「問題ないわ」
レモンのその一言で、寮生活についてはあっさりと決定する。
いやまぁ、本来なら寮生活をしてもヴィラン連合とか、それ以外のヴィランに襲われるようなこともあったりするのだが、俺の場合はその辺りの心配がないということなのだろう。
……実際、ヴィラン連合やAFOが攻めて来ても俺だけならどうとでも出来る自信がある。
もっとも、それはつまり他の者達……具体的には他のA組やB組の生徒、もしくは普通科、経営科、サポート科の生徒をも守るというのは……まぁ、炎獣を使ったり、もしくは量産型Wやコバッタを使ったりすればどうにかなったりするか?
まぁ、別に雄英にいる戦力は俺だけじゃない。
それこそ教師は全員プロヒーローだし、ヒーロー科にもプロヒーローに近い実力を持っている者はいるしな。
「ただ、アクセルが寮生活をするにしても、シャドウミラーを率いる者としての仕事があるから、ホワイトスターに戻ってくる際には許可とかを必要としないで自由に戻ってくる事が出来るようにするという条件があるけど。……どうかしら?」
「……これについては私の判断で決める事は出来ないので、校長の判断を仰ぎたいと思います。ただ、恐らく校長はその要望を受け入れるかと」
さっきから思っていたけど、相澤が相澤らしくない話し方をしている。
いやまぁ、それを言うのなら俺だって今はシャドウミラーを率いるアクセル・アルマーではなく、雄英のヒーロー科A組の生徒としてのアクセル・アルマーなので、相澤の事は笑ったり出来ないけど。
「そう。なら、いいわ。……コーネリアもマリューも構わないわよね?」
相澤の言葉にレモンが他の2人に尋ねると、その2人は当然といった様子で頷く。
「私はそれで問題ないわ」
「実働班としても問題はない」
「……という事よ」
「ありがとうございます」
レモンの言葉に相澤がそう言い、頭を下げる。
少し……本当に少しだけ、意外そうな表情を浮かべているのは、恐らくこうもあっさりと寮生活の許可を貰えるとは思っていなかったのだろう。
正確にはレモンが出した条件、俺が好きにホワイトスターに戻ってこられるという条件が受け入れられる事によって寮生活の許可が出るのだが、相澤の言う通り校長ならレモンが出した条件をあっさりと受け入れるだろう。
そういう意味で、一応校長に判断を仰がなければならないものの、実際にはもう寮生活の件について問題がないというのは決まった訳だ。
「さて、それでは……折角雄英の教師に来て貰ったのだ。アクセルの学校生活について聞かせて貰おうか」
そうコーネリアが嬉しそうな様子で言う。
うん、コーネリアにしてみれば……いや、レモンやマリューもそうだが。
何なら部屋にいつの間にか仕込まれているっぽい盗撮用のカメラ……もとい、防犯カメラで、このやり取りは他の恋人達にも恐らくは見られている筈だ。
場合によっては録画されているかもしれないな。
まぁ、それで別に困るようなことがある分けでもないので、俺にとっては問題ないんだが。
「アクセルですが、A組の中でも最強という扱いになっています」
「……でしょうね」
相澤の言葉に、レモンがチラリとこちらを見て、そう言う。
実際、俺という存在がA組にいるのは……メジャーリーガーやセリエA、あるいはNBAの選手が小学生のスポーツチームにいるようなものだ。
勿論、公安から壁として雇われている以上、全力を出す事によってA組の生徒を立ち上がれない程に叩きのめす……とか、そういう風にはするつもりはない。
だが、それはそれとして壁として立ち塞がる必要がある以上、俺がA組最強の……もっと言えば、1年ヒーロー科最強、更に言えば雄英のヒーロー科最強という立場にいるのはどうしても必要だった。
「他にも、緑谷を含めてクラスの中心人物的な存在ではありますね。……もっとも、男子生徒よりも女子生徒と一緒にいることの方が多いのはどうかと思いますが」
「ふーん」
マリューがそう言いながら意味ありげに俺を見てくる。
当然ながら、レモンやコーネリアも声には出さないものの、意味ありげな様子で俺を見ていた。
とはいえ、今の相澤の言葉にはちょっと待ったと言いたい。
三奈やヤオモモ、葉隠……あとは耳郎ともそれなりに一緒にいる時が多い。
それは間違いないが、だからといって男と一緒にいない分けでもない。
瀬呂だったり、常闇だったり。
後は……まぁ、こっちは一緒にいるというよりも嫉妬されてる感じだが、峰田だったり上鳴だったり。
また、相澤が言っていたように緑谷と一緒にいる事も多いし、爆豪なんかも俺に絡むというか、挑んでくる事が多いので何だかんだと一緒にいる事が多い。
他の面々についても、それなりに一緒にいると思うんだが。
「授業についても、アクセル君は凄い」
そうオールマイトが言うが……あれ? 普段ならアクセル少年と言うと思うんだが。
もっとも、俺について知ってしまった以上は、少年呼ばわりは出来なくなったのかもしれないが。
「ヒーロー科の授業というのは、興味があるわね」
「あら、そう? マリューはそうでも、私はやっぱり普通の学校生活そのものに興味があるけど。……私は普通の学校というのは行った事がないし。コーネリアもそうじゃない?」
「うん? 私は一応学校に通っていた事はあるぞ。……もっとも、普通の学校とは違うが」
そんな会話に、なるほどと頷く。
恐らくレモン、マリュー、コーネリアの3人の中でまともな学校に通った事があるのは、マリューだけだ。
レモンはその育ちというか、生まれ方からして……まぁ、もしかしたらレモンになる前であれば普通に学校に通っていたかもしれないが、今となってはその記憶はないしな。
コーネリアは本人が言ってるように、恐らくは士官学校的な場所になら通っていた事もあるといった感じか?
それと比べると、マリューは大西洋連邦で普通に生まれ育っただけに、学校にも普通に通っていたと思う。
……それでいながら、万能の天才とまではいかないものの、それに近い存在となっているのはどうかと思わないでもなかったが。
そうした話題が暫く続き……
「さて、では私達はこの辺で失礼します。アクセルからホワイトスターの案内をして貰う事になっているので」
「ああ、聞いている。今日の実働班の訓練はエヴァとの生身での模擬戦になっているので、参加するといい」
そろそろ失礼するという相澤の言葉に、コーネリアがそう返す。
そんなコーネリアの言葉を聞いた相澤は、俺に視線を向けてくる。
一体どういう事だ、と。
そう聞きたいのだろう。
まぁ、その気持ちも分からないではない。
相澤が実働班の訓練に参加しないかという話を聞いたのは、今日俺と会ってからだ。
そうである以上、何故もうその話が進んでいるのかと、そのように疑問に思うのは当然の話だった。
「コーネリアは実働班……シャドウミラーの軍のトップなので、前もって話は通しておきました」
「……アクセルがそういう言葉遣いをしていると、違和感があるな」
俺の言葉を聞いたコーネリアがポツリと呟き、それを聞いたレモンとマリューが同意するように頷く。
笑うのを我慢しているその様子は、それ程に俺の言葉遣いが似合わないのだろう。
「今はシャドウミラーの代表としてのアクセル・アルマーじゃなくて、雄英の生徒のアクセル・アルマーだしな」
そう言っておく。
相澤やオールマイトはまだ何か言いたそうな様子ではあったが、実際に口を開く事はなかった。
多分だが、部隊じゃなくて軍隊全てを率いる人物としては若すぎると、そう言いたいのだろう。
まぁ、実際にはコーネリアは時の指輪の効果によって不老になってはいるものの、本当の意味での年齢という事になれば……
ゾクリ、と。
そう考えた瞬間、背筋が冷たくなる。
チラリと視線を感じた方を見てみると、そこには満面の笑みを浮かべているコーネリアの姿がある。
……ただし、満面の笑みを浮かべてはいるものの、目は一切笑っていなかったが。
そんなコーネリアからそっと視線を逸らし、俺は口を開く。
「相澤先生やオールマイトも知ってると思いますけど、シャドウミラーは色々な世界と接触してきました。コーネリアはそんな世界の1つで、大国の皇女だったんですよ。それも一般的に皇女と言われて思い浮かべるようなお淑やかな皇女じゃなくて、軍を率いて活躍する皇女でした。魔女や……閃光という異名で呼ばれるくらいには有能で有名だったんですよ」
「閃光は……」
コーネリアは閃光という言葉に何かを言いたそうにする。
そこには数秒前の笑っていないのに満面の笑みといった矛盾した状態は既にない。
ただ、困ったような、戸惑ったような、そんな感じだった。
……まぁ、その気持ちは分からないではない。
閃光というのはコーネリアが尊敬している……尊敬していた? とにかくそんな感じのルルーシュやナナリーの母親であるマリアンヌの異名だ。
既にコーネリアもマリアンヌがどういう存在だったか……その真実については知っているので、どのように思っているのかはともかくとして、閃光という異名については思うところがあるのだろう。
「そんな訳で、軍の司令官としてコーネリアは文句なく一流……いえ、一流を超えた一流、超一流と呼ぶべき人材なのは間違いありません」
「……アクセルにそのように褒められると、照れるな」
取りあえず閃光の件については気にしない事にしたらしく、そう言ってくる。
「別にお世辞とかそういうのじゃないんだけどな。直近だと、オルフェンズ世界でのギャラルホルンの内乱でもそうだっただろう? もしコーネリアがいなければ、マクギリス達も勝つ事が出来なかっただろうし」
「それを言うのなら、大きな戦いがあれば単機で敵の中枢に飛び込むような事をして、それでも機体にダメージらしいダメージを受けないで、敵に大きな被害を与えるアクセルの方が凄いと思うのだがな」
「俺の場合は、あくまでも個の力だしな。それが突出しているのは自分でも分かる。けど、部隊を……軍隊そのものを手足のように自由に動かすという意味では、間違いなく上だ」
言うなれば、俺はエースではあっても指揮官ではない。
いや、勿論その辺の指揮官よりも上手く部隊を動かせる自信はあるが、だからといってコーネリアに勝てる程かと言われると、それは当然ながら否だ。
逆に、コーネリアは指揮官以外にエースとしても超一流だが、それでも単機での戦いで俺に勝つ事は出来ない。
「……ちょっと待った。待ってくれ。それは俺達が聞いてもいい事なのか? 何だかとんでもない重要機密がしれっと話されている気がするんだが」
俺とコーネリアの会話を聞いていた相澤がそう突っ込む。
先程までは一応外面を取り繕っていたのだが、既にそれも忘れたかのようにそう言ってくる。
相澤にとって、今の俺とコーネリアの会話はそれだけ驚くべき事だったらしい。
そこまでか? と思ったが、ヒロアカ世界の住人であれば当然かとも思う。
既にシャドウミラーと国交を結んでいる世界であれば、俺達が新しい世界でどういう風に活動したとか、そういう情報はそれなりに入手出来る。
だが、生憎とヒロアカ世界はまだ正式に国交を結んだ訳ではないのもあって、シャドウミラーについての大雑把な情報については知らせているものの、具体的に他の世界においてどのような活動をしたのかとか、そういう感じのことは知らない。
そんな中でオルフェンズ世界での一件……それこそ、オルフェンズ世界のこれからを決める為の大きな戦いについての情報を聞いたのだから、相澤がそこまで動揺するのも分からないではない。
「まぁ、シャドウミラーと関わっているとそのうち知る事になるような件なので、そこまで気にしなくてもいいですよ」
「……気にするなと言われて、それで本当に気にしないように出来るとでも?」
ジト目を向けてくる相澤。
まぁ、相澤の立場にしてみれば、その辺りについては気になるのは仕方がないとは思うけど。
とはいえ、だからといって今この状況でそんな事を言われても困るけど。
取りあえず、相澤やオールマイトが知った件については、今日の家庭訪問が終わったら校長にでも報告して、そこから公安にでも知らせて貰えばいいと思う。
「その件はとにかく、実働班の訓練場まで行きましょうか。コーネリアも一緒に行くだろ?」
「頼む」
普通に歩いて……あるいは車を使ったり、もしくは瞬動や虚空瞬動を使ったりして移動するよりも、影のゲートを使って移動した方が早いと知っているコーネリアは、あっさりと俺の言葉に同意する。
……家庭訪問の映像を見ている者達も、今頃急いで移動してるんだろうなと思いつつ、俺はコーネリアの準備が終わるのを待つのだった。