相澤とミッドナイトからの許可を貰い、早速圧縮訓練をやっている者の手伝いをしようと思ったのだが……問題なのは、一体誰の手伝いをすればいいのかということだろう。
正直なところ、誰の手伝いをしても構わないとは思うのだが。
そうして迷っていると、尾白がこっちに近付いてくる。
「アクセル、一体何をしてるんだ? 訓練は?」
そう言い、尾白は首から掛けているタオルで汗を拭きつつ、スポーツドリンクを口にする。
どうやら尾白も一息吐いて休憩中らしい。
まぁ、TDLは体育館の中で、今は8月後半とはいえ、まだまだ暑い。
であれば、熱中症にならない為に、それなりに頻繁に水分補給や塩分補給をする必要がある。
ましてや、見た感じだと尾白はエクトプラズムと模擬戦のような形式をして、全身運動をしていたので余計に。
「俺は必殺技は既に十分にあるから、圧縮訓練を免除されたんだよ。その代わり、現在圧縮訓練をやっているお前達の手伝いをするつもりだ。……手伝い、いるか」
「あ、いいのか? 頼む。エクトプラズム先生との模擬戦も十分訓練になってるけど、やっぱりアクセルとの訓練が色々と身になりそうなんだよな」
尾白は俺が行っている自主訓練にも結構な割合で参加している。
それを思えば、俺との訓練……模擬戦の方が慣れているから、やりたいという事なのだろう。
「俺は別に構わないけど、エクトプラズム先生の方はいいのか? 勝手に俺が参加したら……」
「構ワン。少シ、見テミタイカラナ」
尾白を追ってきたのか、それとも俺が尾白と話している内容が気になったのか、エクトプラズムがこっちにやって来ると、そう言う。
もしかしたら、俺が自主訓練の時に尾白とどういう訓練をしているのか、ちょっと見てみたいとか、そんな感じなのか?
「エクトプラズム先生が問題ないのなら」
そんな訳で、俺は離れた場所で尾白との模擬戦を行う。
……いや、模擬戦というよりは、この場合は指導と表現した方が正しいのかもしれないが。
とはいえ、この圧縮訓練はあくまでも必殺技を身に付ける為のものである以上、模擬戦を行いはしているが、いつもの模擬戦といった訳ではない。
尾白の持つ個性、尻尾。
その尻尾をどう有効的に使うのかどうかを、尾白は模索していた。
分かりやすい例では、回し蹴りを意図的に相手に回避させ、相手が回避したと安堵したところで第2の蹴りとも呼ぶべき尻尾の一撃を放つ、みたいな。
似たようなことは尾白も以前からやってはいたが、今は尻尾の一撃の威力を少しでも増すように……そんな一撃を放てるようにと修行していた。
いやまぁ、尻尾という個性を持つ尾白にしてみれば、この尻尾で必殺技を考えろという方が難しいのは明らかなんだよな。
だからこそ、まずは今自分の出来る事をしてみせようと、そう考えているんだろうが……
「甘い」
蹴りを回避した後に振るわれた尻尾を、あっさりと回避する。
尻尾の一撃を回避された尾白は、地面に着地して悔しそうな表情を浮かべた。
「尻尾を使った攻撃をするのは分かりやすいし、単純なだけに強力なのは間違いない。けど、尻尾で攻撃するぞするぞといったように、そちらに意識が向けられて最初の蹴りが疎かになっている。相手の動きを読むのが得意な奴にしてみれば、このくらいは容易に回避出来るぞ」
「ぐ……なるほど、尻尾に意識が行きすぎたか」
「そうなるな、それこそ、出来れば尻尾に意識を向けるんじゃなくて、最初の蹴りで相手を倒すという風に意識して、それが失敗したら第2の矢として尻尾の一撃を放つ……みたいな感じはどうだ?」
「……普段からそうしてるんだけどな。ただ……けど、なるほど。この圧縮訓練で尻尾の筋力を増して、一撃の威力を強化すれば……」
いや、尻尾って筋肉あるのか?
尾白の呟きにそう突っ込みたくなったものの、それは何とか我慢する。
俺が知らないだけで、尾白の尻尾はしっかりと筋肉があり、その筋肉を強化する事で尻尾の一撃の威力が増すという可能性は十分にあるのだから。
それを思えば、尾白の判断も決して間違ってはいないと思う。
「ありがとう、アクセル。俺はもうちょっと尻尾を鍛えるよ」
「そうか、頑張れ」
筋トレの類は、今日やって今日すぐにその成果が出る……といったようなものではない。
あるいは尾白の尻尾は個性として特別なので、もしかしたらもしかするかもしれないが。
「ねーねー、アクセル。ちょっと手伝ってくれる?」
尾白がエクトプラズムと共に尻尾の強化をする為に移動すると、少し離れた場所にいた三奈がそう声を掛けてくる。
尾白の件は一段落したので、その辺りについては構わない。
「それで、何を手伝えばいいんだ?」
「こう……私の身体から出る酸をもっと勢いよく、遠くに飛ばしたいんだけど、なかなか上手くいかないのよね。エクトプラズム先生のアドバイスで、ある程度の距離は伸ばせたんだけど」
そう言い、三奈は両手を合わせるとその指先を先端にして酸を放つ。
水鉄砲……とまではいかないが、ホースの先端から出すような勢いで酸が出る。
もっとも、今は練習なのもあってか、酸はかなり薄くなっているらしく、それこそ何も知らない者が見ればただの水のように見えてしまう。
まぁ、練習で思いきり酸の濃度を高くしたのを放つのは危険だしな。
そんな風に思いつつ、俺は酸の飛ばし方を見る。
「ね、どう思う?」
「うーん……酸を発する時のイメージとか、そういうのって酸を放つのに影響したりするのか?」
「多分?」
いや、何で実際にやる本人がそんなに疑問系なんだよ。
そう思ったが、三奈にしてみてもどうやら改めて考えてそうやっているとかそういう感じではなく、本能……というか、自然とそういうのが出来ているといったところなのだろう。
もっとも本人がどういう風に思っているのかは、ちょっと分からないが。
「なら……そうだな、酸は液体なんだし、水鉄砲的なイメージでやってみたらどうだ?」
本来なら銃……それも拳銃とかサブマシンガンとか、場合によってはライフルとか、そういうイメージでやればいいと思うんだが、当然ながら三奈は銃とかを直接撃った事はない。
映画やドラマとか、そういうので見たりとかはしてもおかしくはないんだが……ただ、そういうのは、それはそれでイメージが……ああ、寧ろかえって実物を見た事がない方が、思い入れというのとは少し違うかもしれないが、とにかくそんな感じで納得しやすくなるのかもしれないな。
これについてはあくまでも俺の予想でしかないから、実際のところどうなのかは分からないけど。
「水鉄砲……うーん、分かった。ちょっとやってみるね。見てて」
そう言い、右手を銃に見立てるような感じで三奈は酸を放つ。
次の瞬間、先程よりも明らかに勢いよく酸が放たれた。
「あ!」
それを見た三奈は、思わずといった様子で驚きの声を上げる。
三奈にとっても、今のこの勢いで飛んでいくのは予想外だったのだろう。
本人にしてみれば、それだけ喜ばしいことではあるのだが……ただ、自分で色々と考えている時であったり、あるいはエクトプラズムのアドバイスでそういうのがなかったのか? と疑問に思う。
あるいは、エクトプラズムは銃についての知識がなかった……いや、ないな。
ヴィランの中には銃を使う奴とかがいてもおかしくはないし、何より雄英の教師の中にはスナイプという狙撃銃を使うプロヒーローもいる。
であれば、詳細な知識はなくても、最低限の銃の知識は持っていてもおかしくはない。
なら、エクトプラズムがもっとしっかりとその辺のイメージを三奈に与えれば、どうにかなったのではないか。
そう思うのだが……そんな様子はない。
あるいは、全てをエクトプラズムが教えるのは生徒の……三奈の為にならないと思い、それによって中途半端なアドバイスしか与えていなかったとか?
だとすれば、俺がちょっとアドバイスをやりすぎたという事で、エクトプラズム的には不味いかもしれないな。
そう思って三奈の担当をしているエクトプラズム……正確にはエクトプラズムの個性で生み出された分身なのだが、そのエクトプラズムを見るも、特に表情が変わってはいない。
これで、例えば僅かにでも眉が顰められているとか、そういう感じであれば、俺が三奈にしたアドバイスは悪かったのかどうか、その辺りがはっきりと分かったりするのだが……残念ながら、そういうのは今のところないらしい。
まぁ、俺にしてみればそれはそれで構わないけど。
注意されないという事は、エクトプラズム的に特に問題はないと判断したんだろうし。
「ねぇ、アクセル! 凄いよ、凄い! やったぁっ!」
指先から放つ酸を今までよりも素早く、そして長く放てた事が、三奈にとって嬉しかったのだろう。
酸を出すのを止めると、俺に抱きついてくる。
うわ……クラスNo.2と思しき三奈の巨乳が、俺の身体に思いきり潰れている。
いやまぁ、勿論それはそれで嬉しいんだけどな。
ただ、勿論三奈本人にはそういう意図はない。
あくまでも偶然……偶然? いや、この場合は偶然と表現は正しくないか。
ともあれ、あまりに嬉しくて勢いで俺に抱きついてきたといった感じだろう。
三奈はコミュ力が高いというか、人当たりが良いというか、そういう接触を普通にしてくるんだよな。
……もっとも、峰田がそういう対象になっているのを見た事がないのを思えば、本人が意識してか、あるいは無意識にか、その辺りは分からないが、とにかく抱きついても問題がない相手を選んでいるのだろう。
抱きついても問題ない相手に俺が選ばれているというのは、この場合喜ぶべき事なのか?
もしかして、三奈に男として……異性として認識されていないからこそ、こうして抱きつかれているのかもしれないし。
まぁ、その辺について深く考えると色々と不味い事になりそうなので、これ以上は止めておくが。
「取りあえず離れないか? 色々と当たっていて……俺としては嬉しいんだけど、皆のいる場所でこういうのをするのは……なぁ? こういうのは、やっぱり人のいない場所で、2人だけの時にやるべきだろ?」
「っ!?」
抱きついている三奈の耳元でそう呟くと、次の瞬間には三奈は俺から離れる。
ピンクの肌をしている三奈だったが、それでもその顔が急速に赤くなっているのが分かった。
俺を異性として認識せずに抱きついているのかと思ったから、少しだけ反撃するつもりで今のように言ったのだが……ちょっと予想以上に三奈にダメージがあったみたいだな。
「なっ、ななななな……いきなり何を言ってるのよ!」
「ん? 何か変な事を言ったか?」
どことなく……そう、恋人の1人であるゆかりの反応を思い起こさせるような、そんな三奈の反応に笑みを浮かべる。
そんな俺の様子に、三奈は自分がからかわれたと知ったのだろう。
不満そうに両手を上下に……まるで葉隠のような態度を取りながら、俺を睨んでくる。
「うー……」
「次からは気を付けるんだな。三奈は自覚があまりないかもしれないけど、かなり女らしい身体をしてるんだ。それで急に男に抱きつくようなことをすれば、男の方が妙な勘違いをする可能性は十分にある」
これは事実だ。
ダンス好き、そして運動好きの三奈は身体を動かすことによって身体が絞られており、それでいながら十分に女らしい曲線の体型をしている。
いわゆる、男好きのする身体という奴だ。
本人にその自覚はないのかもしれないが、そういう身体をしている三奈が、特に意識もせずに男に抱きつくとか、そういう事をするのは……色々と、本当に色々と問題がある。
その辺りを自覚させる為には、今のように言うのが一番いい……と思う。
実際、エクトプラズムも俺と同じように思っているのか、特に注意をしたりとか、そういうのはないしな。
「うー……」
先程と同じように唸る三奈。
まぁ、これに慣れて自分の行動を少し見習って欲しいものだ。
「ねぇ、アクセル君。ちょっと私も手伝ってくれない?」
三奈が赤い顔で俺を見ているのだが、それに気が付いているのか、いないのか。
葉隠がいつものように身体を激しく動かしながら、そう声を掛けてくる。
葉隠にとっては今の俺と三奈のやり取りに何か思うところがあったのか、それともその辺については全く気にしていないのか。
ともあれ、そんな葉隠の言葉に三奈を見ると……
「ふんっだ。好きにすればいいでしょ。私は私で、しっかりとやるから」
拗ねた様子でそう言ってくる。
うーん、これは葉隠のタイミングが悪かったな。
そう思ったのだが……
「でも、アクセルのお陰で酸の上手い使い方が出来るようになったから……その、ありがと」
先程よりも頬を赤くしながら、そう言ってくる三奈。
うん、取りあえず問題がないと判断して……葉隠の訓練に付き合うか。