セメントスとエクトプラズムのパフォーマンス……と称してもいいのかどうかは分からないが、とにかくこうして個性伸ばしをする為の圧縮訓練とやらの準備は整った。
それを見て、A組の生徒達は唖然としている。
まぁ、いきなりセメントスによって見上げるようなコンクリートの山とでも呼ぶべき物が出来たのだから、それを見て驚くなという方が無理だった。
俺はこの手の行動には、何だかんだと慣れているので、そこまで気にはしていなかったが。
そんな唖然としている生徒達に向け、相澤が口を開く。
「なお、個性の伸びや技の性質に合わせて、コスチュームの改良も並行して考えておくように。Plus Ultraの精神で乗り越えろ。準備はいいな?」
そう言う相澤の言葉に、生徒達はやる気満々で返事をするのだった。
「それで、俺はどうすればいいんです?」
他の面々が個性伸ばしをする為の訓練を行っている中で、俺は相澤とミッドナイトに尋ねる。
セメントスとエクトプラズムは、現在他の生徒達に付きっきりで、暇……とまではいかないが、手の空いているのはこの2人だけだったのだ。
「どうするって言われても、アクセルも必殺技を作ればいいんじゃない?」
現在は2人ではないのもあって、ミッドナイトは俺が生徒として接しても特に不満はないらしい。
「いや、そう言われても……正直なところ、今更? って感じなんですけど。俺には元々必殺技と呼ぶべきものは幾つかありますし」
パチン、と。指を鳴らすと同時に俺の右手が白炎と化し、その白炎から炎獣が生まれる。
現れたのは、5匹の狼の炎獣。
「この炎獣だって、俺がその気になれば何十、何百、何千、場合によっては何万、それ以上の数を作れますし、炎獣も今回のような狼の炎獣から、熊、虎、獅子、あるいはペガサスやユニコーン、グリフォン、ドラゴン……そんな炎獣も作れますよ?」
ぶっちゃけ、この炎獣を自由に使えるというだけで、俺はかなりの万能性を持つ。
捜索は勿論、攻撃や移動とかにも使える炎獣は非常に大きな意味を持つのだから。
「それに……」
パチン、と指を鳴らして炎獣を消すと、瞬動を使ってその場から瞬時に移動する。
そうして移動すると、虚空瞬動を使って空中を蹴りながら元いた場所……相澤とミッドナイトのいる場所まで戻った。
「飯田のレシプロバーストじゃないですけど、これもまたプロヒーロー基準だと必殺技になるんですよね? 後は……まぁ、他にも……」
そこで言葉を止め、近くにあったセメントスの作ったセメントの山に触れると、そのまま毟り取る。
金属ですら毟り取れる俺にしてみれば、コンクリートを毟り取るくらいは容易な事だ。
「見ての通り、俺の素の行動がそのまま必殺技と呼んでもおかしくないくらいの威力を持っていますけど」
「……これは……イレイザー、どうするの?」
ミッドナイトが俺の持つ能力を改めて見て、そう相澤に尋ねる。
実際、今のこの状況を見れば十分に必殺技と呼ぶに相応しいのは、相澤にも理解出来るだろう。
また、今見せたもの以外にも、影のゲートによる転移魔法についても相澤は知ってるし、あるいは空間倉庫についても知っている。
特に空間倉庫に収納されているゲイ・ボルクは圧倒的な攻撃力を持つので、必殺技と言っても決して間違いではないだろう。
他にも召喚魔法を使えばグリや狛治、刈り取る者を召喚する事も可能だ。
……もっとも、刈り取る者を召喚すれば神野区の一件で間近で見た爆豪は、あの時の男が俺だとすぐに予想するだろうが。
ただでさえ、今の10代半ばの俺と20代の俺では、外見年齢こそ違うものの、それでも俺であるのは間違いない。
実際、寮生活をするようになって爆豪と顔を合わせるようになってから、時々俺を観察するような視線を向けてきていたりもする。
まさか神野区で助けたのが俺だとは思ってないだろうが、俺の兄か何かかもしれないと思うくらいには怪しんでいる筈だった。
また、爆豪以外にもあの戦いはヘリに乗ったマスゴミによって生放送されていたので、クラスの面々が見ても……既に俺の正体を知っているヤオモモ以外は疑問を抱くだろう。
そんな訳で、取りあえず召喚魔法は……もし使うにしても、刈り取る者は使えない。
狛治は……それこそ意思疎通が出来るという事で面倒な事になりそうだし、そうなるとグリくらいか?
ただし、グリの大きさを考えれば迂闊に召喚すると、建物が破壊されたりしてもおかしくはない訳で。
そう考えると、やっぱり召喚魔法はいざという時以外には使わない方がいいな。
それこそ、AFOと戦う時とか……まぁ、そのAFOも今はタルタロスに収監されているので、その辺りについてはどうこう考えたりする必要もないのかもしれないが。
ただ、このヒロアカ世界の原作のラスボスなのだろうAFOだけに、いつまでもタルタロスにいるとは限らない。
それこそどうにかして……一番考えられるのはヴィラン連合の襲撃でだが、脱獄する可能性は十分にある……というか、ほぼ間違いないだろう。
あるいは政治班を通して公安に、タルタロスに量産型Wやコバッタを派遣する事を呑ませても……いや、無理か。
まだAFOが脱獄していない以上、公安としてもAFOが収監されているタルタロスの警備は自分達で十分に出来ると、そう思っているだろうしな。
「それで、相澤先生。俺はどうすれば? まだ新たに必殺技を修得しろと言うのなら……まぁ、他にも色々とありますけど」
俺の言葉に、相澤は難しい表情を浮かべる。
今の状況であっても、俺が本当の意味で全力を出している訳ではなく、まだ力を隠しているというのは容易に予想出来るのだろう。
実際、俺にとってまだ見せていない攻撃手段となると、スライムであったり、混沌精霊としての特徴を最大限に活かした姿に変身したり、あるいは石化光線を使ったり、空間倉庫に収納してある兵器を使うといった方法もある。
特に最近は、技術班がオルフェンズ世界の技術立証試験機として開発したトールギス・グレイルを使うといった手段もある。
もっとも、このヒロアカ世界はあくまでも生身での戦闘がメインの世界である以上、トールギス・グレイルを使うのはどうかと思わないでもない。
……あ、でも優のように巨大化という個性があるのを思えば、人型機動兵器を使うのはありかもしれないな。
優から以前聞いたが、ヴィランの中には優と同じような巨大化という個性を使う者もいたというし。
つまり、巨大化というのは珍しい個性ではあるものの、そこまで……そう、レア度とでも表現すればいいのか? そういうレア度で考えた場合は高くない訳だ。
勿論、毒にも薬にもならないような、そんな個性と比べると、非常にレア度は高いだろうが。
であれば、人型機動兵器を召喚してそれに乗るといったような個性もあってもいいだろう。
もっとも、その場合問題になるのはそれを俺の個性という事になっている混沌精霊の一部とする事が出来るかどうかという事になるのだが。
炎獣とかは、混沌精霊ということで精霊の部分に関係していると納得……するのはそう簡単でもないが、それでも可能性としては十分にあるのは間違いない。
だが、人型機動兵器をどこからともなく――実際は空間倉庫だが――現し、それを操縦するのが混沌精霊という個性の一部だと言われても、真顔でそれはないと突っ込まれそうな気がする。
「アクセルに関しては……特に必殺技に関しては気にしなくても構わん」
結局、最終的に相澤が下した判断はそういうものだった。
「まぁ、妥当なところね」
ミッドナイトも相澤の意見に同意する。
実際、俺も相澤の意見に同意はする。
あるいは何か……I・アイランドで使用したサークレットの一件で増えたスキル欄を、スライムを使ってその辺のヴィランを吸収し、その個性を使えるようになったりしたら、その個性を使いこなす訓練をするとか、そういった選択肢もない訳ではない。
だが、空いたスキル欄はまだそのままで、スライムも使ってないしな。
……というか、ずっとスキル欄が空いたままだった事もあってか、新たなスキルを習得するのは少し躊躇する部分もある。
これで公安が上手い具合にあのサークレットを増産する許可を他の国からも得る事が出来て、更にスキル欄の追加を増やす事が出来れば話は別なのだが……今のところ、それも難しい。
であれば、やはりスキルの習得についても慎重になるのは当然だろう。
それに……今更、本当に今更の話ではあるが、ギアス世界での一件もある。
ギアス世界において、俺はマオをスライムで吸収する事によってマオのギアスを習得した。
習得はしたのだが、ギアスというのは個人の資質によるもので、複数の者達がギアスを使えるようになっても、個人によってそのギアスの能力は違う。
その辺りが関係してか、マオを吸収して入手したギアスを、俺は使えなかったのだ。
結局、ギアスキャンセラーによってスキル欄からマオのギアスが消えるまで、スキル欄を圧迫するだけの全く無意味なスキルとなってしまった。
そんなギアスに対して、個性はどうなのか。
個人の資質によるものというのは、ギアスと同じだ。
もっとも、この場合は両親の個性であったり、祖父や祖母の個性が発現するという意味で、ギアスよりはその辺が緩いと思えるが。
とはいえ、実際に試してみないとその辺りは分からない訳で……もしかしたら、またマオのギアスの時と同じように、スキル欄が邪魔になる可能性があった。
ギアスはギアスキャンセラーでどうにか出来たが、個性はどうにもならない……いや、オールマイトから以前聞いた話によれば、AFOは他人から個性を奪うことが出来るので、それを使えば俺が使えないような個性であっても消して貰えるかもしれないな。
もっとも、そうなるとどうやってAFOにそのようにさせるかという事だが。
いっそ、スライムでAFOを吸収してAFOというスキルを俺が使えるように……いや、それだと結局意味はないか。
それこそAFOを俺が使えなければ、スキル欄が1つ埋まる事になる訳だし。
これまでの経験から、特定の誰かでないと使えないスキルとかじゃなくて、難易度は高いものの、多くの者が頑張れば修行出来るスキルは間違いなく俺のスキルとして使える。
分かりやすい例が、ネギま世界の魔法とかだろう。
PPで取得出来るスキルについては、転生特典なのでその辺は気にしてもしょうがない。
……もっとも、それを言うのならFate世界のアサシンから入手した気配遮断はどうなるんだって話だが。
ただ、何となく……本当に何となくだが、ギアスと同じ感じっぽい感じがするのは間違いないんだよな。
「それで、アクセルはどうしたい? 必殺技が必要ないのなら、アクセルはこの圧縮訓練を行う必要はないが」
「林間合宿の時と同じように、炎獣を大量に出して圧縮訓練をしている人達にちょっかいを出すとか、そういうのはどうですか?」
「それは……いや、今は圧縮訓練ではあるが、林間合宿の時より1段階上にいっている。そういう意味では、ここでアクセルがわざわざ炎獣を出してちょっかいを出す必要はない。……あの時はアクセルに炎獣を大量に出させるのが個性を成長させる訓練になると思ったんだが、全くの的外れだったようだな」
ふぅ、と。
相澤が大きく息を吐く。
まぁ、あの時は俺も正体を知らせてなかったし、仕方がないとは思うけど。
ただ、俺の訓練にはならなかったが、林間合宿に参加していたA組、B組の生徒達の訓練としては決して悪くなかった筈だ。
……その代わりという訳ではないが、何人もから恨み言を言われたりもしたが。
まぁ、自分の個性の訓練をしている時、いきなりどこからともなく炎獣が襲い掛かってくる訳で、やられる方にしてみれば洒落にならない。
もっとも、だからといってそれも訓練だと言われている以上、相澤やブラドキング、あるいはプッシーキャッツの面々に不満を言うのは難しい。
であれば、実際にそれを行っている俺にその不満を言うというのは……まぁ、正直なところ分からないでもない。
とはいえ、だからといってそれを俺が受け入れろというのは、また別の話だったが。
「まぁ、アクセル本人の訓練はともかく……そうすると、どうする? お前は圧縮訓練に参加する必要はないんだし、休んでいるか?」
あるいはこれで俺が必殺技がいらなくても、シャドウミラーのアクセル・アルマーでなければ、もしかしたら相澤もそういう風には言わなかったかもしれない。
だが、それはそれでつまらない訳で……
「いえ。じゃあ、他の誰かの手伝いをしたいと思います。炎獣じゃなくて、俺が参加すれば効率も上がるでしょうし」
「うーん……そういう青臭いの、好き! 許可! いいわよね、イレイザー?」
ミッドナイトの言葉に、相澤は大きく息を吐いてから渋々といった様子で頷くのだった。