いたのだろう。
実際、根津について何も知らずに校長だと言われて紹介されれば、一体何事だ? と思ってもおかしくはない。
壊理もまた、表情こそ変えた様子はないが、それでもこうして見た感じだと驚いているのは間違いない。
「壊理」
「……?」
俺に名前を呼ばれ、ようやく我に返った壊理は、不思議そうに俺を見てくる。
何故自分の名前を呼ばれたのか、分かっていないらしい。
それよりも目の前にいる巨大なネズミ……根津に完全に目を奪われていたといったところか。
それだけ、壊理にとって根津の存在は予想外だったのだろう。
そして根津は、そんな壊理の態度に不満を抱くでもなく、再び口を開く。
「すまなかったね」
「……なんでネズミさんがあやまるの?」
不思議そうに……本当に不思議そうに、壊理が根津に尋ねる。
壊理にしてみれば、自分が謝られる覚えがないのだから、当然だろう。
そういう意味では、俺もまた何故根津が謝るのかと、少し疑問に思わないでもなかったが。
とはいえ、疑問には思うが同時に納得も出来る。
根津にしてみれば、プロヒーローを多数排出しているこの雄英の校長として、壊理のような子供……幼女がヴィランによって暴力を振るわれていたと知り、残念に、あるいは悲しく思ったのだろう。
……実際には、壊理が受けていたのは暴力と一口で言ってもいいようなものではないのだが。
その辺についても、根津には話しておく必要があるんだろうな。
「取りあえず、受け取っておけ。校長も大人として壊理に謝りたいと、そう思ったんだろうし」
「……うん」
壊理は俺の言葉を理解出来たのか、出来なかったのか。
ともあれ、理解したといったように頷いてみせる。
それを見た根津は、微妙な様子で……どう反応していいのか、迷っている様子だった。
根津にしてみれば、壊理のような相手はどう対処していいのか分からないのだろう。
なので、俺は校長に声を掛ける。
「それで、校長。壊理の事だが……」
そんな俺の言葉に、根津は助かった! といった様子で視線を向けてくる。
「ああ。アクセル代表。彼女がどうかしたのかな?」
「ミッドナイトから聞いてるかもしれないが、実は壊理を養子にしようと思っている。……壊理にとって、このヒロアカ世界は今のところはあまり良い思い出もないしな」
勿論、実際にはこの世界には色々と良い部分もある。
あるのだが、小さい頃からヴィランによって暴力を振るわれ、虐待されてきた壊理にしてみれば、このヒロアカ世界は辛い記憶しかない世界なのは間違いない。
これであるいはもっと壊理が成長していれば、また少し違ったのかもしれないが。
……いや、壊理はまだ幼女だが、顔立ちは整っている。
将来的には美人になるのは間違いなく、そうなると虐待をしていたヴィランが何を考えるか。
そう考えれば、ある意味で昨日俺が助けたのは大きかったのかもしれないな。