「それなりの人数になったな」
「そうだね。お好み焼き、私好きなんだ」
俺の言葉に、葉隠が嬉しそうに言う。
個性によってその外見は分からないものの、それでも言葉の様子からすると俺が感じたように嬉しそうなのは間違いない。
お好み焼きを食べに行く面子は、俺と上鳴、葉隠以外だと出席番号順に青山、三奈、梅雨ちゃん、尾白、障子、耳郎、瀬呂、峰田の合計11人になった。
来なかった他の面子は、部屋の片付けが終わる様子がない面々だったり、あるいは大勢で食事をするのが嫌だったり、もしくはお好み焼きが嫌いだったり。
いやまぁ、お好み焼きを嫌いって人はあまり見た事がないけど……ただ、それでもやっぱり嫌いだという者がいてもおかしくはない。
人によっては、何でこの料理や食材が嫌いなの? といったような者もいたりするし。
また、小麦粉アレルギーや卵アレルギーといった者達であれば、嫌い以前にお好み焼きが食べられないだろう。
もっとも、そういう多くの料理に使われている食材にアレルギーがあれば、担任の相澤が前もって言ったりするだろうし、林間合宿で食事の準備をした時、言っている筈だ。
だが、そういうのがなかったので、その辺りのアレルギーの持ち主は多分いないと思う。
「アクセル、ありがとう……」
「いや、涙を流して喜ばれても」
いつもは俺に嫉妬の視線を向けたり、血の涙を流して攻撃したりしてくる峰田だったが、今は俺に感謝していた。
峰田にしてみれば、三奈、葉隠、梅雨ちゃん、耳郎といった女達と食事が出来るのはそれだけ嬉しいのだろう。
1学期に何かの拍子で話をした時、食べ物や飲み物を飲み込む時の喉の動きがぐっとくるとか何とか、そんな風に言っていたしな。
……それを聞いた梅雨ちゃんに困った視線を向けられていたりもしたが。
他の面々……三奈や葉隠、耳郎と違い、梅雨ちゃんは峰田のセクハラに比較的寛容だ。
勿論、やりすぎれば舌の一撃が放たれたりする事もあるから、無条件に寛容って訳ではないが。
ただ、それでも他の面々と比べると寛容なのは間違いなかった。
なので、喉の動きが云々というのを梅雨ちゃんに聞かれた時も、責めたりお仕置きをするんじゃなくて、困った表情を浮かべていただけな訳だ。
俺が聞いた話によると、梅雨ちゃんには弟が何人かいて、小さい頃からその面倒を見る事が多かったらしい。
だからこそ、梅雨ちゃんにとって峰田は……その背の小ささも影響してか、弟のように思われているのかもしれないな。
……それを峰田が望んでいるかどうかは、また別の話だが。
「じゃあ、行くか。丁度昼時だし、早くいかないと席が埋まってしまう」
そう言うと他の面々も異論がないのか、早速お好み焼きを食べに向かうのだった。
「予想外に空いていたな」
瀬呂の言葉に、全員が頷く。
「やっぱり夏休みだからじゃないかな」
そう言うのは青山だが……なるほど、言われてみればそうか。
このお好み焼き屋は、あくまでも雄英の最寄り駅の近くにある店だ。
当然、客は雄英の生徒が多くなる。
勿論、雄英の生徒以外にも客はいるだろうが。
それでも1学期に何度か自主訓練が終わった後でこのお好み焼き屋に来た事があったが、その時は雄英の生徒達が多かった印象がある。
だが、夏休みの今、生徒達が雄英に来る事は……全くない訳ではないだろうが、それでもかなり少ない。
であれば、このお好み焼き屋に来る雄英の生徒が少なくなるのは当然だろう。
もっとも、見た感じでは雄英の生徒以外の客も幾らかいるので、決して流行っていないって訳ではないだろうけど。
「でも、今日は俺達以外にも寮に入った生徒はいるだろ? それっぽい人達は何人か見たし。なら、俺達と同じくここに食べに来る生徒がいてもいいんじゃないか?」
「上鳴の言う事は分かる。けど、引っ越しの最中で荷物の片付けがまだ終わっていないとか、そういう生徒も多いんだろ」
そう言うと、何人かがそっと視線を逸らす。
恐らくはこうして昼食を食べに来たものの、引っ越しの方はまだ終わっていないだろう。
いや、別にそれはそこまで珍しい事ではない。
寧ろ俺のように、空間倉庫を使った結果、午前中だけで引っ越しが終わってしまったのが、例外なんだろうし。
「まぁ、ほら、アクセル。腹が減っては何とやらって言うでしょう? なら、ここでしっかりとお腹を満たして、それから引っ越しの続きをすればいいでしょ」
三奈の言葉に、何人もが頷く。
まぁ、別に俺もこうして昼食を食べに来たのを責めるつもりはない。
実際、三奈の言ってるように腹が減ってるのに無理をして仕事を進めた結果、大きな失敗をする可能性もある。
あるいはこうして移動時間とかも勿体ないとして、カップラーメンか何かで食事をしようしたところ、間違って引っ越しの荷物にラーメンのスープを……なんて事にもなりかねないのだから。
そんな諸々について考えれば、やはりこうしてしっかりと別の場所で食事をするというのは悪くないと思う。
「いらっしゃいませ、席にどうぞ」
俺達を見つけ、従業員がそう声を掛けてくる。
人数が人数なので、カウンターではなく座席に座る。
座席にも当然中央には鉄板が設置されている。
自分で焼くか、あるいは店員に焼いて貰うかは注文する時に選ぶ事が出来る。
自分で焼くからこそ美味いと主張する者もいれば、自分で焼くよりもプロに焼いて貰った方が失敗せずに美味いお好み焼きを食べられるといった風に考える者もいるが、俺は後者で焼いて貰った方がいいと思うタイプだな。
あるいはこれで、俺のお好み焼きを焼く技術がプロ級……あるいはそれ以上のものであれば、自分で焼いてもいいかもしれないが、俺は別にプロじゃないしな。
例えば、市販のお好み焼き粉があれば、その通りに作ってフライパンで引っ繰り返そうとしても、10回に1回くらいは失敗する……かもしれない、そんな腕だ。
だからこそ、俺としては自分で焼くじゃなくて、プロに焼いて貰いたい。
「豚玉、イカ玉、エビ玉、海鮮スペシャル、焼きそば……こんなところか。後はウーロン茶だな」
そう注文すると、店員が驚きの表情を浮かべる。
まさか1人でこんなに注文するとは思っていなかったのだろう。
とはいえ、一緒に食べに来ている者達はそこまで驚いている様子はなかったが。
まぁ、A組の面々は1学期の放課後に行われていた自主訓練に参加していた者が多い。
そして自主訓練の帰りには、このお好み焼き屋に限らず色々な店で買い食いをするのが普通だった。
雄英に入学した初日に、相澤が放課後にハンバーガーを食べて友達と話すとかは出来ないとか、そんな風に言っていたが……普通に毎日そういう日々だったんだよな。
もし相澤がその辺りについて知ったら、どう思うのやら。
……いや、A組の生徒の行動くらい、相澤は知っていてもおかしくはない。
ただ、それでも何も言わなかったのは、自分の言葉を無視されたのが気に食わなかったからか。
もしくは、何かもっと他に理由があったのかもしれないな。
ただ、普段はそれなりに話し掛けてくる青山は、あまり放課後の自主訓練に参加はしてなかった。
そういう意味では、俺の注文に驚きの表情を浮かべているのは分からないでもない。
「や……やっぱり、増強系だと、お腹が減るのかな?」
「そうだな。俺の個性の関係もあるかもしれない」
実際には個性とは何も関係ない。
そもそも俺は何らかの料理を食べたとしても、その料理は胃の中に入るとすぐに分解されて魔力となり、俺の身体に吸収されるのだから。
そういう意味では、幾ら食べても腹一杯で苦しくなるとか、そういう事はない訳だ。
もっとも、混沌精霊についてここで話す訳にはいかないのも事実なので、その辺りについては適当に誤魔化す必要があるのだが。
なので、取りあえず混沌精霊という個性のせいにしておく。
……まぁ、混沌精霊になったお陰でそういう体質になったのだから、必ずしも嘘という訳ではないのだが。
ともあれ、俺の言葉に青山も納得し、イカ玉とコーラを注文していた。
他の面々もそうしてそれぞれに注文していくが……俺以外だと、障子が3人分くらい注文していたな。
まぁ、障子の身体は大きいし、そう考えれば食べる量も多くなってもおかしくはない。
それはつまり、峰田のように小さければ食べる量もそれ程多くはないという事になる。
とはいえ、峰田も普通に1人前、豚玉を注文していたが。
ちょっと珍しいところでは、尾白がモダン焼きを注文していた。
モダン焼きは、中華麺を使うという意味では広島焼きと同じだが、実際には生地と生地の間に挟むという作りで、広島焼きとは色々と違う。
……ちょっと前にヒロアカ世界の動画投稿サイトで家でモダン焼きを作るというのがあったんだが、それでは中華麺ではなくカップ焼きそばを使っていた。
何だかなと最終的には成功したのだが、モダン焼きを食べるのに箸は向いておらず、お好み焼き用のヘラがないと麺を切れず食べにくいという結論になっていたな。
まぁ、この店なら普通にヘラがあるので、モダン焼きであっても食べられるとは思うけど。
「それで、部屋の片付けはどうなってる? 俺はまだもうちょっと……いや、もっと掛かりそうなんだよな」
全員の注文が終わると、最初にそう口を開いたのは瀬呂。
その言葉からすると、瀬呂の部屋の片付けはまだそれなりに時間が掛かるらしい。
……まぁ、ヤオモモとかはこれから本格的に部屋の片付けをする事になるから、そんなヤオモモよりは楽だと思うけど。
ただ、ヤオモモの場合は必要な物は個性の創造を使って作ればいいのでは? とも思う。
そもそもの話、ヤオモモの創造は作った物が時間経過でなくなったりはしない。
普通に永続的にそこには存在している訳で。
そう考えると、ここでわざわざ荷物を運ぶ必要があるのか? と思わないでもない。
もっとも、創造を使うには脂質を消費するので、それを避ける意味でも荷物を持ってきたのかもしれないが。
「で、アクセルは?」
「ん?」
俺がヤオモモについて考えていると、どうやらその間に話が進んでいたらしい。
「だから、部屋の片付けだよ、どの辺まで進んでる?」
俺の様子にそう瀬呂が言ってくる。
なるほど、その辺りについて聞きたかった訳か。
「俺はもう終わった」
『え?』
俺の口から出た言葉に、障子以外の全員がそんな声を出す。
あれ? ここで障子が声を出さなかったって事は、もしかしたら障子ももう部屋の片付けが終わっているのか?
まぁ、障子の個性は異形系で身体能力も高い。
腕を増やすといった事も出来るので、引っ越しとかは得意なのかもしれないな。
「マジかよ。本当にもう終わったのか?」
「ああ。だから俺はさっき1階に下りてきていた訳だし」
そう言うと、障子以外が唖然とした表情をこちらに向けてくる。
「障子は驚いてないけど、そっちももう終わったのか?」
「ああ。俺は荷物が少ないからな」
障子の言葉に他の面々が驚きつつもん、納得したような……そんな表情を浮かべる。
それにしても荷物が少ないか。
そういえば、何かで見た事があるな。
最小限の家具とかだけで生活するという……ミニマムリスト? ミニマリスト? そんな感じの者達。
どうやら障子がそれらしい。
「うわぁ……羨ましい。ねぇ、ねぇ、アクセル君。私の引っ越しの準備、手伝ってくれない?」
葉隠が自分の意見を主張するかのように、いつもより激しく腕を上下させてそう主張してくるが……
「いや、さすがにそれは不味いだろ」
そう言う。
葉隠の部屋の片付けを手伝うとなると、当然ながら俺が葉隠の部屋に……女子寮に行かなければならない訳で、それは明らかに問題だろう。
「じゃあ、俺が手伝おうか? 俺のモギモギがあれば、掃除とかも楽だぜ」
「峰田君だと、変な事をしそうだから、いらなーい」
「ぐぅ……アクセル……」
「いや、そこで俺を睨まれても」
葉隠にしてみれば……というか、峰田の性格を少しでも知っている女なら、峰田に引っ越しの準備を手伝って欲しいとは思わないだろう。
特に下着の類が盗まれないように警戒しないと……ん? あれ? それだと葉隠は俺になら下着とかを見せてもいいと? ……うん、この辺について考えるのは止めておこう。
「普段の行いでしょ。ウチだって峰田に手伝って貰うくらいなら、アクセルに手伝って貰いたいし。……あ、言っておくけど今のは例えだからね」
ヒュンヒュンと、イヤホンが警戒するように空中を動く。
俺に出来るのは、そんな耳郎の言葉に分かったと頷くだけだった。
何しろ、耳郎は下手に怒らせると耳郎さんになってしまう。
そうなると……うん、ちょっと手に負えないしな。
そういう意味でも、ここはやはりしっかりと俺に疚しい考えはないと、そう言う必要がある。
幸いなことに、耳郎が耳郎さんになることもなく話をしてると……やがて、お好み焼きが届くのだった。