転生とらぶる2   作:青竹(移住)

2021 / 2196
4655話

 壊理と共に雄英に行ってから少し時間が経ち……夏休みも残り少なくなってきた頃、俺の姿は病院にあった。

 とはいえ、当然ながら俺が何らかの病気になったり、あるいは怪我をしてその治療に来た訳でもない。

 

「アクセルを連れていくと、茨が予想以上に混乱するから、ちょっとどうかと思うんだけどな」

「でも、塩崎さんならアクセル君が来たって事で喜ぶんじゃない?」

「……で、俺がいる理由は?」

 

 拳藤、葉隠、瀬呂の順番でそれぞれ言う。

 拳藤が言うように、俺達は現在茨の見舞いに来ていた。

 茨は林間合宿の時の襲撃によってガスを吸い、昏睡状態にあったものの、既に意識は戻っている。

 近いうち……それこそ場合によっては明日にでも茨が退院するかもしれないという事で、それなら最後にとこうして見舞いに来たのだ。

 ただ、こうなった面子は……まぁ、うん。

 ヤオモモは神野区に来ていた一件で色々と注意されており、謹慎となっているらしい。

 いやまぁ、それなら何で翌日には俺の家に来たんだ? という疑問があるが……まぁ、うん。その辺は色々とあるのだろう。

 他の面子も相澤とオールマイトの家庭訪問を受けていたり、寮生活の件で家族と相談したりと、色々と忙しい中、今日こうして茨の見舞いに来る事が出来たのは、俺、拳藤、葉隠、瀬呂の4人となってしまった訳だ。

 

「それにしても、他の面々はともかく、葉隠はよく今日来られたな」

「ちょっと、それどういう意味!?」

 

 俺の言葉を聞いた葉隠が、いつものように手袋をした両手を上下に動かして納得してませんといった態度を示す。

 葉隠にしてみれば、自分が仲間外れにされたかのように思ったのかもしれないが……

 

「違う、違う。LINで寮生活の件、両親と結構揉めてるってあっただろ? なのに、今日こうして茨の見舞いに来たんだから、大丈夫なのかと思ったんだよ」

 

 そう、クラスのグループでは結構な人数が寮生活のOKを貰ったと書かれていたが、葉隠を始めとして何人かは家庭訪問の時にその場で返事が出来ず、結果として両親と寮生活について話し合っているといったような事が書かれていたのだ。

 ……俺も明日、家庭訪問だしな。

 ちなみにA組の家庭訪問は俺以外全員既に終わっており、俺だけが1日空けてから最後に家庭訪問を受ける事になったのだが……まぁ、自分で言うのもなんだが、俺は色々と特殊だしな。

 相澤もその辺りを気にして、俺を一番最後に回したのだろう。

 校長から2学期も俺は雄英の生徒として行動するのが許されているのもあり、そういう意味でも相澤の家庭訪問があったりするのだろう。

 

「ああ、その件ね。……うん、色々と大変だったけど、何とか説得したよ」

 

 葉隠が微妙な雰囲気でそう言う。

 まぁ、無理もない。

 葉隠の親にかかわらず、他の生徒の両親にとっても、今年の雄英の騒動は洒落にならないものがあるしな。

 そんな場所に自分の子供を生徒として通わせるというのには、思うところがあるのは当然だろう。

 

「そうか。無事に決まって何よりだ。俺も2学期から葉隠がいなくなったら残念に思うしな。やっぱり、A組には葉隠がいないと」

「え? えへへ……そう? 本当にそう思う?」

 

 俺の言葉に、葉隠は嬉しそうに手袋を上下に動かす。

 その激しい速度が、葉隠が嬉しいというのを如実に表していた。

 

「うわ……瀬呂、アクセルは本当に何とかした方がいいぞ?」

「え? 何で今更? アクセルがこういうのを言うのは珍しくないだろ?」

「そうだけど……でも、あの光景を見てしまうとなぁ……」

「あの光景?」

「ああ、いや、何でもない。ただ、せめて被害者は私とヤオモモだけにしたいんだよ。……ああ、そういう意味では茨も被害者か? いや、茨の場合はアクセルが被害者だな」

「いや、被害者って……何を言ってるんだよ?」

 

 俺と葉隠から少し離れた場所で拳藤と瀬呂が何かを話していたようだったが、嬉しそうな葉隠の相手をしていた事もあってか、どういう会話かは聞こえこなかった。

 もっとも、今のこの状況を考えるとそこまで気にしなければならない事ではないのだろうが。

 

「さて、とにかく茨の見舞いに行くか」

「えー……もう少し話をしてもいいと思ったのに」

「……アイス、溶けても知らないぞ」

「え? あ、うん! そうだね。アイスが溶ける前に早くいかないと!」

 

 俺の手にした入れ物……中には茨の見舞いの品のアイスの入っている紙箱を見て、葉隠が即座に意見を翻す。

 見舞いなんだから果物の盛り合わせとか、そういうのでもよかったんだが、それには拳藤から待ったが掛かった。

 B組で何人かが茨の見舞い……いや、茨だけじゃなく、まだ入院している他のB組の生徒に対してもだが、とにかくそうして見舞いに行く時、結構な確率で果物を持っていったらしい。

 いやまぁ、見舞いの品として果物は一般的だしな。

 だが、一般的だからといって、毎回それだと当然ながら飽きる。

 その為、出来れば違う見舞いの品を持っていきたいという事になり、それで選ばれたのがアイスだった。

 有名どころの、カップのアイス。

 しっかりと保冷剤も入れてあるので、普通に持ち歩くよりは長持ちするが、それでも出来るだけ早く持っていった方がいいのも事実。

 でないと、病室に到着した時、アイスが溶けているという事にもなりかねないしな。

 空間倉庫が使えるのなら、買ったその状態で……一切溶ける事もないままに運べるんだが、拳藤以外に葉隠と瀬呂がいる状態では、空間倉庫とか使えないしな。

 なので、今はここで少し急いで茨の病室に行く必要がある訳だ。

 

「ほら、そっちの2人も! 急ぐよ!」

 

 アイスを溶かさない為……そして自分の食べる分のアイスを美味い状態で食べる為、葉隠は何かを話していた拳藤や瀬呂に向かって叫ぶ。

 ……通り掛かった看護師が咎めるように見てきたのは……まぁ、うん。

 病院の中で大声を出すのは不味いという事だろう。

 それでも実際に口に出されて注意しなかったのは、見舞いに来た俺達の事を知っているからかもな。

 何しろ林間合宿の一件は記者会見が行われるくらいには問題のある状態だった訳だし。

 ともあれ、拳藤が代表して看護師に頭を下げると、俺達は茨の病室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

「ああ、神よ!」

 

 それが、俺達が茨の病室に入った瞬間に聞こえてきた言葉だった。

 茨の事なので、てっきり神に祈ってるのかと思ったが、その茨の視線はしっかりと……外れようもないくらい、俺に向けられている。

 それを見れば、茨が口にした神という言葉が誰を意味しているのかは、考えるまでもないだろう。

 勿論、俺も茨が俺をどのように思っているのかは、理解してる。

 そして俺が神扱いされるのを望まないので、普段は気楽に――それでも十分に敬っているが――接しているのも。

 だというのに、今日に限って何でここまで?

 これが例えば数ヶ月ぶりに見舞いに来たとか、そういう事であればともかく、見舞いに来たのは数日ぶりでしかない。

 ここまで俺を相手にして感激した様子を見せるのは……一体何でだ?

 そんな俺の疑問の表情を見て取ったのだろう。

 茨は何かに気が付いたように、小さく咳払いする。

 

「こほん。申し訳ありません、アクセルさん。久しぶりにアクセルさんとお会いしたので、感激のあまり……そう、はっちゃけてしまいました」

 

 いや、それはどうなんだ?

 そう思ったが、茨は真剣な表情を浮かべ、俺に視線を向けていた。

 ……そう、真剣な表情で、何かを訴えかけるかのように。

 一体何がどうなってそのような表情を浮かべていたのかは分からないが、とにかく茨は何かを誤魔化そうとしているのは間違いない。

 なので、取りあえずそれに乗っておく。

 

「そうか、喜んで貰えて何よりだよ。……ほら、これは見舞いのアイスだ。全員分あるから、食べよう」

 

 そう言う俺の言葉に、隣で意外な展開に驚いた様子の葉隠が我に返り……そして、周囲の雰囲気も元に戻るのだった。

 

 

 

 

 

「じゃあ、やっぱり明日退院なんだ」

「はい。なので、こうして最後にお見舞いに来てくれた事は非常に嬉しいです」

 

 アイスを食べ終え、俺達は茨と会話をしていた。

 ……少し意外だったのは、瀬呂も茨とそれなりに話が弾んでいた事だろう。

 瀬呂と茨は相性が悪い……とまではいかないものの、それでも決して良い訳ではないというのは、これまでの生活から理解出来ていた。

 だが、今日はそういうのがない。

 茨が上機嫌なのが、影響してるのだろう。

 何で上機嫌なのかは、分からないが。

 病室に入ってきた時の様子から、茨が上機嫌なのは俺に関係してるのは間違いない。

 そういう意味では理由は分かっているのだが、かといって数日ぶりに俺を見たからといって、それであそこまで嬉しがるか? とも思う。

 ……いや、茨の性格を考えれば、それはそれで十分に嬉しがってもおかしくはないと思うんだが。

 

「あはは、出来ればもっと来たかったんだけど。……塩崎さんも聞いてる、寮生活の事?」

「はい。昨日、病室で父と母と、ブラドキング先生で面談をしました」

「あー……それだと、大変だったんじゃない?」

 

 葉隠がそう言うのは、やはり自分の家の事があったからだろう。

 葉隠の家では寮生活について色々とあったらしい。

 その最大の理由は、やはり親として子供を心配してのものだろう。

 であれば、茨はこうして実際に入院してるのだから、葉隠の両親以上に心配しても、おかしくはなかった。

 葉隠にしてみれば、そんな両親の説得は大変だったと思ったのだろうが……

 

「いえ、私が2学期から寮で暮らすというのは、予想以上にあっさりと決まりましたよ」

「え?」

 

 茨の口から出た予想外の言葉に、葉隠が驚く。

 ……というか、葉隠だけではなく、瀬呂や拳藤、そして俺も驚いていた。

 茨の両親と会った事はないが、それでも茨を見ていれば何となくどういう人物なのかは予想出来る。

 茨もそうだが、まさに慈愛といった感じの人物なのだろう。

 ……いやまぁ、今の茨は慈愛というよりも盲信に近いのではないかと思えてしまうのだが。

 ともあれ、それでも茨の両親だけに茨を可愛がっているのは間違いないと思うのだが、それなのに茨の寮生活をあっさりと受け入れたというのはかなり予想外だった。

 

「それ、本当なの?」

 

 俺と同じ疑問を、拳藤も抱いたのだろう。

 そう茨に尋ねる。

 だが、そんな拳藤の疑問に茨は当然といった様子で頷く。

 

「はい。私はアクセルさんに出会いましたから。アクセルさんと一緒にいる為であれば、何を犠牲にしても構いません。両親も、それが分かったのでしょう」

 

 重い……そう思ってしまうのは、絶対に俺だけではないだろう。

 もっとも、茨の場合は男女間の好意からの言葉ではなく、あくまでも俺を信仰する為のものだ。

 そう考えれば、茨のこの行動も分からないではない……のかもしれないな。

 

「あ、あははは。そうなんだ。……アクセル君、凄いね」

 

 そう言う葉隠だったが、本気でそのように言っているのか、それとも茨の言いたい事を全て理解した上でそのように言ってるのか、微妙なところだが。

 ポン、と。

 俺の肩を叩いた瀬呂は、その顔に同情の色があるのを見れば、全てを承知しているのは間違いない。

 もっとも、瀬呂の顔には同情以外に嫉妬もあったりするが。

 まぁ、瀬呂にしてみれば茨が色々と危険な……ちょっとアレがアレすぎてアレな感じの人物というのは、これまでの付き合いで分かってはいるのだろうが、それを込みで考えても茨は顔立ちが整っており、清楚系美人であるのは違いない。

 そういう茨に信仰されているというのは、瀬呂から見ても羨ましいのだろう。

 それこそ、もし俺が抱かせろと茨に言えば、茨は何の躊躇もなくその身を俺に預ける筈だし。

 そういう意味では、瀬呂にしてみれば心の底から羨ましいだろうし、もし峰田がいれば血涙を流しているだろう。

 

「そうだな。そこまで慕って貰えて俺も嬉しいよ」

 

 結局俺が葉隠に言う事が出来るのは、それだけだった。

 その後、色々と話をして20分程が経ち、そろそろ帰るかということになる。

 

「じゃあ、私達はそろそろ帰るわね。塩崎さんも元気で……って、退院するんだから、もう元気なのか」

「ふふっ、ありがとうございます。ただ、元気でも入院中はやる事がなかったので……こうしてお見舞いに来てくれたのは嬉しく思います」

 

 葉隠の言葉に茨がそう返す。

 一応、この病室にはTVもあったりするので、どうしても暇ならそれを使うとか、あるいは本を読むとか、そういう感じで暇潰しも出来るんだろうけど。

 ただ、やっぱりこうして直接見舞いに来てくれた方が嬉しいのだろう。

 そんな訳で、話も終わって帰ろうとしたところで……

 

「あ、アクセルさん。少しよろしいでしょうか?」

「ん?」

 

 最後にそう呼ばれ、近付くと……

 

「この前の、神野区の戦い、お疲れ様でした」

 

 そう、茨は俺の耳元で呟くのだった。

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