俺の部屋を見終わると、これで男子寮の部屋は全て――爆豪の部屋は除く――見たので、次は女子寮に向かう。
この寮の構造上、男子寮と女子寮が繋がっているのは1階だけなので、女子寮に行くには1階に戻らないといけないんだよな。
どうせなら2階より上でも男子寮と女子寮が繋がっていれば……
「駄目か」
「おい、アクセル。何でオイラを見てそんな事をいきなり言うんだ? 何か変な事を考えてるだろ」
視線の先にいる峰田が、俺に向かって不満を口にする。
勘が鋭いのか、それとも俺の視線があからさまだったのか……どちらが理由にせよ、とにかく峰田は俺に向かって怒鳴ってきた。
「女子寮に行くのに1階に戻るのは面倒だから、2階より上の階でも女子寮と繋がっていればいいのになと思ったんだが、峰田がいる時点でそれが無理だよなと思って」
「おいこら。オイラのどこをどう見ればそういう風に言えるんだよ」
「……どこからどう見てもそうとしか言えないんだが」
俺の言葉に、口を挟みはしなかったものの、話を聞いていた者達が同意するように頷く。
実際、峰田の普段の性格から考えて、そっち方面で信用しろという方が無理だろう。
「もう少し良く思われたいのなら、普段の態度をもっと考えるんだな」
峰田の個性は直接的な攻撃力こそないものの、応用力の高い良個性だ。
また、成績もクラスでは上位に入るから頭も良い。
外見も……この辺は好みにも寄るのだろうが、可愛いもの好きなら恋人にしてもいいと思う者がいてもおかしくはない。
だが……その性格が全てを駄目にしている。
恋人が欲しいのなら、女に対する欲望をもう少し隠してがっつくなとアドバイスした事もあるが、峰田はそれを拒否した。
ありのままの自分を、真実の自分を好きになって欲しいと言って。
まぁ、その考えそのものは決して悪くはない。
自分の本心を隠した上で誰かと付き合える事になっても、それはそれで問題ではあるだろうし。
だが、それでも峰田の本性が本性なので、そう簡単に恋人が出来るとは……
A組の女の中で、一番峰田と仲が良いのは恐らく梅雨ちゃんだろう。
だが、その梅雨ちゃんも峰田を男として見ている訳ではなく、弟として見ている。
だからこそ、それを思えば峰田がクラスで恋人を作るのは絶対に無理……とは言わないが、かなり難易度が高いのも事実。
というか……峰田がもしこのまま免許を取ってプロヒーローになった場合、セクハラとかで不祥事を起こして免許没収とか、そういう未来が待っているようにしか思えないんだが。
まぁ、それを言うのなら爆豪だってあの性格だ。
プロヒーローになれば実力でビルボードチャートの上位につくかもしれないが、その性格ですぐに落ちるとは思う。
あるいは世の中には一定数特殊な趣味の持ち主がいるから、そういうディープなファンのいるプロヒーローになるかもしれないな。
だがそうなると、ビルボードチャートで上位に位置するのは難しくなると思うが。
何しろビルボードチャートではプロヒーローとしての活躍もそうだが、やっぱり人気が非常に大きな意味を持つのだから。
そんな風に考えている間に1階に戻って女子寮に入り……最初に見たのは耳郎の部屋だった。
「思っていた以上にガッキガッキしてるな!」
部屋の中を見た上鳴が、思わずといった様子で叫ぶ。
とはいえ、そんな上鳴の気持ちも分からないではない。
ギターやベースと思しき楽器がその辺にあるかと思えば、部屋の奥の方にはドラムであったり、キーボードだったりが設置されている。
かと思えば恐らくは作曲用に使うのだろうノートパソコンが机の上にあったし、壁にはヘッドホンが複数掛けられている。
上鳴が言うように、ガッキガッキしているといった表現が相応しい。
「えっと、その……アクセル……もしかして、引いた?」
「いや、別にそんな事はない。耳郎が音楽を好きなのはこれまでの付き合いで分かっていたし。ただ、自分でも楽器を弾くタイプだったんだな」
「うん、両親の影響でね」
そういえば、以前何かの拍子でそんな風な話を聞いたことがあるような、ないような?
ともあれ、俺が楽器の件で引いた訳ではないのは事実だ。
実際、ホワイトスターにある俺の家にあるシェリルの部屋は、耳郎の部屋とはちょっと方向性は違うものの、音楽関係の諸々で凄い事になってるし。
もっとも俺の家にある恋人達のそれぞれの部屋は、それぞれに好き勝手な事になっている。
寝室は俺と一緒だから、それぞれの荷物とか私物とか、そういうのを置いておく的な感じで。
例えばコーネリアの部屋はユーフェミアの写真を始めとして、家族の写真が多数あったりするし。
そういう部屋を知っていれば、耳郎の部屋を見てもそこまで気にするような事はない。
「女っ気のねえ部屋だ」
「ノン、淑女」
俺と耳郎の会話を聞いていた上鳴と青山がそれぞれに言い……
「ああ?」
やばい、耳郎さんになりかかってる。
「そ、それにしても、これだけある楽器を全部弾けるのって凄いよね!」
そんな様子を見て取ったのか、それともただの偶然か、麗日がそう言い……
「べ、別にそんな……昔から楽器は好きだったから」
『ぎゃあああああああああっ!』
麗日の言葉に照れた様子で言う耳郎と、耳郎のイヤホンによって制裁される上鳴と青山の悲鳴。
うーん……これはまた、何というか……うん。
「次は私の部屋だね。こっちだよこっち!」
耳郎さんになりかけだった為か、普段よりも厳しい制裁を受けている上鳴と青山は気にしないような感じで、葉隠が跳び上がりながらそう言う。
葉隠は部屋着として体操着を着てるんだが……何気に大きなその胸が、ジャンプした衝撃で揺れるのは……うん。
尾白は俺と同じ光景を見たのか、どこか照れ臭そうにしながら顔を逸らし、峰田はまさにガン見といった様子だったが、後ろにいる耳郎によって上鳴と青山の後を追うのだった。
『おおー』
葉隠の部屋を見た面々……俺を含めた男達の口からは、そんな感心とも感嘆とも呼ぶべき声が漏れる。
何しろ葉隠の部屋には結構な数のぬいぐるみが置かれており、まさに女の部屋……というよりは、女子の部屋といった感じだったのだから。
最初に見た部屋が耳郎の部屋だった事も、葉隠の部屋の女子っぽさを強調してるのだろう。
「普通に女子っぽい。ドキドキするな」
上鳴がそう呟くと、尾白や瀬呂がそれに同意するように頷いていた。
「へー……」
そして、耳郎にジト目を向けられる俺。
いや、何でそこで俺がジト目を向けられる事に?
さっき感心したような声を出したからか?
「耳郎の部屋だって、個性的って意味では間違いなく耳郎っぽかったしいいと思うぞ」
そう言ったのは、フォロー的な意味もあるが……同時にこちらを牽制するように揺れているイヤホンを見たからでは決してない。
「Plus Ultra……」
「正面突破かよ、峰田君!」
そんな声が聞こえると、生憎と校訓を汚しながら葉隠のタンスに手を伸ばしている峰田。
さっき耳郎にお仕置きをされてからまだそんなに経っていないのに。
そう俺が思うのと、俺を威嚇するように揺れていた耳郎のイヤホンが峰田に飛んでいくのは同時だった。
「ぎゃああああっ!」
そうして周囲に峰田の悲鳴が響き……そして、次の部屋に向かう。
「じゃーん、可愛いでしょう!」
三奈の部屋は、なるほど本人が言うようにセンスが良い……良い……いいんだよな?
紫とか黒系のカーペットやクッションが置かれている。
色的には常闇の部屋とも似たような感じなのだが、厨二病的な常闇の部屋とは違って、女らしい部屋ではある。
ただ、葉隠の部屋が女子っぽい部屋だとすれば、三奈の部屋は女っぽい……大人らしい部屋といった感じか?
「三奈らしい部屋だな」
「えへへ、そうでしょ」
俺の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべる三奈。
本人にそのつもりがあるのかどうかは分からないが、今の三奈の笑みは見ている者を思わず引き込むような、そんな笑みだった。
「味気のない部屋でございます」
三奈の部屋の次に入ったのは、麗日の部屋。
……何と言うか、昭和っぽい? そんな風に感じるのは、部屋に扇風機があり、テーブルの上には剥き出しの煎餅が菓子入れに入っているからか。
湿気ったりしないのか?
そう思ったが、多分湿気る前に食べきるんだろうな。
そんな麗日の部屋に入った緑谷は、何だかもの凄く緊張しているように見えるのは気のせいか?
そうも思ったが、原作主人公と原作ヒロインの関係を思えば、そういう風になるのもおかしくないのかもしれないが。
「つーか、何で扇風機?」
切島が部屋の中にある扇風機を見ながら、麗日にそう尋ねる。
まぁ、エアコンのある部屋で扇風機があれば、そう疑問に思ってもおかしくはないよな。
「ああ、それ? 私、エアコンの風が直接当たるのはちょっと避けたいんよ。だから、扇風機を使って冷たい風を部屋の中全体に広げるような感じにしようと思って」
「へー……」
「本当は、サーキュレーターとかあればいいんやけどね。でも、扇風機でも十分その役目は果たせるから」
何人かの女が、麗日の言葉に頷いていた。
そういえば、俺の恋人の中にもエアコンの冷風が直接当たるのは嫌だってのが何人かいたな。
そういう意味では、エアコンの冷風に直接当たる事なく、扇風機やサーキュレーターを使って部屋の中に広げて涼しくするというのは悪くないのか。
もっとも、冷房器具としても使えるのは扇風機なので、麗日は扇風機を使ったといったところか。
「じゃあ、次は梅雨ちゃんだな」
「ケロ。私の部屋はあまり皆の好みじゃないと思うけど……」
「大丈夫だって。オイラの部屋だって皆に見て貰ったんだから」
「峰田ちゃん……ケロ、じゃあ行きましょうか」
……あれ?
今、梅雨ちゃんの頬が薄らと赤くなったような?
俺の気のせいか?
ともあれそんな訳で俺達は梅雨ちゃんの部屋に向かったのだが……
「あー……なるほど。梅雨ちゃんが言いたかったのはこういう事か」
梅雨ちゃんの部屋に入ると、そう呟く。
部屋の中はかなりの暑さになっており、意図的に湿気も高くなっている。
他の者の部屋がエアコンで夏でも涼しくなっているのに対し、梅雨ちゃんの部屋はこう……熱帯のジャングルとか、そういう感じの部屋になっている。
これは、梅雨ちゃんの個性が蛙だからこそ、こういう環境が梅雨ちゃんにとっては快適なのだろう。
そして、梅雨ちゃんにしても自分の部屋が自分にとってはともかく、他人にとっては決して快適ではなかったからこそ、部屋を見せるのはあまり気が進まなかったといったところか。
「うわ、すげえ……こう、むあっと来るな」
砂藤の言葉に他の面々も頷く。
ともあれ、これ以上いても暑さや湿気で快適にはならないので、俺達は部屋から出る事にする。
「よし、そうなると最後はヤオモモの部屋だな」
瀬呂がそう言い、俺達はヤオモモの部屋の前まで移動する。
「その、私少し見当違いをしていまして……皆さんの創意溢れるお部屋と比べまして、少々手狭になってしまいましたの」
その言葉と共にヤオモモの部屋の扉が開けられると……
『狭っ!』
その部屋の中を見た面々がそう叫ぶ。
実際、俺も部屋の中を見るとかなり狭く……人の移動出来るスペースが最低限しかない。
何よりも凄いのは、いわゆる天蓋付きのベッドだ。
そんなベッドが部屋の半分近くを占拠している。
「ヤオモモ……持ってきた荷物の大半は送り返したとか言ってなかったか?」
部屋の中を見て、そうヤオモモに尋ねる。
今日の午前中、俺が自分の部屋の片付けを終わった後で1階に下りてきた時にヤオモモがいて、そういう話をした筈だ。
「ええ、ですからあの時に送り返した残りがこれですの」
「あー……うん。そういう事か」
今でもかなり狭いが、当初はこれよりも多かったのだろう。
それこそ部屋に入りきれないくらいに。
なので、余分な荷物……ヤオモモ的にはこうして持ってきたのだから、余分でもなんでもないんだろうが、とにかく部屋に入りきらない奴だけを送り返し、残ったのがこれと。
そう思えば、この状況も分からないではないが……それでも、もう少し荷物を減らした方が良かったんじゃないのか?
ともあれヤオモモの部屋を見終わり、1階に戻って投票した結果……
「第1回、部屋王は……5票という圧倒的票数で、砂藤力道ーっ!」
皆の宣言によって、砂藤が1位となることが決定したのだった。
……ちなみに票数を集めた理由は、シフォンケーキ。
部屋王要素どこいった?
そう思ったが……まぁ、実際に美味かったのは間違いないしな。
砂藤はケーキを褒められたことを嬉しがっていたが、上鳴や峰田から責められていた。
なお、その後で梅雨ちゃんが何やら緑谷達が神野区に行った件で上手くやっていけないとか、そんな事を話していたが……まぁ、峰田が上手い具合に梅雨ちゃんを慰めていたので、良しとしよう。