「えっと、今の台詞からすると、俺はこのまま2学期になっても生徒としてヒーロー科に通ってもいいって事なのか?」
校長の口から出た、俺が生徒であるという言葉を聞いて、そう尋ねる。
勿論、今の俺はまだ雄英の生徒で、2学期になったら諸事情によって転校なり退学なりといった扱いになるのかもしれないという可能性もあったので、完全に安心する事は出来なかったが、それでも校長がどのように思っているのかは聞いておく必要があった。
すると校長は、俺の言葉に即座に頷く。
「当然だろう。僕はアクセル君を退学にするつもりはないよ」
シャドウミラー代表ではなく、生徒としての俺の話になったからだろう。
先程までのように、アクセル代表ではなくアクセル君と呼ばれる。
俺としては正直どっちでもいいので、その件については特に気にしないでおく。
「いいのか? ……自分で言うのもなんだけど、俺を生徒にすると色々と面倒が起きるぞ?」
ヴィラン連合の件とか、まさにその通りだろう。
何だかんだと幹部陣は全員逃げ出したが、特にそのヴィラン連合のうち、トップのシラタキは俺を憎んでいる。
もし俺が2学期も雄英の生徒であれば、また俺を狙って黒霧の転移によって襲ってくる可能性は否定出来ない。
……いやまぁ、俺がいなくてもヴィラン連合としての活動で雄英を狙うといった可能性は否定出来ないけど。
「構わないさ。もし面倒があっても、アクセル君は強い。その力があれば、それこそ皆を守る事だって出来る筈だ」
「……まぁ、出来るかどうかと言われれば、出来なくもないと思うけど。ただ、クラスの連中が大人しく守られているのかどうかは微妙だけどな」
A組にいるのは、プロヒーローになりたくて入学した者達だ。
ヒロインのように、連れ去られてプロヒーローに助け出されるのを待ちたい訳ではない。
……いやまあ、世の中にはそういう連中がいたりするのも間違いないけど。
「はっはっは。さすがA組だね」
校長が愉快そうに笑う。
ともあれ、校長の話を聞く限りだと俺は2学期も雄英の生徒という事になるらしい。
……もっとも、生徒思いだからそういう風に判断したという訳ではなく、当然ながらそこには政治的な問題とかも色々とあるんだろうなというのは、俺にも予想出来る。
例えばいざという時、すぐにシャドウミラーと……それも一員ではなく、トップの俺と連絡が取れるとか。
ゲートは雄英の敷地内に設置されているので、連絡を取ろうと思えば、いつでもシャドウミラーと連絡を取れるのは間違いないのだが、それでもいざという時のことを考えると、すぐに俺と連絡が出来るようにしておけるというのは非常に大きい。
また、校長が言っていたように俺個人の強さがあれば、もしヴィラン連合が襲ってきた時、あるいはタルタロスに収監されたAFOが何かを企んだ時、すぐに対処出来たりするだろうし。
だからこそ、俺を生徒のままにしておくというのは、決して間違いではないと判断したのだろう。
勿論、そういう政治的な判断だけではなく、もっと単純に俺を生徒として学生生活を楽しんで欲しいとか、そういう気持ちもあるんだうけど。
……ただ、ヒーロー科というのは当然ながらプロヒーローになるのを目指す学科な訳で、俺は別にプロヒーローになるつもりはないんだよな。
まぁ、ヒーロー科を卒業したからといって絶対にプロヒーローになる必要がある訳でもないし、実際にヒーロー科を卒業しながらもプロヒーローにならない者は結構いるらしいんだよな。
そう考えると、ヒーロー科に通っていてもプロヒーローにならないというのはそこまで問題にならなかったりするのかもしれないな。
「ともあれ、2学期からも生徒として活動出来るのなら、助かる。
……よろしくお願いします、根津校長」
生徒として扱われたので、俺もまたシャドウミラーを率いる存在ではなく、雄英の生徒として返事をする。
「こちらこそ。……さて、それでは今日の用事はもう終わりかな?」
「そうなりますね。俺はミッドナイト先生と合流して、壊理を引き取ってからホワイトスターに戻ります。……相澤先生やオールマイトに挨拶がしたかったんですが、どうやら今の状況ではそんな余裕はないらしいので、我慢します」
生徒の実家に向かい、事情を説明し、寮生活に入る許可を貰ってくる。
これは言う程に簡単な事ではない。
ましてや、今年になってから……より正確には原作主人公の緑谷が雄英に入学してから、色々な騒動が続いている。
USJの件はニュースになったり、林間合宿の件も半ば陽動だったとはいえ、相澤達が記者会見をした。
……また、保須市で起きたヒーロー殺しのステインの件もあるし、I・アイランドの件もある。
そう考えると、本当に今年の雄英の1年は大変だったという事になる訳だ。
だからこそ……それらの情報を集めているからこそ、相澤やオールマイトが、後はB組はブラドキングがそれぞれの家に行っても、中には雄英にいると子供が危険だから転校させたいとか、そういう風に願う者もいるだろう。
それを何とか説得している相澤達の事を思えば……それも日本中を飛び回ってそういう事をしているのを考えると、俺としても今すぐに無理に会いたいとかは言えない。
勿論、至急相澤やオールマイトに会わなければならない事があるのなら話は別だが、幸いな事に今のところそういう用事はないしな。
……ただ、相澤達がそうして生徒の家族に会いに行ってるとなると、一度ホワイトスターにある俺の家に案内した方がよかったりもするのか?
レモン達も俺が生徒をしている高校の教師については、それなりに興味深い様子だったし。
ゲートが設置されたので、当然ながらヒロアカ世界のTV放送もホワイトスターで見る事が出来るので、オールマイトとかについても知ってるだろうし。
まぁ、レモンの場合はオールマイトの治療をしたから、その辺は今更の話か。
「ああ、では僕は仕事があるから、もう話がないようなら仕事に戻ってもいいかな?」
「はい。では、失礼します」
そうして校長室から出ると、俺は誰もいない――教師はいるのだが――校舎の中を見回す。
普段であれば、多くの者がここを通ったりする筈なのだが、夏休みの今は特に誰の姿もない。
俺の耳には校長室の中で書類をめくったり、ペンを走らせたりといったような音が聞こえてくるけど、それだけだ。
「さて、そうなると……これからどうするべきかな。やっぱりまずはミッドナイトと壊理と合流する方が先か?」
呟くも、問題なのはミッドナイトが壊理を連れてどこの自販機に行ったのかってことなんだよな。
リンゴジュースを飲ませるって話だったけど、俺の知っている自販機に行ってればいいんだが。
とにかくここでこうしていても仕方がないし、気配でも感じながらミッドナイトと壊理を捜すとするか。
そうして幾つか俺の知っている自販機のある場所に向かうが……
「いないな」
そもそも、この雄英の敷地内は高校の敷地内とは思えない程に広い。
いやまぁ、ただの高校ならともかく、雄英は日本でトップのヒーロー科を持つ名門校だ。
……峰田や爆豪、物間といったような面々を見る限り、名門校の生徒に相応しいか? と言われれば、俺としても素直に頷く事は出来ないのだが。
ともあれ、それだけの広さだけに自販機の数も相応に多い。
ましてや、まだ俺が雄英に入学してから数ヶ月。半年も経っていないのを考えれば、俺の知らない場所に自販機があってもおかしくはない。
スライムを使えばその辺はどうにかなるもしれないけど、まさか雄英の敷地内でスライムを使うのはどうかと思うし。
なら、炎獣とか?
そう思っていると、ちょうどこっちに近付いてくる気配があった。
いや、気配だけであれば、別に俺もそこまで気にはしなかっただろう。
今は夏休みとはいえ、雄英のような高校であればそれなりに通っている生徒達も多いし、教師も教師で寮の件もあって忙しいのだから。
だが、俺が気にしたのは、その気配が覚えのある気配だったからだ。
そして……やがて姿を現したのは、ビッグ3の1人としても有名なねじれだった。
「あれ? アクセル? どうしたの、こんなところで? 気になるな、気になるな」
相変わらずの好奇心旺盛さが、その大人っぽい外見とは裏腹に、どこか幼さを感じさせる。
まぁ、そういうところもねじれの魅力と言えばそうなのかもしれないが。
「ちょっと人捜しをしていてな。……ねじれは、どうして学校に?」
「インターンの件でちょっと書類を出しに来たの」
「そうか」
それそのものは、特に驚くような事ではない。
いや、あるいはもしかしたら普通なら夏休みにわざわざ書類を出したりしないのかもしれないが……その辺りについては、俺が何かを言う必要もないだろう。
それこそ、本来なら夏休み前に出さなければならない書類を出すのを忘れていたからとか、そういう理由なのかもしれないのだから。
「それより、アクセルも大変だったね」
「……何がだ?」
一瞬、AFOとの戦いの件について言ってるのかと思ったが、ねじれの様子を見る限り、大変だったとは言っているものの、AFOの件を知っているようには見えない。
いやまぁ、もしかしたら知っていても表情に出していないだけかもしれないが……ねじれがそういうのを出来るとは思えないな。
「色々と」
「……まぁ、いい。それでねじれ、ミッドナイトを見なかったか? さっきも言ったけど、ちょっと人捜しをしていてな。その対象がミッドナイトなんだよ」
正確にはミッドナイトと一緒にいる壊理なのだが、壊理については今のところ説明がしにくい。
まさか、俺の養子になる予定だとか、そういう事を言える訳もないし。
……あ、でもヤオモモや拳藤にはその辺について言ってるし、今更なのか?
「見たよ」
「え? マジで?」
一応、ねじれにミッドナイトを捜していると言いはしたものの、まさか本当にねじれがミッドナイトの居場所を知ってるとは思わなかった。
「うん、マジで。マジマジ」
俺の口から出たマジという言葉が気に入ったのか、マジマジと繰り返すねじれ。
ねじれに変な言葉を教えたってことで、後で龍子に怒られそうな気がするが……うん。まぁ、今のところはその辺について気にしない方がいいか。
何か言われたら、その時はその時で対処すればいいんだし。
「で、ミッドナイトはどこにいたんだ?」
「小さい子と、サポート科の方にある自販機の側にいたよ」
何でねじれがサポート科に行ってるんだ?
そう疑問に思ったものの、その辺については別に俺がここで何かを言う必要もないか。
聞けば聞いたで、面倒な事になりそうだし。
あるいは単純に、ヒーローコスチュームの関係でサポート科に行っていたのかもしれないし。
「そうか、分かった。じゃあ、俺はミッドナイトのところに行くから」
「うん、またね」
そう言い、手を振るねじれ。
ねじれにしてみれば、偶然俺と会ったから自分の知っている事を教えたというだけなのだろう。
ある意味純粋と言ってもいいのかもしれないな。
ねじれに感謝しながらサポート科に向かうと……
「あら、アクセル。そんなに急いでどうしたの?」
途中で、壊理を連れたミッドナイトと遭遇する。
ただ、どこから調達したのか、スーパーとかにある買い物かご……ただし、金属のかごに、10本近いリンゴジュースを入れているのは、どうかと思う。
全てのリンゴジュースを完全に把握した訳ではないが、それでも見たところでは全ての缶の外見が違う。
つまり、その10本近い缶ジュースは全てが別の種類のリンゴジュースであるということを意味していた。
「ミッドナイト、そのリンゴジュースは……全部雄英の自販機で買った奴か?」
「正解。私もリンゴジュースの種類は多くあるのを知っていたけど、まさかここまでとは思わなかったわ。壊理ちゃんも全部飲む事は出来ないから、パワーローダーに言ってこれを用意して貰ったの」
そう言い、リンゴジュースの入った金属のかごを見せるミッドナイト。
なるほど、どうやってそれを用意したのかは分からなかったが、どうやらパワーローダーに頼んで用意して貰ったらしい。
パワーローダーなら、そのくらいどうとでもなる……といったところか。
「そうか。壊理の面倒を見て貰って悪いな」
「いいのよ、壊理ちゃんは可愛かったし」
そう言い、笑みを浮かべるミッドナイト。
……普通に考えれば、素直に受け止めるべき言葉ではある。
だが、18禁ヒーローのミッドナイトからそんな風に言われると……うん。まぁ、気のせいなのは分かってるけどな。
それでもやはり、色々と思うところがある訳で……
「壊理、戻るか。ラピスは……まだ帰ってきていないと思うけど、牧場にでも行くか?」
そう尋ねる俺に、壊理はミッドナイトが持っている金属のかごとは別に、自分で持っているリンゴジュースを飲みながら、頷くのだった。