周囲の注目をこれでもかと集めるミッドナイトをそのままには出来ず、ましてや普通に服屋に連れていく事も難しい。
そんな訳で、俺は影のゲートを使って交流区画にある服屋まで転移する。
「え? アクセル……代表?」
影からいきなり姿を現した俺を見て、店員……あるいは店主かもしれないが、とにかく店にいた女が驚きの声を上げる。
疑問系だったのは、恐らくこの女が知っている俺の姿は20代で、今の10代半ばの俺の姿を見てもしっかりとアクセルだとは認識出来なかったのだろう。
どこの世界の女なのは分からないが、今はその辺りについては気にする必要はない。
「ミッドナイト……この女に適当な服装を見繕ってくれ」
「え? ……えっと……はい、分かりました」
「ちょっと、アクセル? 私、服を買えるようなお金は持ってきていないわよ?」
店員……いや、他に店員がいないのを見れば、店員じゃなくて店主か。
その店主が俺の要望に従ってミッドナイトを連れて行こうとするものの、そのミッドナイトは俺に向かって金がないと言ってくる。
いやまぁ、もし金があったとしてもヒロアカ世界の金をホワイトスターで使うというのは、そもそも無理だとは思うけどな。
その辺は正式に国交を樹立し、為替とかその辺についての話し合いもきちんとされてからの事だ。
「安心しろ、このくらいは俺が奢るから」
「でも、生徒に……」
まだ何かを言おうとするミッドナイト。
いや、何を言いたいのかは分かるけどな。
ミッドナイトは18禁ヒーローという存在ではあるが、それでも立派な教師だ。
それだけに、生徒から奢られるというのは後ろめたいのだろう。
あるいはこれが、ジュース1本とかそういうのであればまた話は違ったかもしれないが、ミッドナイトの場合は服だ。
当然ながら服というのは相応の値段がする。
いや、勿論安い服とかもあるが、この店は以前美砂やミナトから聞いた、品質の良い服を取り扱っている店で、当然ながら値段もそれなりになるような、そんな店だ。
ミッドナイトはその辺の事情については分からないだろうが、それでも店にある服を見れば、それなりの値段がするというのは予想出来たのだろう。
だからこそ、素直に俺に奢られるのは……と、抵抗している訳だ。
「心配するな。ミッドナイトには納得出来ないかもしれないけど、今はとにかく大人しく服を選ばれてくれ。その服装だと……ちょっと色々と面倒な事になりかねないしな」
ホワイトスターに来ている者達は、それぞれの世界で問題ないと判断された者達だ。
であれば、ヒーローコスチュームに身を包んだミッドナイトを見たり、あるいはナンパをしようとするくらいはするかもしれないが、ミッドナイトが断ればしつこくしないですぐに諦めるだろう。
何しろ、ホワイトスターで問題を起こした場合、それはつまり個人ではなくその人物が所属している世界そのものの問題となり、最悪……本当に最悪の場合、ゲートを撤去してその世界との関わりを一切絶つとか、そういう事にもなりかねない。
だからこそ、しつこくナンパをして問題を起こすような者はいない。
……いやまぁ、シャドウミラーと交渉している国なり組織なりと敵対している相手がいて、その相手がシャドウミラーをどうにかしたいと思ってスパイを潜り込ませ……といった可能性もあるので、絶対にホワイトスターで問題を起こさないとは限らないが。
「……分かったわ」
ミッドナイトは渋々ではあったが俺の言葉に頷き、店員と共に奥に……試着室のある方に向かう。
そんな様子を見送ると、特にやることがなくなったので店の中を見る。
改めてこうして見れば、店員はさっきの店長しかいないものの、客はそれなりにいるな。
もう1人くらいは店員がいた方がいいような。
そう思うも、それはあくまでも俺がそう思っているだけで、この店の店長に俺がどうこう言っても意味はない……どころか、余計な干渉だと思われるだろう。
いやまぁ、俺はシャドウミラーの代表である以上、実際には店長が不満を口にするとは限らなかったが。
そうして5分……10分……20分……30分程が経過したところで、ようやくミッドナイトが姿を現す。
「えっと……その……どうかしら?」
照れ臭い様子で、ミッドナイトが聞いてくる。
それこそ普段のミッドナイトを知っている者であれば、これがあのミッドナイト? と思うくらいにはらしくない仕草や雰囲気だ。
いやまぁ、うん。それも分からないではないけどな。
何しろ今のミッドナイトは、ヒーローコスチュームの時のような身体のラインを強調するようなものではなく、清楚系と呼べばいいのか? そういう無垢なお嬢様が着るような、そんなワンピースを身につけていたのだから。
普段のミッドナイトとは全く方向性の違う外見。それは間違いないが……
「うん、似合ってると思うぞ」
「……そう? 本当に?」
照れ臭い様子のミッドナイトは、本当に自分が清楚なワンピース姿が似合っているとは、思わないらしい。
俺にしてみれば普通に似合ってると思うのだが。
「ああ、本当だ。……そもそも、この店の店主が選んだ服だろう? なら、わざわざ似合わない服を用意するとか、そういう事をするとは思わないだろ」
店主の意地が悪ければ、意図的に似合わない服を着せて嘲笑う……そんな事をしてもおかしくはないものの、まさかホワイトスターに店を構えている店主がそんな事をする筈もない。
実際、こうして見た限りでは間違いなくその服装は似合っているのだから。
「……ありがとう」
ようやく俺の言葉を信じたのか、それともここでこれ以上何かを言っても意味がないと判断したのか、とにかくミッドナイトも素直に店長が選んだワンピースを着るつもりになったらしい。
その後、支払いをして俺はミッドナイトと共に店を出る。
……店長はともかく、客は俺やミッドナイトに色々と視線を向けてきてはいたが、それは俺がアクセル・アルマーであるというのを知っているからだったんだろうな。
そんな風に思いながら、道を歩く。
「ほら、ミッドナイト。自分の服装だけじゃなくて、周囲も見てみろよ。ホワイトスターの交流区画……色々な世界の連中が集まってる場所だぞ」
俺や服屋の店長に褒められても、やはり着慣れない服ということで、ミッドナイトにとっては色々と思うところがあるのだろう。
それでもこうしてホワイトスターの交流区画である場所について話すと、そこでようやく興味を持ったらしく、ミッドナイトも周囲の状況を確認する。
「わぁ……」
そんな声を上げるものの……実際のところ、この交流区画はそこまで驚くような規模でもないんだよな。
ヒロアカ世界もそうだが、他の世界においてもここよりも栄えている場所はそれなりにあるし。
もっとも、量産型Wやコバッタ、それにエルフが歩いていたり、服装からして理解出来ない物を着ている者がいたり、虚空瞬動で逃げている者が……
「ん?」
今の光景に上を見ると、そこでは技術班の何人かが虚空瞬動を使って空中を走っていた。
それを追うエキドナと茶々丸。
「えっと……アクセル、あれは一体何なのかしら?」
「何かと言われれば、虚空瞬動で逃げている技術班の者達だな。……多分、また何か馬鹿な騒動でも起こしたんだと思うけど」
セシルがいないのを考えると、馬鹿な騒動を起こしたのは間違いないものの、そこまで大きな騒動という訳でもないのだろう。
「虚空瞬動って、アクセルも使える、その……空中を蹴って移動出来る技術よね? 個性とかじゃなくて」
「そうだな。だから、技術班の連中もああやって使ってるんだし」
一応……瞬動もそうだが、虚空瞬動もかなりの高等技術ではあるんだけどな。
実際にヒロアカ世界においても、俺が瞬動や虚空瞬動は個性ではないと明言している事もあり、多くの者達がそれを試そうしているのを知っている。
もっとも、虚空瞬動を使うには魔力や気を扱えるようにならなければならないので、そういう意味では簡単ではない。
まぁ、それはこれまでの話で、ホワイトスターと正式に国交を結べば雄英の教師や公安に認められたプロヒーローとかがホワイトスターに来るので、そこで上手い具合に交渉出来れば、魔力や気……それこそ場合によては魔法を使えるようになったりするかもしれない。
「そんなに簡単に使えるようになるの?」
「素質次第だな。ただ、誰でも……それこそヒロアカ世界だと無個性であっても虚空瞬動とかそういうのは普通に使えるようになると思う。勿論、訓練とかは必須だけどな」
訓練をしなければ、当然ながら虚空瞬動とかは習得出来ない。
……あるいは本当の天才とかそういう人物がいたら、もしかしたら訓練も特にせず、話を聞いただけで虚空瞬動を使えるようになったりするかもしれないが。
とはいえ、そんな事が出来るのはホントに天才と呼ばれるような者達だけで、普通ならとてもではないがそういう事は出来ないのだが。
「それは……興味深いわね」
しみじみとミッドナイトが呟く。
……いや、そうか。
ミッドナイトの個性は体臭で相手を眠らせるといった個性だ。
かなり強力な個性ではあもるものの、直接的な攻撃力として考えれば、どうしてもそちら系の個性には劣る。
もっとも、だからといってミッドナイトに直接的な攻撃力がないのかと言えば、それは否だ。
個性ではないが、ミッドナイトはその外見に相応しい鞭の使い手としても有名で、その鞭捌きは下手な個性よりも強力な……あるいは凶悪な攻撃力を持っている。
そういう意味では、瞬動や虚空瞬動を使って生身での戦闘能力を上げるというのは、悪くはない話だろう。
「シャドウミラーとヒロアカ世界が公式に国交を結んで、自由に行き来出来るようになったら、そういうののコーチを頼んでみるのもいいかもしれないな」
もっとも、瞬動や虚空瞬動の本場とも言うべき世界はネギま世界だ。
魔法もそれは同様だろう。
そしてネギま世界からホワイトスターに来る者達は……決して少ない訳でもないが、多い訳でもない。
そんな中で瞬動や虚空瞬動を使え、それを人に教える事が出来る相手を見つけるというのは……それなりに難しいと思う。
他に考えられるのは、いっそネギま世界に行ってそこで瞬動や虚空瞬動を、場合によっては魔法とか神鳴流とか、そういうのを教えて貰うといった手段もあるとは思う。
ただ、当然ながらそうなると何らかの代価が必要になるし、ホワイトスターに来る事が出来るような相手ではない……単純にその伝手がないだけなのかもしれないが、とにかく最悪の場合騙されるといった事も考える必要がある。
ましてや、ミッドナイトのような美人が相手となると、上手く騙してその肢体を味わおうと考える者もいるかもしれないし、あるいはきちんと瞬動や虚空瞬動を教えるにしろ、その代価として抱かせろとか、そういう風に言ってくる者がいておかしくはない。
「なるほど。そうなると、校長にはもっと頑張って貰う必要があるわね」
「……あまりやりすぎないようにな」
校長は元々身体が小さいので、決して体力がある訳でもない。
だが、林間合宿の一件からずっと働きづめだ。
そうなると、最悪校長が倒れる……なんて事にもなりかねない訳で。
ぶっちゃけ、今校長に倒れられると、俺達にとっても決して好ましくはないんだよな。
いや、それは俺達だけではなく、ヒロアカ世界……公安側でも同じだと思う。
そんな訳で、あまり校長には無理をして欲しくない。
……いっそ、木乃香辺りを送ってみるか?
そうも思ったが、桜咲に狙われそうなので止めておく。
「ええ、勿論その辺りは十分に理解してりいるわ。……ただ、シャドウミラーという存在を知れば、出来るだけ早く国交を結んだ方が雄英にも、そして日本、いえ世界全体であっても有益だと思うのよ」
「まぁ、それは否定しない」
シャドウミラーは、色々な意味で特殊な……特殊すぎる存在だしな。
だからこそ、一度関わるとそれを逃すといった選択は出来ない。
「だから、校長には今は頑張って貰わないと……」
「いや、この場合頑張るのは本来なら公安なんじゃないか? もしくは、日本の政治家とか」
公安が今もまだ上に……日本政府に事情について説明していないのは、俺にとっても素直に疑問だ。
とはいえ、それでも……いや、だからこそと言うべきか、校長に無理をさせないようにするのなら、公安や政治家に頑張って貰った方がいい。
もっとも、政治家の中には普通にAFOと繋がっている相手とかいそうだしな。
AFOがタルタロスに入った今でも、AFOを裏切るといった事は考えられないのかもしれないな。
タルタロスにいても、AFOなら何とかして出そうだし。
これでシャドウミラーに引き渡すようなことがあれば、本当の意味で心配はなくなるのだが……まず無理だろうしな。
そんな風に思いつつ、俺はミッドナイトとホワイトスターの交流区画を歩くのだった。