「うわ……凄いわね、これ。本当にこの、オークというの? こういうのがいたの?」
清楚なワンピース姿のミッドナイトが、目の前にあるオークの剥製を見て俺にそう聞いてくる。
現在俺達がいるのは、ホワイトスターにある博物館だ。
特に門世界の生き物……それこそファンタジー世界に存在するような空想の生き物の剥製とか骨格標本とか、そういうのがある博物館。
最初はもっと他の場所……それこそ魔力泉のスパとか、ワイバーンのいる牧場とか、もしくはエルフのいる公園とかに行こうかと思っていたんだが、ミッドナイトの希望がこの博物館だったのだ。
エルフのいる公園については、最後の最後まで迷っていたようだったが……それでも最終的にはこの博物館を選んだ。
まぁ、この博物館はメインが門世界の生き物だが、それ以外にも他の世界に存在する生き物の標本とかそういうのがあるし、今までシャドウミラーがどのような世界に行ってきたのかを見る為には、悪くない選択肢ではあるのだろう。
「ああ、オークだ。向こうは……ほら、オーガの標本もあるぞ」
オークで驚くミッドナイトに、離れた場所にあるオーガの標本を見せる。
オーガは4……いや、5mくらいで、大きさとしてはKMFと大体同じくらいか?
オーラバトラーは8m弱くらいなので、オーガと比べるとかなりの大きさがある。
「大きいわね。……ちなみにオーガはともかく、オークというのは、やっぱりあれなの? 女を狙って種族を増やすとか?」
「は?」
一瞬、ミッドナイトが何を言ってるのか分からなかったが、すぐにその言葉の意味を理解する。
つまり、いわゆるエロ系の意味でのオークについて言ってるのだろうと。
ミッドナイトの性格を考えると、これはちょっと……いや、かなり予想外だった。
いやまぁ、18禁ヒーローである事を考えれば、そっち系の知識があってもおかしくはないと思うけど。
「いや……どうだろうな。取りあえず俺がこのオーク達と戦った時は、特にそういうのはなかったと思う」
「そう」
おい、何で少し残念そうなんだ?
そう思ったが、その辺について突っ込んだりしたら、それはそれで面倒な事になりそうだったので、止めておく。
「ほら、それよりもオーガだ。後は……真龍と呼ばれている、ドラゴンの上位種だったか? 何かそんな感じの骨格標本とかもあるぞ」
出来ればそういう珍しい、レアなモンスター程、剥製にしたかったんだが、それは無理だったんだよな。
「色々と興味深い物が多いわね。……もう少しゆっくりと見てもいい?」
真剣な表情でミッドナイトがそう言ってくる。
どうやら本気でこの博物館に興味を持ったらしいが……
「まぁ、構わないけど……言っておくが、あまり時間はないぞ? 夕食前には俺も寮に戻らないといけないし」
俺がミッドナイトとこうしてホワイトスターにいるのは、寮の引っ越しが既に終わっているからだ。
空間倉庫を使った引っ越しは、それこそとんでもなく楽だった。
それにプラスし、混沌精霊としての身体能力も思えば、かなり楽なのは間違いない。
だからこそ、俺にはかなり時間的な余裕があり、散歩のついでに遭遇したミッドナイトをホワイトスターに誘った訳だ。
であれば、当然ながら遅くまでこの博物館にいる訳にはいかない。
ミッドナイトがこの博物館に強い興味を抱いているのは分かるものの、だからといってずっとここにいれば、それ以外の場所に行く時間的な余裕はないのだ。
「分かってるわ、他の場所にも興味はあるけど、アクセルが言うように今日はあまり時間がないもの。だとすれば、今日は他の場所には行かず、この博物館にいるだけでいいんじゃないかと思って。……アクセルはどう思う?」
「どう思うと言われてもな。今日ミッドナイトを連れてきたのは、ミッドナイトに少しでもホワイトスターについて知って欲しいからだ。そのミッドナイトがこの博物館だけでいいと言うのなら、俺も特に異論はないな」
「ありがとう。……異世界のホワイトスターの、更に異世界……それも物語に出てくるモンスターの存在する異世界……興味深いわ」
そう言いながら、ミッドナイトはオークやオーガ、真龍の剥製や骨格標本を見て行く。
それ以外にも色々と見るべきものはあり、本当に興味深く……それこそ、自分が楽しむ為に、しっかりとい博物館を見て回る。
「ねぇ、アクセル。この剣と魔法の世界には、私も行く事が出来るのかしら?」
ある程度見て回り、多少は落ち着いたところでミッドナイトがそう聞いてくる。
ミッドナイトにしてみれば、異世界は異世界でも本当に異世界らしい世界に興味があるのだろう。
勿論、ネギま世界とかペルソナ世界とか、それ以外の世界も異世界であるのは間違いない。
だが、それが異世界であるのは間違いないが、大雑把に見ればヒロアカ世界と変わりはない。
勿論細かいところは色々と違うし、ヒロアカ世界のように個性という名の特殊能力があったり、魔力や気があったり、ペルソナがあったりはするものの、それだけだ。
……いや、ネギま世界の魔法界なら、そういう剣と魔法のファンジー世界と言ってもいいか?
だが……そんな世界とは違い、門世界には行けない。
「無理だな」
「何故?」
「簡単に言えば、門世界だけは俺達がゲートを使って行った世界ではなく、門世界の方から俺達の世界に接触してきたからだ」
「……それ、本当?」
「こんなので嘘を吐いても仕方がないだろ?」
そう言い、大雑把に門世界との騒動を説明する。
交流区画にいきなり現れた門。
そこから姿を現した、門世界の軍隊。
その連中が交流区画を蹂躙しているところに、俺達が参戦して鎮圧。
門の向こう側に移動して、アルヌスの丘という場所を占領。
襲撃されたのが交流区画……つまり、色々な世界の住人がいる場所だった事もあり、他の世界との連合軍で門世界に逆襲し、帝国というホワイトスターの交流区画に戦力を送り込んできた国をボコボコにし……さてこれからというところで、何故か門の辺りが不安定になり、何とか全員ホワイトスターに戻ってきたものの、結果として門はなくなって門世界と行き来出来なくなったこと。
ついでに、門世界にいた諸々によって、エルフ達が大量にホワイトスターに来た事。
大雑把にだが、そう説明する。
「エルフ……」
反応するのはそこかよ。
そうも思ったが、ファンタジー世界に興味を持っていたミッドナイトなら、エルフに興味を持っても当然か。
どこに行くのかと聞いた時、博物館とエルフのいる公園で、最後の最後まで迷っていたようだったし。
それを思えば、ここでエルフが出てくれば、それに興味を持つなという方が無理だった。
「その、アクセル。やっぱりエルフというのは、美男美女ばかりなのかしら?」
「そうだな。大体そんな認識で間違いないと思う」
美形という認識は、人によって違ったりする。
そういう意味では、もしかしたらミッドナイトがエルフを見ても美形とは思わない……そんな可能性もあるが、ヒロアカ世界の美醜については基本的に俺とそう違いはない。
そんな訳で、ミッドナイトがエルフを見てもそう違いはないと思う。
「エルフはどういう性格をしているの?」
「どういうって……まぁ、基本的には代表的なファンタジーの物語のエルフとそう違いはないな。ああ、けど……」
「けど?」
自分でも説明しにくいというか、出来れば説明したくない内容に口籠もるものの、ミッドナイトは改めてそう聞いてくる。
うーん、これは話さない訳にはいかないっぽいか。
「エルフ……ハイエルフやダークエルフも含めて、総合的にエルフと呼んでいるけど、そのエルフが使う魔法というのは、精霊魔法とか信仰魔法とか、そんな感じで言えばいいのか? とにかく、誰かを……何かを崇め、それによって魔法を使うといったようなタイプなんだよ」
「まぁ、ありがちね」
俺の言葉に頷くミッドナイトだったが、実際にこの件についてはそれなりにありがちな話であるのは間違いないく、そういう意味では特に驚いたりもしていない。
……いやまぁ、実際にこれは俺が他の奴から話を聞いたのなら、なるほどと納得したり、それどころか笑ったりしてもおかしくはないんだが、実際に自分がそういう感じになっているとなると、とてもではないが笑えなかったりする。
「そうだな、ありがちだな。俺もそう思う……ただ、その崇める相手が混沌精霊である俺じゃなければだが」
「え?」
「まぁ、簡単に言えば、茨が複数いるようなものだ」
「……え?」
俺の説明に、ミッドナイトはたっぷりと数十秒経過したところで、ようやくといった様子で声を出す。
茨のようだと言ったが、もしかしたら茨について知らなければ、一体どのような反応をするのかちょっと気になっていたところだったのだが、どうやらその辺りについての情報は知っていたらしい。
茨の俺に対する信仰は、それこそ俺が側にいない限りは分からない。
いや、普段の言動であっても気を付けていればその辺りについては察する事が出来るのかもしれないが、それでも普段から茨と接する事が出来ている者ならの話だ。
あまり茨と接する機会のないミッドナイトが茨の俺への態度については……まぁ、そういう時の茨は非常に目立つ。
それを思えば、もしかしたらB組の担任であるブラドキングもそれを知って、ミッドナイトに相談したのかもしれないな。
……もっとも、何故ミッドナイトに相談するのかといった疑問もそこにはあるのだが。
普通に考えれば、茨と同じ女だからこそミッドナイトに相談したのかもしれないな。
「どうやらその様子だと、茨については知ってるみたいだな」
「あ……ええ。そうよ。以前少し話題になった事があって」
「それ、もしかして問題になったという意味で話題になったとか、そんな事はないよな?」
そう聞くと、ミッドナイトはそっと視線を逸らす。
……おい?
「私は教師だから、生徒のプライバシーについて話すことは出来ないわ」
そう言うミッドナイトだったが、その態度こそが全てを物語っているように思えるのは、俺の気のせいだろうか?
まぁ……うん。この件については俺も特に関わらない方がいいだろうとそう思い、茨の件はそれまでにしてエルフについての話に戻す。
「つまり、エルフは俺を信仰している訳だ。もっとも、俺が大仰なのを嫌うというのもあって、表向きは滅多にそういう態度を見せないけど」
ただ、それはあくまでも俺が好まないからそうしているだけで、実際にはまさにさっきも言ったように茨の同類となる。
……茨も、あのままだと色々と面倒な事になるのは間違いないだろうから、出来ればエルフとかと交流して、その結果俺を信仰してもいいけど、それを表に出さないようにしてくれないかな。
多分……というか、ほぼ間違いなく茨は俺の正体、シャドウミラーやホワイトスターについて知ったら、俺を追ってホワイトスターに来るだろうし。
これで茨が問題のある人物なら、あるいはシャドウミラー側でも拒否したり出来るのかもしれないものの、茨は基本的には優等生だ。
それも、競争率300倍の雄英ヒーロー科に入学出来るくらいには、優秀な訳で。
そう考えると、もし茨がホワイトスターの移住……というか、シャドウミラーに所属したいと言えば、それが断られる可能性は低いと思う。
もっとも、俺の知らない場所で何かの問題があったりした場合は、また話は別だろうが。
とにかくそんな訳で、茨がホワイトスターに来たらエルフ達に対応して貰うとしよう。
「そう。他にエルフはどういう事をしているの? 今の話を聞く限りだと、宗教関係?」
ミッドナイトも話題を変えた方がいいと思い、そう聞いてくる。
まぁ、今の話を聞けばそういう風に思っても仕方がないが、そんなミッドナイトに対し、首を横に振る。
「いや、交流区画で普通に店をやったりしてるぞ。他にも、精霊の卵という……まぁ、言ってみればシャドウミラーの軍隊の2軍というか、下部組織というか、そんな感じの仕事もしている」
「軍隊……それはつまり、魔法を使う軍隊という事になるのかしら?」
軍隊という言葉に、ミッドナイトは微妙な表情を浮かべる。
まぁ、ヒロアカ世界においては、軍隊というのは……日本にはないみたいだしな。
いや、自衛隊だから軍隊じゃないとかそういうのでもなく、普通に自衛隊も軍隊もなかったりする。
プロヒーローが、今ではその役目を担っているのだろう。
あるいはもしかしたら自衛隊も規模を縮小して存在しているのかもしれないが、その辺までは詳しく調べていないので俺も分からない。
ともあれ、そんな訳でミッドナイトも腑に落ちないといった感じなのだろう。
だが同時に、魔法という事で少し勘違いをしていると知り……
「精霊の卵は生身での戦いなら魔法を使ったりもするけど、基本的にはMS……人型機動兵器を使った軍隊だぞ」
「……え? エルフなのよね?」
確認してくるミッドナイトに、俺は頷くのだった。