「お、アクセル。久しぶりだな、元気にしてたか?」
雄英に到着して教室に向かうと、そこにはプリントがあった。
そのプリントには地図があり……校舎から徒歩5分程の場所に印がついており、そこに行く。
本来なら相澤が教室で待っていて、全員が来てから案内をしたりするのだろうが、相澤の性格を考えれば効率的な方法としてこのようにしたのだろう。
とはいえ、それはそれでどうかと思わないでもなかったが。
そんな訳で寮の前に行くと、そこに既に何人かの生徒の姿があった。
その中で、尾白がそう声を掛けてきた。
「ああ、久しぶり、尾白とは林間合宿以来か? ……見た感じ、林間合宿が終わった後もしっかりと鍛えていたみたいだな」
ぱっと見だが、尾白の体格が以前よりも幾分かがっしりしているように見える。
「分かるか? ちょっと時間があったから道場で集中的に訓練をつけてもらったんだ」
少し自慢げに身体を動かす。
「あ、アクセルじゃん。遅かったね。……何だ、峰田も一緒か」
「おい?」
尾白と話していると、三奈が俺に気が付いて近付いてきたのだが、俺と一緒に来た峰田を見た瞬間、三奈の視線はジト目……というよりは、氷点下の冷たい視線となる。
普段の三奈なら、それこそ峰田がちょっとしたセクハラをしても多少のお仕置きをしたりはするものの、ここまで露骨に冷たい視線を向けたりはしない。
これは……多分、何かあったんだな。
実際、峰田に視線を向けると、離れた場所で何だか普段とは違ってテンションが低い上鳴の方に向かって走っていったし。
「えっと……何かあったのか?」
林間合宿の騒動と、それが終わってすぐに神野区での戦い。
その辺りから、俺は三奈とは直接会ってなかった。
勿論、直接会ってないだけで、LINを使ったやり取りだったり、メールや電話でのやり取りもそれなりにしていたのだが、ヤオモモや拳藤のように、あるいは見舞いに行った茨のように直接会って何かをしたりとか、そういうことはなかった。
だからこそ、三奈と峰田の様子を見れば明らかに何かあったというのは間違いないので、そう尋ねるのは当然だった。
当然だったのだが……
「アクセル、世の中には知らない方がいい事もあるんだよ」
笑みでもなく、怒りでもなく、そして焦りの類でもなく……全くの無表情で三奈がそう言ってくる。
うん、どうやらこの件については本当に迂闊に尋ねない方がいいみたいだな。
もしこの件について聞いたりしたら、それこそ三奈に一体どういう目に遭わせられるか分からない。
いやまぁ、それはつまり峰田を見捨てる事になるような気がしないでもないんだが。
とはいえ、三奈と峰田のどっちの味方をするかと言われれば、俺は無条件で三奈を選ぶ。
三奈についてはそれだけ信用しているのだから。
……普段の生活態度を見れば、どちらに非があるのかというのは容易に想像出来るし。
「そうか。なら、これ以上は聞かない」
「えー……そこはもう少しこう……」
「あら、おはようございます、アクセルさん。それに三奈さんも」
三奈が何かを言おうとした時、そう声が掛けられる。
それが誰の声なのかは、当然だがすぐに分かった。
「おはよう、ヤオ……モモ……?」
「おはよう」
三奈と俺がそれぞれ声を掛けてきたヤオモモに挨拶をする。
するのだが……
「あれ? 何かこう……アクセルとヤオモモの距離感がいつもと違う?」
「っ!? そっ、そんな事はありませんわ。気のせいです」
さっとヤオモモが俺から距離を取り、三奈に言う。
だが、三奈の言葉はともかく、それをこうして露骨に見せるのは明らかに問題だろう。
実際、今のヤオモモの行動を見て三奈が不思議そうな表情を浮かべているのだから。
ヤオモモとは色々とあったが、それによって知らず知らずのうちに距離感が近くなってしまっていたらしい。
「ふーん……」
じーっと、俺とヤオモモにジト目を向けてくる三奈。
「おっはよう! ねーねー、何をしてるの?」
そんな三奈のジト目を遮る……というのは少し違うが、とにかくそのようなタイミングで葉隠がやってくる。
当然のように今日もまた透明だったが、その動きの派手さ? によって、透明とは思えないような強い自己主張を露わにしていた。
そのような様子に、助かったと思いながら葉隠に挨拶をする。
「おはよう、葉隠。ちょっとこの寮を見て驚いていただけだよ」
あからさまな嘘。
実際、ヤオモモは『え?』といったような表情を浮かべており、三奈の方は『は?』といったような表情を浮かべている。
そんな様子を見れば、それこそ普通なら何かを誤魔化してると……話を逸らしていると、そんな風に思われてもおかしくはないんだが、幸いなことに葉隠は俺の言葉を聞くと、目の前にある寮を見て頷く。
「うんうん、そうだよね。ちょっと聞いたんだけど、寮は全学年、全クラスを合わせても3日で作ったんだって。凄いよねぇ……」
葉隠の言葉に、マジかと思う。
この寮は見るからに立派で、それこそ数ヶ月……場合によっては年単位の時間が必要なくらいの建物には見える。
いやまぁ、寮生活をすると決めた上でこうしてしっかりと出来上がっているのだから、葉隠の言う通りなんだとは思うけど。
もっとも、これもセメントスがいてのものなんだろうな。
発展途上国……後進国では、外見こそ素晴らしい出来上がりに見えるけど、それは表だけ取り繕っているだけというのもあるんだが、当然ながらこれはそういうのではない。
「そうだな。雄英の敷地内にはUSJのように多数の訓練場があるし、そういう意味ではこれくらいの物はそれなりに作れるんだろうとは思う」
とはいえ、寮全体を作る事が出来ても、室内の最低限の作り……例えばエアコンの設置とか、そういうのはしっかりと手作業でやる必要がある。
ましてや、この寮だけではなくB組の寮……それ以外にも雄英に通う全学年分の者達の部屋にエアコンの設置をすると考えると、それだけでどれだけの労力が必要なのかは分かる。
エアコンを設置するのって、確か1台辺り2時間から3時間くらいは掛かっていたと思う。
しかもこの寮は5階建てであることを考えれば、上の階層のエアコンの室外機とかそういうのを設置するにはもっと時間が掛かるだろう。
それを雄英の全生徒分と考えただけで、一体どれだけの人数が必要なのか、想像も出来ない。
単純に電気屋を大量に雇ったのか、あるいは電気屋の中に何か仕事が早くなる個性の持ち主がいたりするのか。
その辺りは俺にもちょっと分からない。
……ともあれ、こうして寮が完成したのは間違いない。
「ハイツアライアンス……か」
いつの間にかやってきた轟が、寮を見てそう呟く。
それはハイツアライアンスというのは、この寮の名称だ。
具体的にどういう意味なのかは、ちょっと分からないが。
まぁ、マンションやアパートにはそういう……ちょっと気取った名称が付いているのが普通なので、そういう意味では寮の名前を特に気にする必要はない。
そうして話していると、次第にまだ来ていなかった者達も集まり……最後に相澤が到着する。
生徒達も慣れたもので、相澤がくると急に静かになる。
「取りあえず、1年A組……また全員無事で集まれて何よりだ」
そう言う相澤の言葉は、決して大袈裟なものではないだろう。
実際、林間合宿から始まった一連の事態は、何か少しでも間違えばここにいる何人かは死んでいた可能性があるのだから。
あるいは死ななくても、怪我をしてもう学校に通えなくなったり、あるいは爆豪の場合はヴィラン連合に連れ去られたまま、戻ってくるといった事も出来なかった可能性がある。
だからこそ、今のこの状況においては相澤の言葉は強い実感が込められていた。
もっとも、生徒側……特に神野区に関係していなかった者達は相澤がそこまで考えているとは思ってもおらず、気楽ではあったが。
そして神野区に関わった者達は、AFOを自分の目で直接見ているだけに色々と思うところがあり、それがクラスの中に微妙な雰囲気の差を生んでいた。
そう考えている間に、梅雨ちゃんが相澤も無事にここにいるのが嬉しいといったような事をいい、相澤は微妙に照れた様子を見せている。
「さて、これから寮について説明するが……その前に1つ言っておく事がある」
そんな相澤の言葉に、俺を含めた生徒達は改めて相澤に視線を向ける。
「当面は仮免習得に向けて動いていく」
ざわり、と。
相澤のその言葉を聞いた他の生徒達がざわめく。
これについては、他の面々にしても色々と思うところがあったのだろう。
……もっとも、林間合宿の目的は、元々この仮免試験に挑戦する為のものだったのだから、その合宿が途中で終わってしまった以上、雄英側としてもその遅れを取り戻すべく動く必要があるといったところか。
つまり、学校での授業はより厳しくなる訳だ。
俺にしてみればそこまで気にはならないが、普通の生徒である他の面々はかなり厳しいだろう。
それこそ、もしかしたら2学期は放課後にやっていた自主訓練が出来なくなるかもしれないくらいには、忙しくなる可能性があった。
それを想像した何人かが、ぞっとした表情を浮かべている。
プロヒーローになる為なんだから、頑張って貰うしかないな。
そんな風に思っていると、不意にざわめいている生徒達の様子を見ていた相澤の雰囲気が変わる。
「轟、切島、緑谷、八百万、飯田。この5人はあの晩あの場所へ、爆豪を救出する為に向かった」
そう言う相澤の言葉に対する反応は2つ。
え? と、一体何を言ってるんだ? といった疑問の表情を浮かべる者達と、沈痛な表情を浮かべている者達といったように。
もっとも、より正確にはそれにプラスして実際に相澤が口にしたあの場所……神野区でヤオモモ達を助けた俺という反応もあるので、実際には反応は3種類なのだが。
「その様子だと、緑谷達の行動について知っていた者達もいたようだな。色々と棚上げした上で言わせて貰うよ。正直なところ、俺は爆豪、耳郎、葉隠……他に緑谷達の行動について知っていたのに止めずにそのままにした者達は全員除籍にした方がいいと思っている」
しん、と。
相澤のその言葉に、全員が静まり返る。
特に名指しされた緑谷なんかは、表情が引き攣っていた。
……ちなみに除籍しないメンバーの中に俺の名前がなかったんだが、その辺りはどうなってるんだろうな?
勿論、俺の場合は色々と特別だったり、何なら神野区の戦いに思いきり参戦していたし。
まぁ、俺の場合は緑谷達のように無断で神野区に向かった訳ではなく、戦力として要望があって、それでこうして参加した訳なんだが。
「神野区の一件があり、ヴィラン連合にも全員逃げられた。それによって、暫く混乱が続くだろう」
そう言いながら、相澤は俺に一瞬だったが、間違いなく視線を向けてくる。
……あれ? これ、もしかし緑谷達が除籍にならなかったのって、俺が関係していたりするのか?
俺の行動によって……あるいはシャドウミラーの介入によって、緑谷達を除籍するのは不味いと判断したのか。
実際、俺にとっても緑谷が……原作主人公が除籍になるというのは、非常に困る。
いや、勿論原作でも一時的に除籍され、その後で何らかの理由によって復帰する……といったような事になっている可能性も高いから、必ずしも絶対に反対といった訳でもない。
もっとも、メタ的な読みだが、原作の流れ的にそういう風になるとはちょっと思えない。
あるいはこれで、緑谷がプロヒーローではなく、ダークヒーロー……いや、この場合はヴィジランテか? とにかくそういう感じになるのなら、まだ話は分からないでもないんだが。……ないよな?
「神野区に行った者達、知りながらもそれを止めなかった者達。理由はどうあれ。俺達の信頼を裏切った事に変わりはない。正規の手続きを踏み、正規の活躍をして俺達に信頼を取り戻してくれると嬉しい」
そんな相澤の言葉に、緑谷を含めて他の面々……特に緑谷達の行動を知っていた者達も、沈んだ表情を浮かべる。
まぁ、普通なら除籍だと、そう言われたのだから無理もない。
それに……実際に神野区に行った5人は、これ以上ないくらいに絞られているだろうし。
実際、ヤオモモからはそういう風に聞いてはいる。
もっとも、ヤオモモの場合は八百万家という名家の出なので、余計に心配だったのだろうが。
ただし、そうして叱られた翌日には俺に会いに来ていたが。
そう考えると、叱られてもそこまで堪えてなかった……いや、ヤオモモの性格を考えると、違うな。
そのような状態であっても、俺に聞きたい事がある……神野区で自分を助けたのが俺ではないかと、それを知りたかったのだろう。
まぁ、その時は誤魔化す事には成功したものの、その後で起きた壊理の件により、結局拳藤も含めて知られてしまったのだが。